異世界引きこもり生活 ~引きこもりが異世界転移したらおもしろスキルが手に入ったので異世界でも引きこもり生活楽しみます~ 作:とけそうだら
引きこもり生活四十五日目。
初夏の日差しが、迷いの森の木々の隙間から、黄金色の斜線となって降り注いでいた。
俺のログハウス周辺――便宜上“村”と呼んでいるこの開拓地――は、今やかつての“ただの空き地”とは比べ物にならないほど、生活感と現代文明の匂いに満ちている。
ログハウス。
畑。
ガランのプレハブ小屋。
ロエンのガーデンハウス。
ミリィのベルテント。
シルフィのハンモック。
ソーラーパネル。
センサーライト。
防犯カメラ。
冷蔵庫。
そして、ログハウスの裏手に作ったヒノキ風の露天風呂。
最初は、静かに引きこもるためだけの家だった。
それがどうしてこうなったのかは、俺にもよく分からない。
ただ一つ言えるのは、快適さは増殖するということだ。
快適な場所を作る。
人が来る。
人が居座る。
居座った人間のために、さらに快適なものを増やす。
気づけば村になる。
おそらく、人類史というのはだいたいこんな感じで進んできたのだろう。
いや、さすがに違うか。
木漏れ日が揺れる中、俺はログハウスの前に並べたキャンプチェアに深く腰掛け、氷入りの麦茶をカラカラと鳴らした。
「……うん。今日も平和だ」
視線を巡らせれば、住人たちがそれぞれの時間を満喫している。
右側の畑では、ロエンが真剣な顔で土の具合を確かめていた。
第二陣の苗を植え付けながら、尻尾だけが一定のリズムで機嫌よく揺れている。
左側の白いプレハブ小屋からは、
「だっははは! そこだァ! 必殺の投げを食らいな!」
という声と、格闘ゲームの電子音が漏れ聞こえてきた。
今日もガランは、昼から画面の中の強敵と死闘を繰り広げているらしい。
足元では、ポテトが腹を出して大の字で熟睡している。
その横で、ミリィが「ポテト、おなかあったかいねぇ」とくっついて丸くなっていた。
完璧だった。
ソーラーパネルが静かに電力を生み出し、冷蔵庫には冷たい飲み物が常備され、少し歩けば露天風呂まである。
俺が“静かに引きこもりたい”と願って作ったログハウスは、いつの間にか異世界の猛者たちを骨抜きにする謎の高級リゾート施設へと変貌を遂げていた。
「まあ、一人の時間は減ったけど……これはこれで、悪くないんだよな」
グラスの結露を指で拭きながら、俺は小さく息を吐く。
彼らが現代文明の利器で目を輝かせているのを見るのは、案外嫌いじゃない。
さて、そろそろおやつの時間にでもするか。
そう思って立ち上がろうとした、その時だった。
「……っ!」
足元で眠っていたポテトが弾かれたように目を覚まし、森の奥に向かって「ガウッ!」と低い警戒の声を上げた。
ミリィの耳が、ぴんと立つ。
「コウタ。森の奥から、いっぱい、くる」
「いっぱい?」
「すごく……かたいにおいがする」
「かたい匂い? 魔物か?」
答えが返る前に、畑にいたロエンが鍬を置き、低い姿勢で空き地の中央へ滑り出てきた。
目つきが、土を愛する農夫のそれから、冷静な狩人のそれへ切り替わっている。
「コウタ、下がれ。群れが来る」
「群れって言い方、怖いな」
プレハブ小屋の窓がガラッと開いた。
「なんだいなんだい! おやつかと思ったら襲撃かい!? アタシの必殺コンボの邪魔をするとは、いい度胸じゃないか!」
大斧を担いだガランが、嬉々とした顔で飛び出してくる。
一瞬にして、のどかな村の空気が戦場に変わった。
ざわっ。
木々の葉が、風もないのに大きく揺れた。
茂みが左右に割れ、そこから彼らが姿を現す。
「……エルフ?」
俺は思わず呟いた。
