クロスボーン・ガンダムX-5   作:バード鳥鳥

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第1章⑥ 接近

《アイアン・ラビット》は静かに宙域を離れていた。

 

オンボロ戦艦のエンジンが唸る。

 

ザックは艦橋で航路を確認。

 

ガンズ爺を中心に、整備班は格納庫でX-5の解体同然の点検中だった。

 

メイが雑用で奔走し、リオも修理を手伝っていた。

 

平和……ではないが、少なくとも今は戦闘中ではない。

 

メイが端末を見ながら言った。

 

「ねぇリオ」

 

「んー?」

 

「そのクロスボーンガンダムってさ」

 

「いっぱいあったんでしょ?」

 

「だったら他の人に助けてもらえないの?」

 

「クロスボーンガンダム使ってた人とか」

 

悩むリオ。

 

「うーん、難しいだろうな」

 

「えっ」

 

「木星戦役なんて何十年も前だぞ」

 

「クロスボーンガンダムに乗ってた人たちなんか、とっくに引退してるか」

 

「トビア・アロナクスって人みたいに、生きてるかどうかも分からないんだろうさ」

 

メイは少し考える。

 

「そっか、残念だなあ」

 

「もしいたとしても、狙われそうな気もするけどなー」

 

「ああ、そっかリオ泥棒したもんね」

 

「違う、放っておかれてたから持ってきたの」

 

「それで厄介ごとも持ってきてるけどね」

 

「うぐっ」

 

言葉に詰まるリオを見て、メイはくすりと笑った。

 

そんな時だった。

 

「リオ、ちょっと来い」

 

「ん?」

 

ガンズ爺がリオを呼んだ。

 

「X-5の内部データを調べとったんじゃが」

 

「妙なことが分かった」

 

リオが顔をしかめる。

 

「また厄介事?」

 

ガンズ爺はため息を吐いた。

 

「この機体の記録データじゃ」

 

「途中からごっそり消えとる」

 

ハロプトが即座に反応する。

 

『あり得ない』

 

『本機の記録領域に異常は確認されていない』

 

『消失する理由がない』

 

「じゃから妙なんじゃ」

 

ガンズ爺は続けた。

 

「整備記録」

 

「改修履歴」

 

「搭乗者情報」

 

「運用ログ」

 

「全部途中から空白じゃ」

 

リオが眉をひそめた。

 

「壊れてるだけじゃないのか?」

 

「違う」

 

「これは消したんじゃろうな」

 

「誰かが意図的にな」

 

数秒の沈黙。

 

ハロプトも黙った。

 

珍しく反論しない。

 

メイが不安そうに呟く。

 

「なんか怖いんだけど……」

 

『同意する』

 

ハロプトが答える。

 

ガンズ爺は肩をすくめた。

 

「まぁ今すぐどうこう出来る話じゃない」

 

「何ができるわけでもない、まっ、脅すわけじゃあないが」

 

「ろくでもないものである確率は高まったというわけじゃ」

 

リオは渋い顔をしながらぼそりと言う。

 

「ちくしょう、厄介すぎるぜクロスボーンガンダム」

 

『欲をかいて本機を回収した時点で結果は予測できた』

 

「うるせー、俺が助けなかったらお前木星に捕まってたってのに」

 

『お前がいなくても問題なく対応できた』

 

「嘘つけ見栄っ張りAI!」

 

メイとガンズ爺が苦笑する。

 

その時だった。

 

格納庫の端末にも短い電子音が鳴る。

 

《通信受信》

 

メイが顔を上げる。

 

「あれ?」

 

次の瞬間。

 

艦橋にいるザックから、艦内通信越しに間の抜けた声が聞こえた。

 

「……は?」

 

メイが首を傾げる。

 

「どうしたの?」

 

艦内通信でザックに声をかけるメイ。

 

「発信元」

 

「地球連邦軍」

 

艦内が静まり返る。

 

数秒。

 

誰も反応できない。

 

「……マジだぞ、本当に連邦軍だ」

 

リオが固まる。

 

「……え?」

 

「認証コードも本物」

 

「軍用回線だ」

 

メイが青ざめる。

 

「な、なんで!?借金取り!?」

 

「そ、そんな天下の連邦軍がまさか!!」

 

ザックが頭を抱えた。

 

「静かにしろお前ら」

 

通信要求が再び表示される。

 

《優先通信》

 

《地球連邦軍》

 

艦内の空気が一気に張り詰める。

 

ハロプトが淡々と言った。

 

『受信を推奨』

 

『拒否した場合、敵対行動と判断される可能性がある』

 

「うわぁ……」

 

やがてリオたちが艦橋へ駆け込んでくる。

 

全員が揃ったのを確認し、ザックは深く息を吐いた。

 

艦橋のモニターには、すでに連邦軍のMSが映し出されていた。

 

その中心に、ひときわ異質な一機がいた。

 

真っ白な機体。

 

V.S.B.R。

 

そして、ガンダムのようなツインアイ。

 

リオが思わず呟く。

 

