クロスボーン・ガンダムX-5   作:バード鳥鳥

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第1章⑨ 声

サルコファゴの巨大な棺桶ユニットが唸る。

 

ブースター噴射。

 

そのまま鉄塊のように振り回された。

 

「ぐぅぅぅっ!!」

 

リオが声を漏らす。

 

X-5は急旋回。

 

振り向きざま、旧型バズーカを撃ち返す。

 

しかし当たらない。

 

「くっ!!やばい……!!」

 

ハロプトが冷静に告げる。

 

『デブリ帯を利用する』

 

『敵機は大型装備により小回り性能が低い』

 

残骸宙域へ滑り込む。

 

巨大デブリの陰を縫い、棺桶をギリギリで回避する。

 

ゴォォン!!

 

廃艦の残骸が粉砕される。

 

ガルドの笑い声。

 

「どうした小僧!」

 

「ネズミのようにちょろちょろ逃げていてはぁ!!」

 

「クロスボーン・ガンダムの名が泣くぞ!?」

 

さらに棺桶が振り下ろされる。

 

ドォォォン!!

 

近くを漂っていた残骸が粉砕された。

 

破片が四方へ飛び散る。

 

リオが悲鳴を上げる。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

『回避』

 

ハロプトが即座にスラスターを噴射する。

 

X-5が横へ滑った。

 

破片が装甲を掠める。

 

《左肩装甲損傷》

 

「当たってる当たってる!!」

 

『致命傷ではない』

 

「だからって!!」

 

X-5が次々と残骸の間を抜ける。

 

振り回された棺桶が追う。

 

だが大振りすぎる。

 

狭いデブリ帯では軌道修正が遅れる。

 

逃げ回るX-5。

 

しかしガルドは笑む。

 

「まったく、逃げ回りは実にお得意だな!!X-5!!」

 

サルコファゴが棺桶ユニットを振り回す。

 

デブリを粉砕。

 

残骸が散弾みたいに飛んでくる。

 

X-5が急回避。

 

リオは悲鳴を上げながら操縦席へしがみつく。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

『姿勢維持』

 

『スラスター左3』

 

「分かんねぇよ!!」

 

完全にハロプト任せだった。

 

だが。

 

さっきより少しだけリオは周囲を見れていた。

 

X-6の動き。

 

ガルドの癖。

 

デブリの流れ。

 

リオは再び迫るサルコファゴを見る。

 

巨大な棺桶が遠心力を乗せて宇宙を薙ぐ。

 

あの脅威だけは、見慣れるものではなかった。

 

リオが思わず叫ぶ。

 

「くっそぉ、まるで巨大なハンマーじゃねぇか!」

 

「宇宙であんなの振り回すな!」

 

数秒。

 

ハロプトが即座に応答する。

 

『……ハンマー』

 

『本機にも類似兵装を装備している』

 

リオが振り向く。

 

「は?」

 

『チェーンハンマー』

 

『遠心力による打撃を目的とした近接兵装』

 

『運用思想は類似している』

 

リオが呆れる。

 

「いや、そんな分析してる場合か!?」

 

だがハロプトは続ける。

 

『興味深い』

 

『鎖状兵装は、通常の近接武装より軌道予測が難しい』

 

『チェーンハンマーにも、撹乱兵装としての有効性がある』

 

「お前さっきめちゃくちゃ否定してたくせに……」

 

『評価を改める』

 

「なんて手のひら返しだよお前!!」

 

その時だった。

 

サルコファゴが再び突撃してくる。

 

「逃げるだけかぁ、小僧!!」

 

さらに棺桶ユニットが振り回される。

 

X-5が急旋回。

 

巨大なデブリの陰へ滑り込んだ。

 

ゴォォォン!!

 

棺桶が残骸へ直撃する。

 

大型輸送艦の残骸が真っ二つになった。

 

リオが青ざめる。

 

「当たったら死ぬ!!」

 

『正しい認識だ』

 

X-5がさらにデブリ帯へ入り込む。

 

巨大な残骸。

 

破壊された艦艇。

 

砕けたコロニー外壁。

 

宇宙の墓場だった。

 

リオは腰部ラックへ一瞬だけ視線を向けた。

 

チェーンハンマー。

 

「……使う、チャンスか……!!」

 

サルコファゴは棺桶兵装を振り切った直後。

 

次の攻撃へ移るまで、僅かに間があるとリオは思った。

 

今の距離なら、デブリを避けてチェーンハンマーの間合いまで接近できる。

 

ハロプトの言う通りなら――

 

「今なら……!」

 

だが。

 

『まだだ』

 

ハロプトは即答した。

 

「なんでだよ!」

 

『ガルド・グラスは遊んでいる』

 

リオが眉をひそめる。

 

「……遊んでる?」

 

『奴が本気で殲滅を望むなら』

 

『こちらを無理にでも突破する力はあるだろう』

 

リオが息を呑む。

 

『だがそうしない、理由は単純だ』

 

