異世界引きこもり生活 ~引きこもりが異世界転移したらおもしろスキルが手に入ったので異世界でも引きこもり生活楽しみます~   作:とけそうだら

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第二十三話 夜を照らす魔眼と、深夜のつまみ食い

 引きこもり生活十七日目。

 

 ログハウスの前にソーラーパネルが並び、我が家に「電力の補充手段」という、引きこもりにとってかなり重要な文明インフラがもたらされてから一日が経った。

 

 その恩恵は、早くも大きかった。

 

 日中は黒い板がせっせと太陽を喰らい、ポータブル電源に少しずつ力を溜めてくれる。

 

 小型冷蔵庫は頼もしく低い音を立て、ガランが持ってきた猪肉の一部と、ミリィとガランが狙っているアイスを守っている。

 

 卓上扇風機は、季節外れの暑さでぬるくなった空気をかき混ぜてくれる。

 

 モニターやゲーム機の電力を、以前ほど神経質に気にしなくていい。

 

 文明は偉大だ。

 

 やはり人類は、火ではなくコンセントを手にした時に、本当の意味で前進したのだと思う。

 

 いや、火も大事だけど。

 

 バーベキューとかできるし。

 

「……コウタ」

「ん?」

 

 朝。

 

 冷たい麦茶の入った紙コップを片手に外へ出た俺に、畑の前へしゃがみ込んだロエンが、地面を睨んだまま低く言った。

 

「これ、本当に一週間ほど前に植えた芋か」

 

 その視線の先には、俺が《快適生活お取り寄せ》で取り寄せた培養土と肥料を混ぜ込んだ畑がある。

 

 そこに植えられたジャガイモとサツマイモの苗は、たった一週間でかなり葉を茂らせていた。

 

 俺の知っている家庭菜園の速度ではない。

 

 異世界補正なのか、通販品補正なのか、迷いの森の魔力なのか。

 

 たぶん全部である。

 

「まあ、肥料がちょっと現代文明寄りだったからな。異世界の土と相性がよかったんだろ」

「相性が良いという次元じゃない。森の植物でも、ここまでの勢いでは育たん」

 

 ロエンは畝の土を指先で崩し、眉を寄せる。

 

「……土そのものが、やる気になっている」

「そんな表現ある?」

「今つけた」

「でも、ちょっと分かるな……」

 

 葉はつやつやで、茎も太い。

 

 どう見ても元気すぎる。

 

 畑全体から「育つぞ」という圧を感じる。

 

「この調子なら、思ったより早く収穫できる」

「そりゃ楽しみだな。収穫できたらフライドポテトとじゃがバター祭りだ」

「……また知らない食べ物が出たな」

「うまいぞ」

「そうか」

 

 ロエンは短く頷いた。

 

 表情はいつも通り薄い。

 

 だが、尻尾だけが期待を隠しきれないみたいに左右へぱたぱた揺れている。

 

「胃袋の準備はしておく」

「尻尾の準備はもうできてるみたいだけどな」

「気のせいだ」

「今日はいつもより振れてるぞ」

「気のせいだ」

「二回言った時点でだいぶ怪しい」

「朝からうるさい」

 

 でも尻尾は止まらない。

 

 こいつ、ほんとに食い物絡みだと正直だな。

 

 自給自足の基盤が整いつつあるのは、素晴らしいことだった。

 

 食料問題。

 

 電力問題。

 

 水場。

 

 寝床。

 

 娯楽。

 

 冷たい飲み物。

 

 冷蔵庫に守られた肉とアイス。

 

 俺の引きこもり生活は、かつてないほどの安定期を迎えつつある。

 

 ――だが。

 

 インドア派の欲望には終わりがない。

 

 一つ快適になると、次の“ちょっと不便”が急に目立ち始めるのだ。

 

 今の俺の最大の懸念。

 

 それは、夜の森の暗さと、何かが近づいてきても気づきにくい不安だった。

 

 超音波の害獣撃退器は、ある程度効いている。

 

 だが、あれは小動物や一部の魔物を遠ざける程度で、ガランが軽いノリで狩ってきたような巨大猪や、それ以上のヤバい何かに対して万能ではない。

 

