カードゲーム作ったら世界が滅んだ   作:The.T

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3話 竜の息吹 - Dragon's breath

 

 《ティラン・セウルス》の放つプレッシャーにより、教室にはピリピリとした空気が満ちていた。

 

「8/8……! 来やがったな」

 

スタッツ(それ)だけじゃあねェ、貫通持ちだ。テメェが貧弱なモンスターをいくら並べようが何の意味もねぇんだよ」

 

 キーワード能力『貫通』

 その名の通りモンスターによるブロックを貫通してダメージを与えられる、パワフルな緑を代表する能力だ。

 

 仮に《ドラゴン・エッグ》でブロックしたとすると、《ティラン》のパワー8から《エッグ》のタフネス3を引いた5点のダメージを受けることになる。一方的にモンスターとライフを減らされていくだけだ。

 

「《朽ち木》で殴っても《エッグ》は倒せねえか。ターンエンドだ」

 

「俺の、ターン……」

 

 どうしたらいいだろうか?

 毎ターン攻撃しつつサイズアップしていくのだ。対処が遅れれば遅れるほど処理しにくくなる。

 

「やはり来ましたか。この対面だと除去耐性ないのが弱点にならない上に、ライフ回復まで……ガンメタカードですねえ」

 

 そう。ネッパはいつもあのカードに手も足も出ずに負けてきた。

 《火花》のような火力カードで処理するには8というタフネスが大きすぎるし、無視してプレイヤーにダメージを飛ばしても毎ターン回復されて倒し切れない。

 

「でもまあ、《エッグ》出したってことは次は()()ですし……火力寄せならトップ次第で次ターン詰め切れますかね? 相手に除去握られてたら知りませんけど、もうケアしてる余裕ありませんし」

 

「え?」

 

 詰め切れる。それはつまり、倒せるということ。

 隣にいる彼女には一体どこまで先が見えているのだろうか。

 目の前のことと今の手札でいっぱいいっぱいなネッパには、まるで分からなかった。

 

 でも。

 先のことが分からなくても、今しなきゃいけないことは分かる。

 

「行くぜ、ドロー!!」

 

 考える前に、情報を揃えろ。

 手元の情報だけではまだ足りないのだから。

 

 そうして引いたカードは……

 

「なんだコレ?」

 

 見たことのないカードだった。

 

「おお! それならもうオーバーキルじゃないですか!」

 

 横からの声を聞いて思い出す。

 そうだ、このデッキには3枚の遺物(レガシー)カードが入れられたのだ。つまりこれはその内の1枚。

 

「えっと、効果は……」

 

 

《ダブルアップ》

(赤)

呪文

奇襲(このカードは自分の優先権でいつでも使用できる)

ダメージ計算が終了しているターン、この呪文は使用できない。

モンスター1体を対象として発動する。ターン終了時までそれのパワーを2倍にする。このターン終了時、それが攻撃していた場合、それを破壊する。

 

 

「にばっ……!」

 

 たった1コストでパワーを2倍に。自壊デメリットがついてはいるが、破格の性能である。特にネッパの扱う『情熱機関』との相性が非常に良い。

 

「よし、これなら!」

 

 事前に立てていたプランへの悪影響はなく、むしろ強烈な後押しとなる。

 最初のターンから後生大事に抱えていたカードが、俺を使えと煌めいていた。

 

「《笛吹きゴブリン》を魔石化(セット)して、《ドラゴン・エッグ》を生贄に4エナジーを抽出!」

 

 

《ドラゴン・エッグ》

生贄:(赤)を得る。このエナジーはドラゴンカードのコストにしか使用できない。

 

 

 《ドラゴン・エッグ》の殻がパキパキと音を立てて割れていく。

 そうしてできた隙間からは、外を睨む真紅の眼が覗いていた。

 

「行くぜ相棒! 《火炎竜-バーン》を召喚!!」

 

 ついに卵の殻は砕け散り、真っ赤な竜が誕生した。

 口の端からは呼吸と共に炎が漏れ出し、赤白く発光する爪が食い込む地面はドロドロと溶け出している……ように見える。無論全てはカードが生み出した幻影(ビジョン)だが。

 

 

《火炎竜-バーン》

(赤)(赤)②

モンスター

ドラゴン

3/4

情熱機関

このモンスターのパワーが5以上の間、このモンスターは"空中"を持つ。

このモンスターの攻撃宣言時、1つまでを対象として発動する。このモンスターは自身のパワーに等しいダメージをそれへ与える。

 

