クロスボーン・ガンダムX-5   作:バード鳥鳥

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第1章⑦ ハンマー

艦橋に警報が鳴り響く。

 

ガンズ爺は状況を察し、一足早く格納庫へ向かった。

 

《敵機、高速接近中》

 

メイが真っ青な顔をする。

 

「わ、わああ!?来たの!?」

 

ザックも慌てふためく。

 

「もう来るぅぅぅ!?」

 

リオも絶望顔だった。

 

「早すぎる……!!」

 

その時。

 

別回線が開く。

 

フェーレンだった。

 

「全機へ!迎撃態勢を取れ!」

 

「はっ、了解です!ジェムズガン隊前進!」

 

「頼んだ!ヘビーガン隊は後方支援!」

 

「了解!」

 

窓の外。

 

ジェムズガン隊が次々と前へ出る。

 

ヘビーガンも展開を開始した。

 

連邦軍はすでに戦闘準備へ移行していた。

 

「ジャンク屋、話はあとで聞く。後退しろ!」

 

そう言ってフェーレン率いる連邦軍は前方へ向かう。

 

「……連邦軍、どうにかしてくれねえかな」

 

ザックが乾いた笑いを漏らす。

 

『無理だな』

 

ハロプトは即答した。

 

『連邦軍のみで迎撃した場合、前衛は突破される』

 

『その後、本艦を含めた生存確率は3%以下』

 

リオが即座に聞き返す。

 

「3割……!?」

 

『3%だ』

 

「……無いに近いじゃないか」

 

メイが騒ぎ立てる。

 

「そ、そんなぁ!!まだお金持ちにもなってないのに!!」

 

ザックが苦笑する。

 

「俺もまだローン残ったままなのによぉ……」

 

ハロプトが続ける。

 

『だが、我々も戦闘に参加した場合』

 

「戦えば……?」

 

リオは生唾を飲む。

 

そして、全員が少しだけ期待した。

 

『生存率は向上する』

 

「……どれぐらい?」

 

『13%だ』

 

沈黙。

 

リオが顔を引きつらせる。

 

「……連邦軍にF91、お前が動かすX-5もいるのに?」

 

『その数値は正常状態のX-5を含めた試算結果だ』

 

『現在の本機の状態では、さらに低下する可能性が高い』

 

リオの顔がさらに引きつった。

 

「……やばいなぁ」

 

艦橋のモニターには、現在のX-5の状態が映し出されている。

 

右腕――応急腕部を装着中。

 

装甲――応急修復。

 

推進剤――最低限。

 

クロスボーン・ガンダムの代名詞ともいえる、

 

ザンバスター。

 

ビーム・ザンバー。

 

ブランドマーカー。

 

そのどれもない。

 

あるのは――

 

『現在装備されている武装は、バルカンと足裏ヒートダガーのみ』

 

『現時点で使用可能な代替装備によっては、生存率は7%前後まで上昇すると推測』

 

メイが半泣きで叫ぶ。

 

「それでも7%なの!? ど、どうしようもないじゃん!!」

 

ザックもモニターを見て顔を引きつらせる。

 

「……ぜ、絶望てきぃ……」

 

―――――――――――――――――――

 

そのころ。

 

白いF91のコクピット。

 

フェーレンは無言でセンサー情報を眺めていた。

 

「隊長」

 

「あの民間船にも協力を求めないのですか?」

 

部下が不安そうに尋ねる。

 

フェーレンは先ほどより口調を和らげて、短く答えた。

 

「いいや、いらないさ」

 

「だが」

 

僅かに目を細める。

 

「クロスボーン・ガンダムがいるのなら、あるいは来るかもな」

 

―――――――――――――――――――

 

アイアン・ラビット格納庫。

 

リオは転がるように格納庫へ向かった。

 

リオより先に戻ったガンズ爺が忙しそうに動いている。

 

そこではX-5が整備ベッドに固定されていた。

 

右腕だけ異様だった。

 

緑色のゲルググ腕。

 

クロスボーンの細身フレームに全然合っていない。

 

リオが顔をしかめながら、ガンズ爺を呼び止める。

 

「えっ、あの、ガンズ爺この珍妙なのは……」

 

「文句を言うな」

 

ガンズ爺はスパナを振りながら言う。

 

「その腕が動くだけでも奇跡じゃ」

 

ハロプトが補足する。

 

『駆動系接続精度42%』

 

『反応遅延あり』

 

『近接戦闘時に脱落の危険性もある』

 

「ないよかマシじゃろ」

 

「…………」

 

リオはX-5を見上げた。

 

本当にボロボロだった。

 

伝説のクロスボーンガンダム。そのはずなのに、今は宇宙のジャンク同然だ。

 

だが、ハロプトが静かに言った。

 

