ナイトローグのスチームブレードが俺の首元をかすめる。
熱。金属が削れる嫌な音。
「ぐっ…!」
俺は横に跳んだ。だが動力炉の警告灯は消えない。出力残量は百分之三十八。これ以上ロケットを使えば自爆ラインに触れる。
(まずい。動きが鈍ってる。ナイトローグの速度に追いつかない)
「ビリー! くたばるのはまだ早いぜ!」
龍我の声が背後から響く。振り返れば、龍我が崩れかけた壁に背を預け、片膝をついている。だが拳は握ったままだ。
「くたばってねぇよ! ちょっと燃料切れなだけだ!」
「燃料切れで戦えるか馬鹿!」
口では罵り合っているが、二人とも同じ場所にいる。ここで止まれば、出口が塞がれる。
その時だ。
頭上で金属音が鳴った。カンッ、と硬い音が通路を反響する。
見上げれば、小さなドラゴン型のメカが翼を広げて旋回していた。クローズドラゴン。龍我の相棒機だ。
「お、来たか」
龍我が口元を緩める。クローズドラゴンの腹部が開き、一本のボトルが落ちてきた。
ドラゴンフルボトル。
青いボトルが宙を舞う。俺は反射的に手を伸ばした。キャッチ。
「ナイス、クローズドラゴン」
「おい、ビリー。お前の手元を見ろ」
龍我が顎でしゃくる。俺は自分の右側のプロトトランスチームガンを見た。
さっき装填したロックフルボトルが、ガン全体を覆うように展開している。銃身が大型の錠前に変形し、銃口には開いた掛け金、側面からは太い鎖が垂れ下がっていた。
「何だこれ。俺の銃が金庫になってる」
(試作機の武装換装機能か。ロックフルボトルの特性がガンに反映されたのか)
「戦兎! 行けるか!」
俺は叫んだ。戦兎が振り返る。その目は冷静だ。
「ああ。時間を稼げ」
「任せろ!」
俺は錠前の銃口をナイトローグに向けた。
パンッ!
射出された錠前が、ナイトローグの胸元へ直撃する。重い衝撃。金属と金属がぶつかる鈍い音が、地下通路に響き渡った。
「ぐっ…!」
ナイトローグが数歩後退する。錠前の掛け金が胸の装甲を挟み込み、ガチャリと閉まる。
「動くな!」
鎖を張る。太い鎖がナイトローグの身体と俺のガンを繋ぎ、再接近を妨げる。
「試作機…貴様、新しい機能を…」
「試してみたかっただけさ!」
俺はロックフルボトルをガンから引き抜いた。錠前と鎖が光の粒子となって消える。ガンも元の形に戻る。
自由になったナイトローグが一歩踏み出す。その瞬間、頭上からクローズドラゴンが急降下した。火炎弾を吐き出し、ナイトローグの足元を焼く。
「チッ!」
ナイトローグが跳んで避ける。その隙に、俺はロックフルボトルを戦兎へ投げた。
「戦兎! ロック!」
「受け取った!」
戦兎が左手でロックフルボトルをキャッチする。右手にはさっきのドラゴンフルボトル。
二本のボトルが揃った。
俺は空になったガンを構え直し、一歩下がる。動力炉はまだ警告を鳴らしている。だが今は構わない。
戦兎が二本のボトルをビルドドライバーへ装填した。
『ドラゴン!』
『ロック!』
『ベストマッチ!』
電子音声が地下通路に響く。同時に、俺の聴覚センサーが装甲を組み上げる機構の音を拾った。歯車が噛み合う音。金属板が展開する音。それはいつもの変身音より、どこか重苦しかった。
ナイトローグがクローズドラゴンの牽制を振り切ろうとした。ブレードを振り上げ、炎を切り裂く。
「させねぇ!」
俺は残弾の少ないガンを撃った。牽制。直撃ではない。だがナイトローグの動きを一瞬止める。
その一瞬で、戦兎が叫んだ。
「変身!」
『Are you ready?』
ドラゴンとロックのエネルギーが渦を巻き、戦兎の身体を包み込む。
青い竜の意匠をした装甲が右半身に展開する。鱗を思わせる金属板が腕から肩へ、肩から胸へと重なっていく。
同時に左半身には金色の錠前を模した装甲が装着される。鎖の装飾が腕に巻き付き、腰には大型の錠前がぶら下がる。
最後に頭部が形を成す。左右で異なる意匠の複眼が光を放った。右目はドラゴンの瞳、左目は錠前の溝。
『封印のファンタジスタ!キードラゴン!イェーイ!』
装甲が収まる音。最後に右腕に蒼い炎が灯った。
だがその炎には、微かに紫電が混じっていた。一瞬だけ。稲妻のように走って、すぐに消える。
(…今の、何だ? 蒼炎に混じる電光。後で聞くべきか。いや今は)
俺は空になったガンを構え直し、一歩下がった。
キードラゴンフォームの戦兎が、ナイトローグの前へ出る。
蒼い炎を纏った右腕。鎖を垂らした左腕。
ナイトローグが一瞬だけ姿勢を低くした。警戒している。いつもの余裕が消えている。
(よし。相棒、行けるか)
俺の動力炉はまだ警告を鳴らしている。だが今は、戦兎の背中を見ているだけでいい。
赤いスカーフが、地下通路の風にヒラリと揺れた。