この生に、意味があるのなら   作:生姜醤油

1 / 3
初めまして、生姜醤油と申します。
超かぐや姫、終了直前に見に行ったんですが……いやー、もっと早く見れば良かったですね。ドハマりして小説版も二次創作も読み漁った結果、自分でも書いてみようかなと思い立ち、こうなりました。他の方々のクオリティには劣るかもしれませんが、読んでいただけると幸いです。


悩みの種

 この場所に最初足を踏み入れた頃のことは、今でも鮮明に覚えている。

 

 視界一杯に広がる、煌びやかな和風の街並み。

 月の代わりにミラーボールが浮かび、色とりどりに輝く魚群や飛行船が飛び交う空。

 賑やかな声がそこら中から聞こえ、どこもかしこも笑顔で溢れていた。

 

『こらこら。はしゃぐのは良いけど、置いてかないでくれ』

 そして、隣にはいつだって――

 

 

*  *  *

 

 

 広大な竹林を駆け抜ける四つの影。地面のみならず、そこらの岩や竹をも足場とし、縦横無尽に跳び回る男に、他三人が次々に畳みかける。両者の間には互いの武器による無数の応酬が行われ、絶えず金属音が響き渡っていた。

 

「ジーク、翡翠、合わせろ!」

「「了解!」」

 日本刀を構えた男の号令に二人が答え、陣形を整え突撃。刃が、棍棒が、弾丸が、三種の攻撃が一体となって、次々に一つの対象目掛けて襲い掛かっていく。

 

 しかし――その矛先たる男は、眼前に迫る脅威に顔色一つ変えなかった。

 雨あられと降り注ぐそれを、透かし、弾き、受け流し、合間合間に相手の体へ刃を滑らせる。その度に桜の花びらが舞い、男達には苦悶の表情が浮かんでいく。

 

 

「あ――」

 そんな攻防がしばし繰り広げられた頃。攻撃の波間に出来たほんの一瞬の隙を突かれ、棍棒を振るう男の腕が斬り飛ばされた。そして、腕ごと得物が宙を舞い、落下音が響くとほぼ同時。男の体が両断され、全身が花びらとなって消えていった。

 

「ジーク!」

「くっ……」

 散った仲間を気に掛ける暇も無く、日本刀を構える男に次なる刃が迫る。一対一の近接戦闘では分が悪いと、翡翠と呼ばれた少女が武器を射撃用から近接用に切り替え加勢。

 だが、先程は近接二人に援護有りでも押されていたのだ、そんな状態で戦況をひっくり返せるはずもない。竹を切り倒し行動を制限、糸を飛ばし拘束と、様々な手を試みたがどれも容易く対処され、間もなく少女は袈裟懸けに仕留められた。

 

(今だ!)

 ジークがやられた時点で、戦線の崩壊は必須。ならば、出来ることはただ一つ。残った仲間を仕留めんと大きく踏み込んだ瞬間を狙い、もう一人がカウンターを叩き込む。

 相手のストックはまだ一つも削れていない以上、ここからの勝利は不可能。それでも、せめて一矢報いようと――

 

 

「……え」

 確実に当たったと思った刃。しかし、そこにいたはずの男の姿は既に無く、ただ虚空を切り裂くばかり。間の抜けた声を漏らす男の胸から花びらが迸り、ああ、自分は斬られたのだと認識するや否や全身がかき消えていった。

 

 

* * *

 

 

:相変わらずやべえなコイツ

:一対三でストック全部使い切らせてんのに、何で削りダメしか食らってないんだよ

:しかもそれも何発食らったんだ?って感じだし

:その上全然本気じゃないっていう

:これ見てると麻痺してくるけど、翡翠ちゃん達も『KASSEN』上位プレーヤーなんだよな……

:やっぱプロフェッサー格が違うわ

 

「……対戦感謝する。というわけで、講評に移るぞ」

 宙に浮かぶコメント欄から目を外し、黒い装束に身を包んだケモ耳の男が口を開いた。

 

「三人共、以前よりも更に連携は良くなっている。攻撃のキレも、仲間がやられた時の立て直し具合も全体的に向上しているし、成長していることは確かだ」

「ホントに? 三対一なのに全然まともにダメージ与えられてないんだけど」

「しかもそっちハンデ有りなのにこのザマだぞ?」

「そりゃな。俺がその程度でどうにかなるほど甘いはずないだろ」

「それはまあ……」

「で、主な改善点だが……やっぱり変則的な動きに対する反応が遅れてるのがどうしてもな。前よりはマシになってるがまだまだだ。それに、ダメージが蓄積するほど、焦りからか所々対処が甘くなっている。気持ちは分からんでもないが、もっと冷静さを保て。そこら辺どうにかした上で、基礎的な部分も引き続き鍛えていけばかなり伸びるはずだ」