『……同意。現在の戦力では極めて不利だ』

 

『接続は不完全だが、使用可能な腕部があるだけでも戦力は向上する』

 

リオが苦い顔をする。

 

「…………っ」

 

脳裏にX-6の姿が浮かぶ。

 

連邦軍を見殺しにしてまでも生き延びた。

 

だというのに、あの獣は再びこちらへ牙を向けに来た。

 

身体の震えを隠せない。多少の補給は済んだ。だが、状況は大きく変わっていない。

 

また、同じことになるのではないかと頭に不安が渦巻く。

 

ガンズ爺が低く言う。

 

「リオ」

 

「……なんだよ」

 

「お前さん、怖いか」

 

「っ……! 怖すぎるさ!死ぬのも怖い!!」

 

「また、誰か死ぬのも怖い……!!」

 

「相手は化け物、そんで俺、ただのジャンク屋なんだ……!!」

 

「怖がるなって言うのかよ、ガンズ爺!」

 

ガンズ爺は微笑した。

 

「ふっ、正常じゃな」

 

リオが目を丸くする。

 

老人は工具を置き、X-5を見上げる。

 

「本当に危ない奴ほど」

 

「“怖い”を忘れる」

 

静かな声だった。

 

「怖がれるうちは、まだ人間じゃ」

 

リオは少し黙った。

 

格納庫は、出撃直前の慌ただしさに包まれている。

 

「……無責任じゃがな、もうお前に頼る他ない」

 

「俺は、何も出来ないよ。ハロプトが動かしてくれないと……」

 

「本当にそうなら、アイツに任せちまってもいいじゃろう」

 

「えっ」

 

「じゃが言っておくぞ!!頼んだぞ、リオ!!」

 

ガンズ爺は整備員たちへの指示を飛ばし、格納庫では工具が飛び交う。

 

リオは顔を俯かせて、黙る。

 

ガンズ爺の言葉を受けるように、ハロプトは言う。

 

『私一人でも操作は可能だ』

 

「……だったら」

 

『だが、それではX-6を倒せないだろう』

 

「えっ……」

 

『私はあくまで補助AIだ。計算した行動は可能だ』

 

『しかし、予測もできない戦闘は出来ない』

 

『私の計算だけでは届かない可能性を引き出すのが、お前だ――リオ・ガーランド』

 

「…………」

 

『お前が怖いのならば、搭乗しなくても構わない』

 

『その場合は、艦内から実行可能な作戦を立てろ』

 

『無策で生き残れる状況ではない』

 

リオはふと、周りを見渡す。

 

自分がこのまま艦内に残っていても、できることはない。

 

作戦を立てろと言われても、この状況で思いつく策なんて一つも浮かばなかった。

 

そして、もう逃げる道なんかない。

 

ここにはアイアン・ラビットもある。逃げればこの船は落とされてしまうかもしれない。

 

それに、ここでもう一度逃げれば、あの時見捨てた彼らと同じ犠牲をまた生むことになる。

 

――偽善、だな。

 

理由をつけて、自分を奮い立たせるための、罪悪感を解消させるための偽善。

 

だけど――

 

「……俺に少しでも何か出来るのなら、乗るよ、X-5に」

 

リオは、決意した。

 

罪悪感から生まれた決意でも構わない。

 

今は、自分にできることをするしかなかった。

 

途端。

 

『最初からそう言え』

 

そんな覚悟を無下にするような毒舌がリオに刺さる。

 

「……お前、嫌な奴だよな」

 

リオは調子を崩されながらも、その嫌味さに緊張がほぐれた気がした。

 

――――――――――――――――――――

 

格納庫の隅にはジャンク品の山が積み上げられていた。

 

ザクの肩。

 

ジムの脚。

 

どこのか分からないビームライフル。

 

果ては作業用アームまで。

 

まるで小さなゴミ捨て場であった。

 

整備班の兄ちゃんが叫ぶ。

 

「リオー!!」

 

「使えそうと思ったもん適当に持ってけ!!」

 

「あ、ああ!!ありがとう!!」

 

「まあ、ろくなもんないけどな!!」

 

「……ん、まあそうかも」

 

苦笑するリオ。

 

ハロプトが冷静にジャンク山をスキャンする。

 

《検索中》

 

《使用可能装備選定中》

 

数秒後。

 

クレーンが動く。

 

運ばれてきたのは、

 

旧式ハイパーバズーカ。

 

そして大型ヒートソード。

 

リオが目を丸くする。

 

「お、意外とちゃんとしてる」

 

『現実的選択だ』

 

ハロプトが答える。

 

『現在のX-5に必要なのは火力と白兵戦能力』

 

『ビーム兵器はエネルギー消費が大きすぎる』

 

ガンズ爺が頷く。

 

