クロスボーン・ガンダムX-5   作:バード鳥鳥

11 / 12
第1章⑪ 暴走

赤いツインアイの片目が弾け飛ぶ。

 

それでも鉄球は止まらない。

 

さらに頭部を抉り、黒い頭部装甲を大きく粉砕した。

 

X-6が初めて大きくのけぞる。

 

「当たっ、た……!?」

 

リオが叫ぶ。

 

頭部装甲を削り切ったところで、古い鉄球も限界を迎え、粉々に崩壊した。

 

X-6の頭部は、完全に破壊されていた。

 

だが。

 

次の瞬間。

 

ガルドの絶叫が戦場へ響いた。

 

「クロスボーン・ガンダムが……馬鹿な……」

 

「ば、馬鹿なぁぁぁぁぁ!!」

 

「ぁぁぁぁ!!!」

 

そのまま突撃してくるサルコファゴ。

 

棺桶ユニットを鎖ごと振り回す。

 

巨大質量兵器。

 

まともに食らえば終わる。

 

『まずい、回避運動が間に合わない』

 

リオが顔を青ざめさせる。

 

「やべ――」

 

その瞬間。

 

白い閃光が眼前を走った。

 

「熱くなりすぎだ、じいさん」

 

F91がビーム・サーベルを抜き、一閃。

 

緑色の光刃が、棺桶ユニットを繋ぐ巨大鎖を断ち切った。

 

ガルドが目を見開いた。

 

「なっ――」

 

棺桶が宇宙へ流れていく。

 

サルコファゴの姿勢が大きく崩れた。

 

「犬がぁぁ!!」

 

サルコファゴはビーム・サーベルを取り出し斬りかかる。

 

F91も応戦し、ビーム・サーベルで切り結ぶ。

 

「犬で結構、お前らみたいなのを止められるならな」

 

「のぼせたセリフをぉ!!」

 

サーベルを弾き合い、二機が距離を取る。

 

だが、その時。

 

頭部を破壊され、宇宙に身を任せるように流れていたX-6。

 

その全身から、火花が散った。

 

ギギギギギ……

 

不気味な駆動音。

 

そして。

 

「……ヤ……め……」

 

「……た……ス……け……」

 

「……コロ……し……て……」

 

老若男女、無数の声が重なって聞こえる。

 

リオは思わず片目を閉じ、顔をしかめる。

 

「声が、する……」

 

「なんなんだよ、あれ……!!」

 

ハロプトは即答しない。

 

数秒。

 

沈黙した後。

 

『制御が不安定化している』

 

『頭部破壊により人格制御系へ影響が出た可能性が高い』

 

X-6の全身から赤黒い光が漏れる。

 

異常な熱量。

 

異常な出力。

 

フェーレンもX-6の再動に気づく。

 

「まだアイツ動くか……!!」

 

だが、ガルドだけは歓喜の声を上げた。

 

「はははっ!! そうだ、貴様らは木星の未来だ!!」

 

「壊れてはならないのだ!!」

 

「クロスボーン・ガンダムであるのならば!!」

 

その瞬間だった。

 

X-6が動く。

 

ゆっくりと、ぎこちなく。

 

異形の右手が伸びる。

 

まるで壊れた人形のように。

 

――次の瞬間。

 

X-6が再び高速機動へ移る。

 

向かった先は――サルコファゴ。

 

ガルドが凍りつく。

 

「……なに?」

 

巨大な手が、ガルドへ向いている。

 

驚くリオ。

 

「なんで……!?」

 

ハロプトが静かに告げた。

 

『詳しくはわからない、しかし』

 

『X-6内部人格群が命令系統へ反発している可能性が高い』

 

異形の手がサルコファゴを掴む。

 

ガルドの悲鳴が響いた。

 

「やめろ!!」

 

「私はお前たちの創造主だぞ!!」

 

異形の右手がサルコファゴを握り締める。

 

ギギギギギ……!!

 

装甲が軋む。

 

ガルドが怒鳴る。

 

「やめろ!! 命令だ!!」

 

X-6は止まらない。

 

頭部を失った機体から火花が噴き出す。

 

それでも、内部から声が響く。

 

「……イや……だ……」

 

「……もウ……いやだ……」

 

「……くルシい……」

 

悲鳴。

 

泣き声。

 

怒号。

 

無数の人格が叫んでいた。

 

リオは息を呑む。

 

「……あいつ」

 

フェーレンが低く呟く。

 

「限界だな」

 

ガルドは必死だった。

 

「貴様らは木星の未来だ!!」

 

「死者は木星へ奉仕する義務が――」

 

その瞬間。

 

異形の右手がさらに握り込む。

 

バキィ!!

