「さあ、実験開始だ! 」
戦兎が気合十分に叫び、二本のフルボトルをビルドドライバーに装填する。
ドライバーが軽快な電子音を鳴らし、ベストマッチ成立を告げる。レバーを回すと、待機音が変な方向にハネたリズムで流れ出した。
戦兎が、その宣言を終えると同時に、そのまま構えれば、そのままビルドへと再び変身する。
それと共にニンニンコミックへと変身を完了する。
すると、戦兎は不適な笑みを浮かべる。
「ふふっ、ならば見せてやろうか!俺の最新発明品をな!」
戦兎は仮面の下でも分かる不適な笑みを浮かべながら、構える。
それと共に現れたのは、忍者刀。
だが、その刀身ははっきりと言えば。
「…おい、なんだよ、あれ」
「忍者刀だよな、けれど、一体」
「まぁ、見ておけよ」
そうしていると、戦兎が、そのスイッチを押す。
「忍法! 分身の術!」
ブォン! ブォン! ブォン! ブォン!
まるで漫画の1ページをめくるような破裂音と共に、ド派手な白煙がドカッ!と噴き上がる。
「なっ!?」
俺は思わず一歩下がった。煙の向こうでセンサーが異常な熱源反応を捉える。いや、熱源じゃない。質量反応だ。1つじゃない。
煙が晴れた瞬間、俺の音声出力システムがフリーズしかけた。
「うおおおおぉぉッ!?」
目の前にはスマッシュが1体。
そしてその周囲を取り囲むようにして――桐生戦兎が4人立っているのだ!
「「「「食らえぇッ!」」」」
4人のビルドが完璧なシンクロ率で叫ぶ。右から2人目だけ微妙にズレてる気がするが、今はそれどころじゃない!
「4人ぉぉ!? 戦兎が4人に増えたァァッ!?」
俺は思わず叫んだ。計算が合わない。質量保存の法律はどうなった!? ネビュラガスで増殖するなんて聞いてねぇぞ!
「ななんだこりゃああッ!?」
隣で万丈が目を剥いて叫んでいる。彼の驚愕っぷりは俺以上だ。拳を握りしめたまま、4人のビルドを交互に見てオロオロしている。
「どいつが本物だ!? どいつを殴りゃいいんだよ戦兎ッ!」
「俺たちは全部本物さ!」
4人のビルドが同時に4コマ忍者刀を構える。それぞれの刀身から「キランッ!」「ドカッ!」「バシッ!」「ズバッ!」という擬音文字が物理的に飛び出した。
スマッシュは完全に混乱している。首を左右に振って、「ウガァァァ!」と唸りながら4人のビルドに手を出しかねている。そりゃそうだ。敵が1人から4人に増えたら誰だってパニックになる。
「マジかよ…これじゃあドッジボールのピンチランナーを4人同時に出されたボールみたいだぜ…」
俺は呆然と呟きながらも、二丁のプロトトランスチームガンを構えた。
「まあいい! 4人がかりなら死角なし! 俺はその4人の隙間を埋める弾幕を張るだけだ! 行くぜ相棒ズ!」
状況に飲まれつつも、俺は引き金に指をかけた。物理法則が泣いてるような気もするが、勝てりゃ官軍だろ!?
「右翼、援護開始!」
俺はニンニンコミックの分身陣形の右側へ滑り込んだ。赤いスカーフがヒラリと舞い、プロトトランスチームガンの照準がスマッシュの足元を捉える。
パンッ! パンッ!
二丁の光弾が床を撃ち抜き、スマッシュの逃走経路を塞ぐ。奴が右へ飛ぼうとすれば、そこには「ドカッ!」という擬音付きの分身が待ち構えている。
「左もらったァッ!」
左側の分身ビルドが4コマ忍者刀を振る。刀身から「バシッ!」という文字が飛び出し、スマッシュの腕を弾く。物理的に。文字が。飛び出して。弾く。
(今の見たか? 擬音文字が物理攻撃として機能してるぞ。この世界の物理法則はもうネビュラガスのせいで崩壊してんじゃないか?)
