――止められるか?
リオは、フェーレンの言葉に絶句する。
「む、無理!!」
フェーレンはフッと微笑する。
「正直で結構」
「とりあえず一つだけ言っておく」
「疑って、悪かったな」
次の瞬間。
白いF91が加速した。
まるで閃光。
一直線にX-6へ突撃する。
白いF91が、戦場を切り裂く。
速い。
リオの目では追いきれない。
残像だけがデブリ帯を走る。
ハロプトが静かに答える。
『機体性能だけではない』
『操縦技術で限界を超えている』
F91は接近してきた木星残党機を二機撃破。
ビームが閃くたびに爆発が起こる。
だが。
X-6だけは違った。
異形の右腕が、F91の動きに食らいつく。
フェーレンが舌打ちする。
「ちっ……!」
巨大な指が開く。
X-6が異形の掌からメガ粒子砲を放つ。
デブリごと消し飛ばす火力。
F91が紙一重で回避。
しかし。
避けた先へX-6本体が回り込む。
ビーム・ザンバー。
F91が腕のビーム・シールドを展開して受け流す。
火花。
その瞬間、F91は機体をひねり、回し蹴りでX-6を後方へ蹴り飛ばす。
しかし、ダメージはほとんど見られない。
その動きを横目で見ていたリオ。
「普通についていけてる、アイツに……」
リオはすぐに正面へ視線を戻す。
X-5がサルコファゴとバタラの射撃をかわした。
F91が距離を取る。
「ふう、なんて奴だ……決定打を与えるにはこれしかないか」
直後。
F91の背部ユニットが展開。
F91の主力火器。
Variable Speed Beam Rifle。
可変速ビーム・ライフル――V.S.B.R。
白い機体が狙いを定める。
「避けるなよ、黒いの」
発射。
閃光。
ビーム・シールドですら防げない、高出力ビーム。
だが、X-6の異形の右手が前へ出た。
巨大な掌。
その中心が開く。
ギィィィィィ――。
空間が歪む。
リオも思わず目を向ける。
ハロプトが即座に反応。
『あれは――』
ビームが、止まった。
あり得ない。
ヴェスバーの閃光が、異形の掌の前で拡散していく。
まるで飲み込まれている。
フェーレンが目を見開く。
「……マジかい」
ハロプトが低く解析する。
『ダブル・Iフィールド』
リオが叫ぶ。
「なんだそれ!?」
『木星帝国系理論兵装』
『Iフィールドを多層展開し、高出力ビームを偏向・分散させる』
「そんな――っ、!」
その時。
ペズ・バタラがこちらへ突っ込んでくる。
『厄介だな』
ハロプトはそう呟きながら攻撃を回避する。
ヴェスバーですら貫けない。
白いF91が後退する。
フェーレンが苦笑した。
「ちっ、勘弁してくれよ」
「ヴェスバーを止めてくれるかよ……!」
X-6の赤いツインアイが、不安定に明滅する。
「……ヤ……メ……」
「……コ……ロ……シテ……」
ノイズ混じり。
複数の人格が重なった悲鳴が聞こえてくる。
リオは顔をしかめる。
ガルドが笑う。
「素晴らしいだろう!!」
「お前たちではどうにもならぬよ!!」
ガルドは動かず、歓喜するように笑い、吠える。
「貴様ら力なき連邦のダニどもでは、到達できぬ力の象徴だ!ははは!」
リオは反論しかける。
だがやめた。
今はそれどころじゃない。
棒立ちで喋っていてくれるなら、
むしろ好都合だった。
そして、F91が再び構える。
だが今度は慎重だった。
「あのF91でも、決めきれない……!!」
ハロプトが静かに答える。
『ああ』
『わかっている』
その瞬間。
X-6が一気に加速した。
掌内部から、メガ粒子砲を発射しながらF91へ一直線。
F91が回避する。
X-6が異形の右腕を振り回す。
巨大な指がF91を掴もうと迫る。
だが、白い機体は紙一重で回避を続ける。
ハロプトが話す。
『リオ、突撃しろ』
「えっ」
『X-6の意識がF91に集中している』
『ガルドも浮かれている』