 シルフィやミリィが見張ってくれている時もある。

 

 ロエンも気配には敏い。

 

 ガランなんて、本人がいるだけでかなりの防犯効果がありそうだ。

 

 だが、他人の善意と戦闘力に依存しないと安心できないのは、引きこもりとしてなんか負けた気がする。

 

 俺はベッドで、誰にも起こされず、危険に怯えず、ぐっすり眠りたいのだ。

 

「よし」

 

 俺は麦茶を飲み干した。

 

「電気が使えるようになった今こそ、防衛線をアップデートする」

 

     *

 

 家に戻った俺は、さっそく《快適生活お取り寄せ》のウィンドウを開いた。

 

『人感センサーライト 屋外用 防犯防水 高輝度LED』

 

『ワイヤレス防犯カメラ 暗視機能付き モニターセット』

 

『屋外用取付金具』

 

『延長ケーブル』

 

『結束バンド』

 

 来た。

 

 現代日本の治安を支えてきた、光の番人と監視の目である。

 

「ふふふ……」

 

 思わず笑いが漏れる。

 

「これで夜の俺は、布団の中から全方位警戒可能になる……」

 

 消費MPはそれなりだが、ソーラーパネルの時に比べれば可愛いものだ。

 

 購入を念じると、青白い陣から段ボール箱がごろごろ落ちてきた。

 

 なお、設置は可愛くなかった。

 

 高い位置につける必要がある。

 

 角度も考えないといけない。

 

 カメラの向きも重要だ。

 

 俺の腕では、脚立に乗った時点で不安のほうが勝つ。

 

 というわけで、またしてもフィジカル担当を召喚することになる。

 

「ロエーン! ガラーン! いるかー!」

「呼んだか」

「だっははは! ちょうど来たところだよ!」

 

 なぜか今日もいた。

 

 ロエンはともかく、ガランはもう「たまたま遊びに来た」ではなく、「だいたいいる」側の存在になりつつある。

 

「今度はなんだい坊や。家の周りに小箱をくっつけて回るのかい?」

「そうだ。これは“光の罠”だ。何かが近づくと自動で太陽みたいに眩しく光る」

「光るだけかい?」

「光るだけじゃない。“めちゃくちゃ”光る」

「だっははは! 矢も毒も飛ばないのに、そんなに自信満々なのが逆に怖いねぇ!」

 

 ガランが笑いながら立ち木に手をかける。

 

 ロエンは箱の中身を一つ一つ確かめ、無言で必要な工具を選び始めた。

 

 このへん、本当に頼れる。

 

「ガラン、その角度はもう少し下! 来客の顔面を真正面から焼くんじゃなくて、地面を広く照らす感じ!」

「注文が細かいねぇ!」

「文明は細部で決まるんだよ!」

 

 俺が叫ぶと、ロエンが淡々と聞いてきた。

 

「コウタ」

「ん?」

「こっちの箱はどこだ」

「それはカメラ。玄関前と畑、それから森側を見える位置に頼む」

「外を見る箱か」

「そう。家の中から外を見張るための箱」

「……嫌な発想だな」

「最高の発想だろ?」

 

 家の四隅。

 

 森との境界近くの立ち木。

 

 玄関前。

 

 畑を見渡せる位置。

 

 次々と設置されるセンサーライトと防犯カメラによって、俺のログハウスは少しずつ“森の中の小さな家”から“近づくと面倒そうな何か”へと進化していった。

 

 ミリィは下からきゃっきゃと騒いでいる。

 

「おっきいひとたち、たかいー!」

「落ちるなよ」

「ガランは落ちてもだいじょうぶそう!」

「どういう評価だい!」

「確かに大丈夫そうだな」

「ロエンまで乗るんじゃないよ!」

 

 すべての設置が終わり、俺はテーブルの上に置いた小型モニターの電源を入れた。

 

 画面がぱっと明るくなり、四分割された映像に、家の外の景色が鮮明に映し出される。

 

「おお……」

 

 思わず声が漏れた。

 

「すごい。俺の城に監視網が敷かれた」

 

「……なんだ、これは」

 

 いつの間にか家に入ってきていたシルフィが、モニターを見て足を止めた。

 

「窓の外が……箱の中にある」

 

