夜の港は、潮の匂いとネビュラガスの残り香が混ざり合った、なんとも言えない空気に包まれていた。
俺と万丈は、美空が割り出したルートの起点である東都の外れにある港へとやって来た。ここから地下排水路を通ってスカイウォールの下をくぐり抜け、西都へ抜ける予定だ。
「しかし、まあ。いざ密航ってなると、身が引き締まるっていうか、錆びつきそうな気分だぜ」
俺はロングジャケットの襟を立て、赤いスカーフを夜風に靡かせながら呟いた。湿気がすごい。俺の関節部に塗ったばかりの潤滑油が、早くも悲鳴を上げそうだ。
「ビリー、そっちはどうだ?」
万丈が低い声で聞いてくる。さすが元格闘家。気配を消すのは上手いが、いかんせん体がでかい。隠れるのに苦労しているみたいだ。
「異常なし……と言いたいところだがな」
俺の聴覚センサーが、不穏な音を捉えた。
ドム、ドム、ドム、という重たい足音。人間のそれじゃない。もっと無機質で、統制されたリズムだ。
「来やがったか」
俺たちの前方、倉庫の影から次々と姿を現したのは、東都ガーディアンの部隊だった。緑色のセーフティパネルが暗闇の中で不気味に光っている。数は……十、二十……三十体近いか? これはまた、随分と大尽な歓迎を受けたもんだぜ。
「ちっ、やっぱり簡単には通してくれねぇか」
万丈が構えを取る。でも、今回は戦うためじゃない。通るためだ。
「万丈、聞け。お前は排水路の入り口まで走れ。あそこの錆びたマンホールだ」
「お前はどうするんだよ!」
「俺が囮になる。あいつらのターゲットは『脱獄犯の万丈龍我』だけど、もっと面白いオモチャ——つまり『自我を持った喋るガーディアン』が目の前にいれば、そっちに向かってくるのが機械のサカしいだろ?」
「バカな!お前一人で三十体とか無茶だぞ!」
「無茶じゃねぇよ。『実験』だ」
俺はニカっと笑って、万丈の背中を思い切り押した。
「行け! 香澄さんが待ってるんだろ!」
「くそっ……死ぬなよ、ビリー!」
万丈は一瞬だけ迷ったが、すぐに走り出した。足音が遠ざかっていくのを確認してから、俺はガーディアン部隊の方へと向き直った。
「よお、お仲間さんたち。夜分遅くご苦労さん」
俺は両手を広げ、わざとらしく声を張り上げた。
「俺は葛城巧博士の最高傑作、試作型機械兵ビリー様だぜ。お前らみたいな量産機とは、スペックが違うんだよ!」
ガーディアンたちの視線が、一斉に俺へと向けられた。反応ありだ。
『対象確認…………排除対象』
「おいおい、いきなり排除かよ。仲間意識の欠片もねぇな!」
ドガガガッ!
ガーディアンたちの一斉射撃が始まった。俺は脚部のホイールを回転させ、一気に加速して弾幕を潛り抜ける。
「そおら! こっちだ、こっち! 撃て撃てー!」
俺は倉庫の間を縫うように走り回り、わざと派手に蒸気を吹き出しながら注意を引く。プロトトランスチームガンの弾倉には訓練用の低出力弾しか入ってないが、牽制には十分だ。
「お前ら、照準遅いぜ! 昔の俺なら三秒で全員バラバラにしてやるけど、今は忙しいからパスだ!」
俺は壁を蹴って跳躍し、ガーディアンの頭上を飛び越える。下では、呆気にとられたガーディアンたちが混乱しながら俺を追いかけようとしていた。
「さてと、万丈が抜けるまで……あと三分ってところか」
俺は口元のサーボを歪めて、最高にテンションの高い声で叫んだ。
「おらおらおらぁ! 俺の華麗なステップについて来れるか!?」
俺は倉庫のコンテナを足場に飛び回りながら、軽口を叩き続けた。ガーディアンたちのセーフガードライフルが火を噴く度に、蒸気と火花が夜の港を彩る。まるでひな壇のライトみたいだぜ。もっとも、踊っているのは俺一人で、客席の連中は殺る気満々だけどな。
「コッチだ、ソッチだ! オーマイガー!」
わざとふざけた声を出して、ガーディアンの照準を撹乱する。機械は予測不能な動きに弱い。俺のジャズみたいなステップについてこれない奴らは、同士討ちを始めやがった。ドカン、バキン! 頭の悪い連中だなぁ、まったく。
「ビリー!」
その声!
