剣と魔法の世界に転生して、紆余曲折あって錬金術を極めた。
根性論ばかりな自然魔法や神へ祈ることしかしない儀式魔法が向いていなかったのもあるし、何より直接戦う必要がないのが良い。
国や個人から依頼されて武器や薬を納品すれば金が貰えて生きて行けるのだ。残りの時間は何をしたって自由である。
全ての製品作成の機械化(正確に言うと魔法的加工も含むのだが機械と呼んでいる)を完了させた私が研究に没頭しようが何をしようが、文句を言われる筋合もないのだ。
作って、造って、創って………そしてついに、やることがなくなった。
最終目標だった"不老不死"を達成したのだ。そうもなる。
魂が抜けたようになっていた私を突き動かしたのは、給料も出していない押しかけ弟子兼助手の一言だった。
「そんなにやることがないなら、師匠もたまには遊んだらどうですか?」
遊ぶ。確かに今世で碌に遊んだ経験はない。
何せ娯楽がほとんどないのである。
「なるほど。遊び、娯楽か……」
この世界にはチェスのようなボードゲームこそあるが、軍師のような文官が気取ってやるような扱いであって一般に普及していない。
トランプの類いは印刷技術の都合でイカサマし放題であるため、賭け事ができるほど真剣にやっている人がいない。いやまあ遊ぶだけならこれでも十分なのだが、前世ではこれでもカードゲーマーとしてそこそやり込んでいたのだ。どうせ遊ぶならガチでやりたい……いや、そうか。
「名案だぞ弟子よ! まずは印刷機のサンプル確保だ。金はいつもの袋から使っていいし、足りなかったら言え!」
「なんでそうなるんですか!? 遊ぼうって言ったじゃないですかあ!」
なければ作る。作るための道具がなければそれを造る。技術がなければそれも創る。娯楽も錬金術も変わりはしない。
「カードゲームを作るぞ! 世界初にして世界一のトレーディング・カード・ゲームだ!」
そして、世界が滅んだ。
カードの開発が終わって第一弾を世に送り出してから
人類は思ったよりも馬鹿だったし、それを把握していなかった私はもっと馬鹿だった。ただそれだけの話だ。
いや、カードに実体化機能つけたら戦争の武器にされるとか思わないじゃん。普通。
念のため殺傷能力抑えたのを流通させたのに、各国の
一般人でもすぐに扱える遠距離武器……賢明な地球人なら、これが何を意味するかなんて分かるだろう。
そう、銃の発明だ。
今までは数少ない魔法使い同士が戦うだけで戦争は終わっていた。なにせ魔法使いと非魔法使いには天と地ほども差があるのだ。魔法使いがいなくなった側に勝ち目はなく、降伏するしかない。
それがちっぽけなカードのせいで、負け=国民全滅な総力戦へと形が変わってしまった。
もうね。こいつら馬鹿かと。
偉大なるノーベルさんもこんな気持ちだったのかな。
最初は基本的な火力呪文である《火球》を複数人が同時に起動することで攻撃手段としていたらしい。一応ゲームのルールには従う必要があるため、一人での使用可能枚数には上限がある。
初めてその様子を見た時は血の気が引いたが、こんなのは序の口であった。
ある時に《裁き》――敵味方問わない盤面全除去の呪文カード――を打ったクソアホ国家が出てきて、そこからはもう止まらなかった。
全体マイナス修正の《呪毒汚染》、全体魔石化の《霊石転化大魔法陣》、登場時と攻撃時に全体火力の《紅玉の終焔竜-ヴァルカン》、全体バウンスの《天蓋潮流》etc...