ハロプトの声が低くなる。

 

『可能ならX-5を捕獲したい』

 

『奴はクロスボーン・ガンダムを欲しがっているからな』

 

その時だった。

 

まるで聞いていたかのように。

 

ガルドが笑う。

 

「ははははは!!」

 

「もっと必死に抗ってくれてもいいぞ!?」

 

「鬼ごっこを楽しもうじゃないか!!」

 

棺桶がX-5のすぐ脇を通過する。

 

直撃はしない。

 

代わりに、退路を塞いでいたデブリだけが粉砕された。

 

リオは顔をしかめた。

 

「くそっ、こっちを舐めて遊んでる……!!」

 

『そうだ、慢心だ』

 

『だからこそ、可能性が生まれる』

 

リオは舌打ちした。

 

「でも今なら行けるかもしれな――」

 

『焦るな』

 

珍しく。

 

ハロプトの声に強さがあった。

 

『好機に見えても飛び込むな』

 

『焦った瞬間に終わる』

 

リオは黙る。

 

その言葉には妙な説得力があった。

 

戦争屋じゃない。英雄でもない。

 

自分はジャンク屋だ。

 

逃げる。耐える。生き残る。

 

リオは焦る心を抑えるように、息を深く吐いた。

 

コイツの言う通りかもしれない。

 

今は焦るな。

 

リオはその言葉を何度も心の中で繰り返した。

 

ハロプトが照準を補正し、X-5がバズーカを撃って牽制する。

 

その瞬間だった。

 

ハロプトの警告音が鳴り響く。

 

『警告』

 

「今度はなんだ!?」

 

サルコファゴの棺桶側面が開いていた。

 

リオが目を見開く。

 

「なんだあれ……」

 

展開する装甲。

 

内部機構。

 

無数の発光体。

 

ハロプトが即座に叫ぶ。

 

『回避機動!!』

 

次の瞬間。

 

棺桶から放たれたビームがデブリの隙間を貫いた。

 

閃光。

 

爆発。

 

巨大な残骸が弾け飛ぶ。

 

周囲へ無数の破片が散乱する。

 

「うおぉぉぉぉぉ!?」

 

X-5が転がるように回避する。

 

さっきまで身を隠していた残骸が吹き飛んだ。

 

ガルドが嗤う。

 

「隠れ蓑は少しずつ消えていくぞ!!」

 

「いつまで逃げ切れるかぁ!?」

 

リオは汗だくのまま叫び返す。

 

「うるせー!!」

 

リオが焦りを滲ませる。

 

「くそ、でもやっぱり逃げ回るだけじゃ――」

 

だが。

 

その直後だった。

 

ギギギギギ……

 

嫌な駆動音。

 

リオの表情が凍る。

 

デブリの向こう。

 

赤いツインアイ。

 

X-6。

 

いつの間にか、すぐ近くまで来ていた。

 

ゆっくり、確実に。

 

こちらへ近付いてくる。

 

「……タ……す……ケ……」

 

かすれた声。

 

男とも女ともつかない。

 

複数の声が重なったような響き。

 

リオの背筋を冷たいものが走る。

 

その時だ。

 

X-6の後方から連邦軍が攻撃を仕掛ける。

 

ビームが連続して放たれる。

 

爆発。

 

閃光。

 

そして。

 

一機のジェムズガンが吶喊した。

 

「よくも貴様、仲間をぉ!!」

 

ビームサーベルを抜く。

 

一直線。

 

X-6へ突っ込む。

 

リオが思わず叫ぶ。

 

「あ、あれなら!!」

 

あと少し。

 

あと数秒で届く。

 

そう見えた。

 

その時だった。

 

ギギギギギ……

 

X-6の右腕が動く。

 

不自然に。

 

まるで生き物のように。

 

「……なに……?」

 

ジェムズガンのパイロットが凍る。

 

装甲が開く。

 

展開する。

 

伸びる。

 

増殖するように。

 

枝葉を伸ばす植物のように。

 

骨が軋むような音と共に。

 

右腕そのものが形を変えた。

 

リオは目を見開く。

 

「なんだよ……それ……」

 

MSの腕だったものは。

 

既に腕ではなかった。

 

異形の怪腕へと変貌していた。

 

ジェムズガンのパイロットも理解できていない。

 

「なんだそれ――」

 

叫び終わる前だった。

 

異形の腕が弾けるように広がる。

 

巨大な手。

 

いや。

 

捕食者の口のような何か。

 

ジェムズガンを包み込んだ。

 

「うわああああああ!?」

 

悲鳴。

 

腕が握る。

 

ギギギギギギギ!!

 

装甲が悲鳴を上げる。

 

肩が潰れる。

 

脚が砕ける。

 

そして。

 

コクピット部分が押し潰された。

 

ドォォォォン!!

