もっとペース上げられるよう頑張ります。せめて再上映までにヤチヨカップは終わらせたい……。
「それじゃ、行ってくるね。あとお願い」
「ああ、任された」
午前十時過ぎ、外出する酒寄を見送りドアを閉めた。終業式も終わり夏休みが始まったが、本日酒寄は予定表通り十一時から夜の八時までずっとバイトである(勿論合間に休憩はあるが)。これがまだマシな方と言える日がほぼ毎日続くのが、酒寄の今年の夏というわけだ。夏休みって何だっけ。
ということで、今日は一日中俺がかぐやの様子を見ることになっている。配信で使用する立ち絵及び背景の変更や、カメラの使い方や配信における基本的な注意事項等を叩き込むといった準備は、昨晩の内に既に完了。なので、今日から本格的にヤチヨカップ優勝目指して動いていくわけだが、とりあえず今日明日は夜中を除いて基本ずっと見守ることにした。俺は活動内容も活動開始の状況も今までの軌跡も、何から何までかぐやとは全然違うが、それでも初めの方は何かしら手助け出来ることはあるだろうからな。
「で、かぐや。まず何からやるとか、そういうのはもう決めてるのか?」
「うん! 一番最初はこれ!」
かぐやが見せてきたのは、少女がポップな音楽に合わせて踊っている動画だった。どうやらこのダンスが気に入ったようで、同じようにやってみたいとのことらしい。
まあ一本目のまともな動画のチョイスとしては、中々良い線行っているのではなかろうか。本来であればこういうのは、ネットに顔を晒すことについて色々考えなければならないが、こいつの場合初配信で事故って既に顔バレしてるから一切気にする必要は無い(良いのか悪いのかはこの際もう置いておく)。それに、まず見た目の良さを前面に出した動画で、美少女目当ての男共を大量に釣っておけば、その分色々な場所に評判は広まるし後々やりやすくもなるしな。
「それでね、ちょっと練習してみたんだけど、何かあんまり上手くいかなくて……」
「分かった。一旦見せてみろ」
そうしてちゃぶ台等をどかし、スペースを作って踊ってもらったのだが……全体的に若干ふらついてるというか、ぎこちないというか。表情にそこまで迷いが無いことから、振付自体は全部頭に入っているようだが、表面的に真似てるだけで、そもそもの体の使い方が上手く出来てないってところか。
分からなくなった時に勢いで乗り切るのは別に良い。だが、基礎をすっ飛ばしてるのを強引に誤魔化そうとしてるのはマズい。今回はギリ何とかなっても次回は分からんし、何よりかぐや自身のためにならん。
「オーケー。とりあえず、基礎練から始めよう。まずは体の重心を安定させることからだ。自分の重心がどこにあるのか、常に意識しながら、これから言う事をやってみろ」
つま先やかかとに体重を偏らせずに、常に足の裏全体でしっかり床を踏むようにすること。肩からは余計な力を抜いて、上半身の重さをまっすぐに下半身に乗せること。胸を張り、へその下辺りに力を込めること。下半身を安定させるためのコツを一つずつかぐやに教えていく。
「んじゃ、その状態でゆっくりのテンポで踊ってみろ。足から足へ体重が移動するのをしっかり意識しつつな」
「これっ……結構キツいんだけどっ……!」
「我慢しろ。これはあくまで基礎中の基礎、ダンス以前の単なる肉体の扱い方の領域だ。人気になりたいんだろ? だったら、この程度は普通にこなせるようにならないとな」
「うぬぬ……頑張る」
「まあやってる内に多少は慣れるさ。別にプロのダンサー目指すわけでも無いし、すぐに完璧にならなくても良い。ある程度出来るようになったら次のステップに進むぞ」
そうして少しずつテンポを上げつつ、指先まで意識を向けること、動きにハッキリとメリハリを付ける等のダンスとしての指導を、休憩を挟みながら手取り足取り行うこと約三時間。やはり飲み込みが早いらしく、ある程度粗はあるものの最初に見た時と比べるとかなり綺麗に踊れるようになっていた。
