クロスボーン・ガンダムX-5   作:バード鳥鳥

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第1章③ 撤退

次の瞬間。

 

X-6の姿が掻き消える。

 

否。

 

視界が追いつかなかった。

 

『来るぞ、リオ』

 

リオは反射的に操縦桿を握る。

 

だが。

 

「わ、わからない、わかるもんか、こんなの!!」

 

悲鳴のような声だった。

 

モニターに映るのは残像だけ。

 

どこにいる。

 

どこから来る。

 

何を狙っている。

 

何一つ分からない。

 

「どうにも、なるもんか……!!」

 

『問題ない』

 

ハロプトは即答した。

 

『私が補助する』

 

「それでもだ!」

 

リオは怒鳴った

 

「俺はただのジャンク屋なんだ!!」

 

「エースパイロットじゃない!!」

 

その時、モニターの端に新たな光点が6つ現れた。

 

木星の識別信号ではない。

 

『別勢力のMS反応。連邦系だ』

 

直後、通信が割り込んだ。

 

「こちら地球連邦軍哨戒部隊!」

 

小型MS6機。

 

旧式のジェムズガン改修機。

 

哨戒任務中だったのだろう。

 

「所属を名乗れ!」

 

「そちらの状況を――」

 

通信は最後まで続かなかった。

 

X-6の赤いアイセンサーがゆっくりとそちらを向く。

 

赤い光が闇の中で怪しく輝いた。

 

リオの背筋が冷たくなる。

 

「まずい……」

 

遠方でガルドの怒声が響いた。

 

「ええい、待て!」

 

「X-6!!」

 

「命令だ!」

 

「そちらは優先目標ではないだろうが!!」

 

だが。

 

X-6は従わない。

 

まるで獲物を見つけた獣のように。

 

あるいは。

 

抑え込まれていた何かが解き放たれたように。

 

次の瞬間。

 

その獣は、加速した。

 

ドォォンッ!!

 

爆発光。即座に接近したX-6がビーム・ザンバーで切り裂く。

 

ジェムズガン1機が一瞬で火球になる。

 

「うわあああああ!!」

 

残る5機が慌てて散開する。

 

だがX-6は止まらない。

 

残像だけを残しながら連邦軍部隊へ襲いかかる。

 

『追うぞ、リオ』

 

『連邦軍機は持たない』

 

『このままでは全滅する』

 

X-5のスラスターが噴射しかける。

 

だが。

 

リオが操縦桿を引き戻した。

 

「……だ、めだ」

 

『なぜだ』

 

「無茶だ!」

 

そしてX-5はX-6たちと逆方向へ進み始める。

 

『戦場と逆方向だ』

 

『反転しろ』

 

リオは叫ぶ。

 

「この状態で、戦うのは無理だ……!」

 

「相手は見えない!」

 

「近づいた瞬間、終わりだ!!」

 

『だが連邦軍が――』

 

「助けられるわけ、ないん、だ……!!」

 

コクピットが静まり返る。

 

遠方では爆発光が瞬いていた。

 

ビームが飛び交う。

 

悲鳴混じりの通信が聞こえる。

 

それでも。

 

リオは歯を食いしばった。

 

「お前だって分かってるだろ、今行っても……」

 

「勝てない」

 

ハロプトは沈黙した。

 

だが演算音だけが続いている。

 

諦めきれていないのが分かった。

 

「アイアン・ラビットに向かう」

 

こんな時なのに、リオは一瞬だけ言葉に詰まった。

 

「俺たちの、ジャンク屋の母艦だ」

 

『戦力は期待できるのか』

 

「戦力っていうには難しいけど、補給も修理もできる」

 

「今の俺達にはそこしかない」

 

ハロプトがなおも反論する。

 

『X-6を放置する危険性は極めて高い』

 

『優先順位は撃破だ』

 

「わかってる、けど!!」

 

『可能性はゼロではない』

 

「……ゼロじゃない、だけだ……!!」

 

『逃げ腰は非推奨。ならば、私が操作――』

 

「うるせぇ!!」

 

リオの怒声がコクピットに響いた。

 

