赤いツインアイの片目が弾け飛ぶ。
それでも鉄球は止まらない。
さらに頭部を抉り、黒い頭部装甲を大きく粉砕した。
X-6が初めて大きくのけぞる。
「当たっ、た……!?」
リオが叫ぶ。
頭部装甲を削り切ったところで、古い鉄球も限界を迎え、粉々に崩壊した。
X-6の頭部は、完全に破壊されていた。
だが。
次の瞬間。
ガルドの絶叫が戦場へ響いた。
「クロスボーン・ガンダムが……馬鹿な……」
「ば、馬鹿なぁぁぁぁぁ!!」
「ぁぁぁぁ!!!」
そのまま突撃してくるサルコファゴ。
棺桶ユニットを鎖ごと振り回す。
巨大質量兵器。
まともに食らえば終わる。
『まずい、回避運動が間に合わない』
リオが顔を青ざめさせる。
「やべ――」
その瞬間。
白い閃光が眼前を走った。
「熱くなりすぎだ、じいさん」
F91がビーム・サーベルを抜き、一閃。
緑色の光刃が、棺桶ユニットを繋ぐ巨大鎖を断ち切った。
ガルドが目を見開いた。
「なっ――」
棺桶が宇宙へ流れていく。
サルコファゴの姿勢が大きく崩れた。
「犬がぁぁ!!」
サルコファゴはビーム・サーベルを取り出し斬りかかる。
F91も応戦し、ビーム・サーベルで切り結ぶ。
「犬で結構、お前らみたいなのを止められるならな」
「のぼせたセリフをぉ!!」
サーベルを弾き合い、二機が距離を取る。
だが、その時。
頭部を破壊され、宇宙に身を任せるように流れていたX-6。
その全身から、火花が散った。
ギギギギギ……
不気味な駆動音。
そして。
「……ヤ……め……」
「……た……ス……け……」
「……コロ……し……て……」
老若男女、無数の声が重なって聞こえる。
リオは思わず片目を閉じ、顔をしかめる。
「声が、する……」
「なんなんだよ、あれ……!!」
ハロプトは即答しない。
数秒。
沈黙した後。
『制御が不安定化している』
『頭部破壊により人格制御系へ影響が出た可能性が高い』
X-6の全身から赤黒い光が漏れる。
異常な熱量。
異常な出力。
フェーレンもX-6の再動に気づく。
「まだアイツ動くか……!!」
だが、ガルドだけは歓喜の声を上げた。
「はははっ!! そうだ、貴様らは木星の未来だ!!」
「壊れてはならないのだ!!」
「クロスボーン・ガンダムであるのならば!!」
その瞬間だった。
X-6が動く。
ゆっくりと、ぎこちなく。
異形の右手が伸びる。
まるで壊れた人形のように。
――次の瞬間。
X-6が再び高速機動へ移る。
向かった先は――サルコファゴ。
ガルドが凍りつく。
「……なに?」
巨大な手が、ガルドへ向いている。
驚くリオ。
「なんで……!?」
ハロプトが静かに告げた。
『詳しくはわからない、しかし』
『X-6内部人格群が命令系統へ反発している可能性が高い』
異形の手がサルコファゴを掴む。
ガルドの悲鳴が響いた。
「やめろ!!」
「私はお前たちの創造主だぞ!!」
異形の右手がサルコファゴを握り締める。
ギギギギギ……!!
装甲が軋む。
ガルドが怒鳴る。
「やめろ!! 命令だ!!」
X-6は止まらない。
頭部を失った機体から火花が噴き出す。
それでも、内部から声が響く。
「……イや……だ……」
「……もウ……いやだ……」
「……くルシい……」
悲鳴。
泣き声。
怒号。
無数の人格が叫んでいた。
リオは息を呑む。
「……あいつ」
フェーレンが低く呟く。
「限界だな」
ガルドは必死だった。
「貴様らは木星の未来だ!!」
「死者は木星へ奉仕する義務が――」
その瞬間。
異形の右手がさらに握り込む。
バキィ!!