これ以上を目指すのも無くは無いが、十分見れるものにはなったわけだし、ここらで打ち切った方が良いだろう。今やってるのはあくまでヤチヨカップ優勝のため。登録者を増やすには投稿頻度だって大事になるし、下手にクオリティを求め続けてそっちがおざなりになってはいけない。それに、日々練習して少しずつ上達していく様を見せるのも、それはそれで初心者ライバーらしいと言える。
「ふぃー……」
「お疲れ。まあこれくらい出来るようになれば、そこそこ視聴回数も取れるんじゃないか?」
「ホント!? じゃあ休憩したら本番――の前に、一旦ご飯食べよ! お腹空いちゃった」
時刻は既に午後一時過ぎ。途中でエネルギー補給はしていたとはいえ、確かにそろそろまともに食べておいた方が良いだろう。俺も腹減って来たし。
ということで、湯を沸かしそうめんを茹でていく。キッチンの使用許可は酒寄から得ているため問題無し。かぐやにはきゅうりやトマト等を刻んでもらい、手早く盛り付け遅めの昼食を開始した。
「ま、さっき言ったことについては日頃から意識するようにしとけ。土台さえしっかりしてれば、お前なら何踊っても見栄えは良くなるだろうよ」
「うん、分かった! ……てかコタロー、今更だけどダンスとかやってたの?」
「いや全然。だが、武道やダンスの教師から、筋が良いとかで時折あれこれ言われんだよ。お前に教えたのはその受け売りも含んでる」
小さい頃から、相手を見ればどこにどう力が入っててどう動くのか分かったし、一度動きを見れば即真似ることも出来た。その影響で、武道では相手の予備動作を全部見切って練習でも負け無しだったし、ダンスも一発でマスターしてたから、教師から部活に勧誘されたり体の使い方を一方的に教えられたりしていた(勿論勧誘に関しては、評価が下がらない程度にあしらっていたが)。わざわざ調整して目立たないようにする方が面倒という理由から、目を付けられることを承知で好き勝手やっていたが、その経験がこんなところで活きてくるとはな。
「そこに色々付け足して発展させた。だからまあ、人よりは多少出来るって感じ」
「ふーん。じゃあさ、バックダンサーやってよ!」
「は?」
「歌枠も良いんだけど、その内ツクヨミで大きめのライブとかやりたいの。その時にコタローにも踊ってほしいな~って」
「却下。絶対やらん」
「えー、どうして? やってよー」
「……食い終わったら一回だけ踊ってやる。それ見りゃ分かるはずだ」
「? 分かった」
そうして昼食を済ませ、先程かぐやがやっていたものと同じダンス――は絵面的に色々キツイので、食休みがてらネットを漁り、良さそうなものを見繕ってもらい踊ってみせた。ポーズもリズムも体の使い方も、何もかもが動画内の男と同一。動きだけならまさに百点満点のはずで、かぐやも感心こそしていたが、同時に何処か釈然としない表情を浮かべていた。
「どうだ?」
「んー……いや、すっごいとは思ったんだけど、何か……」
「『見ててあんまり楽しくない』だろ?」
「あ、うん。そんな感じ……」
「俺がやってるのはあくまで動きだけのコピー、そこに感情なんて乗っかってない。どれだけ上手かろうと、人を動かす力なんて全然無い。これが理由だ。俺とお前じゃ、系統がそもそも合わないんだよ」
酒寄が作った曲に、かぐやの歌声が乗ったライブ、そんな中に無表情でただ正確に踊るだけのロボットみたいな奴が紛れでもしたら、台無しという他無いだろう。出来る範囲で協力するとは決めたが、こればかりは――
「
軽くため息をつきつつ目を閉じていると、不意に気配を感じ、その直後頬が押し上げられた。瞼を上げるとそこにはかぐやがいて、何故か俺の頬をむにむにといじっている。
