クロスボーン・ガンダムX-5   作:バード鳥鳥

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第1章⑫ 決着

木星残党機の砲撃が、X-6へ降り注ぐ。

 

ビーム。

 

実弾。

 

すべての砲火が、頭を失った黒い機体へ集中した。

 

リオが目を見開く。

 

「なっ――」

 

胸部ハッチの中、動かないヒトガタ。

 

それでも、一瞬。

 

リオに、言葉が響いた。

 

「……タス……け……」

 

次の瞬間。

 

閃光がすべてを飲み込んだ。

 

轟音。

 

爆発。

 

連続する砲撃が黒い機体を引き裂いていく。

 

装甲も、ヒトガタも。

 

何もかもが光の中へ消えていく。

 

リオは呆然と見ていた。

 

声が出ない。

 

何も言えない。

 

砲撃が止まる。

 

爆炎の中から残った機体の一部が弾け飛ぶ。

 

黒いクロスボーン・ガンダムX-6は、完全に爆散した。

 

戦場に静寂が落ちる。

 

その時だった。

 

「……はっ」

 

荒い息遣い。

 

通信越しにも伝わる呼吸。

 

ガルドだった。

 

半壊したサルコファゴ。

 

片腕を失い、機体各所から火花を散らしている。

 

しばらく息を整えるように沈黙する。

 

そして、小さく笑った。

 

「……見事だよ、X-5」

 

「この劣勢を、よく生き抜いた」

 

リオが睨み返す。

 

「お前……」

 

コクピットの中で、ガルドはくつくつと笑う。

 

「認めよう、君のクロスボーン・ガンダムこそが、より正しき機体だったのだ」

 

その言葉に、リオは怒りを持って叫んだ。

 

「正しい、だと……? 正しいも何もあるもんか!!」

 

「あんな、仲間殺しのようなことをしたお前が、正しさなんてわかるものか!!」

 

その怒りに対しても、ガルドはくっくっくと、聞こえていないように笑う。

 

「だが、我々は死なない」

 

「木星がある限り、我々の意思は続く」

 

ガルドは続ける。

 

「人は死ぬ、機体も壊れる、だが理想は残る」

 

「それが我々なのだ」

 

リオは、独り言のような語りを遮るように叫んだ。

 

「寝ぼけたこと言うな!! そんな、意味の分からないことを!!」

 

その時。

 

ハロプトが警告を発する。

 

『高エネルギー反応』

 

『残存木星機全機』

 

『出力急上昇』

 

リオが凍る。

 

「まさか――」

 

ガルドが叫んだ。

 

「ジーク・ジュピター!!」

 

他の木星機も続く。

 

「ジーク・ジュピター!!」

 

「ジーク・ジュピター!!」

 

狂信的な声が戦場へ響く。

 

連邦兵が息を呑む。

 

「おい……」

 

「まさかあいつら……」

 

そして。

 

木星機が一斉に光った。

 

リオが目を見開く。

 

「うそだろ――」

 

爆発。

 

爆発。

 

爆発。

 

次々と木星機が消えていく。

 

証拠も痕跡も残さない。

 

ただ思想だけを残して。

 

最後に、ガルドが残る。

 

「君のクロスボーン・ガンダムが、我々木星の手に落ちなかったのは実に惜しい」

 

「しかし、しかし!!」

 

「それでも、その機体が英雄となることを期待しているぞ!!」

 

「何故ならば、それこそがガンダムの力なのだからな!!」

 

サルコファゴが残った片腕を高々と掲げる。

 

コクピットの中で。

 

ガルドもまた同じように腕を伸ばしていた。

 

機体と人間。

 

まるで区別がつかない。

 

狂信者は目を見開き、

 

歓喜に震えながら叫んだ。

 

「木星よ!!我らが主よ!!あなた様の未来に祝福おぉぉ!!」

 

瞬間、ガルドは自爆装置を躊躇なく作動させた。

 

閃光。

 

そして。

 

サルコファゴも消えた。

 

――残ったのは漂う残骸だけだった。

 

―――――――――――――

 

誰も喋らない。

 

連邦兵も。

 

フェーレンでさえ沈黙している。

 

リオはただ呼吸だけをしていた。

 

「……なんなんだよ」

 

震える声。

 

「なんなんだよ、あいつら……」

 

ハロプトが静かに答える。

 

『木星帝国残党』

 

『思想集団』

 

『あるいは亡霊』

 

『呼び方は自由だ』

 

リオは唇を噛む。

 

X-6も、ガルドも、木星残党も消えた。

 

だが、ガルドたちは最後まで迷わなかった。

 

最後まで笑っていた。

 

それが、たまらなく気味が悪かった。

 

その時、白いF91から通信が入る。

 

「……ジャンク屋」

 

