クロスボーン・ガンダムX-5   作:バード鳥鳥

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第1章④ アイアン・ラビット

数秒後。

 

ノイズ混じりの応答が返る。

 

「……こちらアイアン・ラビット」

 

「ってリオか!?」

 

リオの顔がぱっと明るくなる。

 

「ザック! 連絡つながったのか!」

 

通信相手――細身の中年男、ザックが目を剥いた。

 

「ん?それMSか!?」

 

リオが慌てて叫ぶ。

 

「説明すると長い、救助来てほしい」

 

ザックは数秒黙った。

 

そして盛大なため息を吐く。

 

「……また厄介事拾ったなテメェ」

 

「不可抗力だけど、ね」

 

「あとで聞いてやるよ」

 

「回収艇回すから座標送れ!」

 

通信が切れる。

 

リオはシートにぐったりともたれかかった。

 

「……生きた……」

 

『まだ安心する段階ではない』

 

「お前ちょっとは空気読めよ……」

 

だがその時。

 

リオはふと思い出した。

 

「……あ」

 

『どうした』

 

顔が青くなる。

 

「俺の作業用プチモビ」

 

『?』

 

「置いてきた」

 

沈黙。

 

「……あの戦闘宙域に」

 

数秒。

 

ハロプトの応答が止まる。

 

『…………』

 

リオは頭を抱えた。

 

「わかってる」

 

「そういう時じゃないってわかってるけどさ……」

 

「全部置いて行っちゃった、なあ」

 

積んでいた工具。

 

回収したジャンク。

 

食料。

 

私物。

 

小型作業艇。

 

全部置いてきた。

 

リオは項垂れる。

 

ハロプトが静かに言う。

 

『命と比較すれば安い』

 

「安くはない」

 

『市場価格的には――』

 

「追い打ちかけるなってバカ」

 

リオは静かにモニターの外の宇宙を眺める。

 

「……俺、普通にジャンク屋やってただけなんだけどなぁ……」

 

誰に向けたわけでもない愚痴は、静かな宇宙へ消えていった。

 

――――――――――――――――――

 

一時間後――。

 

暗い宙域に、一隻の大型艦が姿を現した。

 

臼ぼけた赤色と灰色を基調にした艦体。

 

古臭いシルエット。

 

だが近づくほど、その艦が継ぎ接ぎだらけであることが分かる。

 

色の違う装甲。

 

露骨な溶接跡。

 

型式の違う推進ブロック。

 

まともな整備士が見れば頭を抱えそうな代物だった。

 

それでも艦首には誇らしげに艦名が刻まれている。

 

――《アイアン・ラビット》。

 

リオはようやく肩の力を抜いた。

 

「帰ってきた……」

 

通信回線が開く。

 

「聞こえるか馬鹿野郎」

 

細身の中年男。

 

アイアン・ラビットのリーダーである彼が声をかける。

 

「無事だったか」

 

「なんとか、ね……」

 

「なんとかで済む顔してねぇぞ」

 

後ろから別の声が飛び込んでくる。

 

「リオー! 死んでない!?」

 

小柄な少女が画面へ割り込んだ。

 

メイ。

 

アイアン・ラビットで整備や雑用を担当している少女だ。

 

さらに奥からしわがれた老人の声。

 

「今度は何拾ってきおったんじゃ」

 

ガンズ爺。

 

アイアン・ラビットの古参整備士である。

 

リオは少しだけ笑った。

 

「みんな……」

 

「ひどい顔で笑うもんじゃねえよ、全く」

 

格納庫ハッチが開く。

 

牽引ワイヤーが射出され、X-5へ接続された。

 

傷だらけの機体はゆっくりと艦内へ引き込まれていく。

 

そして――

 

着艦。

 

重い振動が格納庫へ響いた。

 

その瞬間だった。

 

さっきまで騒がしかった格納庫が静まり返る。

 

全員の視線が機体へ向いていた。

 

黒いドクロ。

 

異形のシルエット。

 

そして失われた右腕。

 

長い年月を宇宙で眠っていた亡霊のような姿。

 

ガンズ爺がぽつりと呟く。

 

「……ガンダムか」

 

「しかもただのガンダムじゃないのぉ」

 

誰に向けた言葉でもなかった。

 

老人はゆっくり機体を見上げる。

 

「見たことのない構造じゃな。連邦の機体でもなさそうじゃ」

 

リオがコクピットを開く。

 

「俺もよく分かってない」

 

「よく分かってないで持ち帰るな」

 

ザックが呆れた。

 

その時だった。

 

格納庫に機械音声が響く。

 

『機体状態の診断を要求する』

 

メイが飛び上がる。

 

「しゃべったぁぁぁ!?」

 

ザックも一歩後退した。

 

「なんでMSがしゃべる!?」

 

「だ、だから不可抗力なんだって!」

 

メイが目を輝かせた。

 

「AI!?」

 

「軍用!?」

 

「高く売れる!?」

 

「最後やめろって」

 

リオは疲れながらもメイを抑える。

 

格納庫が少しだけ騒がしくなる。

 

だがザックが手を上げた。

 

「待て」

 

空気が変わる。

 

「まず状況説明だ」

 

