カードゲーム作ったら世界が滅んだ   作:The.T

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視点はしばらく(少なくともこの章の大半は)この子になります


1話 スタートダッシュ! - Ready? Go!

 

 その日、彼はツイていなかった。

 

 小学校ではガキ大将に目をつけられて一方的な魔札戦(キャスト・ウォー)を挑まれ、お前にこのカードはまだ早いとか言ってカードを藪の中へと投げ捨てられ、必死になって見つけた頃には陽が落ちてしまっていると来た。

 

 門限はとっくに過ぎており、母親に叱られるのが嫌で帰宅への足取りが重い。そうなれば自然と視線は下へと落ちる。

 前を見ないと危ないのは知っているけれど……そうだ、暗い時は足元を見ないといけないんだから仕方ない。

 

 そんな意味のない言い訳を自分にしつつ歩いていると、不意に人影が自分へと向かってきた。咄嗟に避ける気力もなく、そのまま自分と影が重なろうとする。

 思わず身が硬くなり、謝罪の声が出た。

 

「ご、ごめんなさ……あれ?」

 

 おかしい。ぶつかった感覚がない。

 相手が上手く避けてくれたのだろうか?

 でも今、確かに影が目の前に来ていて――

 

 

「あなた、私が見えるんですか!?」

 

 

 振り返ると、オバケがいた。

 

 身体が半分透けた、真っ白な服に身を包んだ少女がこちらを見ている。よほど驚いているのか、その目はまん丸になっていた。

 

「ねぇ。見えてるんですよね?ね?」

「う、うわあぁぁーーーっ!!!」

 

 三十六計逃げるに如かず。

 最近覚えたばかりのカッコいい言葉と自らの恐怖心に従い、なりふり構わず駆け出した。

 

「ちょっと! 待ってくださいよーっ!」

 

 その場に残されたのは幽霊少女とランドセル、そして小さなデッキケース。落とした衝撃でデッキケースの蓋が開き、中身が散らばっていた。

 少年の逃げ足の速さに追いかけることを諦めた少女は、足元のカードへと目をやる。

 

「全くもう、カードをこんなに雑に扱って……あれ? このカード、もしかして」

 

 一枚のカードへと手を伸ばし、自分が触れることができることを確かめた。

 そのカードには小さな竜のイラストが描かれており、他のカードと違って微かに光を放っている。

 

「やっぱり。遺物(レガシー)カード、しかも私が知らないもの……なんであんな子供が持っているんでしょうか?」

 

「まあ、理由なんてなんでもいいんです。ようやく見つけた魔力持ち……逃しませんよ」

 

 半透明の少女が、電灯に照らされた路上にひとり佇む。

 その姿も、その声も、誰にも届くことはなかった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 無事に家へ着くや否や母親に拳骨を落とされた、次の日。

 

「おっはよ〜う!」

 

「おはよー! ……って、熱覇(ネッパ)君? こんな早く来るなんてどうしたの?」

 

 少年――伊吹(イブキ)熱覇(ネッパ)はいつもより早く小学校へ来ていた。

 昨日の落とし物を拾うという寄り道をするため、親に叩き起こされたのだ。

 

 幸いランドセルは中身も無事で、誰かに踏まれているといったことはなった。

 落とし物の中には()()()()()()カードケースもあり、誰かに盗まれていないことに熱覇は安堵した。

 

「ちょっと用事があって……っと、それよりも昨日はありがとな! 助かった!」

 

 昨日、ガキ大将にカードを投げられた後、藪の中を探していた時のこと。目の前の少女が手伝ってくれたのだ。

 

「ううん全然。……ほんとは魔札戦(キャスト・ウォー)するのを止めたかったんだけど」

 

「なんだよ、やる前から俺が負けると思ってたのか?」

 

「いつも負けてるじゃん。そーいうのは一度でも勝ってから言ってよね」

 

「次は勝つから見てろよな!」

 

 感謝の気持ちはどこへやら。

 売り言葉に買い言葉でネッパは声を上げる。

 

「――よォ、朝から元気じゃねぇか」

 

 そこへ冷や水を浴びせる声が教室に響いた。

 そこにいたのはネッパよりも数段ガタイのいい少年。

 

「あっ樹楽(ジュラク)!」

 

「ジュラク君おはよう」

 

 その少年、種塚(タネヅカ)樹楽(ジュラク)は手からポキポキと音を鳴らしながらネッパのことを睨んだ。

 

「なーんか幻聴が聞こえてなァ……誰が、誰に勝つって? え?」

 

 ネッパの元へとずんずん歩いて行くジュラク。

 同じ歳とは思えないほどの巨体に見下ろされたネッパだが、それでも怯むことなく言い返した。

 

「俺が! お前に!! 次は負けねぇ!」

 

「雑魚のくせにぴーぴー騒ぐじゃねぇか。……まだ朝礼まで時間あるな。ちょうどいい、『今』やってやるよ」

 

 時計を見れば7時半。確かにあと1時間近くあり、1戦くらいはできるだろう。

 

「望む所だ!」

 