フェーレンだった。

 

「助かった、感謝する」

 

リオは乾いた笑いを漏らす。

 

「……俺は、何も出来なかったですよ」

 

「そうでもないだろう、お前さんはよくやれた」

 

短く笑う声。

 

そして。

 

白いF91がX-5を見る。

 

傷だらけの機体。

 

継ぎ接ぎの装甲。

 

ゲルググの右腕。

 

それでも、その姿は確かにクロスボーン・ガンダムだった。

 

「いいパイロットっぷりだったよ、お前さん」

 

リオが顔をしかめる。

 

「やめてくださいよ」

 

「俺は、ただのジャンク屋だ」

 

『それでも』

 

ハロプトが言った。

 

リオが振り向く。

 

『お前はクロスボーン・ガンダムのパイロットとして、よくやった』

 

静かな宇宙で。

 

その言葉だけが、不思議なほど重く響いた。

 

――――――――――――

 

静まり返った宙域。

 

漂うのは残骸と爆発の残光だけだった。

 

連邦軍部隊が周囲警戒を開始する。

 

ヘビーガン隊が散開。

 

ジェムズガンは2機のみ残っており、残骸確認を行う。

 

戦闘は終わった、少なくとも今は。

 

X-5は《アイアン・ラビット》付近へ到着した。

 

リオは、まだ先ほどの光景を引きずっていた。

 

最後に聞いた声が離れない。

 

その時、メイがX-5へ通信を入れてきた。

 

「リオ、終わったの? 戻ってきたってことは、終わったんだよね?」

 

通信画面のメイは、今にも泣きそうな顔をしていた。

 

そこへ、ザックが通信画面に割り込んでくる。

 

「もう危なくねえよな? 助けたかったけどよ、邪魔出来ねえと思ってよ」

 

「怖くて戦闘宙域行けなかっただけじゃろ」

 

ザックの横で、ガンズ爺が呆れた声を出す。

 

「ば、バカ言えガンズ爺! 俺はむしろ邪魔になると思い戦略的に後ろにいたんだ!」

 

ザックが慌てて言い返す。

 

さっきまで聞いていた悲鳴とは違う。

 

いつもの仲間達の声だった。

 

それだけで、少し泣きそうになった。

 

その時だった。

 

《アイアン・ラビット》付近のジェムズガンが、少し離れた白いF91へ共通回線で通信を入れる。

 

「隊長、こいつら、どうします?」

 

リオがビクッとなる。

 

「うっ」

 

連邦と一緒に戦っていたから忘れてた。

 

そういえば絶賛疑われ中だった。

 

その通信が聞こえていたメイが叫ぶ。

 

「逮捕!?」

 

ザックも青ざめる。

 

「は、話し合えばどうにかなると信じさせて……」

 

ガンズ爺が遠い目をする。

 

「うぅむ、X-5を渡せと言われかねんな」

 

「そんな、せっかく手に入れたガンダムが!」

 

とザック。

 

リオが絶望する。

 

「そ、そんなぁぁぁ……」

 

だが。

 

フェーレンはあっさり答えた。

 

「放っておく」

 

「正規のジャンク屋ってことにしておけ」

 

ジェムズガンのパイロットが困った声を出す。

 

「いやでも隊長」

 

「仮に違っても」

 

「面倒だから無視、ってのは、俺が犠牲にさせちまった部下には悪いかな……?」

 

沈黙。

 

ジェムズガン側が呆れた。

 

「……アイツらも文句言いませんよ、隊長の専売特許ですからね、それ」

 

フェーレンは苦笑する。

 

「悪いな」

 

ヘビーガン隊からも苦笑が漏れる。

 

「絶対後で怒られるやつっすよ」

 

一方。

 

それを聞いていた《アイアン・ラビット》側。

 

完全に呆然。

 

メイがぽかんとしていた。

 

「……なんか怖い人って思ってたけど、割と適当な人?」

 

ザックが、腰を抜かしそうな声を出す。

 

「た、助かった? セーフだよな、これ?」

 

ガンズ爺が遠い目をする。

 

「エースパイロットも融通が利いてくれるもんじゃ」

 

リオは安堵する。

 

「よ、よかったぁ……」

 

すると、白いF91がX-5へ通信を入れる。

 

「ジャンク屋」

 

リオが顔を上げる。

 

「……な、なんですか」

 

少し疲れた声だった。

 

フェーレンは短く答える。

 

「その機体、あまり大っぴらにするなよ」

 

リオが固まる。

 

「……は?」

 

「木星残党だけじゃない」

 

「連邦にも面倒なのがいる」

 

「クロスボーン・ガンダムの名前は、割と悪名高いんだぜ」

 

ハロプトが答えた。

 

『正しい判断だ』

 

リオは頭を抱えた。

 