現れたのは五人の人影だった。
尖った長い耳。
森の緑に溶け込む革鎧。
弓。
短剣。
そして、妙に鋭い威圧感。
先頭を歩くのは、胸まで白髭を伸ばした年老いたエルフだ。
背筋はぴんと伸び、手にした樫の杖から濃密な魔力の波動が揺らめいている。
その後ろには、完全武装の若手戦士が四人。
扇状に展開しながら、こちらへじりじりと距離を詰めてきた。
彼らの目は、ログハウスとプレハブ小屋、そして屋根と広場に並んだソーラーパネルを、親の仇でも見るような目で睨みつけていた。
「貴様が……この忌まわしき異形の建物の主か」
長老らしきエルフが、地を這うような声で俺を指差した。
「……あ、はい。ここの家主のコウタですが。何かご用ですか?」
「用だと……? とぼける気か!」
長老が、ドンッと杖で地面を突いた。
周囲の草が波打つように揺れる。
「我ら森の民に一切の断りもなく、この神聖なる迷いの森の奥深くに、このような悍ましい施設を乱立させるとは何事か!」
長老は震える指で、まずガランのプレハブ小屋を指した。
「木の温もりを一切感じさせぬ、真っ白な四角い箱!」
次にソーラーパネル。
「そして屋根や地面に並ぶ、魔力すら持たずに太陽の光を不気味に反射する黒い板!」
最後にログハウス裏手。
「さらに、湯気を上げる謎の囲い! 森の中に湯を沸かすなど、どういう発想だ!」
あ。
露天風呂も見られてる。
「貴様、この神聖なる森を、得体の知れない呪術で冒涜するつもりか!」
……なるほど、そういうことか。
エルフから見れば、現代の工業製品は邪悪な呪物にしか見えないらしい。
特にアルミ鋼板のプレハブとソーラーパネルのガラス面は、ファンタジー世界では確かに違和感の塊だろう。
俺だって、森の奥にいきなりプレハブ小屋と太陽光発電設備と露天風呂が並んでいたら、たぶん二度見する。
「だっははは! なんだいお爺ちゃん、アタシの城に文句があるのかい?」
ガランが大斧をぽんぽんと肩で叩きながら、挑発的に笑う。
「雨風を防いで、防音に優れて、どれだけ快適か、野宿してるエルフには分からないだろうねぇ!」
「黙れ、傭兵風情が!」
長老が目を吊り上げる。
「それに、そこの狼獣人もだ! 誇り高き森の獣が、この人間の前で飼い犬のように尻尾を振るとは! 地に落ちたものだ!」
「俺は飼い犬ではない」
ロエンの声は、氷のように冷たかった。
「働いた対価として、正当な報酬をもらっているだけだ」
「報酬だと?」
「飯だ」
「飯……?」
「あと畑だ」
ロエンは、淡々と続ける。
「俺が耕したこの畑を踏み荒らすなら、エルフの長老だろうが、容赦はしない」
一触即発。
いやいやいや待て。
俺の庭で異種族間戦争を始めないでくれ。
死体処理とか絶対にやりたくないし、精神衛生が著しく損なわれる。
「ストップ! ストップだお前ら! 武器を下ろせ!」
俺は両手を振り回しながら前に出た。
「長老さん、誤解だ! 太陽の光を反射する黒い板はただの発電装置だし、白い箱はただの小屋だし、裏の湯気は風呂だ! 俺はただ、一人で静かに引きこもって暮らしたいだけなんだよ!」
「甘言に騙されんぞ、邪悪なる人間め!」
長老は俺を睨みつけた。
「一人で静かに暮らしたいなどと、よくも抜け抜けと言えたものだ! 傭兵を雇い、獣人をこき使い、火竜の幼生まで従え――そして!」
長老の声が、一段と鋭くなった。
「あろうことか、我らエルフの集落が誇る最も優秀な森の守り手であったシルフィア……! あの気高く冷静沈着だった娘すらも、謎の精神支配魔術でたぶらかし、完全に堕落させたのだ!」
「……は?」
俺は思わず間の抜けた声を出してしまった。
たぶらかした?
