守護者はヒーローになれるか?   作:ボルメテウスさん

23 / 37
悪意の銃弾

「ふぅ…なんとかなったな」

 

俺は装甲の煤を払いながら、へたり込んでいる戦兎に声をかけた。港の夜風が、汗と蒸気の匂いを運んでいく。一件落着だぜ。立弥も無事に元のアフロに戻ったし、成分も回収した。あとは美空の待つnascitaに帰って、惣一特製のコーヒー(俺は飲めないけど匂いだけは楽しめる)でも嗅ぎながらマッタリとするだけだ。

 

「ああ、まったく。コミックの擬音、あんなに派手に出るとは思ってなかったぜ」

 

戦兎が苦笑しながら、回収したばかりのフルボトルを掲げた。中には紫色の成分が揺らめいている。

 

「でもよ戦兎、あの『ドカン』って文字、ちょっとダサかっ……」

 

言い終わる前に、何かが弾けた。

 

パキンッ!

 

乾いた音が響き、戦兎の手からフルボトルが弾き飛ばされたのだ。

 

「え!?」

 

アスファルトの上を転がるボトル。蓋がどこかへ飛び、中から紫色の煙がシュルシュルと噴き出し始めた。

 

「おいおい、まさか!」

 

俺の識別灯が危険色の赤に点滅する。あの煙はただのガスじゃない。さっきまで立弥の中にあった、ネビュラガスの成分だ!

 

紫色の煙が意思を持った蛇のように立ち上がり、倒れている立弥の元へと凄まじい勢いで流れ込んでいく。

 

「う、うああぁぁっ!」

 

立弥が苦悶の声を上げる。その肌が再び灰色に変色し、筋肉が異常な膨らみを見せ始めた。アフロが縮み、代わりに無骨な装甲が皮膚の下から隆起する。

 

「嘘だろ! 再スマッシュ化!?」

 

戦兎が慌てて立ち上がろうとする。だが、もう遅い。

 

プレススマッシュが完全に蘇った。いや、さっきよりも凶暴な感じがする。奴は咆哮を上げると、その巨大な圧力腕を振り回し、俺たちに襲いかかってきた。

 

「うわあっ!」

 

「おわっ!」

 

不意を突かれた俺たちは、まともにその一撃を食らってしまった。まるでトランポリンで跳ね飛ばされたみたいに、俺と戦兎は宙を舞い、ごろごろとアスファルトの上を転がった。装甲が擦れる嫌な音が響く。いてぇ! 摩擦で塗装が剥げたじゃねぇか!

 

「くそっ、なんだよ今の!」

 

俺はすぐに体勢を立て直し、二丁のプロトトランスチームガンを構えた。

 

「待てビリー!」

 

戦兎が俺を止める。その視線の先、さっきまでプレススマッシュがいた場所には、もう誰もいなかった。ただ、破壊されたコンテナと、紫色のガスの残り香だけが残っている。

 

「逃げられた…!」

 

俺は呆然と立ち尽くした。まさかの展開だぜ。クリアしたはずのゲームが、いきなりバグって続きが出てきたみたいだ。

 

「戦兎、あの煙…誰かがボトルを撃ったのか?」

 

「ああ。間違いない。何者かが俺たちを監視してて、隙を見てボトルを狙い撃ったんだ」

 

戦兎が転がったボトルを拾い上げた。ひび割れたボトルには、何かの衝撃を受けた跡がくっきりと残っていた。

 

「ブラッドスタークか? それともナイトローグか?」

 

「わからない。でも、一つだけ言えることがある」

 

戦兎の顔が曇る。

 

「立弥は、またファウストの手に落ちたってことだ」

 

俺は赤いスカーフを握りしめた。せっかく助けたのに。せっかく「兄貴」って呼んでくれたのに。またあいつを助けに行かなきゃならねぇのか。

 

「…行くぜ戦兎。追うぞ」

 

「ああ。でもその前に」

 

戦兎はひび割れたボトルを見つめ、静かに言った。

 

「犯人が誰か突き止める。絶対にだ」

 

夜の港に、俺たちの決意だけが重くのしかかっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。