「……お前のほうがわかってるんじゃないのかよ。今のこの機体じゃ、戦いきれない……!!」

 

ハロプトが黙る。

 

リオは荒い息を吐きながら続けた。

 

「助けたいさ」

 

遠方で爆発が起きる。

 

ジェムズガンの一機が被弾した。

 

「俺だって助けたい」

 

握り締めた拳が震える。

 

「でも今の俺じゃ、止められない」

 

モニターの向こうで。

 

X-6が獲物を追い続けている。

 

まるで終わることを知らない悪夢のように。

 

「今は……逃げさせてくれ」

 

長い沈黙が流れる。

 

ハロプトは何も言わない。

 

ただ演算音だけが続いていた。

 

やがて。

 

『……戦術判断を修正』

 

静かな声だった。

 

『再演算完了』

 

『現在戦力ではX-6への対抗は困難』

 

『撤退プランを承認する』

 

「……悪い」

 

遠方ではまだ爆発光が瞬いている。

 

助けを求める通信も聞こえる。

 

それらを振り切るように。

 

X-5はスラスターを噴射した。

 

残骸宙域を離脱する。

 

その後方で。

 

赤いアイセンサーが一瞬だけこちらを見た。

 

X-6。

 

そして。

 

ノイズの奥から、かすかな声が漏れる。

 

「……たす……け……」

 

リオは聞こえないふりをした。

 

振り返れば助けに行きたくなる。

 

だが今の自分では何もできない。

 

だから前を見る。

 

生き残るために。

 

いつか止めるために。

 

――――――――

 

X-5は残骸宙域を全速力で離脱していた。

 

右腕を失い、推進剤も尽きかけている。

 

ジェネレーター出力不安定。

 

まともな状態ではない。

 

それでも、後ろから迫る何かから逃げるように加速を続ける。

 

X-6は連邦軍へ向かい、ガルド機だけがX-5を追っていた。

 

通信回線には、なおもガルドの狂った声が響いていた。

 

「逃げられると思うなァ!!」

 

リオが顔をしかめる。

 

「うるせぇ!!」

 

ガルドは哄笑した。

 

「クロスボーン・ガンダムは我々のものだ!」

 

「木星人こそが宇宙を支配する!!」

 

「そのための礎とするのだ!」

 

「クロスボーン・ガンダムは!!」

 

通信越しでも分かるほど老人は興奮していた。

 

「我々の救いの神は!!」

 

「我々のすべてを壊した悪魔は!!」

 

「再び木星に跪くのだァ!!」

 

リオは半泣きで叫び返す。

 

「知らねぇって言ってるだろ!!」

 

「勝手に、やってろよ!!そんなの!!」

 

操縦桿を握る手が汗で滑る。

 

心臓は限界まで鳴っていた。

 

逃げる。とにかく逃げる。

 

今はそれしかない。

 

ガルドの声が遠ざかっていく。

 

どうやら距離は離せたようだった。

 

その時だった。

 

ハロプトが警告を発する。

 

《推進剤残量低下》

 

《残量5%》

 

リオが嫌な予感を覚える。

 

「え?」

 

《残量3%》

 

《残量1%》

 

次の瞬間。

 

ブシュゥゥゥッ――

 

背部スラスターが沈黙した。

 

X-5は推力を失い、慣性のまま宇宙空間を漂い始める。

 

静寂。

 

リオは数秒固まった。

 

そして。

 

「……切れた、か」

 

『当然だ』

 

『本機は十数年放置されていた機体だ』

 

「……確かに、そりゃ、そうか」

 

X-5は宇宙空間をぷかぷかと漂う。

 

さっきまで命懸けの戦闘をしていたとは思えない光景だった。

 

リオは頭を抱える。

 

「終わった……」

 

『まだ終わってはいない』

 

「いや、だいぶまずいって」

 

リオは深呼吸した。

 

そして言う。

 

「アイアン・ラビットの通信先は俺が教える」

 

「救難信号送ってくれ」

 

『了解した』

 

ハロプトが通信処理を開始する。

 

古い救難信号が宇宙へ放たれた。

 

宛先はリオたちの母艦――アイアン・ラビット。

 

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