「――それじゃ、どういうことなのか説明してもらいましょうか」
「ちなみに拒否権は?」
「「無し」」
「……さいですか」
パンケーキ(今度はまともな)と紅茶、そして酒寄の親友である綾紬と諌山を前に、どうしてこうなったと天を仰ぐ。面倒事増やしやがってあの小娘。
放課後担任と進路指導に関する話を終え、手早く帰宅した俺を待っていたのは、無人の酒寄の部屋と少々散らばった服だった。ノックしても返事が無く何の音もせず、もしやと確認すれば鍵はかかっておらず、開けてみればそこには無人の空間。勝手に色々見るのは気が引けたが、緊急事態で不可抗力だと心の中で酒寄に謝罪し、押し入れ、トイレ、風呂、ベランダ、流しの引き出しと人一人隠れられそうなスペースを念のため確認したが、やはりどこにも姿は無かった。
(あのアホ、酒寄の服着てどっか行きやがったな。大人しくしてろっつったのに……)
現金なんて渡してないはずなので、そこまで遠くには行けないはず。だったら、交番に聞きに行った上で、そこらをひたすら探し回るしか無いだろう。そう考えながら部屋を飛び出し、酒寄に電話を――かけようとしたところで、綾紬のアイコンと着信マークが表示された。
(あいつから電話? 今までかけてきたこと無いのに)
応答ボタンを押したところ、向こうからの第一声は「かぐやちゃんのこと、説明してくれない?」だった。かぐや?とワケが分からず漏らしたところ、「とぼけても無駄だよ~」という諌山の声と共に説明がなされた。
曰く、彩葉ノートで赤点回避記念と称し、カフェでパンケーキを振る舞ったところ、そこに酒寄の服を着た少女が現れ、突然酒寄の分のパンケーキをつまみ食いしたらしい。人のもの勝手に取るなって言ったのに忘れたんかあの野郎。
そして、酒寄が少女のことを『築地から来た自分の従妹のかぐや』だと紹介したが、明らかに様子がおかしかったことと、少女が『この三日間彩葉とコタローと一緒にいた』という爆弾発言をかましやがったことで、こうして呼び出しを食らう羽目になったというわけである。マジで何してくれてんのあの大馬鹿は。わざわざ余計なこと言わなくて良いんだよ。
念のため酒寄にも確認を取ったところ事実のようで、『どこから来たのー?』という諌山の問いに対し『月から来たの!』とかいう更なる爆弾発言をしたのを誤魔化すために築地から来たという事にして、名前はとっさにかぐや姫から取ったらしい。怪しまれてこうして呼び出しが来なければパーフェクトだったが、流石にそれは酷というものだろう。
まあ不幸中の幸いというか、それ以外には特に外でヤバいことはしてないらしく、今のところ誰かに絡まれたりもしてないらしいので、そこはまだ良かった。もし知り合い以外の第三者にまで迷惑かけてたら本当に手に負えなくなってた。今はちゃんと酒寄が監視してるから、そこの心配はもう不要だろう。
(……さて、どうすっかな)
紅茶を啜りつつ、パンケーキを頬張る二人を見ながら考える。ちなみに、かぐやは酒寄の分のみならず綾紬の分も一部食ったらしく(これについては綾紬からあげたようなのでそこまで問題は無いが)、その分の補填として綾紬のと同じのを注文し、食われた分を食べてもらっている。本人は遠慮していたが、仮にも身内みたいなもんが迷惑をかけてしまったので、そこは押し通させてもらった。
俺が取れる選択肢は二つ。
一つは、洗いざらい真実を話すこと。高確率で頭がおかしくなったと思われるだろうが、こっちの方が以後何の負い目もなくいられるし、誤魔化しを重ねる必要も無くなる。
もう一つは、酒寄の言い分に沿いつつ、一緒にいた件については隣人の俺に偶然懐いたという理由でごり押しすること。俺の性格を知っている二人相手にこれが通じるかはかなり怪しいが、こっちの方が信用度はまだ高い。
「実はな――」
覚悟を決め、口を開いた。
「ホントに月から来たの……?」
「築地生まれじゃなかったんだ。じゃあお鮨屋さん知らないかー」