「お顔ほぐしてるの。コタローもさ、もっと笑ったら良いんじゃない? いっつもムスっとしてて、笑ってるとこ一回も見たこと無いよ?」
「…………」
以前教師に似たようなことは言われた。笑顔を浮かべて踊れば、君のダンスはもっと素晴らしいものになると。
だが、生憎それは叶わない話だ。笑顔も、その源流となる『楽しい』や『面白い』といった感情も、とうの昔に俺の中から無くなってしまったものなのだから。
「残念だが無理だな。笑い方なんて忘れちまったし、この先思い出すことも無い」
「そっか……分かった」
「ああ。だから、バックダンサーの件は――」
「じゃあ何としてもコタローを笑わせてみせる!」
「人の話聞いてたか? 無理だっつったろ」
これで話は終わりかと思ったのもつかの間。ずいっと顔を近づけ、いつかのように笑顔で宣言をかましてきた。
「だって、皆笑顔じゃないとハッピーエンドじゃないじゃん。だから、コタローにも笑って欲しいの」
「その話かよ……あの時言ったろ、俺はお前らの補助しかしないって。お前はお前自身と酒寄のことだけ考えれば良い」
「やだ! 誰か置いてけぼりなんて、そんなのハッピーエンドじゃない!」
「知るか。
「絶対やだ!」
「お前なぁ……」
今は力になれても、俺はいずれ必ず邪魔になる。酒寄のためにも、俺なんかにいちいち構って欲しくは無い。だが何度言っても、かぐやは真剣な眼差しで首を横に振るばかりだった。
「あーもう……分かったよ。好きにしろ」
「うん、そうする! じゃあコタロー、動画撮る前にもっかいだけ確認しときたいから見てて!」
「はいはい」
一歩も引かない様子のかぐやに、この場でどうこうするのは無理だと判断し一旦引くことにした。まあ良い、どうせ俺達はずっと一緒にいるわけじゃないのだから。
たまたま条件に合致したのがこのアパートで、たまたま酒寄と隣同士になり、そしてたまたまかぐやがそこに転がり込んできた。こうして偶然俺達の道は混じり合い、こんな奇妙な関係が出来上がった。だが、あくまでそれは一時的なものに過ぎない。
酒寄は東大志望、俺は高卒か適当にそこらの私立と、今後の行き先は全然違う。かぐやは迎えがどうなるのかは知らないが、仮にずっと地球にいるとして、酒寄を引っ張ってもらわなきゃならないから、俺では無く酒寄のとこにいてもらうことになる。あいつは何かしら言うかもしれないが、異性の家に置くわけにはいかんだろうというのと、かぐやの料理が付いてくるとでも言っておけば納得はするはず。
そうして俺達の道は、再び別々のものとなるのだ。あとは少しずつ距離を空けていけば、俺のことなど放って二人だけで上手いことやってくれるだろう。
勿論何もせず二人の前から消えるつもりは無い。酒寄には良い感じのタイミングで、最低限必要な額を除いた分のふじゅ~を全額、かぐやの生活費という名目で押し付ける。今の段階だと絶対に受け取らないだろうが、学校も住処も離れまともに会うことも減った上で、向こうからふじゅ~を送れないよう設定を色々変えてしまえば、そもそも返しようが無くなるからな。それで金の問題は無くなるし、あとは卒業までにかぐやに色々学んでもらって、酒寄を支えられるようになってくれれば、俺はもうお役御免である。
本当なら早々に割り切ってほしいが、この様子だと恐らくこの先も考えを変えることは無い。だから、現実的な問題というどうしようもないものの力で、強引に諦めてもらうことにしよう。それが、二人にとって最善の道なのだから。
≪彩葉SIDE≫
「ただいまー」
「お帰り彩葉!」
注文が飛び交うアルバイト先から、今日も命からがら生還し家の扉を開けると、二人の姿と共に美味しそうな匂いが出迎えてくれた。発生源はちゃぶ台の上の料理――って、あれ?三人分?