「防犯カメラだよ。これがあれば、外に出なくても家の周りの様子が全部分かる」

「家の中から、外を監視するだと……?」

 

 シルフィはモニターと窓の外を交互に見た。

 

「理不尽だな」

「だろ?」

「褒めていない」

「でもちょっと感心してるだろ」

「していない」

「耳が動いたぞ」

「うるさい」

 

 彼女は腕を組み直し、映像の一つを凝視する。

 

「これでは、どんなに気配を殺して近づいても見つかるではないか」

「死角はあるけどな」

「十分すぎる」

「これで夜も安心して寝られる。つまり、俺の勝ちだ」

「誰と戦っているんだ、お前は」

「不安とだよ」

 

 シルフィはほんの少し黙った。

 

 それから、妙に納得したような、呆れたような顔をした。

 

「……お前らしいな」

「褒めてる?」

「半分くらいは」

 

     *

 

 そして夜。

 

 森は深い闇に包まれ、虫の音と風の音だけが聞こえている。

 

 部屋の灯りを落とした俺は、ベッドの上で毛布をかけ、枕元に置いたモニターの光だけをぼんやり見つめていた。

 

 暗視モードに切り替わった映像は白黒だが鮮明だ。

 

 家の周囲が、ぬるっと見える。

 

 なんだこれ、最高か?

 

「ふふ……」

 

 俺は小さく笑った。

 

「ベッドから一歩も出ずに外が見える……これはもう半分、神の視点だろ……」

 

 無意味にコーヒーが飲みたくなった。

 

 秘密基地の司令官気分である。

 

 深夜。

 

 日付が変わる頃、最初の“犠牲者”が現れた。

 

 モニター右上。

 

 森との境界を映した画面に、カサカサと動く影が映る。

 

「来たな」

 

 四本足の獣だった。

 

 以前にも見た、角のねじれたツイストディアとかいう魔物らしい。

 

 畑の匂いでも嗅ぎつけたのか、そろそろと敷地へ近づいてくる。

 

 そして、次の瞬間。

 

 パシィィィィンッ!!!

 

「ピギィィィィッ!?」

 

 センサーライトが炸裂した。

 

 夜の森の一角だけが、いきなり昼になったみたいに真っ白に染まる。

 

 ツイストディアは完全にパニックを起こし、その場で跳ね、向きを間違え、木に頭からぶつかり、もう一度跳ねて、最後は悲鳴を上げながら森の奥へ消えていった。

 

「ふはははは」

 

 俺は毛布の中で笑った。

 

「どうだ。これが現代の圧倒的光量だ」

 

 剣もいらない。

 

 魔法もいらない。

 

 ただ明るいだけでここまで勝てる。

 

 やはり照明は強い。

 

「よし、寝ようかな――」

 

 と思ったところで、今度は左下の画面が動いた。

 

「……ん?」

 

 玄関前のカメラ。

 

 そこに映っていたのは四本足ではなく、二本足の小柄な影だった。

 

 耳。

 

 尻尾。

 

 抜き足差し足。

 

「ミリィだな、これ」

 

 普段は軒下の寝床で寝ているはずのミリィが、なぜか妙にこそこそと扉へ近づいてきている。

 

 視線の先は、明らかに家の中。

 

 もっと言うと、冷蔵庫がある方向だ。

 

「あいつ……まさか……」

 

 いや、まさかじゃないな。

 

 顔に書いてある。

 

 “アイス再挑戦”って。

 

 そしてミリィがセンサー範囲へ足を踏み入れた、その瞬間。

 

 パシィィィィンッ!!!