結局真実を話すことにした。この二人は酒寄の親友、あの頑固者が多少なりとも心を開いている存在だ。俺だけが嘘をつき続けるのは構わないが、酒寄を同じ状況にして無駄に負い目を増やすわけにはいかない。最悪ドン引かれたとしても、距離置かれるのは俺だけで、酒寄に関してはとうとう本当に限界が来たのかって心配してくれるだろうし。
「信じるのか? 俺かなり荒唐無稽な事言ってると思うんだけど」
「まあそれは思ったけどさ。あんたってそういう無茶苦茶な嘘つくような人間じゃないじゃん。付き合い短いけど、それくらいは分かるよ」
「そうそう。それに、誤魔化すことだって出来たはずなのに、ちゃんと教えてくれたでしょ? だから信じるよ」
「……そうか」
こいつらとは二年に上がってからの仲だ。最初こそ、俺自身の評判と態度の悪さで一悶着はあったが、酒寄が間に入ったことで少しずつ打ち解け、今は一応友人と呼べる程度の間柄にはなっている。そのおかげでどうにか信じてくれたらしい。
まあその代償として、男子達からの嫉妬の視線が物凄くなったのは唯一のマイナス点と言えるが。二人とも女子として相当レベルが高いのと、そこに学校一の人気者の酒寄が加わった三人と良く話してるっていうので、ただでさえ評判悪くて良くない視線向けられること多いのに、それがかなり増えてしまった。別に誰に何言われようがどうでも良いんだが、ジロジロ見られるのはシンプルに気分が悪い。
「それで、かぐやちゃんこれからどうするの? 帰り方分かんないんでしょ?」
「……正直まだ分からん。これからの状況次第だな」
二人には伏せたが、酒寄曰くどうやら酒寄の口座の金をほぼ全額勝手に使い込み、スマコンを始め色々と買い物をしやがったらしい。そのせいで、電話越しの声は憔悴しきっていた。もうやらかしとかいうレベルじゃないんですけど。
流石に見てられんということで、消費した分は全部俺が補填した。こんなに受け取れないと言われたが、デカくなったからといって全然常識も身に付いてない奴を、まあ一人で留守番くらい出来るだろと思って放置した俺の責任でもある。「じゃあその残高のままで生活するか?」と言ったら押し黙ったため、今回はこのまま受け取ってくれるだろう。
だが、そう何度もというわけにはいかない。金額の問題ではなく、迷惑の発生度合いの問題だ。なるべく放り出したくはないが、トラブルを起こし続けるなら置いてはおけないし、そこら辺は今夜きっちり話し合うとしよう。
「まあ、このまま一緒にいる可能性も高いし、そうなったらあいつらのことを気にかけてくれると助かる。かぐやはほっとくと何しでかすか分からんし、酒寄はただでさえ色々ギリギリだからな。それにかぐやは女――いや、正直宇宙人に性別があるのか正確には分からんけど、風貌からしても女だろうし、それだと男の俺じゃ対処出来ないことも出てくるから」
「おっけー」
「了解でーす」
「俺から話せるのはそれくらいだ。他、何か聞きたいことあるか?」
「んー、特に無いかな」
「私もー。てっきり彩葉と景浦君付き合い始めたのかもと思ったから、とことん追及してやろうと思ってたけど、そういうの無さそうだし」
「……俺とあいつが? 無い無い。誰がこんな枯れた奴とわざわざそんな仲になろうと思うんだよ。そんじゃな」
残りのパンケーキを口に放り込み、代金分のふじゅ~を綾紬に送信して店を後にする。さて、今頃あいつらはどうなってるかな。
「……あれどうにかなんないの? 何であれだけしょっちゅう彩葉から視線向けられてるのに、全然気付いてないのよ」
「まあ彩葉も彩葉であんま自覚無いみたいだし、当分は無理なんじゃない?」
「うーん……」
* * *
「――で、これはどういう状況?」
買い物しがてら帰宅後、空になった冷凍庫の補充を行っていると、部屋にかぐやが突入してきて、「コタロー、冷めちゃうから早く来て!」とぐいぐい引っ張られ現在。酒寄の部屋のちゃぶ台の上には沢山の料理が乗っていた。
