楽しんでもらえると嬉しいです。
暗い宇宙空間に、灰色と赤の機械鎧を纏い、腰にドライバーを巻いた人物がフラフラと飛行をしていた。
大きさは2mにも満たない、ヒューマンタイプの生物だ。
「……エネルギー不足、幸い周囲に敵影なし。何処かに不時着して食料を探すか?それとも……」
その人物は独り言を言って状況を整理しながら、周辺の星を探っている。
やがて良さそうな惑星を見つけ、惑星全体をスキャンした。
豊富な水源と緑豊かな大地で、怪獣はおらず、異星人による文明の痕跡……なし。
更にそこに生えている植物は自身を覆い隠す程の大きさで、暫く隠れ住むにも適していると判断した。
目標をその惑星に定めて進んでいき、星の地面に降り立つと機械鎧を解除した。
「星ごと滅ぼした方が効率的か?」
その中からは疲れた顔をした少女が出てきた。
「まぁ、そんな余力もないんだがな」
彼女は伸びをして周りを見渡すと、スキャンした時に見つけた水辺へと歩き出した。
一方その頃、光の国では小学生達が恒例の遠足に向けて出発の準備をしていた。
目的地は怪獣が確認されず、緑豊かで異星人の文明がない安全な惑星だった。
「さて皆さん、忘れ物はありませんか?」
「ないです!」
「ねぇ早く行きたい!」
先生が生徒達の人数を確認して、宇宙航行が可能な送迎バスに案内した。
中では遠足に胸を踊らせた生徒達が、思い思いに過ごしていた。
「きれい……」
そんな中の一人、ウルトラマンボーイは窓から見える景色を眺めていた。
彼は飛行が得意ではなく、未だに長距離の飛行が出来ない。
だからだろうか、光の国の外の景色に強い興味があった。
実際に見る宇宙は、資料で見たものよりずっと綺麗で、先生が目的地に到着したと伝えるまで夢中になって眺めていた。
「皆さん、この惑星は緑豊かで怪獣の出現は確認されていません。しかし、あまり先生から離れないこと!良いですね?」
「はーい!」
バスから降りた生徒達は一斉に駆け出そうとするが、先生の言葉に素直に従った。
ボーイは先生の言葉に従いつつも、この惑星を散策したい気持ちでいっぱいだった。
図鑑で見た植物を探して、実際に触れてみたい!
好奇心に突き動かされるまま、そっと集団から離れて森の散策を始めた。
「凄い!これが植物……図鑑で見たのとは大きさが違うけど……これはこれで良いね!」
光の国にはプラズマスパークタワーから発されるディファレーター光線によって、植物が育たない。
物珍しさからどんどん奥へと進んでいくボーイ。
ふと気が付くと、微かに聞こえていた級友達の声も聞こえず、自分が何処にいるのかも分からなくなった。
「ま、まずい……!はやく皆の所に戻らなきゃ!」
急いで戻ろうとするも、既に方向感覚も分からななっていた。
こういう時、光の国の住民ならテレパシーを使うが、子供の彼は使いこなせず、弱々しいものしか送れない。
暫くここでじっとしてテレパシーを送り続けていれば、いずれ先生達が見つけてくれる。
けれど一人は心細くて、木の根元に座り込むと膝を抱え、孤独に耐えていた。
「……チッ」
少女は惑星に降り立った集団の気配を感じると、森の奥へ潜んだ。
面倒臭い事になった……光の国の住民と敵対すると今のままでは骨が折れる。
「……ん?」
(たすけて、だれか、たすけて……)
暫く森深くでじっとして居ようと考えた時、断続的なテレパシーが送られてきた。
それは弱々しくて、今にも消えてしまいそうだった。
「……ま、暇だし。面倒なら殺してエネルギーを奪うか」
少女は再び機械鎧を纏うと、テレパシーの発信源へ飛んで行った。
やがて木の根元にいるウルトラマンを発見した。見た所まだ子供の様だ。
なら大丈夫だろう、と機械鎧を解除して声をかけた。
「おい、お前」
「えっ?!ちっちゃ!」
「お前がデカイだけだ……それでどうした?テレパシーを辿って来たが、遭難か?保護者は何処だ?」
「僕、遠足で来てたんだけど、皆とはぐれて……」
ボーイは不安を紛らわす為に、ぎゅと膝を抱えた。
その様子を見た少女は溜息をつくと、交換条件を提案した。
「何か食料は持っていないか?皆の所まで連れて行く代わりに、それを寄越せ」
「良いの?!ありがとう……はいこれ、おやつのクッキーだよ」
