「見つけたぜ、万丈龍我」
俺は二丁のプロトトランスチームガンを構え、銃口を正確に胸元へ合わせた。トリガーに指をかける。あとは引くだけだ。
工業区の片隅。人気の消えた路地に、そいつはいた。荒い息を吐き、壁に背を預けてこちらを睨んでいる。刑務所の囚人服は汚れ、あちこちが破れていた。逃走中に負った傷なのか、額からは血が滲み、両手の拳は擦り切れて赤く染まっている。
「お前ら…何者だ」
万丈の声は低く、警戒に満ちていた。その目は追い詰められた獣のそれだ。でも、俺は知っている。獣は時に、人間より残酷になることを。
「俺はビリー。葛城巧の相棒だ」
俺の声が、自分でも驚くほど冷たく響いた。
「葛城…巧だと?」
万丈の表情が歪む。その反応だけで、俺の動力炉はさらに加熱した。
「とぼけるなよ。お前が殺したんだろ、博士を」
「待て、ビリー!」
戦兎が俺の前に割って入ろうとする。
「まだ話を――」
「話は後だ!こいつは博士を殺したんだぞ!」
俺は戦兎の制止を振り切ろうとした。でも、彼は俺の右腕を両手で掴み、銃口を押し下げた。
「落ち着け!証拠もないのに撃つな!」
「証拠ならある!ニュースでも言ってた!こいつが博士を殺したって!」
「だからだ。ニュースが本当とは限らない。お前だって言ってたじゃないか。葛城巧は自分の足で施設を出ていったって。それなら、事件の時間が合わない可能性もある」
俺の識別灯が、さらに速く点滅する。動力炉の温度は警報域に達しているのに、それでも冷めない熱があった。
「ビリー、お前は道具だって言ったな。でも、使い方を間違えたら、お前はただの兵器になる。それでいいのか?」
その言葉に、俺の腕の力が少しだけ緩んだ。
そうだ。俺は道具だ。でも、使い方を間違えちゃいけない。それは博士が俺に教えてくれたことだ。
「…わかった。でも、あいつが博士を殺したのが事実なら、その時は――」
「その時は、俺も止めない」
戦兎はそう言って、万丈に向き直った。遠くからガーディアンの捜索灯が近づいてくる。時間はあまりない。
「万丈龍我、逃げずに話を聞かせてほしい。お前は葛城巧を殺したのか?」
万丈は壁にもたれたまま、俺たちを交互に見た。その目には、まだ警戒の色が濃く残っている。でも、どこか諦めのようなものも感じられた。
「殺してねぇ」
万丈の声は、かすれていた。
「詳しく聞かせてくれ、何が」
万丈は一瞬、何かを思い出すように目を閉じた。その顔に浮かんだのは、怒りではなく、苦しみだった。
「分からねぇよ、俺があそこに行ったら、それよりもお前達だって、人体実験のモルモットにするつもりだろ!!」
「人体実験…」
戦兎はそう言って、不敵に笑った。その顔は、やっぱり巧に似ていた。
「務所でスキンヘッドの看守に後ろからいきなりされて、そこからガスマスクの奴ら」
そこまで言って、俺も戦兎も思わず見る。
「どう思う」
「本当だと、思う。俺も実際に」
そう呟いた時、何かがこちらに近づいた。
「危ねぇ!!」
瞬時に、俺が叫ぶと共に、襲い掛かったのは、マッシュの拳が、空気を切り裂いた。
「うわああっ!」
万丈の身体が、まるで紙くずのように吹き飛ぶ。工場の壁を突き破り、資材置き場の鉄骨の山へと叩きつけられる。あれだけの衝撃だ。普通の人間なら、まず無事では済まない。
「万丈!」
戦兎が叫ぶ。でも、スマッシュはまだ止まらない。巨体を低く沈め、次の獲物を狙う獣のように膝を曲げる。跳躍の予備動作だ。あの質量であの跳躍力。もし万丈に直撃すれば、今度こそ致命傷になる。
「させるかよ!」
俺は二丁のガンをホルスターに叩き込み、全身の装甲を展開させた。
「蒸着!ライドモード!」
蒸気が噴き出す。肩のタイヤが回転しながら前輪へと移動し、脚部のホイールが展開して後輪を形成する。胸部装甲が折り畳まれ、フロントカウルへと変形していく。赤黒い車体が、蒸気のカーテンを切り裂いて地面に着地した。
「乗れ、戦兎!」
俺の声が、エンジン音に混じって響く。
「でも、万丈が――」
「だから追うんだよ!あいつはまだ真実を知ってる唯一の証人だ!死なせるわけにはいかねぇ!」
俺は本心を叫んだ。まだ万丈への疑念は消えていない。葛城巧を殺したという疑いも、完全に晴れたわけじゃない。でも、それでも――真実を知るためには、あいつが必要だ。
戦兎が俺の車体に飛び乗る。その手には、すでに二本のフルボトルが握られていた。
「行くぜ!しっかり掴まってろ!」