俺はバック転で飛び退きながら、声のした方を見た。
「戦兎!? なんでお前がここに!?」
赤いスポーツカー……じゃなくて、仮面ライダービルドが、ラビットの脚力で屋根を飛び移りながらこちらに着地した。いつもの自信満々な立ち姿だ。
「美空から連絡があった! お前ら、また勝手な真似を!」
「うるせぇ! 緊急事態なんだよ! 鍋島の家族が人質なんだ!」
俺は言いながら、背後から迫るガーディアンの腕をプロトトランスチームガンで撃ち抜いた。
「事情は聞いてる! だが、一人で飛び出すなんて危険だろ!」
「ハッ! お前が言うかよ、その台詞! って、それより援護ありがと!」
ビルドが着地するなり、タンクの装甲を生かした体当たりで二体のガーディアンを吹き飛ばす。さすが、相棒。来るべき時に来る男だぜ。
「ビリー、お前は万丈と一緒に行け!」
「はあ!? ちょ、お前はどうするんだよ!」
「俺がここで引き受ける! お前らが西都へ行って、鍋島の家族を助けるのが先決だろ!」
戦兎……いや、ビルドは、迫りくるガーディアンの群れに背を向けたまま、俺を促した。
「でもよ、三十体だぞ!?」
「六十体でも 百体でも構うもんか! 俺は天才だ! それに……」
ビルドは振り返り、親指を立ててみせた。
「お前らが無事に戻ってくるまで、ここは絶対に通さない! 約束だ!」
俺の胸部動力炉が、熱い脈動を打った。ああ、もう。こんなこと言われたら、男なら走るしかねぇだろ。
「……チッ、わかったよ! 借りは返すぜ、戦兎!」
俺は踵を返し、排水路の入り口……じゃなくて、美空がマークしていたポイントへ走った。そこには、接岸されている古い貨物船があった。密航ルートの船だ。
「死ぬなよお!」
俺は走りながら叫んだ。
「お前こそ!」
背後でビルドが叫び返すのが聞こえた。俺は脚部のホイールをフル回転させ、夜風を切り裂いて船へと急加速した。
「・・・ここって」
世界の終焉。
それは、全てを超越する悪の科学者による暗躍。
「お前は所詮、葛城の人形なんだよ」
「ぐっ」
ビリーの前に現れるのは、彼と大きく関わりのある最上魁星。
その策略の前に、ビリーの前に現れたのは。
「さて、久し振りにやろうか、姉さん!」「あぁ、依頼だな」
仮面ライダースルゥース。
「機械だろうと、誰かに託されたんだったら、動け!」
仮面ライダーシャーマン。
「愛と正義と勇気の心が、宇宙に届いた時、俺は戻ってきた!」
仮面ライダーセイザー。
「けどな、世の中には守らなきゃならない大切なものが3つある。約束と愛と……」
仮面ライダーニューズ。
「先陣を切らせて貰おうか」
仮面ライダー流浪。
仮面ライダー集結。
そして。
「・・・博士、こんな所に隠していたのかよ、本当にな」
ビリーは。
『恐竜!ライダーシステム!エボリューション!』
再び変身する。
『Are you ready?』
その、ビルドを。
「変身!」『ダイナソー! ダイナソー!エボルダイナソー!』
否!
【仮面ライダーエヴォル!再誕編】
「なるほど、あれがプロトビルドねぇ、よくもなぁ、作ったよ。さすがは親子だねぇ」