堕落させた?
俺が、あのシルフィを?
「そうだ! しらばっくれるな!」
若手エルフの一人が、涙声で叫ぶ。
「最近のシルフィア殿は明らかにおかしいのだ! これまで日夜パトロールを欠かさなかったあの御方が、最近は『今日は少し野暮用がある』と言って早々に切り上げてしまう!」
「それだけではない!」
別の若手エルフも声を張り上げた。
「夜、彼女の部屋から恐ろしい言葉が聞こえてきたのだ! 四角い紙の束のようなものを必死に睨みつけながら、『なぜここで終わるのだ……っ!』『この主人公はなぜここで素直にならない!』と、見えない敵に向かって呟いているのだぞ!」
「あげくの果てには、『次の新刊はいつだ……』と虚ろな目で森を彷徨う始末! あの理知的だった娘が、完全に狂ってしまった!!」
……うん。
それは、たしかに俺のせいだ。
貸した王道ラブコメ漫画の引きが気になりすぎて、パトロールが疎かになっている。
しかも部屋で一人、漫画のキャラにツッコミを入れている姿を部下に目撃されている。
最新刊の引きが気になりすぎて情緒不安定になる現象を、異世界のエルフ集落で発症させてしまった俺の罪は重い。
「シルフィア殿はどこだ! 洗脳を解き、我らの手に返せ!」
長老が杖を高く掲げ、森の魔力を集束させようとする。
「この邪悪な拠点ごと、貴様を灰燼に帰してくれる!」
まずい。
完全に“悪の魔導士の館に乗り込んできた勇者パーティ”の構図だ。
「ちょっと待て! シルフィは洗脳なんてされてない! ただの読者になっただけだ!」
俺が必死で叫んだ、その時だった。
「……騒がしいな。何事だ」
ログハウスの裏手から、ひどく間の抜けた呆れ声が響いた。
長老と若手エルフたちの動きが、ぴたりと止まる。
ゆっくりと、全員がその声の方向へ視線を向けた。
そこにいたのは、彼らが血眼になって探し求めていた、気高きエルフの戦士、シルフィアその人だった。
ただし。
「シ、シルフィア……!? その姿は……!?」
長老が目を見開き、杖を取り落としそうになった。
ログハウス裏手の木陰。
自立式の高級アウトドアハンモックの上で。
シルフィは完全に背中を預け、片足を軽く組み、これ以上ないほどくつろいだ姿勢で寝転がっていた。
右手には、今朝貸したばかりの異世界グルメ漫画最新巻。
左手には、開けっぱなしのうすしお味ポテトチップスの袋。
傍らの折りたたみテーブルには、氷たっぷりのコーラが置かれている。
森の神秘性も、孤高の戦士の緊張感も、そこには微塵もなかった。
あるのはただ、現代日本の休日を全力で満喫する、ダメなオタクの完成形である。
沈黙。
恐ろしいほどの沈黙が、初夏の森に降り注いだ。
若手エルフたちが、口をあんぐり開けたまま石像のように固まっている。
ガランが「だっははは!!」と耐えきれずに吹き出した。
ロエンは額を手で覆った。
ミリィが「あ、シルフィ、ポテチひとりでくってる。ずるい」と尻尾を揺らす。
当のシルフィは、ポテトチップスを一枚取り出してパリッと齧りながら、漫画から一切目を離すことなく言った。
「ん? 長老ではないか。こんな辺境まで何の用だ。今ちょうど、料理人が強敵との決戦に挑む一番いいところなのだが」
「シルフィア……」
長老の声が震えた。
「お前……その黄金色の薄片は何だ……」
「ポテチだ」
「ぽてち」
「うすしお味だ」
「うす……しお……」
「読書に必要な塩気だ」
悪びれる様子が、微塵もない。
口の周りに塩の粉をつけたまま、ストローでコーラをちゅーっと吸っている。