 

サルコファゴの左腕が砕けた。

 

ガルドが絶叫する。

 

「ぐあぁぁぁぁ!?」

 

リオが顔をしかめる。

 

ハロプトは静かだった。

 

『X-6内部人格群がガルドを敵と認識した』

 

『当然の結果だ』

 

赤黒い光はさらに強まり、機体各部から火花が噴き上がる。

 

「裏切るかぁ、X-6!!」

 

木星残党のバタラやペズ・バタラがビーム射撃を行う。

 

ビーム射撃に反応し、X-6は半壊したサルコファゴを放り捨てる。

 

X-6は、今度は木星残党へ突撃する。

 

かと思えば、デブリ帯の残骸へ向かって加速。

 

残骸を握り、砕く。

 

さらに木星残党へ突撃し、異形の右腕でバタラ一機の頭部を破壊する。

 

もはや敵も味方も、機体も残骸も関係ない。

 

目に入るもの全てを壊そうと、ただ暴れているだけだった。

 

連邦機も木星機も距離を取る。

 

連邦兵の慌てる声が聞こえる。

 

「見境などないではないか……」

 

ハロプトが解析を続ける。

 

『ほぼ確実に、人格制御は崩壊している』

 

『このままでは、周囲への被害が拡大し続ける』

 

リオが唾を飲む。

 

「じゃあ放っとけば……」

 

『止まるまで全てを破壊しようとする』

 

即答だった。

 

リオが絶句する。

 

フェーレンから通信が入る。

 

「だから落とす」

 

短い言葉だった。

 

白いF91がX-6を見据える。

 

「今なら、破壊できる」

 

リオが顔を引きつらせる。

 

「今、頭吹っ飛んでも動いてるんですよ……!?」

 

フェーレンは冷静だった。

 

「逆だ、今だから破壊できる」

 

「今は反射的に暴れているだけだ」

 

ハロプトも同意する。

 

『正しい判断だ』

 

リオが叫ぶ。

 

「お前まで!?」

 

その時。

 

X-6が咆哮するように全身のスラスターを噴射した。

 

周囲のデブリが吹き飛ぶ。

 

X-6は異形の右腕を振り回し、目についた残骸を次々と砕いていく。

 

赤黒い光がさらに強まる。

 

ハロプトが即座に分析する。

 

『異形腕部の肘関節に深刻な損傷を確認』

 

『無理な動かし方をしている暴走による影響だろう』

 

『現在なら破壊できる可能性がある』

 

リオが叫ぶ。

 

「どうするんだよ!?」

 

『チェーンを使え』

 

リオが腰部を見る。

 

チェーンハンマー。

 

鉄球は失われていた。

 

だが。

 

鎖だけは残っている。

 

『肘関節へ絡ませる』

 

『動きを止めたタイミングで切り落とす』

 

リオが絶句する。

 

「無茶言うなよ!! そんな器用な真似――」

 

フェーレンが言った。

 

「切り落とすのは俺がやろう」

 

「隙も俺が作ってやる、お前は動きを止める、それをやってくれ」

 

リオは数秒黙った。

 

苦しむ声が、まだ耳に残っている。

 

深く息を吐く。

 

「……わかりました」

 

「ふっ、頼んだ」

 

その言葉を聞いて、フェーレンはX-6のほうへ向かう。

 

「……って言っても、俺じゃなくてお前にまた頼ることになるけどな」

 

『そうだろうな』

 

「……もう一回、頼んだぜ」

 

少しの沈黙。

 

『了解した』

 

今度は即答だった。

 

X-5が再び前へ出る。

 

傷だらけのクロスボーン・ガンダム。

 

継ぎ接ぎの装甲。

 

ゲルググの右腕。

 

鉄球を失ったチェーンハンマー。

 

誰が見てもガラクタだった。

 

それでも。

 

苦しみ続ける怪物を止めるため。

 

ジャンク屋のガンダムは、もう一度加速する。

 

―――――――――――――

 

警報が鳴りっぱなしだった。

 

《スラスター限界》

 

《フレーム損傷》

 

《エネルギー残量低下》

 

それでも、止まれない。

 

リオは歯を食いしばる。

 

「頼むぞ……!」

 

ハロプトが即座に応答する。

 

『機体制御補佐開始』

 

『慣性補正』

 

『軌道予測』

 

X-6は完全に暴走していた。

 

頭部を失ったまま、赤黒い光を撒き散らす。

 

異形の右腕が周囲を無差別に破壊していく。

 

ガルドが叫ぶ。

 

