クロスボーン・ガンダムX-5   作:バード鳥鳥

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第1章⑧ 再戦

宇宙へ飛び出したX-5は、ゆっくりと機体姿勢を安定させた。

 

推進剤警告。

 

フレーム負荷警告。

 

右腕同期率低下。

 

警報だらけだ。

 

リオは思わず不安を口にする。

 

「ほ、本当に大丈夫だよな、これ……」

 

ハロプトは冷静だった。

 

『敵影確認』

 

モニターに映った光景を見た瞬間。

 

リオは息を呑んだ。

 

「っ……」

 

戦場だった。

 

木星残党のバタラ数機。

 

ジェムズガン隊。

 

ヘビーガン隊。

 

連邦軍機が次々と火線を張っている。

 

ビームが飛び交い、爆発が連続する。

 

その中心を、白いF91が駆けていた。

 

V.S.B.Rが展開する。

 

閃光。

 

次の瞬間。

 

X-6より先行していた木星残党機が一機、爆散した。

 

リオが思わず声を上げる。

 

「すげぇ……」

 

ハロプトが答える。

 

『F91』

 

『数十年経った今も未だ高性能機』

 

『標準仕様からさらに改修されていると推測』

 

『搭乗者も優秀と推定』

 

リオは不安を押し込み、X-5を前方へ加速させる。

 

その時だった。ハロプトの声色が変わる。

 

『警告』

 

リオの背筋が冷える。

 

『敵主力確認』

 

戦場の奥。

 

暗い宇宙の中から。

 

赤い光が現れた。

 

ギギギ……

 

嫌な駆動音とともに、歪な機体シルエットが現れる。

 

リオの顔色が変わる。

 

「あいつ……」

 

忘れるはずがなかった。

 

クロスボーン・ガンダムX-6。

 

木星が生み出した異形の機体。

 

そしてその後方。巨大な棺桶型ユニットを背負った木星機。

 

その機体には、ガルド・グラスが乗っていた。

 

通信が開く。

 

「再会だな、X-5」

 

楽しそうな声が響く。

 

リオは思わず顔をしかめる。

 

「全然嬉しくねぇよ……」

 

ガルドは笑う。

 

「ふふふ、私は嬉しいがね」

 

「まあ、少々予定外の客もいるようだが」

 

サルコファゴのモノアイが、白いF91へ向けられる。

 

フェーレン・アシキッド。

 

F91のコクピットでフェーレンがX-6を見ながら静かに呟く。

 

「あれか」

 

「部下を殺した機体は」

 

「識別信号なし」

 

数秒。

 

センサー情報を見る。

 

「形状は……クロスボーン・ガンダムに酷似しているな」

 

ビームライフルを構えるF91。

 

X-6の赤いツインアイが光る。

 

ガルドが面白そうに笑った。

 

「クロスボーン・ガンダム以外のガンダムには用はないのだがね」

 

フェーレン。ガルド。そしてX-6。

 

リオは唾を飲み込む。

 

目の前にいるのは。

 

連邦のエース。木星の狂信者。

 

そして、恐怖の権化とも言える黒き獣。

 

ハロプトが静かに告げた。

 

『リオ』

 

『……なんだ』

 

『ここから先は、本当の戦闘だ』

 

二戦目のジャンク屋が立つには、あまりにも大きすぎる戦場だった。

 

ジェムズガン隊の一機が前へ出た。

 

「捉えた!!」

 

ビームライフルが火を噴く。

 

閃光が宇宙を裂いた。

 

だが、当たらない。

 

ガルド機は僅かに姿勢を傾けただけだった。

 

「なっ――」

 

その瞬間だった。

 

フェーレンの怒声が通信へ響く。

 

「待て!!」

 

「不用意に近付くな!!」

 

だが遅かった。

 

ガルドが笑う。

 

「勇敢だな、連邦の犬」

 

木星機の背部にある棺桶型ユニットが展開する。

 

ギギギ……

 

不気味な駆動音。

 

ジェムズガンのパイロットが戸惑う。

 

「なんだ……?」

 

次の瞬間、棺桶内部から無数の光が溢れた。

 

「ミサイル!?」

 

マイクロミサイルだった。

 