「な、なんという……堕落……!」
長老が、がっくりと両膝をついた。
「森の精霊よ……! 我らの最も気高き娘が、謎の浮遊寝床と、毒気を含んだ黄金色の芋の薄切りに……完全に支配されている……!」
「毒ではない。ただのうすしお味だ」
シルフィは真顔で訂正し、ページをめくった。
「それに、ここの主は無害だ。妙な道具と信じられないほど美味い飲み物を次々と呼び出すが、森を焼く気も、魔物を増やす気もない。ただ怠惰に、誰にも干渉されずに生きたいだけのひ弱な人間だ。武装して騒ぐほどの者ではない」
「評価がだいたい正しいけど、ひ弱は余計だろ」
「事実だ」
「こんな時まで事実を突きつけるな」
「骨抜きにされているから、そう言えるのだ、シルフィア殿!」
若手エルフの一人が、ついに涙を流しながら叫んだ。
「あの鋭かった眼光が、今や四角い紙の束の次の展開を追うためだけに使われているなどと……! 人間の魔術は、これほど恐ろしいものだったのか……!!」
違う。
魔術ではない。
日本のエンターテインメント産業と製菓会社が、何十年もかけて研鑽を積んできた“人をダメにする技術”の結晶だ。
俺は深くため息をついた。
シルフィの威厳は、貸した漫画とポテチとコーラによって、同胞たちの前で完全に、そして致命的に崩壊したらしい。
だが、このままでは俺が“エルフを堕落させる邪悪な魔法使い”という汚名を着せられたままになる。
長老たちが怒り狂ってシルフィを連れ戻そうとしたり、ログハウスに攻撃を仕掛けてきたりすれば、俺の平和な引きこもり生活が終わってしまう。
それは困る。
非常に困る。
「……あのさ、長老さん」
俺は一歩前に出て、膝をついて絶望している長老に声をかけた。
「なんだ人間! これ以上、我らを愚弄する気か!」
「違う違う。分かるよ。あんたたちから見れば、俺の家は異物でしかないだろうしな」
努めて落ち着いた声で言う。
「でも、あんたたちも今日はここまで歩いてきて疲れてるだろ? 初夏にしては日差しが強い。鎧の下は、泥と汗でベタベタなんじゃないか?」
「……それがどうした。我ら森の民は、森の過酷さなど苦にはならん!」
長老が強がるが、その額には大粒の汗が浮いている。
若手エルフたちも、緊張で顔こそ硬いが、首筋や革鎧の下はかなり暑そうだった。
「そうか? もったいないな」
俺はニヤリと笑い、ログハウスの裏手のヒノキ風すだれを親指で指した。
「うちの風呂は、森の冷たい泉とは比べ物にならないくらい、芯から疲れが取れるんだが。ちょうど今、一番風呂を沸かせるぞ」
「……風呂、だと?」
長老の耳が、ぴくりと動いた。
「ロエン、ガラン、準備してくれ。ポテト、火だ」
「ガウッ!」
ポテトがトコトコと風呂場へ向かい、ボイラーの前で得意げに胸を張る。
そして――
「ぷしゅっ!」
可愛らしいくしゃみとともに、小さな竜の火が薪へ移った。
ぱちぱち、と乾いた音を立てて火が広がり、すぐにボイラーが低く唸り始める。
コォォォ……という稼働音。
それに続いて、すだれの向こうから、ヒノキの芳醇な香りを含んだ白い湯気がゆっくりと立ち昇ってきた。
「だっははは! 討ち入りに来た客を、開口一番で風呂に放り込むとは、坊やも肝が据わってきたねぇ!」
ガランが大斧を下ろし、面白そうにバスタオルの準備を始める。
「おもてなしだよ」
「武装した相手にするもんじゃないねぇ」
「武装したまま怒鳴られるよりは、裸で風呂に入ってもらった方が平和だろ」
「だっははは! そりゃそうだ!」