「これは生のトウモロコシから作ったポタージュ。こっちは新ゴボウとアスパラのカリカリサラダ温玉付き。メインはトマト煮込みハンバーグ、ズッキーニのソテーをそ・え・て♪」
「かぐやが作ったの。……例のお金で購入した食材で」
「……まあ、その話は一旦後にしよう。確かに冷めたら勿体ない」
「ささ、二人とも食べて」
「「……いただきます」」
手を合わせ、まずはスプーンを手に取り、ポタージュを掬って口に運ぶ。
「……これは」
「何なのよ……旨いじゃないのよ……何なのよ、あんた……」
そう、かなり旨い。非常に濃厚で滑らかで、コーンの甘味が強いのにそれ一辺倒ではなく、味のバランスが取れておりいくらでも飲みたくなる。
他の料理にも手を付けていくが、どれもこれも初心者のはずのかぐやが作ったとはとても思えない出来だった。俺がいつも酒寄に提供している食事にだって引けを取らない。しかも、誰に教わるでもなく、恐らく料理番組や動画サイト等を見ただけでこのレベルのを作ったということだ。……俺なんかとは大違いだな。
「……悪魔」
「悪魔じゃないよ、かぐやだよ~♪」
滅茶苦茶複雑そうな表情を浮かべている酒寄と、対照的に笑顔を浮かべているかぐやを見ながら考える。この料理は紛れも無く俺達のために作ってくれたもの、つまりは金を使い込んだのも我がままで自分勝手というわけではなく、ただただ純粋に子供らしく道理が分かっていないというだけだったということだ。スマコンに関しても、大方
いや、まあ多分そうだろうとは思っていたが、それならいくらでもやりようはある。分かっていないなら教えれば良いだけなのだから。
「……かぐや。ちょっと真面目な話をするぞ」
「? うん」
「まあ、まずはごちそうさま。旨かった、作ってくれてありがとう」
「えへへ~、でしょ~?」
「ああ。だが、それはそれ、これはこれだ。……人の金っていうのはな、勝手に使っちゃいけないものなんだ。お前言ってたよな? やりたくなかったらやんない、やりたかったらやるって。お前が今回使ったのはな、酒寄がその『やりたくないこと』を、日々身を削ってまで毎日毎日やり続けてようやっと貯めたものだったんだ。それを使われるっていうのがどういうことなのか、酒寄の憔悴しきった様子を電話越しでもなく直接見たお前なら、少しは分かるんじゃないか?」
正直電話で知った時は『あいつマジでふざけんなよ』と思ったものだが、時間の経過、満腹、そして全部を知ったことで今はある程度気持ちは落ち着いている。その上で、出来る限り穏やかな口調で諭すように言うと、かぐやは目を見開いたのちしゅんとし始めた。自分が何をやってしまったのか、やっと真に理解したらしい。
「……うん。彩葉、すっごい顔してた」
「今回は俺がその分払ってやったが、それがなきゃ今でもそんな顔してたはずだ。いや、後々のことまで想像してもっと酷くなってたかもしれない。お前はこれからも、こいつにそんな顔をさせたいのか?」
「……ううん」
「ならもうやめろ。何かやりたいなら俺達に一言言ってからにしろ。余程のことじゃない限り、真っ向から反対なんてしねーよ」
「分かった……ごめんなさい」
「謝るなら、俺だけじゃなく酒寄にもだ」
「うん。彩葉、ごめんなさい」
「……良いよ。もうそこまで怒ってないから」
軽くため息を吐きつつ、俯くかぐやを抱き寄せ頭を撫でる酒寄。まあ、この様子なら多分もう大丈夫だろう。
「景浦、いつか半分は返すからね」
「だから良いって。そんなことよりお前自身のこと考えろよ。少なくとも、あのパンケーキもどき作ってる間は絶っっ対受け取らん。マジであれとっととやめろ、見るだけで心配になる」
「うっ……善処します」
「それやらねー奴の常套句だろ。ったく……」