リオの表情から笑みが消える。

 

短く答えた。

 

「木星軍残党だ」

 

静寂。

 

メイの顔が固まる。

 

ザックの目つきが変わる。

 

ガンズ爺も黙った。

 

リオは続ける。

 

「それと」

 

「ガンダムもいた、黒いガンダム」

 

ハロプトが補足する。

 

『識別名はX-6』

 

『ジュピター・クロスボーンガンダム』

 

格納庫がさらに静まり返る。

 

ザックが眉をひそめた。

 

「ジュピター……?」

 

「木星製ってことか?」

 

『推定』

 

ハロプトが答える。

 

ガンズ爺だけが黙ったままだった。

 

老人はX-5とハロプトを交互に見つめる。

 

そして小さく呟く。

 

「……ふう、嫌な名前を聞いちまったのぉ」

 

リオが振り向く。

 

「……ガンズ爺?」

 

ガンズ爺は首を振った。

 

「何でもない」

 

だがその表情だけは険しい。

 

「ただ一つだけ言える」

 

老人はゆっくりと言った。

 

「お前さん、とんでもない厄介事を拾ってきたぞ」

 

格納庫の空気が、わずかに重くなる。

 

工具の音も止まり、誰も喋らなかった。

 

「なんとなく、察してたよ」

 

リオは力なく笑う。

 

「それより」

 

ガンズ爺を指差す。

 

「さっきの話だよ」

 

「なんじゃ」

 

「木星製って聞いた時」

 

「なんか知ってる感じだったと思うんだけど」

 

格納庫が静まり返る。

 

ザックも腕を組んだ。

 

「俺も気になってた」

 

メイも頷く。

 

「明らかに反応してたよね」

 

ガンズ爺はしばらく黙っていた。

 

深い皺だらけの顔。

 

その目だけが、妙に遠くを見ている。

 

やがて老人は静かに言った。

 

「……まあ、そりゃ渋い顔にもなる。わしは木星生まれじゃからな」

 

沈黙。

 

リオが瞬きを止める。

 

「…………は?」

 

ザックが目を剥いた。

 

「ジジイ!? 初耳だぞ!?」

 

メイも叫ぶ。

 

「えええええ!?」

 

ガンズ爺は頭を掻いた。

 

「別に隠しとったわけじゃない」

 

「聞かれんかっただけじゃ」

 

「聞く機会ないって……」

 

リオが肩を落とす。

 

老人は気にせず続けた。

 

「若い頃、木星船団公社で働いとった」

 

「技術屋じゃ」

 

ハロプトが反応する。

 

『木星船団公社……』

 

『木星帝国成立以前から存在した組織か』

 

「うむ」

 

ガンズ爺はゆっくり頷いた。

 

「じゃが木星帝国が表に出てくる少し前に地球圏へ来た」

 

「それからはずっとこっちじゃ」

 

ザックが眉をひそめる。

 

「それとX-6に何の関係があるんだよ」

 

老人は少しだけ考え込んだ。

 

「関係があるかは分からん」

 

「ただ、昔聞いたことがある」

 

「木星の一部技術者が、何か妙な計画を進めとるとな」

 

リオが首を傾げる。

 

「妙な計画?」

 

「詳しくは知らん」

 

「ただ噂だけは流れておった」

 

「その後、海賊軍について研究を進めとるらしい、という噂を耳にした」

 

「ま、そんなとこじゃ」

 

メイが目を丸くする。

 

「そんな昔から?」

 

「貪欲な連中が多いからのぉ」

 

老人は苦笑した。

 

「負けた理由を知りたがる」

 

「自分達を負かした相手を知りたがる」

 

「そういう連中は昔からおった」

 

リオが腕を組む。

 

「じゃあX-6ってのは」

 

「その延長線上ってことか?」

 

「分からん」

 

ガンズ爺は首を振った。

 

「じゃが嫌な予感はする」

 

「それは間違いないじゃろう」

 

格納庫に沈黙が落ちる。

 

リオは少し考え込み、

 

そしてふと口を開いた。

 

「なぁ」

 

「なんじゃ」

 

「なんでそこまでクロスボーン・ガンダムに執着するんだ?」

 

「ガンダムだけどさ、それでも古いMSだろ?」

 

その瞬間。

 

『違う』

 

ハロプトがリオに発言した。

 

リオが思わず後ずさる。

 

「なんだよ」

 

『木星にとってはただのMSじゃない』

 

ハロプトが続ける。

 

『クロスボーン・ガンダムは、木星にとって敗北の象徴だ』

 

『木星は恐れている』

 

『自分達を打倒した存在を』

 

『だから忘れられない』

 

『だから、力にしたい』

 

『そう推測する』

 

リオの脳裏に、あの黒い機体が蘇る。

 

X-6。

 

そして。

 

「……たす……け……」

 

あの声。

 

あの苦しそうな叫び。

 

リオは思わず身震いした。

 

「……なんか」

 

小さく呟く。

 

「とんでもないもん拾っちまったな、俺」

 

ハロプトが即答した。

 

『今さら気付いたのか』

 

「うるせぇ!」

 

格納庫に、少しだけ笑いが戻った。

 

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