「俺の《バーン》が…!」
無意識に伸ばした手は空を切り、ひらひらとカードが地へ落ちた。
「わ、ワンショットキルは、させない。ターン、エンドだ……」
切り札を的確に打ち抜いた男がニタリと笑い、ネッパの頭上にターンプレイヤーを示す光が灯る。
ネッパはここでようやく事態を理解して、自分の手札を確認した。
そうだ、
「……《ルビーの
《突撃ゴブリン》
(赤)
モンスター
ゴブリン
1/1
速応(このモンスターは出たターンに攻撃でき、自己ステイ能力を起動できる)
このカードが手札・フィールドから墓地へ送られた時、1つを対象として発動する。それへ1点のダメージを与える。
[ヒョロガリ ライフ 17→16]
最軽量モンスターでの攻撃を終えてターンを終了。
男はなんの反応も見せず、ただ自分の手札を見つめていた。
「お、オレのターン、ドロー」
相手のターンが始まり、少しだけ余裕ができる。
ネッパはこの時間を利用してコリナとの密談を試みた。
「なあ、これ負けたらヤバいのか?」
「そうですね。連戦ペナルティで
連戦ペナルティ。それは同じ2人が連続でマッチングしないように設けられたとされる、敗者への罰である。
これを受けると一定時間デッキの起動……
その存在はネッパも知っていたが、まさかこんな……相手の武器を封じるために用いられるとは考えもしなかった。そもそも遺物《レガシー》を使うという行為自体がまだあまり分かっていないのだが。
「《強欲な盗賊、ジン》を
相手は魔石を置くだけで動きを終え、すぐにターンが返って来た。
早すぎる。今はもっと情報と時間がほしい。
「俺のターン」
だが、このゲームには持ち時間に制限がある。
それほど短いわけではないが、ゲームを脇に置いて何分も会話できるほどの余裕はない。
それになにより、この戦いは負けられないのだ。余計なことに頭のリソースを使えるほど自分が強くないと、彼は知っていた。
「ドロー!」
さあ、引いたカードは?
……自軍を全体強化するフィールドへの付与魔法、《
でも、今の場には突撃ゴブリンしかいない。これを使うなら先にモンスターを並べてからの方がいいはず。となると優先すべきは使い切りの単体強化呪文、《竜の爪》。
「《鮮血の星》を
無防備な男へ2回目の攻撃。
ゴブリンが走り出したのを確認してから1枚のカードを手に取った。
「ダメージステップに――「ちょっと待ってください!」お、おう」
そこへコリナの声が割り込んだ。
咄嗟にカードの使用を中断し、手の中のカードを確認する。
間違いなく《竜の爪》だが、何か問題があったのだろうか。
「相手は今のところ黒単で、さっき魔石に埋めた《強欲な盗賊、ジン》は1コストのモンスターです。つまり自分のターンに動けるのに動かなかったということ。十中八九除去呪文を構えていると思った方がいいでしょう」
語られた予想から、静止の理由を理解した。
このまま単体強化の呪文を使っても、強化後にモンスターが除去されて無駄に終わるということだ。
「相手は一度あなたの手札を見ていて、その《竜の爪》の存在を認識しています。少なくとも1:2交換…できれば1:3交換を狙っているはず」
手札を見られたという事実と、相手の魔石の置き方。
その情報だけでここまで読み取れるものなのか。
「じゃあどうするんだよ。使わないまま手札で腐らせるのか?」
「別に腐りはしませんよ。あなたが手札の《竜の爪》を見せつけている限り、相手は除去を打ちにくくなります。強化なしのゴブリンならたった1点ですし、弱いモンスターとの1:1交換はあまり嬉しくないでしょう。……まあ、除去を複数枚抱えていたら話は別ですが」
つまりこの《竜の爪》は、今この時だけ除去回避という役割を持っているのだ。
状況を把握し、カードを最大限に活用する。そんな当たり前のことがこんなにも難しい。
ネッパは改めてコリナとの実力差を認識し、カードを握る手に力が入った。
「そんじゃ改めて――《突撃ゴブリン》で攻撃!」
「………通す」
[ヒョロガリ ライフ 16→15]
男は自身の手札とゴブリンを見比べ、何やら悩んでから攻撃をそのまま受けた。
コリナの読み通りなら、これで相手は1ターンを無駄にしたこととなる。
「そんで、メイン2に……」
どうする?