そうして食事&説教タイムは終了。リラックス状態の俺達をよそに、復活したかぐやは現在楽しそうに酒寄のノートPCを弄っている。無数のコードが画面を縦横無尽に埋め尽くしており、素人目では何をやっているのかさっぱりだが……さっきあんなこと話した直後に危ないことはしないだろうし、夢中になってるのを邪魔するのも悪い気がしたのでそのままにしておいた。酒寄も何か懐かしそうな目をしてて止めようとしないし。
尚、酒寄がかぐやを復活させている間に、俺は皿や鍋をちゃっちゃか洗っていた。酒寄には遠慮されたが、ごちそうになった身だしそれくらいはするのが礼儀というもの。それに、放置していると汚れは落ちづらくなる、酒寄はかぐやにかかりきりだし、どのみち手の空いている俺がやるのが一番だった。
「……さっきはこれからも一緒にいるような体で話しちまったけどさ。実際問題あいつどうする?」
「んー……どう見ても面倒見てもらう気満々だよね。まあ結局帰り方全然分かんないみたいだし、あんまりトラブル起こさないんなら、しばらく一緒にいても良いかなー位の気持ちにはなってる。景浦は?」
「ちゃんと今回のことも反省してるみたいだし、俺としては出来れば追い出したくはない。……一人っきりっていうのは色々辛いからな」
かぐやには血縁上の家族もいなければ、戸籍も存在しない。赤ん坊状態で成長速度が緩やかになっていれば、身元不明の赤子としてどっかの優しくて理解のある人間の元で育つことも出来ただろうが、こうまでデカくなるとそれもほぼ不可能だろう。となれば、月に帰る方法が見つかるまで、ここにいる以外にまともに生活出来る道は無い。
「とは言え、俺の部屋でずっと生活っていうのもな……宇宙人とはいえ、一応あいつ女みたいだし、ちょっと抵抗が。俺の部屋じゃないと絶対無理っていうなら仕方ないけど、出来れば酒寄の部屋メインにしてほしい。どうだ?」
「景浦の協力があれば、って感じかな。私親に無理言って一人暮らししてるし、何かあったら速攻で実家に送還されちゃうし。出来る限り見守っててくれる?」
「お安い御用だ」
間もなく学校は夏休みに突入する。俺は夏期講習は受けないし、遠出の予定も一日除いて今のところ何も無いしで、ずっと家で『KASSEN』に明け暮れる予定だった。そのついでに見とく位何てこと無いし、何ならもうスマコンあるんだから、ツクヨミに放り込んで遊ばせておけば良い。夏休み明けたらどうなるかは、またその時に考えるとしよう。
「――出来たぁ!」
「……一応聞くが、何か変なことじゃないよな?」
「見て、『犬DOGE』! 携帯ゲーム見つけたから弄ってみた!」
かぐやが嬉しそうに見せてきたのは、レトロなたまご形の携帯ゲーム機だった。恐らくは酒寄の私物なのだろう。二人で画面を覗き込むと、柴犬のようなキャラクターが尻尾を振っていた。
「……こんなんいたっけ」
「てことは、プログラム弄ってオリジナルのキャラ生み出したってことか?」
「多分」
「これでいつも一緒だって~! ふっふぅ~♪」
「ご機嫌ですね……。てか、一生住む気かよ」
「だって、他にどこに行けばいいの? もし捕まっちゃったらかぐやちゃん解剖されちゃうかも~」
自らの体を抱え、「ひえ~」とか言いながらオーバーに震えてみせてやがる。何か見てると腹立ってくんなあの変顔。
「……じゃあ、お迎えが来るまでね。向こうも探してるでしょ」
「いいの!?」
「一、目立たない!」「うっ」
「二、許可なく外に出ない!」「あっ」
「三、私の邪魔しない!」「うぐっ」
「このルールが守れるならここにいていいよ」
「えぇ~……じゃあかぐやはどこにも行けず楽しみも無く、ずっとずっとこのままって……こと?」
「自分でハッピーエンドにするんでしょ、巻き込まないで」
「ぷっぷくぷ~」
明らかに納得していない様子のかぐやに対し、「嫌なら――」と酒寄が扉の方へ親指をビッと向けると、途端におねだり姿勢で縋りついた。見事なまでの掌返しだが、残念ながら今の酒寄には通じないようで、そっぽを向きながら口笛を吹いている。
「まあ待てかぐや。『許可なく』外に出ないであって、別にずっと出れないわけじゃない。絶対に大人しくするって約束出来るなら、一緒に何処か行くってこととかは出来る」