『チャンスだ』
一瞬。
リオの視線が腰部ラックに向いた。
そこには、ジャンク置き場から拾ってきた鉄球があった。
考えてる時間はない。
偶然とはいえ、F91が作った隙。
ガルドは勝ち誇ったまま動かない。
残存する木星戦力も、連邦軍との交戦に拘束されている。
今しかない。
『ヒートソードで接近戦を仕掛けろ』
「……いや」
チェーンハンマーを固定ラックから引き抜く。
『待て。それを使う気か』
「加速しながらの攻撃、そんで」
「アイツでも読みきれない武器というなら」
「これしか、ない!!」
リオは操縦桿を前へ叩き込む。
「うおぉぉぉぉ!!」
X-5がフル加速。
ボロボロのスラスターが悲鳴を上げる。
警報。
《機体フレーム負荷警告》
《スラスター限界出力》
巨大鉄球の鎖が宇宙で唸る。
その瞬間。
猛烈なG。
「ぐっ……!!」
視界が歪む。
肺が潰れそうになる。
「くっそ……!!」
「Gがすごすぎる……!!」
X-5の機動性能は、ピーキーすぎる。
まともな訓練もないリオには地獄だった。
それでも、止まれない。
X-6がF91へ意識を向けている。
今しかない。
リオは歯を食いしばる。
「俺はわからない!!」
『何をだ』
「振ったって当たるかわかんねぇ!!」
チェーンハンマーが暴れる。
重い。
軌道も読めない。
宇宙空間でこんな武器、普通は使わない。
だから。
リオは叫んだ。
「だからそこはお前に任す!!」
「へたくそな俺を助けて生存させろ!!」
「それがお前の仕事だろ、ハロプト!!」
無茶苦茶だった。
丸投げだった。
普通のAIなら拒否してもおかしくない。
だが。
ハロプトは数秒沈黙した後。
小さくため息をつくように言った。
『……呆れる』
リオが叫ぶ。
「悪かったな!!」
『だが』
ハロプトの声が静かに変わる。
『それは正しい』
リオが目を見開く。
『お前は未熟だ』
『戦闘経験も足りない』
『だから』
『足りない部分は私が補う』
チェーンハンマー軌道予測。
X-6移動ベクトル。
デブリ流動。
戦術演算開始。
リオが笑う。
「任せた、相棒!!」
数秒沈黙。
そして。
『……了承した』
X-5がさらに加速する。
周囲の細かな破片が、噴射に弾き飛ばされた。
X-5の急加速に気づいた木星MSが振り向く。
「ガンダムめ、何かする気――ぬおっ!?」
だが。
ヘビーガン隊が前へ出る。
「隊長のためにガンダムが動くのならば!」
「邪魔はさせん!!」
ビームが交差する。
木星残党機が足を止める。
ヘビーガン隊が進路を塞いでいた。
そして、チェーンハンマーが回転を始める。
ギャリギャリギャリ!!
悦に浸っていたガルドが、そこでようやく気付いた。
「何!?」
リオが叫ぶ。
「当たれ、当たってくれよ!!」
「ジャンク屋!?」
フェーレンが驚く。
X-6が振り向く。
異形の右手はすぐに迎撃態勢へ入る。
だが。遅い。
ハロプトが静かに告げる。
『打撃軌道補正』
『慣性計算完了』
『――今だ』
「くぅ・ら・えぇぇ!!」
リオは全力でチェーンハンマーを振り出した。
鉄球が、鎖を伸ばしながらX-6へ走る。
回転。
回転。
回転。
常識では読めない軌道。
古めかしい、ただの質量兵器。
素人による無謀な一撃。
だが。
その全てをハロプトが補正していた。
『命中予測完了』
ハロプトが機体姿勢をわずかに補正する。
X-6が反応する。
異形の右手が前へ出る。
迎撃――だが、遅い。
ダブル・Iフィールドは、高出力ビームへの対抗兵装。
質量を持つ鉄球は止められない。
異形の掌が進路を塞ぎきるより早く。
巨大な鉄球がX-6の頭部へ叩き込まれる。
ガゴォォォン!!
キィィィィィッ!!
鉄球は止まらない。
回転しながら、X-6の頭部装甲を削り進む。
装甲が砕ける。
火花が散る。
赤いツインアイの片目が弾け飛んだ。