クロスボーン・ガンダムX-5   作:バード鳥鳥

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第1章⑤ アイアン・ラビット-2

格納庫の照明が、静かにX-5を照らしていた。

 

誰も軽口を叩かなかった。

 

ハロプトが続けるように発言する。

 

『神の雷計画』

 

リオが首を傾げる。

 

「神の雷?ついさっき聞いたような……」

 

その言葉に反応するように、ハロプトのセンサーが明滅する。

 

『カリスト兄弟が行った計画だ』

 

メイが首を傾げる。

 

「カリスト兄弟って?」

 

ハロプトが答える。

 

『木星帝国末期に現れた双子の指導者』

 

『木星再興を掲げた人物だ』

 

『だが思想は極めて排他的だった』

 

ザックが顔をしかめる。

 

「嫌な話だな」

 

ハロプトは静かに続けた。

 

『神の雷計画は木星圏に造られたコロニー・レーザー、シンヴァツを使用し』

 

『地球を直接狙い撃ちにする計画』

 

リオが固まる。

 

「……は?」

 

ガンズ爺が驚くように言う。

 

「木星から地球までじゃと?」

 

「普通なら不可能じゃろう」

 

『しかし、奴らは本気でやろうとした』

 

格納庫の空気が冷える。

 

メイが青ざめる。

 

「そんなの止められないよ!?」

 

『だから恐れられた』

 

『そして、その計画を潰した人物こそ――』

 

『クロスボーンガンダムのパイロット』

 

リオが聞き返す。

 

「誰なんだよ」

 

数秒の沈黙。

 

答えたのはハロプトだった。

 

『トビア・アロナクス』

 

格納庫が静まる。

 

リオの脳裏に、あの声が蘇った。

 

ガルドという男がやかましく叫んで言っていたこと。

 

かつて木星帝国を最も恐れさせた者、トビア・アロナクス。

 

神の雷計画――木星帝国最大の敗北、その戦闘データが使われている。

 

そんなことを言っていたのを思い出したリオ。

 

ザックが腕を組む。

 

「でもそんな事件聞いたことないぞ」

 

「え、私それっぽいの知ってるよ?」

 

メイが言うので驚くザック。

 

「ほら、ローズマリーって人が書いた神の雷計画の真実ってやつ!!」

 

携帯端末機を動かし、画面を見せつけるメイ。

 

神の雷計画の真実の本の表紙が出ていた。

 

「……あったなあ、でもアレ創作本だろどう見ても」

 

「でも、今の話と一致してるよ!!」

 

『その書籍には事実と異なる記述が多い』

 

『しかし神の雷計画そのものは実在した』

 

「ほらぁ!!」

 

「うそおん……」

 

自慢げに胸を張るメイ。唖然とするザック。

 

リオが呆れながらも、話を戻すように言う。

 

「つまり、そのすごい人のデータが黒いガンダムに使われてる、そういうことを言いたいのか?」

 

『肯定。ちなみに公式記録では死亡している』

 

「そうなのか……」

 

『一方で、生存説も存在する』

 

「……どっちだよ」

 

思わず呆れるリオ。

 

リオは頭を掻く。

 

「なんかもうスケールでかすぎて分かんなくなってきたな……」

 

ザックがため息を吐く。

 

「つまり要約すると」

 

「木星のヤバい残党が」

 

「昔、自分たちをぶっ倒した機体に執着してるってことか」

 

『概ね正しい』

 

ハロプトが答える。

 

ザックはさらに続けた。

 

「で、その執着の結果がX-6とやらってわけだ」

 

『推定』

 

格納庫が沈黙する。

 

誰も軽く受け止められなかった。

 

リオだけが、ぽつりと言った。

 

「最悪じゃないか」

 

『最悪だ』

 

珍しく、ハロプトが即答した。

 

誰も反論しなかった。

 

木星。

 

クロスボーン。

 

そしてX-6。

 

想像していたより遥かに厄介なものへ首を突っ込んでしまった。

 

リオはようやく実感した。

 

自分は想像以上のものに関わってしまったのだ。

 

格納庫に重苦しい沈黙が落ちる。

 

X-5の駆動音だけが、微かに響いていた。

 

ザックは頭を抱えたまま、ぼそっと呟く。

 

「……いや無理だろ!!」

 

誰も反応しない。

 

ザックは立ち上がって叫んだ。

 

「俺たちなんかが関わっていい相手じゃなさすぎるって!!」

 

「木星帝国!」

 

「クロスボーンガンダム!」

 