俺はスチームブーストを起動し、蒸気の弾丸となって発進した。夕暮れの工業地帯を、白い蒸気の尾が切り裂いていく。崩れた足場の向こうでは、スマッシュが咆哮を上げ、まさに跳躍しようとしている。
「戦兎、変身の準備はいいか!」
「ああ!」
戦兎は走行中の俺の上で、器用に二本のボトルをビルドドライバーへ装填した。赤いラビットと青いタンク。最高のベストマッチが、カチリと音を立ててはまる。
「いくぜ!止まるなよ、ビリー!」
「了解!振り落とすなよ、戦兎!」
俺はスマッシュの真下へと、蒸気の軌跡を残して突き進んだ。
疾走する俺の車体の上で、戦兎が叫んだ。
「変身!」
ビルドドライバーのレバーが回される。赤と青の光が交錯し、蒸気とともに現れる左右非対称の装甲。ラビットの跳躍力とタンクの破壊力を兼ね備えた、最高のベストマッチ。
「ラビットタンク!勝利の法則は決まった!」
仮面ライダービルドが、俺の車体を蹴って宙へ舞い上がった。その衝撃で俺のタイヤがわずかにバウンドする。着地と同時に、ストロングスマッシュの巨大な拳を受け流すビルド。その動きは、かつて俺が見てきたどんな戦闘データよりも洗練されていた。
「さあ、実験を始めようか!」
ビルドがスマッシュの側面へ回り込み、ラビットの脚力で跳躍する。俺はその隙に、ライドモードから人型へと戻った。蒸気が収束し、二丁のプロトトランスチームガンが手に戻る。
「万丈、生きてるか!」
俺は鉄骨の山に駆け寄った。万丈は頭から血を流しながらも、しっかりと目を開けている。瓦礫を掴み、自力で立ち上がろうとしていた。
「てめぇ…助けに来たのかよ」
「うるせぇ、黙って助けられとけ!あんたはまだ死ねないんだよ。聞きたいことが山ほどあるんだからな!」
俺は万丈を抱え上げ、安全な場所まで運ぶ。まだ疑念は消えない。でも、こいつが真実を知る唯一の証人であることは確かだ。
「ビリー、そっちは!」
「大丈夫だ!万丈は生きてる!」
「よし、ならこいつを片付けるぞ!」
ビルドが叫ぶ。俺は二丁の銃を構え、戦闘態勢に入った。胸部のネビュラガスポートが熱を帯び、識別灯が赤く点滅する。
「作戦はいつも通りだ、戦兎!俺が動きを封じる、お前がトドメを刺せ!」
「ああ、頼む!」
俺は地面を蹴り、蒸気の軌跡を残してスマッシュの背後へと回り込んだ。奴の注意がビルドに向いている隙に、膝裏の関節を狙って連続射撃。一発、二発、三発。全て正確に命中し、スマッシュの巨体がぐらりと傾ぐ。
「今だ、戦兎!」
ビルドが跳躍し、右足のラビット装甲が光を放つ。回転を加えた飛び蹴りが、ストロングスマッシュの胸元へと突き刺さった。
「はああっ!」
怪人の身体からネビュラガスが噴き出す。巨体がゆっくりと崩れ落ち、元の人間の姿へと戻っていく。
「ふう…」
ビルドが着地し、空のフルボトルを取り出す。手際よくスマッシュの成分を回収し、被害者を救出する。いつもの手順だ。でも、今日は違った。
「動くな!」
突然、周囲から無数の足音が響いた。特殊部隊だ。完全武装の兵士たちが、一瞬で俺たちを取り囲む。その数、優に二十人は超えている。
「なんだ、こいつら!」
万丈が身構える。俺も反射的に二丁の銃を構え直した。でも、戦兎――ビルドは静かに立ち上がり、部隊の中央に立つ一人の男を見据えた。
「氷室幻徳…」
研究所の所長。東都政府の要人。あの男が、なぜここに?
「ご苦労だった、仮面ライダービルドだったか」
幻徳の声は冷たかった。その手には、見覚えのある変身装置が握られている。
「お前たちの活動は、ずっと監視させてもらっていた。そして今日、確信した。お前たちは危険すぎる」
「危険だと?」
戦兎が一歩前に出る。
「俺たちはスマッシュを倒し、人々を守ってきた。何が危険なんだ」
「その力そのものが、だ」
「お前たちの持つ力は、国家の管理下に置かねばならない。抵抗するなら――」
「させるかよ!」
俺は幻徳に向かって飛び出した。でも、その前に兵士たちの銃口が一斉に俺を捉える。
「ビリー、待て!」
戦兎が俺の腕を掴んだ。その手は、変身していてもわかるほどに冷静だった。
「ここは引くぞ。万丈を連れて、一旦撤退だ」
「でも…!」
「今はまだ、戦う時じゃない。俺たちにはもっとやるべきことがある」
俺は歯ぎしりしながらも、銃を下ろした。戦兎の言う通りだ。ここで戦っても、得るものは少ない。
「賢明な判断だ」
幻徳が薄く笑う。
「だが、逃がすと思っているのか?」