「うわぁ……拾うの早まったかな……」

 

即座にメイが叫ぶ。

 

「今さら!?」

 

ザックも苦笑する。

 

「まあ、厄はある気配はするけどガンダムだしよ、いいじゃねえの」

 

ガンズ爺は腕を組んだ。

 

「儂もそう思う」

 

少しだけ、重かった空気が和らぐ。

 

そして、白いF91はゆっくり後退する。

 

連邦部隊もそれに続く。

 

去り際。

 

フェーレンが最後に言った。

 

「ジャンク屋」

 

「?」

 

「次に会う時までには、せめてまともな右腕を付けとけ」

 

リオは反射的にX-5を見る。

 

ゲルググの右腕。

 

継ぎ接ぎだらけの装甲。

 

リオは乾いた笑いを漏らした。

 

「……善処します」

 

通信越しに、フェーレンが小さく笑った。

 

白いF91は加速する。

 

やがて連邦部隊と共に宙域の彼方へ消えていった。

 

残されたのは、傷だらけのX-5。

 

そしてジャンク屋たち。

 

リオはシートに深々と身を任せた。

 

「……疲れた」

 

ハロプトが静かに答えた。

 

『同感だ』

 

メイが吹き出す。

 

「AIも疲れるんだ」

 

『学習した』

 

ハロプトは淡々と返した。

 

デブリが流れる宇宙を見ながら、リオは苦笑した。

 

―――――――――――――

 

連邦軍部隊は宙域を離脱していく。

 

最後尾を飛ぶ白いF91。

 

フェーレンはふと昔の戦闘記録を思い出していた。

 

“青い閃光”。

 

そして海賊のガンダム。

 

歴史の中の英雄達。

 

後方では、《アイアン・ラビット》が移動を始めようとしている。

 

あの継ぎ接ぎだらけのクロスボーン・ガンダムも、今ごろ格納庫へ収容されているころだろう。

 

フェーレンは思わず苦笑した。

 

「……似ても似つかんな」

 

伝説の海賊達と。

 

あの慌ただしいジャンク屋達は。

 

「クロスボーン・ガンダム、か。まったく……」

 

白いF91は加速し、宙域を離れていった。

 

――――――

 

《アイアン・ラビット》格納庫。

 

整備班が悲鳴を上げていた。

 

「なんだこの損傷!!」

 

「チェーンハンマーどこいった!?」

 

「鉄球だけなくなってる!!」

 

「ちきしょう、オンボロすぎたか!?」

 

格納庫は半ばお祭り騒ぎだった。

 

X-5は再びボロボロ。

 

装甲は焼け焦げ。

 

各部フレームも歪んでいる。

 

なのに、なぜか誰も暗い顔はしていなかった。

 

生きて帰ってきたからだ。

 

その機体の下。

 

リオは床へ突っ伏していた。

 

「だりぃ……」

 

完全に燃え尽きている。

 

うつ伏せ。

 

ぴくりとも動かない。

 

メイが近づいて笑う。

 

「おつかれ海賊さん」

 

「海賊じゃない……」

 

「クロスボーン・ガンダム乗ってるじゃん」

 

「乗ってるだけだよ……」

 

ザックが缶ジュースを投げる。

 

リオがキャッチする気力もなく顔面へ直撃した。

 

「ぶふっ!?」

 

「ほらよエース様」

 

「誰がだよぉ……」

 

ガンズ爺はX-5を見上げていた。

 

その目は少しだけ遠い。

 

「まったく」

 

「木星を打倒したクロスボーン・ガンダムを直すことになろうとは、これも縁かのぉ……」

 

整備員たちも機体を見上げる。

 

ボロボロで壊れかけ。

 

それでもそれは、確かにガンダムだった。

 

その時、ハロプトの声が響く。

 

『リオ』

 

「……なんだよ」

 

『チェーンハンマー戦術』

 

『有効性を確認』

 

リオが薄く笑う。

 

「へへっ」

 

「やっぱり、ガンダムにはハンマーだろ?」

 

思案するハロプト。

 

そして。

 

『……限定条件下では否定できない』

 

数秒、静寂が訪れた。

 

瞬間。

 

格納庫が爆笑に包まれた。

 

メイが笑う。

 

「認めてくれた!!」

 

ザックも笑う。

 

「ハンマーを!!」

 

リオは床に突っ伏したまま笑った。

 

疲労で体は限界だった。

 

でも。

 

少しだけ楽しかった。

 

宇宙はまだ不穏だった。

 

木星の亡霊は消えていない。

 

クロスボーン・ガンダムを巡る戦いも終わっていない。

 

きっとまた面倒事に巻き込まれる。

 

それでも、今だけは。

 

ジャンク屋たちは、生きて笑っていた。

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