まるで核の打ち合いである。軍事技術に関係なく全国家平等に扱える点で余計にタチが悪い。やられる前にやるし、やられてもやり返すのが常識となっていた。
そもそも同一カードを何枚集めようがあんな大出力にできるようには作ってないはずなのだが……何らかの補助、おそらく儀式魔法あたりで補正をかけて実現させたのだろうか。
私もこうなる前にカードを回収しようとはしたのだ。だがこんな使い方が見つかったのは全世界へ流通した後であるため、個人の力ではどうしようもない。カードの武力利用停止を要求する私の声明は黙殺され、むしろ所属国家から独自のカードを開発するよう命令が来る始末。
このままでは捕まって拷問されそうな気がしたので、カード生産用の機器を破壊して逃げ出すしかなかった。
弟子ちゃんは「まだやることがあるので」とかなんとか言って居残ってしまい、生死不明である。私が脱出してから10日足らずであの国が焼き尽くされた(私の存在を危険視した近隣国から集中狙いされた)ため、まず生きてはいないだろうが。
とにもかくにも逃げ延びてシェルター作って研究環境整えて……色々とやっているうちに戦争は終わっていた。
当然ながら人間の体はあんな天変地異に耐え切れるようにはできておらず、ほとんどの人間組織が壊滅。残ったのはド田舎の小さな村が少しだけだ。
そして、そういった村では決まって奇妙なことが起こっていた。
私の作ったカードゲームが流行っていたのである。
いや、流行っているなどという生易しいものではない。
カード1枚1枚が通貨のように価値を持ち、ゲームの勝敗で揉め事を解決し、レアカードは偶像のように崇拝する……カードを中心とした社会が構築されていたのだ。
通貨になるのはまだ分かる。私特製のこのカードは非常に耐久性が高く、熱や水にも強い。模様も複数種類あるとなれば通貨には最適だろう。
崇拝するのもまあ、理解できる。宗教は自由だし、自分達の持つ技術からかけ離れた物品は信仰対象になり得る。
だが揉め事をカードゲームで解決するのはさすがにおかしい。そんなのはカードアニメの世界だけで十分だ。
そう思って原因を調査すれば、ほんの少しの聞き込みで判明してしまった。
「兵士さんから聞いたんですよ。国はこのカードで戦争してたんでしょう?」
戦場から逃げ延びた僅かな生き残りから伝わった知識が、間違った認識となって定着したらしい。
元兵士本人からも話を聞いたが、殴り合いのケンカより平和でマシだから訂正しなかったんだとか。なるほど否定しづらい文化である。
せっかくだからプリンタ(今度こそ殺傷能力ゼロの、ただのカード印刷専用)を兵士君にプレゼントして、みんなと軽く対戦してから村を離れた。実体化機能つきとの判別は容易だから貨幣価値も崩さないだろう。
世界中を飛び回り、どこも似たような状態だったのでプリンタを配っていく。
こんな世界にはなったが、私の現在の目標は自作のカードゲームを流行らせて根付かせることだ。最終的には自分もプレイヤーとして参加したいが、カードゲーム独特の戦略性が理解されるのにはまだまだ時間がかかりそうである。
なお生活支援になる実用的な製品は提供していない。自力で技術文化を発展させてもらわないと、一から十まで私が世話をすることになってしまうから仕方ない。私だってこれから先の人生を人類発展のために使い続けたくはないのだ。
それからは例の火竜の後処理だとか、第三弾のカード設計&配布だとか、今度こそ絶対に武力利用されない実体化カードの作成だとか、逆に実体化の限界測定だとか……
とにかくやることは尽きなかった。途中で限界が来た肉体は捨て去り、不老不死の実証にも成功。新たな身体はちょいと不便な点もあったが、理論の探究にはなんの問題もない。
無害な実体化カードの作成が終われば、各地のプリンタを実体化カードに対応できるようアップデートする。その頃にはカードとは別の通貨が成立していたし、そもそも印刷には少々特殊な素材が必要になるから経済的な影響はないだろう。
定期的に新カードのデータをプリンタにぶち込んだり、名のあるプレイヤーに辻バトルを仕掛けたりして……
約千年が経過した、ある夜のこと。
高い塔の上で風に吹かれながら、街を見下ろす男がいた。
「フハハハハ!! 凄まじい力……これが闇のカード!!」
いや、見下ろしていたのは街ではない。
もはや、街の影も形も見ることはできない。
「やったぞ……この
眼下は一面の業火で覆われていた。
それを成した1枚のカードを持つ男が、高らかに宣言する。
「世界は、我が物となる!!」
こうして再び、この世界はカードによって滅びようとしていた。
いやなんで??