ボーイは嬉しそうにクッキーを差し出した。
カルディアは受け取るも、ボーイの体の大きさに合わせて作られたものだったので、カルディアには巨大だった。
「クソッデカイな……」
「あっごめんね、今割るから……はい!」
ボーイによって細かく砕かれたクッキーを食べながら、少女はウルトラマンを観察する。
「僕、ボーイ!君は?」
「……カルディア」
「そうなんだ、カルディアは何でここに?」
「旅の途中でエネルギーが不足して、偶々この惑星に立ち寄っただけだ……食べても食べても減らないなこのクッキー」
「僕達の大きさに合わせて作られているからね……」
カルディアはクッキーの十分の一程を食べ終えると、残りは自身のプランクプレーンに保存した。
「……まだエネルギーは不足しているな。まぁ良い、ボーイ着いてこい」
カルディアが機械鎧を装着して飛行するのを、ボーイはポカンと口を開けて見ていた。
先導しようとするカルディアを呼び止めて、ボーイは暫し迷うと口を開いた。
「あっあのさ!エネルギーが不足しているなら、僕と一体化する?僕歴史の授業で習ったんだ、一体化したらエネルギーが回復するって!」
ボーイはドキドキしながら、カルディアの返答を待った。
宇宙を旅していた彼女なら、色々な話を聞けるかもしれない。
そこには好奇心も含まれていたが、交換条件とはいえ自分を助けてくれたカルディアなら大丈夫だろうという確信があった。
一方、カルディアは目の前にいるウルトラマンの善性に呆れていた。
よく知らない相手に一体化を提案するなんて、自分がカモだと言っている様なものだ。
だが、彼女としてはその提案は有難いものだった。彼と一体化したらエネルギー問題は解決する、それに光の国に興味もある。
「……良いだろう、行くぞ……!」
カルディアがボーイのカラータイマーへ手を伸ばし、触れた瞬間、光が溢れた。
二人が光に包まれた時、ボーイの脳裏へ断片的な映像が流れ込む。
崩れる都市、燃える木々、滅びゆく星、見知らぬ宇宙。誰かの笑顔、誰かとの別れ。
やがて光が弾けると、そこに居たのはボーイ一人だけだった。
「わっ、わっ、わーー!?!?」
強制的に流れ込んできた映像に、混乱して大声を出すボーイ。
そんな彼に、カルディアはインナースペースから声を掛けた。
『静かにしろ、はぁ……思ったよりエネルギーが足りないな……おい、暫くお前の体を借りるぞ』
「う、うん!銀十字でみてもらう?」
『やめろ、その必要はない。私は表に出る事はない。暫くしたらエネルギー問題は解決する』
「わかった!ええとそれで、みんなの場所は……」
『私がナビゲートする、まずは真っ直ぐ進め』
ボーイはインナースペースにいるカルディアのナビゲートにより皆と合流する事が出来たが、先生に叱られてしまった。
必死に謝りつつも、ボーイはこれから始まるカルディアとの生活に心を馳せていた。
ボーイとカルディアの生活が続いて暫く経った頃。
今日も学校では、いつものように授業が行われていた。
「それでは今日は、宇宙に存在する危険種族について学びます」
先生が教壇の端末を操作すると、教室の中央に立体映像が映し出される。
そこには様々な異星人の姿が並んでいた。
「宇宙には友好的な種族だけではありません。宇宙警備隊が特に警戒している種族も存在します」
ボーイは興味深そうに映像を見つめる。
カルディアは色んな星を旅してたみたいだし、知ってる種族もいるのかな。
そう思い、小声で話しかけた。
「カルディア、この人達の事知ってる?」
『……あぁ』
カルディアにしては珍しく、一言で終わった会話。疑問には思ったが、授業中だからかな?とボーイは深く気にしなかった。
先生は次の資料を映し出す。
「こちらがブラッド族です」
そこに映し出されたのは、カルディアの機械鎧に似た物を纏う人達。
「……え?」
「ブラッド族は高い科学力を持ち、他種族への寄生や洗脳を得意とする危険種族です」
「侵略行為を繰り返しており、宇宙警備隊でも警戒対象に指定されています」
映像が切り替わる、炎に包まれた街、崩壊した建物、逃げ惑う住民達、爆発する星。
これまでザワついていた教室が静まり返る。
「現在は目立った活動は確認できていませんが、彼等の危険性は変わりません」