「止まれぇぇぇ!!」

 

「貴様は、木星の力となる存在だというのだぞ!!」

 

ガルドの叫びは届かず、暴れ続ける。

 

フェーレンが低く呟く。

 

「完全に制御を失ったか」

 

白いF91が前へ出る。

 

背部ヴェスバー展開。

 

「……頼んだぜ、ジャンク屋よ」

 

その動作を見て、ハロプトが呟く。

 

『準備だ、やるぞリオ』

 

「……ああっ!!」

 

次の瞬間。

 

ヴェスバー発射。

 

高出力ビームがX-6へ向かう。

 

頭部を失い、まともに周囲を認識できないはずのX-6。

 

それでも、異形の右腕がヴェスバーへ反応する。

 

X-6は反射的に巨大な右手を掲げる。

 

ダブル・Iフィールド展開。

 

だが、フェーレンは最初から貫くつもりではなかった。

 

ビームが周囲のデブリを蒸発させる。

 

閃光と衝撃がX-6を包む。

 

防御姿勢を取った異形の右腕が、一瞬だけ止まった。

 

閃光がX-6の残存センサーを塗り潰す。

 

『今だ!!』

 

ハロプトが叫ぶ。

 

X-5が突っ込む。

 

リオが絶叫する。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

一瞬遅れて、異形の右手がX-5へ振り向く。

 

『投擲軌道補正』

 

『肘関節を狙え』

 

リオが残った鎖を振り抜く。

 

ジャラァッ!!

 

鎖が異形の右腕へ巻き付き、肘関節を締め上げた。

 

「巻きついた!!」

 

だが次の瞬間。

 

猛烈な衝撃。

 

X-6が暴れる。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

X-5ごと振り回される。

 

視界が回転する。

 

Gが全身を押し潰す。

 

吐きそうになる。

 

『離すな!!』

 

異形の右手が暴れる。

 

だが、肘関節が悲鳴をあげるように火花を散らす。

 

亀裂。

 

装甲が裂ける。

 

そこへ、白いF91が飛び込んだ。

 

一閃。

 

シュバァァァッ!!

 

異形の右腕が、肘から切断される。

 

巨大な腕が宇宙へ吹き飛んだ。

 

その瞬間だった。

 

X-6全身から赤黒い光が噴き出す。

 

「――――――」

 

悲鳴。

 

泣き声。

 

怒号。

 

笑い声。

 

男。

 

女。

 

老人。

 

子供。

 

あらゆる声が混ざり合う。

 

リオは思わず耳を塞いだ。

 

「うあぁっ……!!」

 

ハロプトが静かに言う。

 

『内部反応が変化』

 

『人格制御系の完全崩壊を確認』

 

『機体維持機能も停止しつつある』

 

『機体各部で異常を確認』

 

『隔壁維持不能』

 

頭部を失った黒い機体が揺れる。

 

姿勢制御を失い、

 

ゆっくりと回転を始める。

 

だが完全には停止しない。

 

全身が痙攣するように震えていた。

 

X-6の装甲の隙間から赤黒い光が漏れる。

 

火花。

 

爆発。

 

各部装甲が内側から軋み始める。

 

『内部圧力上昇』

 

ハロプトが告げる。

 

『機体崩壊の危険性が高い』

 

次の瞬間。

 

バンッ!!

 

胸部装甲が内側から弾け飛んだ。

 

中に、ヒトガタの何かがいた。

 

その身体には、無数のケーブルが繋がれていた。

 

リオが凍る。

 

「……人、なのか……?」

 

数秒。

 

ガルドは黙ってその光景を見つめていた。

 

そして静かに口を開く。

 

「……秘匿されし英雄が白日の下に現れてしまった、か」

 

「そして、崩壊は確実という。残念、残念だ……」

 

「ああ、残念だぁぁぁ!!!!」

 

サルコファゴが、ビームライフルでX-6へ攻撃を仕掛け始めた。

 

「な……!?」

 

「何を黙っている!」

 

「撃て!」

 

「我らの手で終わらせるのだ!!」

 

「この手で、処分してやらねばならないのだ!!」

 

ガルドは、涙を流していた。

 

「X-6よ、おお!!さらばだ、さらばだ、我らが英雄!!」

 

「ジーク・ジュピター!!」

 

木星残党機が一斉に砲口を向ける。

 

「「「ジーク・ジュピター!!!」」」

 

フェーレンが目を見開く。

 

リオも凍りつく。

 

さっきまで、木星の未来だ、希望だ。

 

そう叫んでいた男が、今。

 

自らの理想を撃ち殺そうとしていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告