長老は、立ち昇る湯気をじっと睨んでいた。
最初は警戒。
次に困惑。
そして最後に、ほんのわずかな興味。
その鼻が、かすかにひくりと動く。
「……なんだ、この木の香りは」
「ヒノキだ。湯気と合うんだよ」
「ひのき……」
「まあ、森の民なら嫌いじゃないと思うぞ」
「人間のくせに、森の民の好みを語るな」
言葉は鋭い。
だが、視線は完全にすだれの向こうへ吸い寄せられていた。
若手エルフたちも同じだった。
さっきまで弓と短剣に手をかけていたくせに、今は湯気の向こうを見つめ、明らかに警戒心とは違う種類の緊張を浮かべている。
「長老……これは罠かもしれません」
「……うむ」
長老はコホンとわざとらしく咳払いをした。
「湯気によって嗅覚を鈍らせ、木の香りで精神を弛緩させる。人間の罠としては、なかなか狡猾だ」
「いや、普通に風呂の準備なんだけど」
「黙れ、人間。敵の術を敵が説明しても信用できるか」
「それはまあ、そうかもしれないけど」
俺はバスタオルの束と、着替え用の簡易カゴを指さした。
「武器はそこに置いてくれ。中で暴れられると困る。風呂場は滑るからな」
「我らに武装解除しろと?」
「裸で武器持って湯に入る方が怖いだろ」
「……一理ある」
あるんだ。
長老はしばらく悩んだあと、ゆっくりと杖を若手エルフに預けた。
若手たちも互いに顔を見合わせ、弓、短剣、矢筒を外していく。
ただし、その顔は完全に「敵地へ潜入する決死隊」のそれだった。
「よかろう」
長老は重々しく宣言する。
「これも森の脅威を調査する偵察の一環だ。我らエルフの誇りにかけて、この罠の正体、しかと見届けてくれる!」
「ただの風呂だって言ってるんだけどなあ……」
「コウタ」
ロエンが低く言う。
「言っても無駄だ」
「だよな」
ミリィはポテトを抱きしめながら、きょとんと首を傾げた。
「おふろ、きもちいいのに」
「だからこそ怖いんだろうな」
「きもちいいの、こわい?」
「大人は複雑なんだよ」
「へんなの」
完全に正論だった。
長老たちは、バスタオルと使い方の説明だけを受け取ると、極度に警戒した顔つきのまま、すだれの向こうへゆっくりと吸い込まれていった。
最後の若手エルフが入る直前、こちらを振り返り、悲壮な顔で言った。
「シルフィア殿……我らが戻らぬ時は、里へ伝えてください」
「大げさだ」
ハンモックの上のシルフィは、ポテチを齧りながら短く答えた。
「戻らぬどころか、出てきたくなくなるだけだ」
「それが一番怖いのです!」
若手エルフはそう叫び、すだれの奥へ消えた。
しばらくして、風呂場のほうから小さな声が聞こえる。
「長老……床が、見慣れぬ滑らかな石で舗装されています。罠でしょうか」
「気をつけろ。人間は狡猾だ。この立ち込める強い木の香りも、我らの嗅覚を麻痺させる幻覚香かもしれん」
そこまで聞こえたところで、ガランが肩を震わせ始めた。
「……あいつら、風呂の恐ろしさを分かってないねぇ」
「ああ」
俺はキャンプチェアに座り直し、冷蔵庫から出すべき最終兵器の準備を頭の中で整え始めた。
風呂上がりのフルーツ牛乳。
そして、帰る気をなくさせるだけの漫画の在庫は、たっぷりとある。
「討ち入りに来たのに、帰れなくなるやつら、か」
俺はすだれの向こうから聞こえる、警戒心まみれのエルフたちの声を聞きながら、静かに笑った。
俺の平和な引きこもり生活を脅かした尋問団への、文明の利器による容赦ない“おもてなし”。
その第一段階――ヒノキ風呂の罠が、今まさに始まろうとしていた。