私が帰る時間に合わせて用意してくれるとの連絡があったから、食事の支度がされているのは良いんだけど、今はもう夜の八時半を過ぎている。てっきり二人はとっくに済ませていて、私一人分だけが残ってると思っていた。
「二人とも、まだ食べてなかったの?」
「三人一緒に食べたいって、かぐやの奴がな。昼も若干遅かったし特に問題は無い。まあ、明日は流石にそうはいかんが」
「そうだね。今日より二時間は遅くなっちゃうし、そうして」
「ああ。とりあえず手洗ってきな。こっちももう終わる」
「うん、分かった」
野菜を刻んでいる景浦と会話を交わしながら、冷蔵庫にバイトの賄いを入れ洗面所へ向かう。手洗いうがいを済ませ戻ると、かぐやがとてとてと近付いてきて画面を見せて来た。
「見て彩葉! 今日挙げた動画、早速バズってるの!」
「へぇ……ホントだ」
画面に映っていたのは、今朝やると言っていた音楽に合わせて踊っている動画だった。確かにかぐやの言う通り、視聴回数も評価もコメントも、初心者ライバーのニ本目とは思えない量だ。まあ何だかんだで注目浴びていたのもあるだろうが、それでも動画としてのクオリティが低かったらこうはならない。
「朝見た時は結構ぎこちなかったように見えたけど、それなりに上手に踊れてるじゃん」
「コタローが色々教えてくれたの。かぐやちゃん、これからもどんどん上手くなりますよ~!」
ああ、そういえば景浦ダンス上手いんだっけ。普段体育は男女別だからあんまり見たこと無いけど、体育祭の時とか結構キレキレだった気がする。表情が死んでるから、女子達の注目は他の男子に行ってたけど。
「それとね、こっちの動画も――」
「そこら辺の話は後な。これ以上は冷めるし先に食べよう」
「「はーい」」
野菜を盛りつけた景浦の言葉に従い、食卓に着き三人でいただきますをする。今日のメニューは、ついさっき動画撮影がてら作ったらしいガパオライスとその他諸々。うん、見た目や匂いから既に確信していたが、やっぱり凄く美味しい。ひき肉の旨味ににんにくの香り、ピリ辛の味付けが疲れ切った体に再び活力を呼び戻してくれている気がする。
つい二口目、三口目と次々に口に運んでしまったが、危ない危ない。せっかく作ってくれたのだから、食べ進めるより先に感想を言うべきだ。そう思って、口の中の物を飲み込もうと――
「コタローコタロー」
「ん?」
「はい、あーん♪」
「ゴフッ!?」
「ちょっと彩葉、大丈夫!?」
したところで、目の前の光景に盛大にむせてしまった。何とか吹き出すことは防ぎ、狼狽えるかぐやに身振り手振りで無事をアピールした上で、落ち着いて飲み込み水も飲んで一息ついた。
……いやちょっと待って。今のは何?
見間違いじゃなければ、恋人同士がやるような例のアレに見えたんだけど。疲れ過ぎて一瞬幻覚でも見えたのか?そんなこと今までやってなかったよね?
