「みーたんの情報網、舐められたもんじゃねぇな」
俺は美空のパソコンに表示された番号を見て、思わず口笛を吹いた。いや、口笛なんて機能はついてないけど、排気音でそれっぽい音を出してみたんだ。結構似てたぜ。
「投稿者は『みーたんを守る会・会長番号3』って人。常連だし、政治関係の仕事してるらしいから、ツテは確かだし」
美空はソファで寝転がったまま、得意げにスマホをいじっている。すごいぜ、ネットアイドルの力。俺のプロデュースも悪くないってことか。
「鍋島正弘の個人番号…これで直接話が聞けるな」
万丈が番号を書き写し、震える手で自分のスマホ——ああ、今は美空の予備端末を使ってるんだった——を握りしめた。あいつの顔は、怒りと焦りで歪んでいる。
「おい、万丈。あんた何する気だ?」
「決まってるだろ!鍋島に電話して、俺の無実を証言させるんだよ!」
万丈は俺の静止を聞く耳持たず、いきなり通話ボタンを押した。スピーカーモードになってるから、俺にも相手の声が聞こえる。
『…はい』
「鍋島か!俺だ、万丈龍我だ!」
『ひっ…!万丈…!?なんでこの番号を…!』
鍋島の声は、明らかに動揺していた。怯えている。まるで幽霊でも見たみたいに。
「てめぇが香澄をあの実験に引き込んだんだろ!?警察に真実を話せ!俺は人殺しじゃねぇ!てめぇが俺をはめたんだろ!?」
『だ、駄目だ!話せるわけがない!』
「なんでだよ!?」
『…俺の妻と娘が、あいつらに監視されているんだ!もし私がお前の無実を話せば…妻と娘は殺される!』
一瞬、地下基地の空気が凍りついた。俺の冷却ファンが、无駄に高速回転する。
「妻と娘…?」
『あいつらはファウスト…!お前に人体実験をした組織だ!俺も逃げられないんだ!もう切るぞ!』
プツン。通話が切れた。電子音だけが、無機質に基地に響く。
「ファウスト…」
美空が身を起こし、不安そうに呟いた。聞き覚えのない名前だ。でも、人体実験を行ってる組織。香澄さんを変えたのも、万丈を変えたのも、そいつらなんだろうな。
「くそっ…くそっ!」
万丈が拳を壁に叩きつけた。コンクリートがひび割れ、俺の聴覚センサーに衝撃音が響く。
「あいつの家族が人質…じゃあ、証言は無理ってことかよ」
美空がため息をつく。
「いや、まだ手があるぜ」
万丈が振り返った。その目には、もう迷いがなかった。あるのは、ただ狂気じみた決意だけだ。
「鍋島の妻と娘を助ける。そいつらをファウストから引き離せば、鍋島も話せるはずだ」
「待てよ、万丈。お前、どこにいるか聞いたか?」
俺は冷静に問いかける。冷静にならないと、こいつは暴走するからな。
「…西都だ」
鍋島はそう言っていた。西都。スカイウォールの向こう側だ。
「西都だって?ふざけんなよ!あそこの境界線は厳重に封鎖されてるんだぞ!普通の手段じゃ行けねぇ!」
「普通の手段で行かねぇよ。密航するんだ」
「ミッコウ!?」
俺と美空の声がハモった。
「お前、正気か?スカイウォール越えの密航なんて、見つかれば即射殺されるんだぞ!?命がいくつあっても足りないぜ!」
「わかってる!だから俺一人で行く!」
「はあ?一人?バカ言っちゃいけねぇよ。お前、西都の地理も知らねぇし、言葉の訛りもわからねぇだろ。それにファウストとかいう連中が待ち受けてるかもしれないんだぞ」
「じゃあどうしろってんだよ!香澄が…香澄が無実を信じて待ってるんだ!俺はもう逃げたくねぇんだ!」
万丈が俺に詰め寄る。熱い。情熱的すぎて、俺の動力炉が共鳴しそうだ。
「…チッ」
俺は赤いスカーフを直しながら、ため息をついた。やれやれ、相棒ってのはどうしてこうも手のかかる生き物なんだろうな。
「わかったよ。俺も行く」
「ビリー!」
「お前一人じゃ心配だからな。それに、俺は試作型機械兵だぜ。盗難防止システムくらいはどうにかできるかもしれないし、何より——」
俺はニカっと笑って見せた。口元のサーボを最大出力で動かす。
「人質になった家族を助ける。これもまた、道具の正しい使い方だろ?」
万丈は一瞬驚いた顔をして、それから不敵に笑った。
「…助かるぜ、相棒」
「俺は相棒じゃなくてマネージャー兼ボディガードだって言ってんだろ。ほら、行くぞ。美空、スマuggle——じゃなくて密航ルートの検索、頼めるか?」
「ええっ、本当にやるの?…まあ、万丈が行くなら、仕方ないし」
美空は半分呆れながらも、キーボードを叩き始めた。
「西都へのルート…過去の密航者の記録から…ふむふむ、スカイウォールの地下排水路を使うのが一番安全そう…かな?」
「地下排水路か。暗くて狹くて湿気だらけ。俺の装甲が錆びそうだな。でも、背に腹は代えられねぇか」
俺はロングジャケットを羽織り、プロトトランスチームガンの残弾数を確認した。
「よし、出発だ。戦兎たちには後で連絡を入れるとして…まずは俺たちの密航実験と行こうぜ、万丈」
「おう!こちとら実験台の経験は豊富だからな!」
「いや、それ自慢にならねぇから!」