「あっ、そっか!」
「ま、酒寄は色々忙しいから、比率としては俺と出掛けることの方が多くなるかもしれんがな」
「全然良いよ! やった、楽しみだな~!」
「あと、俺からもルールを追加させてもらう」
「コタロー、上げて落とされるって辛いんだよ?」
「ぶほっ」
喜色満面から一転、表情が吹っ飛んだかぐやに、酒寄が耐え切れず噴き出した。あ、めっちゃプルプルしてる。
「安心しろ、これについては別にお前の行動を過剰に縛るものじゃない。ルール四は、最低限常識やマナーを学ぶこと。さっきの金の話だったり、昨日言った食べ物は綺麗に食べるとか、人の物を勝手に取らないっていうのもその一つ。……昨日言ったのに、今日カフェで酒寄のパンケーキ勝手に食いやがったろ。まああの時は食欲で頭がいっぱいだったのかもしれんが、次は無いからな」
「う……はい」
「そういうのを、俺や酒寄が随時教えてやる。だから、お前はそれを素直に聞いて学習していけ。そうじゃなきゃ、外に連れてくことも出来んぞ?」
「! 分かった、頑張る!」
「その意気だ。それと、さっき楽しみも無くって言ってたが――」
と、そこまで言ったところで、急にスマホのアラームの音が響き渡った。俺のじゃないし、酒寄のか。にしても、何故にこの時間?
「あー……この時間までに予習済ますつもりだったのに」
「なに? どこ行くの!? またかぐやを置いてくの!? こんな映えない部屋に……」
「映えなくて悪かったな。離して、どこにも行かないよ。ただツクヨミに行くだけだから」
「行くじゃん! かぐやも連れてって!」
「えぇー……」
立ち上がった酒寄の腰に、気配を察したかぐやが素早くしがみつく。当の酒寄は若干嫌そうな顔をしているが……これは良い機会なのでは?
「酒寄。良く分からんが、ツクヨミ行くんだろ? だったらちょうど良い、かぐやも連れてって、『楽しみ』を教えてやったらどうだ? スマコンもあるわけだし。この部屋の中で満足出来るなら、今日みたいなトラブル起きる可能性はほぼ無くなるぞ。まあ一人じゃなきゃダメなら、無理にとは言わんが」
「それもそうか……仕方ない、あんまり目立たないでよ?」
「やった!」
「あ、そうだ。それからルール五、食事は定額制!」
「また増えた!」
とりあえず解決はしたらしい。二人揃って行くとなると、これ以上ここにいても仕方ないし、戻るとしよう――と立ち上がったところで、むんずとズボンを掴まれた。
「待って、コタローもどこ行くの!?」
「普通に部屋に戻ろうかと。これ以上特に用も無いし」
「コタローはその、ツクヨミ? には行けないの?」
「行けるし、これから行くつもりだぞ」
「じゃあここにいてよ! 皆で一緒いよ?」
「……別にいても良いけど、目的地多分違うぞ?」
酒寄の様子からして、何かしら時間の決まった用事があるはずだ。現在『KASSEN』にそんなものは無いし、同じ部屋にいたところで、全然違う場所にいるなら大した意味は無い。俺はいつ『KASSEN』から戻るか分からないし、それなら今の内に戻った方が色々良いと思ったのだが……酒寄は顎に手を当て何やら考え込んでいる。
「ねぇ景浦、これから配信?」
「いや、今のところフリーだ。今日はいまいち時間が読めなかったからな」
「じゃあ、少し付き合ってくれない? これからヤチヨのミニライブ行くの。握手券付きチケットがようやっと当たってさ。同伴者二名までオッケーだから、一緒に来て?」
「俺も? 何で?」
「かぐや連れてくの発案者でしょ、責任取って。この子迷子になるかもしれないし」
「……まあ、そうだな。分かった、スマコン取ってくるからちょっと待ってろ」
今回は流石に琥太郎君結構おこでした。唯一特別に気にかけてる奴相手に特大のやらかししちゃったし、仕方ないね。
まあ琥太郎に関しては、こうして普通に怒れるようになったこと自体素晴らしいことではあるんだけども。