数十発。いや、それ以上。

 

ジェムズガンが慌てて回避機動へ移る。

 

爆発。

 

爆発。

 

爆発。

 

火線が宇宙を埋め尽くす。

 

「くそっ!!」

 

「多すぎる!!」

 

機体を振り回しながら辛うじてかわす。

 

回避しきれた。そう思った。

 

だが、ガルドは笑っていた。

 

「避けたかぁ」

 

ガルドの機体が急旋回する。

 

棺桶型兵装を鎖で引いたまま。常識外れの機動だった。

 

「なっ!?」

 

ジェムズガンのパイロットが目を見開く。

 

慣性に引かれた棺桶型兵装が、鎖を伸ばして大きく回り込む。

 

巨大な鉄塊がジェムズガンへ迫った。

 

そして、棺桶の縁が発光した。

 

ビーム刃。棺桶そのものが巨大な刃へ変わる。

 

「なっ、それ――!?」

 

「ふはははは!!」

 

絶叫。

 

棺桶がジェムズガンのコクピットを正確に切り裂いた。

 

ドォォォン!!

 

爆発。

 

機体が真っ二つになる。通信が途絶えた。

 

ガルドは愉快そうに笑う。

 

「ははは!!我が機体、サルコファゴ!!侮ってはならんなぁ!」

 

「連邦の犬っころめが!!」

 

爆炎を突き破り、鎖を引いたサルコファゴ本体が姿を現す。

 

赤いモノアイが強く光っていた。

 

その時。

 

X-6がゆっくり前へ出る。

 

ギギギ……

 

関節が不自然に鳴る。

 

そして。

 

ノイズ混じりの声。

 

「…………アア……オオッ……」

 

リオが凍る。

 

まただ。

 

“中の誰か”が呻いている。

 

ハロプトが静かに言う。

 

『内部に保存された人格反応が不安定化している』

 

「全く、また制御を乱しおって」

 

X-6へ電流が走る。

 

ギィィィィ!!

 

まるで悲鳴。

 

リオが顔をしかめる。

 

「あいつ、何かしたのか」

 

『懲罰制御と推測する。前回の戦闘時にも似た動作を行っていた』

 

「懲罰、って……!」

 

ガルドはオープンチャンネルにして笑った。

 

「理解できんだろうな、小僧!」

 

「英雄など“道具”にすぎん!!」

 

「死してなお、保存した人格を何度でも使い回せばいい!!」

 

「黙ってな、じいさんよ!」

 

ガルドの演説を打ち切らせるように、F91率いる連邦部隊が攻撃を再開する。

 

それを見ながら、リオは操縦桿を握り締める。

 

アイツは、正気じゃない。

 

怖い。逃げたい。

 

でも。

 

X-5の左手がチェーンハンマーを掴み、即席ラックから引き抜く。

 

「……知ったもんか」

 

「英雄とか、木星とか、クロスボーンとか」

 

X-5のツインアイが光る。

 

「でも」

 

リオはガルドを睨んだ。

 

「人をあんなふうに使う奴を、放っておけるか……!!」

 

ハロプトは呟く。

 

『リオ、落ち着け』

 

リオは震える声のまま叫んだ。

 

「ジャンク屋なめんなぁぁぁぁ!!」

 

X-5が加速した。

 

鉄球が鎖を引きながら宇宙で唸る。

 

リオは半分ヤケだった。

 

だが次の瞬間。

 

ガコンッ!!

 

ハーネスがリオの身体へ食い込んだ。

 

「うわっ!?」

 

急制動。

 

ハロプトが強制的に推力を切っていた。

 

X-5がその場で停止する。

 

リオは思わず咳き込んで涙目になる。

 

「なにすんだよぉ!?」

 

ハロプトは静かだった。

 

『再度伝える。落ち着け』

 

「落ち着いてられるか!!」

 

『三度目だ、落ち着け』

 

声が低い。

 

いつもの淡々とした調子なのに、妙な圧があった。

 

リオは少しだけ黙る。

 

ハロプトが続ける。

 

『お前の暴走を奴は誘っている』

 

『そのまま突撃すれば、奴の迎撃範囲へ自ら飛び込むことになる』

 