 

 そのスタッツは3/4と、4コストのモンスターとしては少々控え目。

 だがしかし、それを補って余りある能力が秘められている。

 

「ターンエンドだ! さあ来いよジュラク!」

 

「……やっぱお前には勿体ねぇカードだぜ、ソイツは」

 

 何やら小さな声で零しながら、ジュラクはカードを引いて手を進めていく。

 

「手札の《無垢なる種子》を魔石化(セット)して、3コストで《常夏ココナツ》を召喚。そんでもういっちょ《常夏ココナツ》追加だ」

 

 5つの魔石と盤面の《無垢なる種子》を使って2体のモンスターを展開するジュラク。

 

 

常夏(とこなつ)ココナツ》

(緑)②

モンスター

植物

3/3

対空(このモンスターは"空中"を持つモンスターをブロックできる)

このモンスターが死亡した時、以下から1つを選択して発動する。

・自分のモンスター2体までを対象として発動する。それらの上に+1/+1カウンターを1つずつ置く

・ライフを4点得る

 

 

「お前のドラゴンが空を飛ぼうが俺のモンスターを焼こうがよォ……2体の壁は越えられねェだろ?」

 

 キーワード能力『空中』を持つモンスターは、同じく『空中』を持つモンスターにしかブロックされない。だが『対空』はそれを無視してブロックに参加することができる。

 それでも《火炎竜-バーン》は自身の攻撃時にモンスターを1体焼くことができるため、『対空』持ちを焼くことで直接攻撃を通すことができる……というのは『対空』持ちが2体いなければの話。

 これではいくらパワーを倍にしようと意味がない……のだが。

 

「何笑ってやがる?」

 

「いや全然? 気のせいじゃないか?」

 

 ネッパは満面の笑みを浮かべていた。

 まるで「その程度か?」とでも言うように。

 

「その余裕がいつまで続くんだろうなぁ! 《ティラン・セウルス》で攻撃!」

 

 花弁を纏うティラノサウルスの突進が大地を震わせる。

 

「この時、《ティラン・セウルス》の効果を発動! 《無垢なる種子》を生贄にして、3点回復だ! 更に植物モンスターの死亡に反応してサイズアップ!」

 

 

《ティラン・セウルス》

このモンスター以外の植物か恐竜であるモンスターが死亡した時に発動する。このモンスターに+1/+1カウンターを1つ置く。

このモンスターの攻撃宣言時に発動する。自分のモンスター1体を生贄にしてもよい。そうしたらライフを3点得る。

 

 

 《ティラン》が大きな種子を丸呑みにし、高く吠える。

 身体から溢れるオーラの色が一段と濃くなった。

 

[ジュラク ライフ 18→21]

[《ティラン・セウルス》 8/8→9/9]

 

「ライフで受ける!」

 

 巨大な(アギト)がネッパの頭上から迫り、勢いよく閉じた。

 物理的な衝撃はないが思わず足がもつれて尻もちをつく。

 

[ネッパ ライフ 20→11]

 

「さて、次のターンには終わりだな。ターンエンドだ」

 

 ネッパは立ち上がりながら計算をする。

 《火花》、《常夏ココナツ》での回復、情熱機関、《ダブルアップ》……足りない。

 

「あと2点」

 

 あとたったの2点だ。今の手札だと倒しきれず、返しの総攻撃で負ける。

 《ダブルアップ》を使えば《火炎竜-バーン》と《ティラン・セウルス》の相打ちには持って行けるが、それでは残りの盤面で押し切られる。

 

「俺のターン!」

 

 火力呪文を引けば?

 ダメだ。今の手札は3枚で、魔石も3枚。

 今の手札を全て使った上で引いたカードを使うには魔石が足りない。

 

「ドロー!」

 

 そして、引いたのは。

 

「わお、いい引きしてますね〜」

 

 ネッパもよく知るカード、《スタートダッシュ!》

 その効果は――

 

「よし、行くぞジュラク!」

 

 手札は4枚、魔石は3枚。

 ()()魔石は置かない。

 

「1コスト、《竜の息吹(ドラゴンズ・ブレス)》! 1体目の《常夏ココナツ》に3ダメージ!」

 

 

竜の息吹(ドラゴンズ・ブレス)

(赤)①

呪文

奇襲

自分のフィールドにドラゴンがいる場合、このカードの使用コストは①少なくなる。

1つを対象として発動する。それへ3点のダメージを与える。

 

 

