守護者はヒーローになれるか?   作:ボルメテウスさん

37 / 37
救出の方程式は決まった

スマッシュの出現地点は東都の外れ廃工場地帯だった。

 

俺たちが現場に着いた時すでに辺りは阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

 

鉄骨がねじ曲がり、コンテナが粉々に砕けている。逃げ惑う作業員たち。追いかける巨大な影。

 

「うわあああっ!」

 

悲鳴が上がる。

 

「逃げろ! こっちだ!」

 

龍我が真っ先に飛び出した。変装用の帽子を投げ捨て、腕を振り回して作業員たちを安全な方向へ誘導する。その背中にデコピン一つ分の迷いもない。

 

「万丈、頼む!」

 

戦兎が叫ぶ。

 

「言われなくても!」

 

龍我は作業員を一人抱え上げ、別の一人の手を引き走り抜ける。

 

俺はその間に敵を見た。

 

灰色の硬い装甲。全身を岩のような質感で覆われている。特に両腕が異様に太い。拳は握り込まれた岩そのものだ。ゴツゴツとしていて人型だが人間の面影はない。殴打に特化した造形だ。

 

(ストロング系のスマッシュ…パンチ力特化型か)

 

俺は光学センサーで敵の挙動を追う。重い拳を振り回し地面を砕きコンテナを粉砕する。その一撃一撃がとんでもない破壊力だ。

 

(まともに食らったら俺のフレームでも持たないな)

 

だがそれより先にやることがある。

 

俺は京香さんの生体情報を呼び出した。脈拍、体温、体格係数。

 

「照合開始」

 

敵の生体反応をスキャンする。

 

脈拍パターン。体温分布。

 

(数値が…乱れてる)

 

スマッシュ化の影響だ。人間の生体データが怪人化によって上書きされている。京香さんの基準データと照合しても一致率が安定しない。

 

(六十二パーセント。六十八。五十九。バラバラだ。断定できない)

 

「ちっ」

 

俺は舌打ちした。

 

(このままじゃ攻撃できない。京香さんかもしれない相手に全力は出せない)

 

その時だ。

 

「戦兎!」

 

龍我の声が飛んだ。

 

振り返るとスマッシュの拳が戦兎に向かって振り下ろされていた。戦兎はまだ変身していない。ドライバーに手をかけた瞬間だった。

 

(間に合わない)

 

俺の右脚が勝手に動いた。

 

右手側のプロトトランスチームガンを取り出す。サイドポケットからロケットフルボトルを抜く。

 

装填。

 

カチッ。

 

『ロケット!』

 

ガンが変形する。

 

バキバキバキッ!

 

銃身が展開し俺の右腕と接続する。腕全体を覆う巨大なロケットへ変形した。青い装甲。ノズルから青白い炎が噴き出す。

 

「うおおおッ!」

 

俺は噴射した。

 

ドゴォォッ!

 

急加速。視界が線になる。地面を蹴る必要すらない。推進力が俺の体を弾丸のように前へ運ぶ。

 

ガギンッ!

 

俺の右腕のロケットが、スマッシュの拳に横からぶつかった。拳の軌道が逸れる。戦兎の頭上すれすれを拳が通り過ぎ、背後でコンテナを粉砕する。

 

「ビリー!」

 

戦兎が叫ぶ。

 

「相棒、遅かったか」

 

「いいや、最高のタイミングだ」

 

戦兎が立ち上がる。俺はその前に出た。右腕のロケットが唸っている。

 

(さて。問題はここからだ)

 

スマッシュが体勢を立て直し俺に向き直った。

 

拳を振り上げる。

 

俺はロケットの推進力を乗せた一撃を狙った。右腕を突き出す。噴射全開。

 

(決める——)

 

その瞬間だった。

 

スマッシュが、拳を振り上げる前に一瞬だけ手を止めた。

 

首を傾げるように。

 

まるで何かを思い出そうとするみたいに。

 

(今の仕草)

 

俺の記憶領域が弾けた。京香さんの家。こたつ。湯呑みを両手で包みながら首を傾げた仕草。

 

(京香さんだ)

 

確信じゃない。でも否定できない。

 

俺は噴射方向を変えた。

 

ドシュゥッ!

 

右腕の一撃がスマッシュの拳の横を外れる。空を切る。だが勢いを殺しきれず俺の体が前へ流れた。

 

「しまっ——」

 

スマッシュの拳が、俺の胴を捉えた。

 

ズドガァッ!!

 

「ぐあッ!」

 

俺の体が弾き飛ばされる。背中の装甲に衝撃が走り、壁に叩きつけられる。瓦礫が崩れ、砂埃が舞う。

 

(いっててて…装甲耐久度、六十五パーセント。まだ動ける)

 

「ビリー!」

 

戦兎が俺の前に立った。

 

「お前が迷うなら、俺が助ける」

 

戦兎の声は静かだった。だがその目は燃えている。消防車フルボトルとハリネズミフルボトルをドライバーに装填する。

 

『ハリネズミ!』

 

『消防車!』

 

『ベストマッチ!』

 

『Are you ready?』

 

「レスキュー剣山! ファイヤーヘッジホッグ!」

 

赤と淡い色の装甲が展開する。右肩には鋭い針。左腕には消防車の放水銃。左右非対称の姿。レスキューの名を冠したフォームだ。

 

「行くぞ、ビリー。お前は援護だ」

 

「了解」

 

俺は立ち上がった。右腕のロケットが唸る。

 

(京香さんなら攻撃はできない。でも戦兎が助けてくれるなら——)

 

(俺は道を作る)

 

戦兎が左腕の放水銃を構えた。

 

ドシュゥゥッ!