サルコファゴの左腕が砕けた。
ガルドが絶叫する。
「ぐあぁぁぁぁ!?」
リオが顔をしかめる。
ハロプトは静かだった。
『X-6内部人格群がガルドを敵と認識した』
『当然の結果だ』
赤黒い光はさらに強まり、機体各部から火花が噴き上がる。
「裏切るかぁ、X-6!!」
木星残党のバタラやペズ・バタラがビーム射撃を行う。
ビーム射撃に反応し、X-6は半壊したサルコファゴを放り捨てる。
X-6は、今度は木星残党へ突撃する。
かと思えば、デブリ帯の残骸へ向かって加速。
残骸を握り、砕く。
さらに木星残党へ突撃し、異形の右腕でバタラ一機の頭部を破壊する。
もはや敵も味方も、機体も残骸も関係ない。
目に入るもの全てを壊そうと、ただ暴れているだけだった。
連邦機も木星機も距離を取る。
連邦兵の慌てる声が聞こえる。
「見境などないではないか……」
ハロプトが解析を続ける。
『ほぼ確実に、人格制御は崩壊している』
『このままでは、周囲への被害が拡大し続ける』
リオが唾を飲む。
「じゃあ放っとけば……」
『止まるまで全てを破壊しようとする』
即答だった。
リオが絶句する。
フェーレンから通信が入る。
「だから落とす」
短い言葉だった。
白いF91がX-6を見据える。
「今なら、破壊できる」
リオが顔を引きつらせる。
「今、頭吹っ飛んでも動いてるんですよ……!?」
フェーレンは冷静だった。
「逆だ、今だから破壊できる」
「今は反射的に暴れているだけだ」
ハロプトも同意する。
『正しい判断だ』
リオが叫ぶ。
「お前まで!?」
その時。
X-6が咆哮するように全身のスラスターを噴射した。
周囲のデブリが吹き飛ぶ。
X-6は異形の右腕を振り回し、目についた残骸を次々と砕いていく。
赤黒い光がさらに強まる。
ハロプトが即座に分析する。
『異形腕部の肘関節に深刻な損傷を確認』
『無理な動かし方をしている暴走による影響だろう』
『現在なら破壊できる可能性がある』
リオが叫ぶ。
「どうするんだよ!?」
『チェーンを使え』
リオが腰部を見る。
チェーンハンマー。
鉄球は失われていた。
だが。
鎖だけは残っている。
『肘関節へ絡ませる』
『動きを止めたタイミングで切り落とす』
リオが絶句する。
「無茶言うなよ!! そんな器用な真似――」
フェーレンが言った。
「切り落とすのは俺がやろう」
「隙も俺が作ってやる、お前は動きを止める、それをやってくれ」
リオは数秒黙った。
苦しむ声が、まだ耳に残っている。
深く息を吐く。
「……わかりました」
「ふっ、頼んだ」
その言葉を聞いて、フェーレンはX-6のほうへ向かう。
「……って言っても、俺じゃなくてお前にまた頼ることになるけどな」
『そうだろうな』
「……もう一回、頼んだぜ」
少しの沈黙。
『了解した』
今度は即答だった。
X-5が再び前へ出る。
傷だらけのクロスボーン・ガンダム。
継ぎ接ぎの装甲。
ゲルググの右腕。
鉄球を失ったチェーンハンマー。
誰が見てもガラクタだった。
それでも。
苦しみ続ける怪物を止めるため。
ジャンク屋のガンダムは、もう一度加速する。
―――――――――――――
警報が鳴りっぱなしだった。
《スラスター限界》
《フレーム損傷》
《エネルギー残量低下》
それでも、止まれない。
リオは歯を食いしばる。
「頼むぞ……!」
ハロプトが即座に応答する。
『機体制御補佐開始』
『慣性補正』
『軌道予測』
X-6は完全に暴走していた。
頭部を失ったまま、赤黒い光を撒き散らす。
異形の右腕が周囲を無差別に破壊していく。