 

爆発。

 

火球が広がる。

 

通信が途絶えた。

 

リオは言葉を失う。

 

「なんだよ……あれ……」

 

『回避』

 

「うおわっ!!」

 

ついX-6に見とれてしまっていたリオ。

 

サルコファゴの棺桶の攻撃をハロプトが回避し、距離を取る。

 

そのままハロプトは解析を開始する。

 

《解析中》

 

《不明な腕部ユニットを確認》

 

《一致データ検出》

 

モニターへ古いデータが流れる。

 

リオが目を向ける。

 

「分かったのか!?」

 

『断定はできない』

 

『だが類似形状を確認』

 

映像。

 

古い木星帝国機。

 

巨大な手を思わせる、異様な機動兵器。

 

『カリスト兄弟が使用した木星製兵器、ディキトゥス』

 

『人型形態から巨大な手へ変形する』

 

『本来は一機の兵器として独立運用されるものだ』

 

「手? 何言って――」

 

『つまり』

 

一瞬。

 

ハロプトが言葉を選ぶ。

 

『あの右手だけで一機分の兵器だ』

 

「な、ええっ!?」

 

理解しがたかった。

 

驚くリオをよそにハロプトは続ける。

 

『独立した大型機動兵器に匹敵する機構を、右手として接続している可能性がある』

 

『右腕各部の展開機構も、その出力を補うためのものと推測』

 

リオの顔が引きつる。

 

「そんなものを右腕にして、動かしてるのかよ……」

 

その時。

 

怪腕がゆっくりと持ち上がる。

 

ジェムズガンの残骸が握られていた。

 

それを、右の掌から放ったメガ粒子砲で消し飛ばした。

 

ジェムズガンの残骸が、閃光の中で消し飛んだ。

 

連邦軍の通信が騒然となる。

 

「なんだあれは!?」

 

「なんて真似をして……!!」

 

「化け物……が!!」

 

フェーレンのF91だけが加速した。

 

「隊長!?」

 

「まずいだろうがよ……くそっ!」

 

その視線の先。

 

X-6の赤いツインアイが明滅する。

 

「……た……す……け……」

 

再び、声が聞こえた。

 

今度はリオにもはっきり聞こえた。

 

男。女。老人。子供。

 

無数の声。

 

苦しそうに。泣くように。

 

助けを求めている。

 

リオの顔色が変わる。

 

「あいつ……」

 

フェーレンには、その声は聞こえていない。

 

牽制するように、X-6へビームライフルを撃つ。

 

その間にも、X-5はハロプトの操縦でサルコファゴのビームライフルを避ける。

 

「あいつ、中で何が起きてんだよ……」

 

ハロプトは答えなかった。

 

ただ。

 

珍しく数秒沈黙していた。

 

同時に。

 

ガルドがにやりと笑う。

 

「ふむ、そろそろ終わらせてやろうか」

 

その瞬間、付近の残骸宙域の各所で熱源反応。

 

隠れていた木星残党機が一斉に姿を現す。

 

バタラ、ペズ・バタラ。計7機。

 

完全な伏兵部隊。

 

「こいつら……いたのか!」

 

伏兵のビームが、一斉にF91へ集中する。

 

フェーレンは苦い顔を浮かべ、機体を急旋回させて火線をかわした。

 

それを見た連邦軍部隊は即座に迎撃。

 

ヘビーガン隊が前進。

 

ジェムズガンが援護射撃。

 

ビームが交差する。

 

爆発。

 

残骸。

 

火花。

 

一気に大規模戦闘へ変わった。

 

その時だった。

 

連邦軍のビームライフルを受け、半壊したバタラがジェムズガンへ組みつく。

 

「ジーク・ジュピター!!」

 

「なっ、離れろ!!」

 

次の瞬間、機体内部から閃光が膨れ上がった。

 

ドォォォン!!

 

二機はまとめて爆炎に呑まれた。

 

それを見たリオは絶句した。

 

「今、アイツ自爆した……躊躇いなんて、なく」

 

「無茶苦茶すぎるだろ……」

 

『言ってる場合か』

 

ハロプトは冷たく言いながら、回避運動を取る。

 

ビームが掠める。

 

デブリが砕ける。

 

木星残党は止まらない。

 

リオの声が少し震える。

 

「木星だって戦力少ないんだろ?」

 

「なんで、あんな命知らずなんだ……」

 

X-5がビームを回避する。

 

ハロプトが姿勢制御を行う。

 

『どうやら彼らは、自分たちを選ばれた人間だと信じている』

 

『自分たちは特別で、宇宙を導く存在だとな』

 

『そう信じ込むことで、自らの苦境も死も正当化している』

 

その瞬間。

 

X-6が連邦機一機を引き裂いた。

 

断末魔。

 

爆発。

 

リオが歯を食いしばる。

 

「……そんなの、狂ってる」

 

『肯定。だから奴らは危険だ』

 

その時。

 

白いF91がX-5の隣へ並び、接触回線を開いた。

 

「ジャンク屋」

 

「あれと交戦したことがあるんだろう」

 

「――止められるか?」

 

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