「分かった。頑張るわ」

「あと、お前らももっと地形を活用した方が良い。言ったろ、お前らの戦い方はまとも過ぎる。相手は遥か格上なんだ、存分に搦め手を使っていけ」

「そうだな。色々考えてみるよ」

「ああ。それと――」

 

 そうしていくつかアドバイスをしたのち、挑戦者三人を見送り配信も終了した。時刻は午前二時。明日に響くし、そろそろログアウトして床に就いたほうが良いだろう。

 

「……まあ一限は数学だし、授業聞くまでも無いからそこで寝りゃ良いだけだけど」

 

 殺風景なマイルームの中で、ポツリと独り言が漏れる。窓の外を見渡すと、こんな時間だと言うのに町は色鮮やかに照らされ、遠くからは祭囃子が聞こえてくる。何も不思議なことは無い、ここは現実の日本では無いのだから。

 

 

 『ツクヨミ』。全世界の総ユーザー数1億人にものぼるとされる、日本で最も隆盛している仮想空間。

 この幻想的な世界では、現実の身分だのしがらみだのは関係無い。「ツクヨミではみんなが表現者」とのキャッチコピーで、ユーザー全員がクリエイターとして扱われており、食べ物やアクセサリーや武器を作って売ったり、映画館や宿泊施設を建てたりと、あらゆる創造的行為が推奨されている。

 

 そして、俺が先程までやっていたのは、ツクヨミ内でプレイすることが出来る『KASSEN』と呼ばれるもの。現在ゲーム業界を席巻している、戦国時代の合戦をモデルにしたフルダイブ型アクションゲームで、プレイヤー数は国内外合わせてぶっちぎりのナンバーワンを誇る。専門のプロプレイヤーも数多く存在しており、そいつらと配信内外問わず戦り合うことも多い。

 

 

(…………)

 手元でメニューを開き、『KASSEN』のランキングを表示させる。

 

 『KASSEN』にはいくつかのモードがある。タイマンの『SETSUNA』、3vs3で互いの陣地の天守閣を破壊すれば勝ちの戦略性溢れる『SENGOKU』、7vs7のバトルロイヤル『KASSEN』、それを更に超えた人数が入り乱れる混沌とした『RANSE』等、様々な需要を満たせるようになっている。

 

 そして、その中の2つ――『SETSUNA』『RANSE』のレート1位に、俺のプレイヤー名『影狼(かげろう)』の名が鎮座している。2位以下は競争が激しいが、1位は長らく俺の独占状態。また、ツクヨミの管理人であるAI『月見ヤチヨ』にも勝ち越している。このことから、俺は現ツクヨミ最強と呼ばれ、色々あって【プロフェッサー】なんていう大層な二つ名も付けられたりしている。

 

 

「……はぁ」

 ため息をつきつつメニュー画面を閉じ、ツクヨミの街並みを見渡す。この世界で最強、それは『KASSEN』のプレイヤーにとって、本来栄光に他ならない。だが、上り詰めた時も、こうして維持していることを幾度確認しても、俺の心は一向に晴れなかった。

 

 最初から分かってはいた。俺にとってこの道のりは、どれだけ歩んだとしても意味の無いものだということを。

 それでも昔は、それを承知の上で進み続ける以外に手は無かった。だが、今は――

 

(……終わりにするべきなんだろうか)

 配信でかなりの額のふじゅ~は稼げるし、生活のことを第一に考えるなら、辞めるなんていう選択肢はどこにも無い。無理に就職して()()のようにブラック企業に引っ掛かるよりはずっとマシなはずだ。

 

 それが分かっていながら、心はどうしても前向きにはなれなかった。

 

 

* * *

 

 

「では、ここわかりますか? 今日の日にちは……ああ、じゃあ酒寄さん」

「はい! ……ここでの――」

 今は六時限目の古文の時間。隣の席の酒寄が、名指しされ先生の質問にすらすら答えていく。クラスのあちこちから称賛の声があがるが……呼ばれた時の反応からして、多分意識飛ばしてたろ。

 寝てるようには見えなかったが、まさか目開けたまま気絶でもしてたのか? まあ体育後の古文の上、あいつの状況考えたらそうなる可能性も無くは無いけど。

 

 酒寄彩葉。

 品行方正、成績優秀、文武両道。絵に描いたような完璧女子高生と人は言う。

 だがその実、学費も生活費も自分で賄うために、日々学校とバイトを両立し、その上成績トップを維持するべく、寝る間も惜しんで勉強に励む苦学生であることを俺は知っている。

 

 何で知っているのかと言われたらまあ、アパートの部屋隣なんだもの。うちのアパートは家賃月三万八千円保証人無しの、お世辞にも上等とは言えない建物。こう言ってはなんだが、華の女子高生、ましてや酒寄のような奴が好んで住むような場所ではない。狭いし。