 《火炎竜-バーン》が口を開き、そこに炎が集中していく。

 

「この時、《火炎竜-バーン》の『情熱機関』が発動! 《バーン》のスタッツが上昇!」

 

 キーワード能力『情熱機関』

 コントローラーが赤のカードを使用した時に発動する。このターン、このモンスターは+1/+1修正を得る。

 

 赤のドラゴンを中心とした一部のモンスターが持つ能力。

 主人が示した力に応え、その力を共に高めていく。

 

[《火炎竜-バーン》 3/4→4/5]

 

 やがて火球は竜の口に収まらないほど大きくなり、一息で放たれた。

 背の高いヤシの木に命中した火球は、灰の一つも残さんと燃え上がる。

 

「《常夏ココナツ》の効果……パンプしてる余裕はねぇか。ライフ回復だ」

 

 

《常夏ココナツ》

このモンスターが死亡した時、以下から1つを選択して発動する。

・自分のモンスター2体までを対象として発動する。それらの上に+1/+1カウンターを1つずつ置く

・ライフを4点得る

 

 

[ジュラク ライフ 21→25]

 

 自らの死を悟ったココヤシの木が、その実を天高く放る。

 まっすぐにジュラクへと落ちてきたそれは衝突の直前でパカリと開き、命の水を主人へと振りかけた。

 

「チッ、これで直接攻撃は防げなくなったか……」

 

「まだだ! 続けて1コストで《火花》! 対象はもちろん《常夏ココナツ》!」

 

 

《火花》

呪文

(赤)

奇襲

1つを対象として発動する。それに2点のダメージを与える。

このターンに自分が他の赤の呪文を使用していた場合、代わりに3点のダメージを与えてもよい。

 

 

 巨大な松明の如く燃え上がっていたヤシの木から大きな火花が飛ぶ。

 すぐ隣に生えていたもう1本は逃げることもできず、同じく火に包まれることとなった。

 

「『情熱機関』で《バーン》が更にパワーアップ!」

 

[《火炎竜-バーン》4/5→5/6]

 

「クソ、《ココナツ》の効果! ライフを回復だ!」

 

[ジュラク ライフ 25→29]

 

「なるほどな。1体目の《ココナツ》の死亡時効果で2体目の強化を選んでいたら、その効果に重ねて(チェインして)2体目を焼かれて無駄になってたって訳か。オメェにしてはよく考えたな。……だがそんだけの火力、《ティラン・セウルス》に打ち込まなくて良かったのか? 《バーン》の攻撃時効果も合わせりゃ倒せてたのによ。《ココナツ》の死亡に反応して育っちまってるぜ?」

 

[《ティラン・セウルス》9/9→11/11]

 

「この程度の計算もできないお前に《火炎竜-バーン(そのカード)》はまだ早ぇんだよ」

 

「――まだだ、1コスト! 《スタートダッシュ!》!」

 

 

《スタートダッシュ!》

(赤)

呪文

モンスター1体を対象として発動する。ターン終了時までそれは"速応"を得る。

カードを1枚引く。

 

 

「あん? 別に速応つけたって意味は……いや、『情熱機関』稼ぎか!」

 

[《火炎竜-バーン》5/6→6/7]

 

「そして1枚、ドロー!」

 

 引いたカードを見ることもなく、叩きつけるように魔石化(セット)

 当然赤単色。横にひねれば(赤)(1エナ)を抽出できる。

 

「これで最後だ! 呪文《ダブルアップ》!! これに《バーン》の『情熱機関』が誘発して、チェインする!」

 

 チェイン。

 複数の効果がひと繋がりとなり、最後に繋がったものから順に解決されていく。

 

[《火炎竜-バーン》6/7→7/8]

 

 火炎竜の鱗の色はもはや赤を通り越して真っ白に光り輝き、あまりの温度に空気が歪んで見える。

 だがしかし、これすらまだ前座に過ぎない。

 

「《ダブルアップ》の効果! パワー2倍だあっ!!」

 

 

《ダブルアップ》

モンスター1体を対象として発動する。ターン終了時までそれのパワーを2倍にする。このターン終了時、それが攻撃していた場合、それを破壊する。

 

 

[《火炎竜-バーン》7/8→14/8]

 

 変化は劇的だった。

 翼のつけ根から紅蓮の炎が噴出し、元の倍以上ある炎の翼を形成する。

 それを一度振るえば巨体が空へと浮かび出し、手足も炎に覆われていく。

 