「そもそもビーム兵器なんて上等なもんは壊れかけのもんしかないしの」

 

その時。

 

リオがジャンク山の端を指差した。

 

「あ」

 

そこに転がっていたのは。

 

巨大な鉄球。

 

鎖付き。

 

完全に時代錯誤な武器だった。

 

メイがぽかんとする。

 

「……チェーンハンマー?」

 

「ガンダムならハンマーかなってさ」

 

沈黙。

 

ハロプトが即答した。

 

『誤りだ』

 

「えっ」

 

『歴史上、ハンマーを標準的に使用したガンダムは初代のみ』

 

『よって“ガンダムならハンマー”という認識は統計学的に誤っている』

 

格納庫が静まる。

 

リオが顔をしかめる。

 

「でもガンダムが使ったじゃん」

 

『ガンダムならとお前は言った』

 

「そうだけど!!」

 

リオがチェーンハンマーを指差す。

 

「いやでも、それでもガンダムが使ったなら使える!!」

 

『命中率が低い』

 

『宇宙空間では慣性制御が困難』

 

『チェーン部破断時の危険性も高い』

 

「けど使えるかもだろ!!」

 

数秒沈黙。

 

そして。

 

ハロプトが静かに付け加えた。

 

『……だが』

 

リオが顔を上げる。

 

『敵の予測外ではある』

 

「!」

 

『X-6は高機動近接型』

 

『未知の攻撃には一瞬反応が遅れる可能性がある』

 

メイが笑う。

 

「採用するんだ?」

 

ハロプトが嫌そうに答える。

 

『……不本意だがな』

 

リオが驚く。

 

「……お前が折れると思わなかった」

 

『使えないと認識したら即座に宙域に破棄する』

 

「それは勿体ないだろ!!」

 

整備員たちが騒ぎながらチェーンハンマーを運ぶ。

 

「なんか海賊っぽくなってきた!!」

 

「海賊というか宇宙山賊だろ!!」

 

「ジャンク屋仕様ってやつだ!!」

 

ハロプトが静かに答えた。

 

『機体構成が当初設計思想から大幅に逸脱している』

 

『評価不能だ』

 

「でも他の武装もろくに使えそうなのないしさ、いいんじゃないか?」

 

『よろしくない』

 

「不貞腐れるなよ」

 

『不貞腐れていない』

 

メイが笑顔で言う。

 

「拗ねないでよー!!」

 

整備員たちも笑う。

 

さっきまで漂っていた重苦しい空気が、少しだけ薄れた。

 

リオがコクピットへ乗り込みながら言う。

 

「諦めろよ、相棒」

 

『誰が相棒だ』

 

「お前」

 

数秒の沈黙。

 

そして。

 

バズーカは背部へ固定。

 

ヒートソードは腰部へ括り付ける。

 

チェーンハンマーは左腰の即席ラックへ吊るされた。

 

「……出撃準備完了」

 

X-5のツインアイが点灯する。

 

右腕はゲルググ。

 

武器はジャンク。

 

装甲はボロボロ。

 

なのに。

 

不思議と、さっきより“戦える機体”に見えた。

 

その時。

 

艦内警報が変わる。

 

《敵機接敵》

 

《迎撃隊と交戦開始》

 

メイの悲鳴が通信越しに響く。

 

「き、来たっ!!」

 

ザックも怒鳴る。

 

「連邦軍前衛と接触!!」

 

「全員衝撃に備えろ!!」

 

メイの声が通信に響く。

 

「リオ!!」

 

「ん?」

 

「絶対帰ってきてよ」

 

リオは一瞬だけ黙り、

 

「努力する」

 

「努力じゃなくて絶対!!」

 

「わ、わかったよ!!」

 

「よしっ!!」

 

メイは笑顔で返す。

 

ハロプトは呆れたように呟いた。

 

『口約束ばかりだな』

 

「うるさいな、茶々入れるなよ」

 

『だが、私からも言わせてもらう』

 

「なんだよ」

 

『死ぬな』

 

リオは驚くような顔を見せたあと、苦笑した。

 

「……おう」

 

その直後だった。

 

艦橋から悲鳴のような通信が飛び込む。

 

「ジェムズガン一番機撃墜!!」

 

「速すぎる!!」

 

「見え――」

 

通信が途切れる。

 

リオの顔から笑みが消えた。

 

戦闘が始まった。

 

本当に。

 

始まってしまった。

 

喉を鳴らし、リオは叫んだ。

 

「クロスボーン……クロスボーンガンダムX-5は、俺が、リオ・ガーランドが行ってくる!」

 

そして。

 

カタパルトもない格納庫から、

 

オンボロのクロスボーンガンダムX-5は、再び宇宙へ飛び出した。

 

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