「えっと……かぐや。確認なんだけど、今景浦に何やろうとしてた?」
「え? はい、あーんってやつ。これやると男の人は喜ぶってネットに書いてあったから!」
「……景浦、アンタ今日かぐやと何してたの?」
「おい、その訝し気な目を止めろ。何も変なことやってねえから。あとかぐやもそれ止めてくれ」
「えー、好きにしていいって言ったじゃん」
「景浦?」
「何でもしていいとは言ってねぇ……。あー、順番に説明すっとだな――」
それから二人は、昼間の様子をざっと教えてくれた。ダンスの練習から始まり、バックダンサーの件、笑顔の話にハッピーエンドと、議題は次々切り替わっていったが、全体を通して聞けば納得の流れだし、確かに変なことはしていなかったらしい。けど、笑顔にする方法で真っ先に選んだのが、よりによってアレかぁ……。
「かぐや、とりあえず調べた内容については一旦忘れなさい。アレは色々デリケートなものなの。やるなら他のにして」
「むぅ。じゃあ、彩葉も何か考えてよ。彩葉だって、コタロームスっとしてるよりも笑ってた方が良いでしょ?」
「…………」
「酒寄、別に聞かなくて良いからな。一人でやらせときゃ良い。……ごちそうさま。かぐや、俺が皿洗うからお前が流してくれ」
「分かったー」
席を立ち、共に後片付けを行う二人。その背中を見ながら、さっきの話を頭の中で思い返していた。
景浦の笑顔、か。
彼と知り合ってから半年と少し。本人も言う通り、その間一度も笑った姿は見ていない。仏頂面、無表情、呆れ顔。それが彼の全て――いや、全て
一週間前……まあ色々あり過ぎてもう大分前にも思えるけど、赤ん坊のかぐやにミルクをあげていた時、彼は確かにいつもと違う穏やかな顔をしていた。かぐやが急成長したもんだから、一瞬で過ぎてしまったけれど、あれを見られるなら、かぐやの世話がどんなに大変なものでも悪くないとすら思えた。
笑い方など忘れたとさっき言っていた。でも、あんな顔が自然に出来るのなら、いずれ笑うことだって不可能とは言い切れないんじゃないか。
(……見てみたいな)
ふいにそんな想いが湧き上がってきた。ぶっきらぼうに、時に呆れながら、それでもいつも手を貸してくれた。どんなに不調を隠そうとしても、すぐに見抜いて気にかけてくれた。
今までずっと貰ってばっかりで、大したものは何も返せてない。その恩返しとして、何かしらで喜んでほしいというのもあるが、何故だかただ純粋に、彼の笑った姿を見たくもなった。
何をしたら喜んでくれるんだろう。やっぱりあそこまでやり込んでるんだし、『KASSEN』関連なのかな。でも配信だと淡々としてるから良く分からないし、そもそもこれまで沢山の人達と戦ってきてるんだから、『KASSEN』に何かヒントがあったらとっくに解決してるか。
でもそれ以外って言っても、何か他に好きなものがあるとか、そういった話は聞いたことが無い。平日は学校終わって帰ったらずっと『KASSEN』、休日はずっと引きこもって『KASSEN』、合間に健康のためにランニングとか筋トレをする。それが基本的なサイクルだと以前言っていた。改めて考えると中々な生活してるな。
音楽もなぁ……。昨日は私に曲作りやってほしいって言ってたけど、だからってそれでいけるとは正直考えづらい。だって、こないだヤチヨのライブ特等席で見たはずなのに、それでも笑顔にはならなかったってことだもの。それなのに、私の曲なんかで滅茶苦茶に心を動かせるとは思えない。
じゃあ何か美味しいもの――いや、景浦料理上手だし、自分で作れば済む話か。
……まさか、かぐやがやろうとしてたような『男の人が喜ぶ行為』ってあながち間違いとは言えないのか?
いや違う、一旦冷静になれ。流石にそれだけは無い。っていうかあったとしても無理。
駄目だ、全然思いつかない。でも諦めたくもない。かぐやもああ言ってるんだし、二人でもっと考えてみようか。
(何だろう、この気持ち……)
笑顔を見せてほしい。笑顔にさせてあげたい。何より、それを私に向けてほしい。
あまり慣れない、でもずっと胸の中にあったような、そんな想いで心が一杯になっていく。
「んじゃ、配信もあるし、俺そろそろ戻るわ」
「分かった! また明日~」
「ああ。酒寄も」
「……うん、またね」
扉の外へ消えていく姿を見送る。最後の瞬間まで、彼は相変わらずの無表情だった。
どうすればあれを崩せるんだろう。勉強中もずっと、その考えが頭から離れなかった。