俺は呆れつつも、動きを止めない。
「ビリー、3時方向!」
正面の分身ビルドが指示を飛ばす。まるで自分同士で連携してやがる。右手のガンをクルリと回して構え直し、俺は即座に反応した。
「了解! 3時、弾幕張るぜ!」
パパパパッ! と三連射。スマッシュが体勢を崩して左へよろめく。そこを左翼の分身が「ズバッ!」と斬りつける。
完全に包囲されてる。四方からビルド、隙間からビリー。死角なし。
「うガァァァ…!」
スマッシュが唸りながら突進しようとする。だが、俺のガンが奴の膝裏を狙い撃つ。
パンッ!
「あっ、 Nice shot 俺!」
思わず自画自賛が口から出た。膝裏を撃たれたスマッシュが前のめりに崩れる。そこへ正面分身が飛び膝蹴りを叩き込む。
(いい動きだ。四角い陣形の中心に敵を置いて、各頂点から圧力をかける。囲椀で言えば四方からのシメツケだ)
「万丈! お前は入るなよ! この陣形、人数が増えると崩れるんだ!」
戦兎…いや、4人の戦兎が同時に叫ぶ。
「チッ、わかってんだよ! でもこれ見てるだけってのも腹立つな!」
龍我が拳を握りしめながらも、指示に従って下がっている。珍しく従順だ。多分、4人の戦兎に囲まれて怒鳴られたら誰でも引く。
(さて、動きは止まった。次は決め技だろ相棒)
俺は最後の弾をスマッシュの右肩関節に撃ち込み、奴の腕を完全に封じた。
「戦兎! 仕留めろ! 奴の動きは完全に止まったぜ!」
4人のニンニンコミックが一斉に4コマ忍者刀を構える。そして4人が重なるように一つに合体――いや、分身が本体に帰還したのか。煙と共に1人のビルドになった。
「忍法! 火炎の術!」
ニンニンコミックが4コマ忍者刀を頭上で回転させる。刀身の四つのコマ枠が赤く発光し、それぞれの枠から炎が噴き出す。
「ボッ! ボッ! ボッ! ボッ!」
四つのコマから順に炎が舞い上がり、刀身全体を紅蓮の炎で包み込む。周囲の空気が歪み、熱波が俺のセンサーに「熱い熱い!」と警告を鳴らす。
(おいおい、擬音文字まで燃えてるぞ。「アチチッ!」って文字が火の粉になって飛んでる)
ニンニンコミックが跳躍する。炎を纏った4コマ忍者刀が弧を描き、スマッシュの頭上から落下するように斬り下ろされた。
ズバァァァァッ!!
燃え盛る斬撃がスマッシュを一刀両断する。いや、斬ったんじゃない。四つのコマ枠がスマッシュの身体を1コマ目、2コマ目、3コマ目、4コマ目と順に切り裂いていく。
まるで漫画のページを切り裂くように。
最後の4コマ目がスマッシュの身体を抜けた瞬間、背後に「バンッ!」という特大の擬音文字が爆発と共に現れた。
ドォォォォン!!
炎の残滓が渦を巻き、スマッシュがゆっくりと倒れていく。
「…」
俺はしばらく動けなかった。
「おい、今の見たか万丈」
「ああ…見た。うん、見た」
龍我がポツリと言う。否定はしない。確かに強かった。物理法則は泣いてるけど。
俺はプロトトランスチームガンをホルスターに戻し、蒸気をひとつ吐き出した。
「ま、勝てりゃ官軍だろ。…相棒、お前その刀、とんでもないもん作ったな」
ニンニンコミックが振り返る。炎の残滓の中で、4コマ忍者刀にまだ「完!」の文字が灯っている。
「すごいでしょ? 最高でしょ? 天才でしょ?」
戦兎のドヤ顔に、今度は「キラリッ!」という擬音文字が飛び出した。
(…ああ、うん。天才だよお前は)
俺は呆れながらも、口元のサーボが勝手にニヤリと動くのを感じた。
物理法則が泣こうが、擬音文字が飛ぼうが、相棒が勝って誰かを救えるなら。それでいい。
「さあ、ボトル回収といこうぜ天才。『完』の後は『次回』だろ?」
俺は倒れたスマッシュの方へ歩き出した。背後で戦兎が「うわ、その言い回しカッコいいな! 俺が言いたかったのに!」と叫んでいる。
(お前のセリフだろ。全部お前が言ったんだよ)
赤いスカーフを揺らしながら、俺は静かに笑った。
「…というよりもヤバくないか!?研究所が爆発しそうだぞ!」
「マジかよ!?急いで脱出するぞ!」
そうして、研究所で、他の被害者達も見つけた為、彼らを連れて、その場を脱出する。