 ポケットから取り出したケースからデッキを引き抜き、構える。

 見ればジュラクも腰のホルダーからデッキを取り出していた。

 

 距離を取って向かい合い、同時に口を開く。

 

「「魔札装填(キャスト・レディ)!」」

 

 魔札戦(キャスト・ウォー)の開始を宣言してデッキから手を離せばカード達は宙に浮き、自動で無作為化(シャッフル)される。

 そこから初期手札として6枚のカードが排出され――

 

「あ、あれ?」

 

 ネッパの手元へカードは来ず、代わりに現れたのはエラーメッセージが記された光の板。

 

 そこには『error_003: デッキ枚数が不足しています』と表示されていた。

 

「おいどうした、やっぱなしです〜ってか?」

 

 ジュラクのいる場所からは文字が読めないらしく、煽り文句が飛んでくる。

 

「んなわけあるか! ちょ、ちょっと待ってろ!」

 

 慌ててデッキの中身を確認すれば、確かに1枚足りない。

 それは昨日必死になって探した大切なカードで――

 

「お探しのものはこちらですか?」

 

 真横から声が聞こえ驚きつつも顔を向けると、そこに立っていたのは昨日のオバケ少女だった。

 少女とは言っても小学生のネッパよりは背が高く、中学か高校生くらいに見える。彼にとってはどちらにしても「大きなお姉さん」であり、正確な年齢は掴めない。

 

 そうしてよく観察していると気づいた。

 手に1枚のカードを持っているではないか。

 

「おっ、おまっ……!」

 

「おっとお静かに。あなた以外からは私が見えてませんから、大声を出すと変な人になっちゃいますよ?」

 

 指を口の前で一本立てて静かにするようジェスチャーで示したその少女は、やはり体が透けている。どうやら昨日のアレは見間違えじゃなかったらしい。

 

「さてこのカード。道に落ちてたのを拾ったんですけど……欲しいですか? 欲しいですよね?」

 

「俺のカード! 返せよ!」

 

 小声で要求するも、カードを差し出す気配はない。

 

「では取り引きをしましょう! このカードはあげますから、後で私の人探しを手伝ってください」

 

「人探しぃ?」

 

 馬鹿とよく言われるネッパにも分かる。

 それはあまりにも怪しい提案だった。

 

「今ならなんと特別サービス! こちらのカードもつけちゃいます!」

 

 そう言って突き出された彼女の手には、ネッパのものとは違う3枚のカードがあった。

 どれも初めて見るカードで……いや、あの《火球》ってのは社会の授業で見たことある気がする。なんだっけ、めちゃくちゃレアなやつ……

 

「分かりませんか? 全部遺物(レガシー)カードです」

 

「れ、遺物(レガシー)!?」

 

 遺物(レガシー)カード、それはめちゃくちゃ貴重で高いやつ。ネッパの知識はその程度しかないが、とにかくすごいのは分かる。

 なんてったってそれ1枚で家が買えるなんて話を聞いたことがあるのだ。

 

 それが、3枚も!

 

「ほらほら、時間がないんでしょう? 早く決めてください」

 

「……人探しって、なんかケーサツに捕まるようなことしないよな?」

 

「もちろんですよ。ただ人を見つけて、話をするだけです」

 

 怪しい。めちゃくちゃ怪しいが、ネッパに選択肢は1つしかなかった。

 3枚の遺物(レガシー)カードは関係ない。そんなものなくたって構わない。

 彼の目に写るのは1枚の大切なカードだけだった。

 

「分かった。するよ。するからそのカード早く返してくれ」

 

「はい、契約成立ですね! こちらをどうぞ! あなたのカードと相性いいのを見繕っておきましたから」

 

 手渡された4枚のカード。その内容を確認することもせずにデッキへ突っ込み、軽くシャッフルする。

 少なくとも色は一致していたから、最悪でもコストにすれば良いだろう、と。

 

 再度デッキを宙へ放れば、今度はエラーもなくゲーム開始処理が行われた。

 6枚のカードを手に取って向き直ると、ジュラクは退屈そうに欠伸をしている。

 

「待たせたな!」

 

「ずいぶんとかかったじゃねぇか。……時間がねェ、とっととボコしてやる」

 

 先攻を示す光がジュラクへと灯るのを合図として、二人は声を上げた。

 

「「――ファイト!!」」

 





 ⬛︎⬛︎⬛︎ちゃんプレゼンツ、今日の1枚のコーナー!
 今日のカードは……って、あれ?
 まだ始まってないんですかあ!?

 しょーがないですね……それではこちら!

紅玉(こうぎょく)終焔竜(しゅうえんりゅう)-ヴァルカン》!

 6コス……おっと。詳しい情報はとっぷしーくれっと、です!

 かつて世界を滅ぼした五大災厄のひとつであり、数ある遺物(レガシー)の中でも特に曰くつきのカードとなっています。
 なぜか幻影(ビジョン)カードが刷られておらず遺物(レガシー)カードすら発見された記録がないことから、実在が疑われていたりなんかも……

 『終末戦争』のことを研究する学者達の間では、今日も議論が白熱しています。

 それでは、またね〜!
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