 

「ひゃあぁぁぁっ!?」

 

 深夜の森に、小さな悲鳴が響いた。

 

 ミリィは全身の毛を逆立てたまま、その場でかちんと固まった。

 

 完璧な硬直である。

 

 つまみ食いしに来た子どもが、親に電気をつけられた瞬間のそれだった。

 

 俺はモニター横のマイクボタンを押す。

 

『……ミリィ』

「ひぃっ!?」

 

 彼女が跳ねる。

 

 きょろきょろと辺りを見回し、耳を伏せる。

 

「コ、コウタのこえ!? どこ!? なんで!? こわい!」

『上だ。カメラの横の箱からだ』

「はこがしゃべった!?」

『俺がしゃべってるんだよ。で、何してるんだ』

「た、たべてない!」

『まだ聞いてない』

「れいぞうこのなかの、あまいゆきは、まだたべてない!」

『自白が早いな!?』

 

 ものの二秒で落ちた。

 

 しかも狙いが高級品だ。

 

『アイスは一人一個って言っただろ。お腹壊すから寝ろ』

「うぅ……ごめんなさい……」

『あと、そんなにしょんぼりした顔しても追加はない』

「みえてるの……?」

『ばっちりな』

「やだぁ……」

 

 ミリィは尻尾をしゅんと垂らし、しょんぼりと寝床へ戻っていった。

 

 センサー範囲から出ると、光が消える。

 

 森はまた静かになった。

 

「……すごいな、これ」

 

 俺はしみじみ呟いた。

 

「家の中から説教まで完結する……」

 

 俺の引きこもり力は、また一段階上がったらしい。

 

 さて、今度こそ本当に寝るか。

 

 そう思ったところで、左上の映像がふっと揺れた。

 

「まだ来るのかよ」

 

 高い木の枝から、音もなく人影が降りてくる。

 

 月明かりに髪が淡く光る。

 

 シルフィだった。

 

 着地は完璧だった。

 

 枯れ葉一枚鳴らさない。

 

 影から影へと滑るように移動する様子は、まさに森の狩人そのもの。

 

「おお……すげえ」

 

 思わず感心する。

 

「かっこいいな、普通に」

 

 だが。

 

 現代のセンサーライトは、狩人の美学には配慮しない。

 

 シルフィがログハウスの側面へ一歩踏み込んだ、その瞬間。

 

 パシィィィィンッ!!!

 

「なっ……!?」

 

 三度目の閃光。

 

 シルフィは悲鳴こそ上げなかったが、反応は早かった。

 

 光を浴びた瞬間、流れるような動作で弓を抜き、矢を番え、センサーライトの中心へ狙いを定める。

 

「待て待て待て待て!!」

 

 俺はマイクボタンを叩く勢いで押した。

 

『シルフィ! 撃つな! それ高かったんだぞ!!』

「……ッ!?」

 

 スピーカーから突然響いた俺の声に、シルフィがびくっと肩を震わせた。

 

 ギリギリのところで矢は止まる。

 

「コウタか!?」

『そうだよ! 家の中から見てる! だから壊すな!』

「なぜ私がいると分かった!」

『カメラだよ! さっき説明しただろ!』

「理不尽だ……!」

 

 モニター越しでも分かるくらい、シルフィの顔が赤い。

 

 驚きだけじゃない。

 

 たぶん、自慢の隠密行動を“ただの明るい箱”に暴かれたのが相当悔しいのだ。

 

「私の気配隠蔽は、森の主ですら欺ける」

『でもセンサーライトには負けた』

「うるさい」

『カメラにも映ってた』

「うるさい!」

『お前、もしかして漫画の続きが気になって来た?』

「違う!!」

 

 否定が早い。

 

 怪しさが増すだけである。

 

『まあ、見回りはありがたいけど、もううちはだいぶ光るから安心して寝てくれ』

「……私は別に、お前を見張っていたわけではない」

『そうかそうか』

「その反応は腹が立つ」

 

 シルフィはセンサーライトをひと睨みしてから、ふいっと背を向けた。

 

 そしてそのまま、木の上へ軽やかに跳び、再び夜の森へ消えていく。

 

 ライトが落ちる。

 

 モニターには、何事もなかったように揺れる木々だけが残った。

 

「……防衛力、高すぎるな」

 

 俺は満足して毛布にもぐった。

 

「よし。寝る」

 

     *

 

 翌朝。

 

 ログハウス前には、いつもよりほんの少し寝不足っぽい面々が集まっていた。

 

「だっははは!」

 

 朝から来ていたガランが腹を抱えて笑う。

 

「昨日の夜はなんだい! 森が何度もピカッと光ったから、雷でも落ちたのかと思ったよ!」

「あれが俺の新しい防衛システムだ」

 

 俺が胸を張る。

 