「トビア・アロナクス!」

 

「スケールがでけぇ!!」

 

メイが小さく頷く。

 

「それはちょっと分かる……」

 

ザックは指を鳴らした。

 

「そうだ!」

 

全員が見る。

 

「リガ・ミリティアに頼もうぜ!」

 

数秒の沈黙。

 

そして。

 

ガンズ爺が静かに話す。

 

「ザックよ」

 

「えっ」

 

「ニュース見とらんのかお前」

 

ザックが固まる。

 

ガンズ爺は腕を組み、苦い顔で言った。

 

「つい最近やっていたじゃろ」

 

「エンジェル・ハイロゥ破壊作戦」

 

その言葉に、空気が変わる。

 

メイも表情を曇らせた。

 

「……あ」

 

リオの顔から血の気が引く。

 

「あ……」

 

ガンズ爺は続けた。

 

「リガ・ミリティアは勝っておったが代償が多いと見た」

 

「艦隊もエースも消耗しておる」

 

「今残っているのは、ほぼ残党みたいもんじゃと思われるぞ」

 

リオが言葉を失う。

 

宇宙戦争は終わった。

 

みんなそう言っている。

 

だが実際は違う。

 

終わったのは“戦う力”の方だった。

 

ハロプトが静かに補足する。

 

『現在の地球連邦軍も再編中』

 

『ザンスカール戦争後の混乱で即応能力は低下している』

 

『大規模な木星残党討伐は期待できない』

 

リオが顔を俯かせる。

 

「そんな……」

 

ガンズ爺が深くため息を吐く。

 

「しかも木星の問題じゃ」

 

「連邦は本気で動くのはより難しいじゃろう」

 

メイが不安そうに言う。

 

「でも……じゃあどうするの?」

 

「放っといたらまた襲ってくるんでしょ?」

 

全員がX-5を見る。

 

ハロプトが静かに答えた。

 

『可能性は高い』

 

『ガルド・グラスは本機に強い執着を示している』

 

『理由は不明』

 

ザックが腕を組む。

 

「……連邦もリガ・ミリティアも期待できねえなら」

 

「自分らでなんとかするしかない、ってことかよ」

 

「無理だぁぁ……」

 

肩を落とすザック。

 

ハロプトが冷静に言う。

 

『現実的には戦力増強が必要だ』

 

『まずX-5を修復する』

 

『その後、X-6対策を構築する』

 

リオがうなずく。

 

「そうだな、まずは直さないと」

 

「ここまで逃げ延びた意味がなくなる……」

 

リオは先ほどの戦闘を思い返しながら、つぶやく。

 

ハロプトは言う。

 

『予備パーツを調達すればいい』

 

「……クロスボーンガンダムのか?」

 

『そうだ』

 

「どこにあるんだよ」

 

ハロプトは一瞬だけ沈黙した。

 

そして答える。

 

『存在しないとは断定できない』

 

『本機の建造記録が存在する以上』

 

『関連設備、予備部材、あるいは設計データが残存している可能性はある』

 

「可能性の話じゃんか!」

 

『可能性がゼロではない』

 

「またそれかよ……」

 

数秒の沈黙。

 

その時だった。

 

ガンズ爺がぼそっと言った。

 

「……一つだけ、心当たりがある」

 

全員が振り向く。

 

ザックが眉をひそめる。

 

「ガンズ爺?」

 

老人は嫌そうに顔をしかめた。

 

「知り合いというほどじゃない」

 

「昔、一度だけ噂を聞いたことがある」

 

「クロスボーン・ガンダム絡みの仕事をしておった技術者じゃ」

 

ハロプトが即座に反応する。

 

『サナリィ技術者か』

 

『可能性はある』

 

ガンズ爺は渋い顔のまま頷く。

 

「今も生きとる保証はない」

 

「居場所も曖昧じゃ」

 

「じゃが探す価値くらいはあるじゃろう」

 

リオが即答した。

 

「……会おう」

 

「早いの」

 

「偏屈くらいで済むなら全然いいさ」

 

ザックが頭を掻く。

 

「……つまり次は」

 

「宇宙の果てまで偏屈ジジイ探しの旅か」

 

メイが苦笑する。

 

「なんか話大きくなってきたけど、この辺りはジャンク屋だよねー」

 

ハロプトだけが真面目だった。

 

『急ぐべきだ』

 

『ガルドは必ず再接触してくる』

 

『そして次は――』

 

『確実に殺しに来る』

 

格納庫に、再び静寂が落ちた。

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