手元にあるカードで今使えそうなのは《ドラゴン・エッグ》と、先程引いた《竜の加護》。残りは単体火力呪文や今は刺さらないメタカードだ。
素直にやるなら《エッグ》で頭数を増やすべきだろう。早く出して召喚酔いを解いた方がダメージ効率がいい。
……けれど、今は違う。
「2エナで《
《
赤①
付与魔法-フィールド
唯一(これと同じ名前のカードは自分フィールド上に1枚しか存在できない。2枚以上存在する場合、1枚を選びそれ以外を墓地へ送る)
自分フィールドの全ての赤のモンスターの種族に「ドラゴン」を追加し、『情熱機関』を与える。
(情熱機関:自分が赤のカードを使用した時に発動する。このターン、このモンスターは+1/+1修正を得る)
竜を模した紋章が地面に広がり、その上に立つ怪物へと力を与える。
ぴきぴきと、ゴブリンの肌を赤黒い鱗が覆っていった。
「うん、良い手だと思います。《エッグ》を出すと"除去を使う理由"を与えてしまいますからね」
《エッグ》を出した場合、相手は「より高コストのモンスターを除去するためにあえて《ゴブリン》の攻撃をスルーした」という理由を得て――それが例え結果論であろうとも――《エッグ》に対して除去を使う可能性がある。
また、黒のカードはモンスターの除去が得意な反面、付与魔法や魔導具といった置き物を除去する手段に乏しい。そのため《竜の加護》がハンデスで抜かれる前に設置するのは非常に有効である。
……なんてこと、ネッパには分かっていなかった。
ただなんとなく嫌な予感がしただけだ。
こちらの手札を見てニヤニヤしていた男に対し、予想外のカードを叩きつけたかった。無理に理屈をつけるならそんなものだ。
果たしてその判断は正しかったのか。
ネッパのターン終了宣言の後、ヒャロガリ男は
「オレのターン……け、《計画的生贄》を
また黒単色のカード。ここまで来たら黒単で確定だろう。
それが分かったとて活かすための知識がなければ意味がないのだが。
「り、リバースカードを1枚伏せて、ターンエンド」
巨大なカードの
「リバースカード?」
初めて聞く言葉。いや、テレビで見たプロの試合で使われていただろうか?
どちらせよその意味は分からない。
「事前に伏せておくことで、条件を満たした時に
「タダって…使い得ってことかよ」
「そうでもないですよ? 発動できるかは相手の動きに依存しますし、エナジー以外の追加コストを要求することも多いので。あまり気にせず、正面から踏み越えるくらいの気持ちで行きましょう」
青のリバースだったら話は別なんですけどね、と話を締め括り、カードを引くよう促すコリナ。
それがネッパを安心させるための楽観的な説明なのか、それとも本当に無視していいような弱いカードなのか。その判別はつかない。
できれば後者だといいなと願いつつ、デッキへと手をかけた。
「俺のターン…ドロー!」
引いたのはあまり見覚えのないカード。つまり貰ったばかりの
効果は……モンスターを生贄にしてトークン生成?
分かりにくい。つまり何がしたいんだろうか。
「え、それ引けるんですか。なら除去使わせちゃいたいですね」
何やらこの状況で嬉しいカードらしい。
除去を打たれることを前提としてみれば、ネッパにも理解ができた。確かにこれは今が一番強いカードだ。
「除去をゴブリンに誘導する手は2つあります。1つは《竜の爪》をゴブリンに使うこと。これは高確率で上手くいきますが、《竜の爪》は無駄になります」
真っ先に思いつく案だ。相手の理想通りに進めば当然除去を使うだろう。
「そしてもう1つは――」
その作戦は小さなリスクによりほんの少しのリターンを得るもの。
どちらを選んだ方が良いのかはコリナにも分からない。
上手く行くのであれば後者の方がいいが、失敗するくらいなら前者の方がマシ。結果論にしかならないのだ。
「よし、そっちで行こうぜ」
ネッパはその作戦を聞き、少しも迷うことなく頷いた。
ギャンブルが好きなわけでも、少しでもリターンが必要と判断したわけでもない。
ただ思ったのだ。
「さあ見てろよ! 《
――こっちの方が、カッコいいと。
コリナちゃんプレゼンツ、今日の1枚!
今日のカードは…これ!
《竜の爪》!
1コストの単体強化呪文で、赤が得意とする小型モンスター速攻戦術を支える1枚です。
そのターンの間+3/+2修正に加え、『貫通』も付与! もちろん奇襲も持っているため、相手の攻撃やブロックに合わせて使うコンバットトリックで活躍します。
単に相手プレイヤーへ攻撃するモンスターに使うだけだと、3点火力の呪文と変わらない……どころか盤面にモンスターが要求される劣化版です。
重要なのはやはりモンスター同士の戦闘への介入。
基本的に相手がブロック用モンスターを出してきた時点で小型モンスターは攻撃できなくなってしまいますが、この呪文があれば話は別。一方的に戦闘破壊されるはずだった相手を、逆に討ち取ることができます。
浮いた1エナで相手を威圧しましょう!
合言葉は「ダメステいいっすか?」
それでは、またね〜!
新カードで後出しジャンケンできてしまうカード小説(特にオリジナル)において、求められている面白さはこういう読み合いじゃなくて全体のストーリー性だとは思います。それは重々承知の上で、もう暫くお付き合い頂ければ幸いです。
私はカードゲームのこういう所が大好きなので。