 

高圧水流がスマッシュの足元を襲う。水圧が足場を崩しスマッシュの体勢が揺らぐ。

 

「今だビリー!」

 

俺は噴射した。

 

ドゴォォッ!

 

スマッシュの横へ回り込む。逃げ道を塞ぐ位置へ。ロケットの推進力で一気に移動しスマッシュの退路を封じる。

 

「戦兎、いつでもいい!」

 

「ああ!」

 

戦兎が左腕のはしご状装備を伸ばした。伸縮ラダーがスマッシュの腕に絡みつく。動きを制御する。

 

「動くなよ」

 

戦兎がドライバーのレバーを回した。

 

『ボルテックフィニッシュ!』

 

右拳の針が伸びる。巨大な球状のナックルから無数の針が飛び出す。

 

戦兎が跳んだ。

 

スマッシュの懐へ飛び込み右拳を叩き込む。

 

ズガァァン!!

 

針がスマッシュの装甲を砕く。灰色の装甲に亀裂が走り剥離していく。

 

「今だ!」

 

戦兎が成分をスマッシュボトルへ回収する。

 

緑色のエネルギーが吸い込まれていく。灰色の装甲が崩れ落ちていく。中から——

 

京香さんが現れた。

 

「京香さん!」

 

俺は駆け寄った。変身を解除した京香さんが倒れ込むところを右腕で受け止める。ロケット武装のままじゃ危ないので、素早く解除する。

 

カシャン!

 

ロケットが外れプロトトランスチームガンに戻る。俺は両腕で京香さんを支えた。

 

「京香さん、聞こえますか!」

 

俺は首元にセンサーを当てる。

 

(脈拍あり。呼吸あり。意識は…ないが生きてる)

 

「よかった…」

 

俺は呟いた。動力炉がほっと熱を吐く。

 

「京香さん、ごめんなさい…守れなくて…」

 

謝ろうとして言葉に詰まった。

 

(何を謝ればいいんだ。車体の下に隠れたことか。照合を確定できなかったことか。それとも)

 

その時京香さんの指が、微かに動いた。

 

俺の腕に触れるか触れないかの、かすかな反応。

 

「…ビリー?」

 

掠れた声。まだ意識は戻っていない。でも確かに俺の名前を呼んだ。

 

「はい。ビリーです」

 

俺は答えた。

 

戦兎と龍我が駆け寄ってくる。

 

「京香さん!」

 

「無事か!」

 

三人で京香さんを囲む。

 

だが俺にはわかっていた。京香さんを救出できただけじゃ終わらない。

 

(誘枴中に何があったのか。京香さんの記憶は無事なのか。ファウストは何をしたのか)

 

京香さんの意識が完全に戻るまでわからないことが多すぎる。

 

俺は京香さんを支えながら、静かに呼吸を整えた。

 

赤いスカーフが、廃工場の風に揺れている。

 

(今度こそ守り切った。でも本当の戦いはこれからだ)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

転生したらゼロだったのでCODEをちゃんと導きます(作者:遺物)(原作:仮面ライダー)

転生したらCODE創設時代のゼロだった俺は、彼の為にCODEを世界平和のために導くことを決意する▼殺人鬼ジーク・まとも枠ツー・裏切り屋スリー・話を聞かないフォー▼皆を正義に導いてCODEを存続させることが出来るのか▼莫と幸せな人生を送ることが出来るのか▼これは▼一人の少年が望んだ▼ありえたかも知れないCODEの物語


総合評価:105/評価:-.--/連載:6話/更新日時:2026年08月18日(火) 19:10 小説情報

ストマック家長男(in転生者)の胃痛な日々(作者:セロ弾きのゴーシュ)(原作:仮面ライダー)

目が覚めると、マフィアも真っ青な悪徳企業に生まれていました。▼『仮面ライダーガヴ』のヴィラン、ストマック社の一員として転生した元人間は、胃痛を抱えながら走り続ける。▼人間狂いな父!妙に懐いちゃった身内!元同族狩りの家業によるストレス!迫るミューター(劇場版ヴィラン)の脅威!▼これは、原作通り非情なヴィランを演じようとした結果、当然の如く演じられなかった男の七…


総合評価:35/評価:-.--/連載:1話/更新日時:2026年08月23日(日) 20:00 小説情報

転生先はストマック家でした(作者:白豆男爵)(原作:仮面ライダー)

主人公が転生したのは仮面ライダーガヴの世界。▼しかも転生先はストマック家の本来存在しない三男,ディル・ストマックであった。▼彼の存在はガヴの世界にどう影響を及ぼすのか...▼注)仮面ライダーガヴの本編視聴推奨です。▼追記(6/5):特別編追加に伴い、レジェンドとディケイドのタグを追加しました。


総合評価:604/評価:8.53/連載:13話/更新日時:2026年07月26日(日) 18:56 小説情報

最強のビターガヴになるには(作者:響く黒雲)(原作:仮面ライダーガヴ)

原作においてビターガヴは様々な変身者が存在する、いわば量産型の仮面ライダー。そんな量産型ダークライダーになってしまった前世人間、今世グラニュートのある転生者のお話。


総合評価:197/評価:8/短編:1話/更新日時:2026年06月23日(火) 12:00 小説情報

夢想は甘き鎧となる~ダンジョン世界でおカシな仮面ライダー!?~(作者:妄想めっちゃ代理人)(原作:仮面ライダー)

一人のライダー好きがダンジョンのある日本に落ちてしまう話▼ライダーがファンタジーで活躍するのが読みたかったので作って貰いました▼作:俺の妄想を形にしてくれたAI様▼校正と編集:自分▼です。AIとインターネットの集合知へ感謝を捧げます▼07/13追記:ちょっとだけタイトル変えました


総合評価:1308/評価:8.92/連載:25話/更新日時:2026年08月07日(金) 00:45 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>