先生の説明から逃れるように俯くボーイ、カルディアがブラッド族?だけど……
ボーイは顔を上げ、映像を見つめながら小さく首を傾げた。
(……でもカルディアは、全然違うよね)
彼女は少し口が悪いし、乱暴な言い方もするけど、自分を助けてくれた。
僕があげたクッキーを美味しそうに食べていた。
先生の話を聞けば聞くほど、カルディアと結び付かなかった。
授業が終わり、下校時間になった。
ボーイは人気の少ない道を選んで家に向かっていた。
周囲に人気がない事を確認して、口を開く。
「ねぇカルディア」
『……何だ』
「カルディアは、ブラッド族なの?」
返事がない、しばらくお互い無言で歩き続ける。
やがて、静かな声が聞こえた。
『……ああ』
ボーイは立ち止まる。胸が少しだけざわついた。
『私はブラッド族だ。侵略もする、殺しもする。必要なら星ごと滅ぼす』
一つ一つの言葉が重く響き、ボーイは思わず俯いた。カルディアは続ける。
『……すまない、伝えればお前は怖がると思っていたからな。分離したいなら止めない。元々、私は旅の途中で偶然お前と出会っただけだ』
その言葉を最後に、カルディアは黙ってしまった。
ボーイも何も言えない、先生の話、崩壊する星の映像。今までの優しいカルディア。
長い沈黙の末、ボーイはゆっくりと口を開いた。
「……一つだけ聞いてもいい?」
『何だ』
「最初に会った時、遭難してた僕を助けてくれたのは、どうして?」
『……』
「エネルギーが足りなかったなら、僕を襲った方が早かったんじゃない?」
カルディアは鼻で笑っ答える。
『そのつもりだった』
「えっ!?」
『面倒なら殺してエネルギーを奪うつもりだったが、お前が一体化を提案しただろう?それで気が変わった』
「そっか」
ボーイは小さく笑った。
「優しいね」
『……何?』
「カルディアは僕を助けてくれたし、一緒に色んな話もした!それに、こうしてちゃんと本当のことを話してくれた」
ボーイは胸に手を当て、安心させるように語りかける。
「だから僕は信じる。ブラッド族だけど、カルディアだから」
インナースペースの中で、カルディアは目を見開いた。
ブラッド族だと知った上で、それでも信じると言う者など、今まで一人もいなかった。
『……変な奴だな、お前は』
「えへへ」
『後悔するかもしれないぞ』
「そうかな?その時は、一緒にどうするか考えようよ」
ボーイは屈託なく笑う。
カルディアは呆れたように小さく息を吐いた。
『……勝手にしろ』
その声は、いつも通りぶっきらぼうだった。
けれど、その奥にあった張り詰めたものは、少しだけ和らいでいた。
この日を境に、ボーイとカルディアは仲を深めていく。
そしてボーイは、この秘密を誰にも話さないと心に決めた。
二人の奇妙な同居生活が続いてしばらく経った頃。
既にカルディアのエネルギーは回復しており、いつでも旅を再開出来る状態だった。
しかし彼女は、ボーイと接する内に幼い頃の記憶を思い起こしていた。
寂しい。三番目の兄と別れる時に抱いた、あの感情。
ブラッド族にも一応感情はある。倫理観が希薄な種族であっても、それは変わらない。
だからこそ、自分でも不思議だった。
敵対種族であるウルトラマンの子供と別れることを考えただけで、胸の奥が少しだけ締め付けられる。その感情を認めるのは癪だった。
けれど嫌悪感は無く、自ら分離を切り出すことは出来なかった。
一方のボーイもまた、一体化は一時的なものだと思っていた。
カルディアからエネルギーが回復した、と聞いた時、一度は分離を考えた。
このまま一緒にいることが、本当に正しいのか。
カルディアがブラッド族であることを知った今、その選択には自分だけでなく、光の国にも関わる。
それでも、ボーイの答えは変わらなかった。
友達のカルディアだから信じたい。
その想いは、もう揺らぐことはなかった。
二人は改めて話し合い、一つの約束を交わす。
「光の国では絶対に敵対行為はしないこと!」
『……約束しよう』
短いやり取りだった。
けれど、その約束だけでボーイには十分だった。
こうして二人は、互いを信じることを選び、一体化を続けるのだった。
ボーイは怪獣達の死体の中心で嗤う。
タロウ「……君は、誰だ?」
次回 紅き影