 だから、ある日偶然同じタイミングで家を出て顔を合わせた時は正直ビビったし、向こうも目が点になっていた。そりゃまあ、入学から半年以上顔も分からなかった隣人が、実は同級生でしたなんて思わんよな。俺は酒寄みたいに真面目じゃないから、登校はいつもギリギリの時間だったし、バイトもしてないから時間帯は合わないが、それでも良く半年以上も遭遇しなかったもんだ。

 

 ちなみに、詳しい事情は知らないが向こうは学校でのイメージを非常に気にしているらしく、「他の人には言わないでくれ」と凄い頼み込まれた。俺としては言い触らすことに何のメリットも無いし、正直どうでも良かったから快諾したんだが、学年の人気者との初会話がこれかと今でも覚えている。

 

(……それが今では、多少なりとも持ちつ持たれつの関係になるとはね)

 俺には前世の記憶がある。同じ日本ではあるが、今いるこことは全く違う、ツクヨミなんて存在しない世界。そこでの俺は、今の酒寄と同じように日々肉体を酷使する生活を送っていた。

 シングルマザーの家に生まれ、幼い内に母を亡くした後は親戚間をたらい回し。中学までは一応家に置かれていたが、高校からは家を出されあまり満足な支援も受けられずギリギリの一人暮らし。で、高校卒業後はその僅かな支援も打ち切られ、やっとの想いで入った会社はブラック企業、そして心も体もボロボロになった末に過労死と。この世界に転生してから十数年経ってるから多少冷静に客観視出来るが、今考えても悲惨の一言に尽きる。

 

 だから、日を追うごとに少しずつボロボロになっていく酒寄が、かつての俺と重なって見えてどうにも放っておけなかった。プライベートな部分に他人が土足で入っていくわけにはいかない、だが多少手助けする位なら良いだろうと、つい買い過ぎてしまったという体で食材を差し入れしたり、『KASSEN』周りで酒寄の推しのヤチヨグッズが手に入ったらあげたりしていた。酒寄も最初は拒否ってたが、何のかんのと理由を付け続けた結果、次第に普通に受け取ってくれるようになった。

 今では、俺の苦手な文系科目の勉強を教えてもらう代わりに、夕食のおすそ分けをする仲である。前世では理数系が得意だったから、今世はあんまり勉強しなくても点数取れる位だけど、文系は前世も今世もどうにもならん。『KASSEN』のための時間が無駄に削れるのは嫌なので、そこは正直ありがたかった。

 

 

 ただ、俺が出来るのは現状そこまで。俺が関わる範囲外の食事は相変わらず超貧乏飯だし、冷暖房使うの渋るしで、どうにかしたくはあるが、酒寄側から「これ以上は受け取れません」的な雰囲気をひしひしと感じるから踏み込めない。やり過ぎて距離が出来たら本末転倒だ。

 他人に借りを作り続けるのは確かに気分は良くないが、あんな状態でもまだ誰にも頼ろうとしないって言うのは、一体どういう理由があって――

 

「えー、では次の問題を……さっき酒寄さんだったから、隣の景浦(かげうら)君」

 やっべぇ、聞いてなかった。

 

 

 

 人の事を言えない状況に陥ったが、偶然少し前に酒寄に教えてもらった内容だったので、何とか事なきを得ることが出来た。次の差し入れ、気付かない程度に豪華にしてやるか。

 

(にしても……本当にどうしたもんかね)

 普段の様子を見るに、俺よりも付き合いの長い綾紬や諌山ですら、あの遠慮具合の改善は出来そうにない。ただの隣人に過ぎない俺なら尚更だろう。

 それでも――と思考を巡らせている内にチャイムが鳴り、一日の授業が終わりを告げた。だが、帰宅途中も、『KASSEN』をやっている間ですらも、その悩みが脳裏から離れなかった。

 

 

 

 どうすれば、酒寄の生活をもう少しまともなものに出来るのか。

 その鍵は唐突に、予想だにしない形で俺達の前に現れることとなった。

 

 




主人公の情報軽く

本名:景浦琥太郎
体格:身長170cmちょい、少々筋肉質
容姿:パーツは良いが目が死んでいるため、プラマイゼロで特にモテたりはしない程度

アバター名:影狼
アバターの見た目:黒髪に狼の耳と尻尾、上下忍び装束で装飾は無しのシンプルな姿
武器:最も使用率が高いのは刀だが、余程変な武器で無い限り何でも使えることもあり、相手によってコロコロ変えるのでそこまで大きな差は無い

備考:転生者で前世は20代で死んでいるため、合わせて40年程度は生きていることになるが、肉体に精神が引っ張られているため過度に大人びてはいない。中身おっさんが女子とワイワイやっているわけではないのでご安心を
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。