 古き兵(ティラノサウルス)が何するものぞ。

 我こそが空の支配者であると言わんばかりに、咆哮が戦場を震わせた。

 

「パ、パワー14……! これじゃあライフ狙いで……いや、まだだ! まだ届かねェ! 俺のライフは29! 攻撃時効果を合わせても1点足りねェはずだ!」

 

「バトルフェイズ! ()()()モンスターで攻撃!!」

 

 真紅から純白へと転じた竜が、その口に炎を集中させ始める。

 太陽と見紛うほどの輝きに、周囲の者はそれを直視できない。

 

「《火炎竜-バーン》の効果! ジュラクにそのパワー分…14点のダメージ!!」

 

 

《火炎竜-バーン》

このモンスターの攻撃宣言時、1つまでを対象として発動する。このモンスターは自身のパワーに等しいダメージをそれへ与える。

 

 

 放たれたのは、最早炎と呼べるものではなかった。

 一直線に伸びる紅い光線がジュラクを貫き、背後で大爆発を起こす。

 

[ジュラク ライフ 29→15]

 

「ぉわ……っ!!」

 

「さあ! どうする、ジュラク!」

 

「どうするって……《バーン》は飛んでるからブロックできねぇ。そんで……そうか、《突撃ゴブリン》!」

 

 よくよく見れば、空を舞う火竜の下を駆ける小さなゴブリンの姿が見える。

 そのパワーはたったの1。

 その1点が、今はとてつもなく大きい。

 

「通してたまるかよ! 《豊潤な朽ち木》で《突撃ゴブリン》をブロック!」

 

 何か、

 自分は何かとてつもなく重要なことを忘れている。

 ジュラクはそんな気がして、悪寒に身を震わせた。

 

 大丈夫だ。計算に間違いはなかった。

 ネッパの魔石は全て使い切って、手札もゼロ。もう何もできやしない。

 《バーン》の14点を受けてもライフは1だけ残り、返しのターンに《ティラン》で殴れば勝てる。

 

 そのはずだ。

 

「さあダメージ計算だ! 《火炎竜-バーン》で14ダメージ!」

 

 熱量の塊と化した竜による最大の攻撃手段は、その身体ごと相手に突っ込むことである。

 炎の翼を畳んで一つの砲弾となった火竜に正面から襲われ、ジュラクの体がひっくり返った。

 

[ジュラク ライフ 15→1]

 

 しかし、そのライフは残っている。

 迫真の幻影(ビジョン)により倒れたジュラクだが、口からは笑みが零れていた。

 

「は、ハハ…… 中々良い所まで行ったがな! この勝負、俺の――」

 

「戦闘に負けて破壊された《突撃ゴブリン》の効果!」

 

「――は?」

 

 腐って倒れてくる大木を回避できず、ゴブリンが下敷きになっていた。

 無謀な攻撃に斃れたゴブリンだが、その目は死んでいない。

 

「ジュラクへ1点のダメージを与える!」

 

 

《突撃ゴブリン》

このカードが手札・フィールドから墓地へ送られた時、1つを対象として発動する。それへ1点のダメージを与える。

 

 

 最後の力で腕を振り、その手の槍を放り投げる。

 ゆっくりと弧を描いたそれは、狙い違わずジュラクへと突き刺さり……

 

[ジュラク ライフ 1→0]

[ネッパ WIN]

 

 最後のライフを削り切った。

 





 ⬛︎⬛︎⬛︎ちゃんプレゼンツ、今日の1枚!
 今日のカードは…これ!

《火炎竜-バーン》!

 4コストの3/4で、攻撃時に自身のパワー分のダメージを好きな場所に与えられます。もちろん赤ドラゴン族の固有能力である情熱機関も標準搭載。赤単ドラゴンが誇る決戦兵器です!
 4コストにしては控えめなスタッツですが、その能力によりパワーは実質2倍。小粒でのブロック(チャンプブロック)すら許さずに相手を攻め立てることかできます。

 プロの方々からは「なぜタフネスが4もあるんだ? 3点火力で処理できない」「除去持ってるかの所持品チェック」「エッグから2→3で繋がるのが良くない」などと非難轟々!
 なお、出したターンに一切仕事をしないせいか、プロシーンでの活躍はあまり見られません。cip(登場時効果)や除去耐性を持たないモンスターへの評価が厳しいですね。

 ところでこのカード、割と最近誕生したはずなんですけど……どうして遺物(レガシー)版が存在するんでしょうか?
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