メンテナンスポットから立ち上がると、膝の関節がキシリと鳴った。三日ぶりの稼働だ。サーボが硬くなっている。美空が渡してくれたオイルを関節に塗りながら、俺は動力炉の状態を確認した。出力は安定している。リミッターも正常。ただ残量は百分之百には戻っていない。九十三パーセント。まあ、十分だ。
「で、戦兎はスタークの手掛かりがどうとか言ってたのか?」
美空が首を傾げる。
「何か、判明したとか。でも詳しいことは言ってなかった。急いで出て行ったの」
「急いで、か。あいつ、俺を置いて先に行きやがったな」
俺は舌打ちした。ロボットに舌はないが、口元のサーボがそれっぽい音を出した。美空が呆れた顔をしている。
「機能停止してた三日間に起きたこと、もう一回整理するね。フルボトルは全部取り戻した。万丈はクローズに変身してナイトローグと戦った。戦兎はキードラゴンでスタークを追い詰めたけど変身解除。それで、スタークの正体について何か判明したらしい」
「正体か。あの蛇野郎の正体がわかったのか」
「うん。でも詳しくは聞いてない。戦兎が『ビリーが起きたら伝えてくれ』って。で、何を伝えるんだって聞いたら、『起きたらすぐ来い』って」
「来いってどこへ」
「工場。東都の端にある工場跡。戦兎と万丈がそこにいる」
「工場跡か。何やってるんだ、あいつら」
俺は二丁のプロトトランスチームガンを確認した。ホルスターに収まっている。スロットは空だが、ポケットにはバイクフルボトルとロケットフルボトルが入っている。必要ならすぐに使える。
「行ってくる!美空」
美空がモニターの前に戻る。気だるげな動作だが、目は真剣だ。俺の無事を確認して、安心したからだ。
「ビリー、気をつけて」
「ああ。守護者は無茶しない。仕事をするだけだ」
俺は軽口を叩いてから、ライドモードへ変形した。
カシャン! カシャン!
フレームが折り畳まれ、車輪が展開する。赤いスカーフがタンクに巻き付く。五秒で変形完了。エンジンを吹かし、地上へ向かう。
* * *
東都の端。工場跡地帯。
俺はバイク形態のまま、荒れたアスファルトの道を走っていた。かつて工場が並んでいた場所だが、今は廃墟と化している。スカイウォールの影響で産業が衰退し、放置されたままになっている。
(スタークの手掛かり、か。あの蛇野郎の何を調べたんだ、戦兎)
俺のセンサーが、前方に二つの熱源反応を捉えた。人間。動いている。走っている。
(あれか?)
距離を詰める。アスファルトを噛むタイヤの音が響く。夕暮れの光の中で、二つの影が見えてきた。
一つはパーカー姿の青年。桐生戦兎。もう一つは筋肉質な男。万丈龍我。
二人は何かを抱えていた。金色の箱。六角形の装飾。見覚えがある。パンドラボックスだ。
(パンドラボックス? なんで戦兎がそんなものを)
俺が近づくと、二人が振り返った。戦兎の顔に安堵が浮かぶ。
「ビリー! 起きたのか!」
「起きたのかじゃない。三日間置いてけぼりを食らったのは俺だぞ。で、その箱は何だ」
「説明は後だ! 良いからさっさと乗るぞ!」
龍我が箱を抱えたまま、俺のタンクに跨る。戦兎も後ろに乗る。二人の体重がサスペンションを沈める。
「重いぞお前ら」
「文句は後だビリー! 行くぞ!」
「どこへ」
「どこでもいい。ここから離れる!」
戦兎の声が切迫している。俺は問いを飲み込んだ。背後から何かの気配がする。追手か。センサーを後方に向ける。
三つの熱源反応。ガーディアンだ。ファウスト仕様の黒い機体。セーフティパネルが外れている。追ってきている。
「来てる。ファウストのガーディアンが三機」
「わかってる! だから急げって言ってんだろ!」
龍我が叫ぶ。俺はエンジンを全開にした。タイヤがアスファルトを噛み、砂煙が舞う。
(戦兎。お前、何を調べたんだ。スタークの正体が何だって言うんだ)
問いは喉の奥に留めた。今は走る。それが守護者の仕事だ。