「光と監視の要塞だ」

「言い方がちょっと悪役っぽいねぇ!」

 

 軒下から、ミリィがじとっとした目で顔を出した。

 

「……コウタのいじわる」

「夜中にアイス泥棒しようとするからだろ」

「いちこだけ、もういっこだけっておもったのに……」

「その“もういっこだけ”が一番危ないんだよ」

「めがちかちかした……」

「自業自得だ」

「うぅ……」

 

 そこへ、畑からロエンが戻ってきた。

 

 朝から土を見ていたらしい。

 

「コウタ」

「ん?」

「あの光、魔物よけとしては悪くない」

「だろ?」

「だが俺も起きた」

「あ」

「角度を少し下げろ」

「ごめん」

「あと、夜中にしゃべる箱は心臓に悪い」

「そこもごめん」

 

 ガランがさらに笑う。

 

「面白かったけどな!」

「お前は寝てなかったのか?」

「途中で起きて、酒でも飲みながら見物しようかと思ったよ!」

「そのうち本当に来そうだからやめろ」

 

 最後に、木の上から静かにシルフィが降りてきた。

 

 姿勢はいつも通り涼しい。

 

 だが、俺と目が合った瞬間だけ、耳がぴくっと動いた。

 

「……おはよう」

「おはよう、隠密失敗エルフ」

「その呼び方をやめろ」

「でも事実だろ」

「ただ眩しいだけの箱に不意を突かれただけだ」

「十分負けてるじゃん」

「お前は本当に腹が立つな」

「昨日のあれ、壊さなくて偉かったよ」

「高いと言われたからだ」

「理性的」

「矢を放ったあとで後悔するのも面倒だからな」

「つまり半分は本気で撃つ気だったんだな」

「……うるさい」

 

 でも、昨夜ほど不機嫌ではない。

 

 むしろ、少しだけ悔しそうだ。

 

 たぶん次はどうやってセンサーを抜けるか考えている顔である。

 

 やめてくれ。

 

 それ、俺の家でやるステルス攻略じゃないから。

 

 シルフィは小さく息をつき、ログハウスを見上げた。

 

「お前の家は、ついに死角すらなくなったな」

「最高の褒め言葉だ」

「褒めていない」

「森で一番安全ってことだろ?」

「森で一番目立つ、の間違いだ」

「まあ……それは否定できない」

「屋根に黒い板。壁に光る箱。中にはうなる白い箱。近寄れば見られ、夜になれば照らされる。もはや要塞だ」

「いい響きだな」

「お前、本当に引きこもりか?」

「引きこもりだよ。だからこそ守りを固めるんだ」

 

 ソーラーパネルで電気を作り。

 

 冷蔵庫で肉とアイスを守り。

 

 防犯カメラで外を見張り。

 

 センサーライトで夜を塗り潰す。

 

 こうして俺の城はまた一つ、異世界の常識から遠ざかった。

 

「……完璧だな」

 

 俺は満足げに頷く。

 

「これで夜も安心してだらだらできる」

「結論が堕落している」

「引きこもりだからな」

 

 俺は冷蔵庫からキンキンに冷えたコーラを取り出し、景気よく喉へ流し込んだ。

 

 うまい。

 

 朝のコーラは背徳感がある。

 

 だが、快適さに背徳はつきものだ。

 

「さて」

 

 俺は次の休日計画を考え始める。

 

「今夜は何のゲームをするかな……」

 

「格ゲーだ!」

 

 ガランが即答する。

 

「レース!」

 

 ミリィが跳ねる。

 

「昨日の青い甲羅の対策を試す」

 

 シルフィが真顔で言う。

 

「俺は畑を見る」

 

 ロエンはぶれない。

 

「……うん、まあ、騒がしいけど悪くないか」

 

 異世界の森の奥深く。

 

 俺の理想の引きこもり生活は、たぶんもう静かさだけでは定義できないところまで来ていた。

 

 それでも。

 

 外は安全で。

 

 中は涼しくて。

 

 冷たい飲み物があって。

 

 たまに笑い声がうるさいくらいなら――。

 

 そんな家も、案外、悪くない。




投稿時間を変更しました。
しばらく18時30分頃に投稿していこうと思います。
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