「……!!」

 

『だから考えろ、ジャンク屋』

 

『初回戦闘とは状況が違う』

 

『あの時は相手も見くびっていた』

 

『だが今、敵はお前と連邦軍を相手にしている』

 

『ジャンク装備程度では決定打にならない』

 

リオは悔しそうに歯を食いしばる。

 

「でも……」

 

ハロプトが遮る。

 

『それに』

 

一瞬。

 

モニターへ《アイアン・ラビット》の艦影が映る。

 

『お前一人の問題ではない』

 

リオが止まる。

 

『メイ、ザック、ガンズ爺、整備班』

 

『連邦軍もこちらを守ってくれる保証がない』

 

『今のお前は、自分の命だけを考えて動ける立場ではない』

 

その言葉は重かった。

 

リオの熱が、少しだけ冷える。

 

だが。

 

少しだけ、怖さが戻ってきた。

 

自分だけならまだいい。でも今は違う。

 

背後には《アイアン・ラビット》がいる。

 

みんながいる。

 

リオは唇を噛む。

 

「……じゃあどうすんだよ」

 

ハロプトが即答した。

 

『現状、連邦軍と利害は一致している』

 

『故に動きを合わせろ、単独で決着を狙うな』

 

『勝つことも重要だ。だが、生き延びることを忘れるな』

 

その言葉に、リオは息を呑んだ。

 

熱くなっていた頭が、少しずつ冷えていく。

 

その時。

 

ガルドの笑い声が響く。

 

「どうした小僧」

 

「勢いだけで突っ込んでこないのか?」

 

「木星へ楯突く覚悟など、その程度か」

 

連邦軍と戦いながらも余裕を見せるガルド。

 

リオが睨み返す。

 

だがハロプトが制した。

 

『挑発だ、乗るな』

 

X-6がゆっくり前へ出る。

 

赤いツインアイ。

 

その内部から、微かな声が漏れる。

 

「……ニゲ……ろ……」

 

リオが眉をひそめる。

 

「……俺たちに、逃げろって言ってるのか……?」

 

ハロプトが静かに分析する。

 

『内部人格による抵抗と推測』

 

『まだ完全制御には至っていない』

 

ガルドが呆れた声を出す。

 

「やれやれ、欠陥品はこれだから困る」

 

「それはてめぇのことかい、じいさん!」

 

隙を見せたサルコファゴへ、F91がビームライフルで攻撃を仕掛ける。

 

「ちぃ、小賢しいな貴様ぁ!」

 

回避行動を行いながら、右手にビームライフルを構えて反撃するガルド。

 

流れるように避けるF91。

 

だが、フェーレンはまだ動き出さないX-6を不気味に思う。

 

「隊長、あの黒いやつへの攻撃を!」

 

「わかってる!だが、どうにも嫌な予感しかしないぜ、あれは……!」

 

その時だった。

 

ギギギギギ!!

 

X-6が苦しむように震える。

 

「来るぞ!!」

 

フェーレンが叫んだ。

 

次の瞬間。

 

黒い機影が消えた。

 

「なっ――」

 

ヘビーガン隊が反応する暇もなかった。

 

一瞬。

 

本当に一瞬だった。

 

黒い影が通り過ぎる。

 

そして。

 

ドォォォン!!

 

後方のヘビーガンが爆散した。

 

「二番機!?」

 

「何が起きた!?」

 

「見えなかった!!」

 

通信が混乱する。

 

爆炎から離れた位置で、X-6が静止していた。

 

右手のビーム・ザンバーが蒼白く輝き、赤いツインアイがこちらを見据えている。

 

リオの背筋を冷たいものが走る。

 

「やっぱり……早すぎる」

 

今度は、正面から相対していた時とは違う。

 

離れた位置から見ても、X-6の動きは異常だった。

 

自分の腕が悪かっただけではない。

 

あれは、本当に速い。

 

ハロプトが静かに告げる。

 

『機体性能に差異無し。変わらずの脅威だ』

 

「……ははっ」

 

リオの声が引きつる。

 

「勘弁、してほしいよな……」

 

『同意だ』

 

その時だった。

 

サルコファゴの赤いモノアイが、X-5を捉える。

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