「F91……?」

 

通常のF91とは異なり、機体のほぼ全身が白。

 

差し色も、わずかな黄色だけだった。

 

ザックが小さく呟いた。

 

「F91なんてまだあったのかよ……」

 

「そ、それより早くザック繋がないと!!」

 

メイの声にハッとしたザックは慌てながらも言う。

 

「あ、ああ、繋ぐぞ」

 

通信回線が開く。

 

ノイズ。

 

映し出されたのは鋭い目をした男だった。

 

短く整えられた髪。

 

無駄のない軍服。

 

そして軍人特有の威圧感。

 

「地球連邦軍所属、フェーレン・アシキッド少佐だ」

 

「質問する。数時間前、この宙域で連邦軍偵察部隊が消息を絶った」

 

艦橋の空気が凍る。

 

「生存者ゼロ。機体残骸多数」

 

「部下から送られた映像からはMSによる交戦が確認されている」

 

リオは思わず顔を俯ける。

 

ザックがゆっくり目を細める。

 

嫌な予感しかしない。

 

白いF91が微動だにしない。

 

まるでこちらを見透かしているようだった。

 

そして男は言った。

 

短い沈黙。

 

「お前たちがやったのか?」

 

短い問いが、艦橋を沈黙させた。

 

周囲に待機していたジェムズガンとヘビーガンが、一斉にライフルを構えた。

 

《アイアン・ラビット》を包囲するように展開していく。

 

ザックの顔が青くなる。

 

「ちょ、ちょっと待て」

 

「なんで全機こっちに銃を向けるんだ!?」

 

「うちジャンク屋だぞ!?」

 

「密輸もしてねぇぞ!?」

 

メイが震える。

 

「ザック、それ言うと逆に怪しいよ」

 

「じゃあどう言えってえのさ!!」

 

ガンズ爺が感心したように呟く。

 

「F91とは、いい機体じゃのぉ」

 

「それは俺も思ったけど今いうなじいさん!」

 

モニター中央。

 

白いF91だけがゆっくり前へ出る。

 

「早くほらザック!!何か言わなきゃ!!待ってるよ!!」

 

メイの急かす声に合わせるようにザックが敬礼っぽい何かをする。

 

「わっ、ワイルドキャット商会代表のザックです!」

 

「俺たち何もやってません!!」

 

「弱小ジャンク屋です!!」

 

「借金しかありません!!」

 

フェーレンの眉がわずかに動く。

 

「……やってない、そういうんだな?」

 

「は、はい、その、す、すんません……」

 

なんとなく謝ってしまい、ザックの肩が落ちる。

 

フェーレンは続ける。

 

「……正体不明の機体が一機この方面へ逃走した」

 

「部下の最期の報告だ」

 

「その機体に心当たりはあるか」

 

ザックの背中を冷や汗が流れる。

 

まずい。

 

まずいまずいまずい。

 

クロスボーンガンダムならある。

 

しかも格納庫に。

 

完全にある。

 

「い、いやその、これはですね」

 

「事情というか、誤解というか、事故というか」

 

しどろもどろになる。

 

その時だった。

 

リオが前へ出る。

 

「俺だ」

 

ザックが固まる。

 

「リオ!?」

 

リオはフェーレンを真っ直ぐ見た。

 

「確かにクロスボーン・ガンダムならある」

 

艦橋の空気が凍る。

 

連邦側もざわついた。

 

「クロスボーン・ガンダムだと?」

 

「本当に存在したのか?」

 

「馬鹿な……」

 

フェーレンだけは表情を変えなかった。

 

「でも俺たちはやってない」

 

リオは拳を握る。

 

そして。

 

少しだけ視線を落とした。

 

「……けど」

 

「見殺しにはした」

 

ザックが絶叫する。

 

「ば、バカ!!」

 

「なんで言うんだよ!!別に言う必要ないだ――」

 

「嘘ついても仕方ないだろ!」

 

リオは唇を噛んだ。

 

「……事実なんだ」

 

「リオ……」

 

ザックは小さく呟いた。

 

フェーレンの目が細くなる。

 

「見殺し、か。詳しく聞かせてもらおうか」

 

その瞬間だった。

 

連邦側の通信回線が騒がしくなる。

 

「隊長!」

 

「高熱源反応!!」

 

「接近中です!!」

 

フェーレンが振り向く。

 

「接触まで!」

 

「10分!!」

 

艦橋の空気が一変した。

 

ザックが青ざめる。

 

「な、なんだ!?」

 

メイがセンサーを見る。

 

「MS!?」

 

「違う……速すぎる!」

 

その瞬間。

 

ハロプトが艦内の通信回線を開いて言う。

 

迷いのない、確信に満ちた声だった。

 

『識別完了』

 

リオの背筋が凍る。

 

嫌な予感しかしない。

 

ハロプトが静かに告げる。

 

『X-6』

 

沈黙。

 

そして続ける。

 

『ジュピター・クロスボーンガンダム』

 

『接近中』

 

誰も言葉を発せなかった。

 

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