ガルドが叫ぶ。
「止まれぇぇぇ!!」
「貴様は、木星の力となる存在だというのだぞ!!」
ガルドの叫びは届かず、暴れ続ける。
フェーレンが低く呟く。
「完全に制御を失ったか」
白いF91が前へ出る。
背部ヴェスバー展開。
「……頼んだぜ、ジャンク屋よ」
その動作を見て、ハロプトが呟く。
『準備だ、やるぞリオ』
「……ああっ!!」
次の瞬間。
ヴェスバー発射。
高出力ビームがX-6へ向かう。
頭部を失い、まともに周囲を認識できないはずのX-6。
それでも、異形の右腕がヴェスバーへ反応する。
X-6は反射的に巨大な右手を掲げる。
ダブル・Iフィールド展開。
だが、フェーレンは最初から貫くつもりではなかった。
ビームが周囲のデブリを蒸発させる。
閃光と衝撃がX-6を包む。
防御姿勢を取った異形の右腕が、一瞬だけ止まった。
閃光がX-6の残存センサーを塗り潰す。
『今だ!!』
ハロプトが叫ぶ。
X-5が突っ込む。
リオが絶叫する。
「うおぉぉぉぉ!!」
一瞬遅れて、異形の右手がX-5へ振り向く。
『投擲軌道補正』
『肘関節を狙え』
リオが残った鎖を振り抜く。
ジャラァッ!!
鎖が異形の右腕へ巻き付き、肘関節を締め上げた。
「巻きついた!!」
だが次の瞬間。
猛烈な衝撃。
X-6が暴れる。
「うわぁぁぁぁ!!」
X-5ごと振り回される。
視界が回転する。
Gが全身を押し潰す。
吐きそうになる。
『離すな!!』
異形の右手が暴れる。
だが、肘関節が悲鳴をあげるように火花を散らす。
亀裂。
装甲が裂ける。
そこへ、白いF91が飛び込んだ。
一閃。
シュバァァァッ!!
異形の右腕が、肘から切断される。
巨大な腕が宇宙へ吹き飛んだ。
その瞬間だった。
X-6全身から赤黒い光が噴き出す。
「――――――」
悲鳴。
泣き声。
怒号。
笑い声。
男。
女。
老人。
子供。
あらゆる声が混ざり合う。
リオは思わず耳を塞いだ。
「うあぁっ……!!」
ハロプトが静かに言う。
『内部反応が変化』
『人格制御系の完全崩壊を確認』
『機体維持機能も停止しつつある』
『機体各部で異常を確認』
『隔壁維持不能』
頭部を失った黒い機体が揺れる。
姿勢制御を失い、
ゆっくりと回転を始める。
だが完全には停止しない。
全身が痙攣するように震えていた。
X-6の装甲の隙間から赤黒い光が漏れる。
火花。
爆発。
各部装甲が内側から軋み始める。
『内部圧力上昇』
ハロプトが告げる。
『機体崩壊の危険性が高い』
次の瞬間。
バンッ!!
胸部装甲が内側から弾け飛んだ。
中に、ヒトガタの何かがいた。
その身体には、無数のケーブルが繋がれていた。
リオが凍る。
「……人、なのか……?」
数秒。
ガルドは黙ってその光景を見つめていた。
そして静かに口を開く。
「……秘匿されし英雄が白日の下に現れてしまった、か」
「そして、崩壊は確実という。残念、残念だ……」
「ああ、残念だぁぁぁ!!!!」
サルコファゴが、ビームライフルでX-6へ攻撃を仕掛け始めた。
「な……!?」
「何を黙っている!」
「撃て!」
「我らの手で終わらせるのだ!!」
「この手で、処分してやらねばならないのだ!!」
ガルドは、涙を流していた。
「X-6よ、おお!!さらばだ、さらばだ、我らが英雄!!」
「ジーク・ジュピター!!」
木星残党機が一斉に砲口を向ける。
「「「ジーク・ジュピター!!!」」」
フェーレンが目を見開く。
リオも凍りつく。
さっきまで、木星の未来だ、希望だ。
そう叫んでいた男が、今。
自らの理想を撃ち殺そうとしていた。