ウルトラマンの擬態化について、捏造があります。
僕達の家
家の中で、ボーイとカルディアがそれぞれ寛いでいると、インターフォンが鳴った。
その音を聞いたボーイは、嬉しさを隠しきれない様子で走って玄関へ向かった。その肩には、いつものようにカルディアが乗っている。
「ナイスにゼアス、ようこそ!」
「ボーイくん、カルディアちゃん!急にごめんね」
「お邪魔します」
ナイスとゼアスを招き入れたボーイは、何かを期待するようにそわそわしている。
そんな彼を横目に、ナイスは手に持っていた物をリビングの窓際にある机へと置いた。
そして、得意げな顔で両手を広げる。
「ジャーン!前に話した、カルディアちゃんの家です!」
「凄い、凄いよ!良かったねカルディア!」
「ほんとナイスって器用だよね……」
ボーイは目を輝かせ、ゼアスもしみじみとドールハウスサイズの家を眺める。
「器用というレベルか?これは……」
「まぁまぁ、入って入って!」
「あぁ……」
ナイスに促され、カルディアはボーイの肩から降り、家の玄関へ向かった。
扉を開け、まず目に飛び込んできたのは、清潔感のある白を基調とした内装だった。
キッチンには一通りの家電が揃えられている。
冷蔵庫を開ければ、瑞々しい野菜がきちんと並べられていた。
蛇口を捻れば水が流れ、食器棚には皿やコップまで用意されている。
浴室も十分な広さがあり、寝室にはベッド。
ランドリールームには乾燥機付きの洗濯機まで置かれている。
リビングには、カルディアが横になってもまだ余裕がありそうな大きなソファーまであった。
試しに触れてみると、ふかふかとした感触が指先に返ってくる。
さらに階段を上れば、二階には十以上もの部屋がある。
それを一つずつ確認し終えたカルディアは、家の外へ出てきた。
「嬉しいのだが、本当に良いのか?こんなに立派な家……しかも家具も家電もついているし……というか、電力や水はどうなっているんだ?」
「ふふふ……よくぞ聞いてくれたね、カルディアちゃん!」
待ってましたと言わんばかりに、ナイスが胸を張る。
「電力はディファレーター光線を電気に変換して、水は空気中の水分を取り入れて……あと、下水を濾過装置に通して再利用しているよ!」
「…………」
カルディアの表情が、僅かに引きつった。
「あっ、カルディアちゃん、そんな顔しないで!飲水にも使えるから!ちゃんと検査済みだからね!」
「……本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫、大丈夫!濾過装置に異常が出たら、ちゃんと水道が止まるようにしてあるから!」
ナイスが慌てて説明を続ける。
カルディアはそんな彼を手で制すると、もう一度、家を見上げた。
「……分かった。ありがとう」
その声には、素直な感謝が込められていた。
「……冷蔵庫にあった野菜はゼアスが?」
「そうそう。最近、実家から沢山届いたんだ。ちゃんと野菜も食べなきゃダメだよ」
「分かってる。ありがとう」
「僕からも、二人とも本当にありがとう!」
ボーイも嬉しそうに頭を下げる。
「いやいや、私の趣味だからね。楽しかったなぁ……本当はもっと色々したかったんだけど、嫁ちゃんに『家具を揃えたりする楽しみを奪う気?』って言われちゃって……あ、他に欲しい家電があったら言ってね?作るから」
「いや、これ以上は流石に申し訳ない」
「えー?」
残念そうなナイスをよそに、ボーイは家の中を覗き込んでは嬉しそうにしている。
ゼアスはさりげなく部屋を見渡し、きちんと整理整頓されていることを確認すると、満足そうに頷いた。
その後、四人は持ち寄ったお菓子を食べながら、しばらく談笑した。
やがて夕飯の時間が近づき、ナイスとゼアスは帰っていった。
その日の夜、就寝の時間になった。
今夜から、カルディアは彼女の家で寝る事になる。
「カルディア、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
いつものように挨拶を交わす。
しかし、その後がいつもとは違った。
ボーイは自分の寝室へ向かい、ベッドへ横になる。
ふと横を向くと、机の上には今までカルディアが使っていた、小さなベッドが置かれていた。
昨日までは、二人でそれぞれのベッドに寝転びながら、どちらかが眠るまで他愛のない話をしていた。
今日からは、それがない。
静かな部屋の中で、ボーイはしばらく小さなベッドを見つめた。
「カルディア……」
ぽつりと呟く。返事はない。
当然だ、カルディアは彼女の家で休んでいる。
ボーイは少しだけ身体を丸めると、そのまま眠りについた。
……それから三日後。
「さーびーしーいー!!!!!!!」
「うわ、どうしたのボーイくん」
「荒れてるねぇ……」
ナイスの家。
そこでボーイは、ソファーの上で駄々をこねていた。
カルディアは定期検診のため、銀十字にいる。
あわあわとするゼアスとは対照的に、ナイスは妙に落ち着いていた。
何となく、こうなる予感がしていたからだ。
「いつもはカルディアと寝るまでお喋りしてるのに!今は僕一人!寂しいよ!」
「うん……」
「でもカルディアは家があるし……でも寂しいよぉーー!!!!!」
「あぁ……それは、うん、仕方ないね」
「仕方なくない!」
ボーイは涙目になりながら訴える。
「家を移動させようとしたら、カルディアは窓辺が良いって言うからできないし!僕……僕……!」
「ボーイくん、落ち着いて!」
「うわぁぁぁぁぁあん!!!!」
遂には泣き始めてしまった。
ゼアスはどうしていいのか分からず、両手を上下に動かしている。
そんな二人を見ながら、ナイスは少し考えた。
「……ボーイくん」
「なに……?」
「擬態してみない?」
「擬態……?」
泣いていたボーイが顔を上げる。
「ちょっとナイス!擬態は宇宙警備隊の訓練校で習う技術だよ?ボーイにはまだ難しいと思うよ」
「でも、やってみる価値はあると思うよ」
ナイスはボーイへ視線を向ける。
「どうする、ボーイくん?」
「やる!!!!」
即答だった。
ボーイは勢いよく立ち上がる。
「カルディアと一緒にいたい!」
「そう言うと思ったよ」
「じゃあ、始めようか」
早速、擬態化の訓練が始まった。
「まずは、これを見てごらん」
ナイスとゼアスは、複数の地球人、それも子供の写真を並べた。
「カルディアちゃんはブラッド族だけど、流石にブラッド族の資料はないからね……姿が似ている地球人の子供を参考にしようか。この中から一人を選んで、それをベースに擬態しよう」
「決められないなら、気になる数人の要素を混ぜて再構築するからね」
「うん!えっと……」
ボーイは写真を一枚ずつ見比べていく。
そして、たっぷり時間をかけて一人の少年の姿を選んだ。
ゼアスがそれを元に立体映像を作り出す。
「よし、じゃあまずは顔だけ擬態しようか。エネルギーの流れは読める?」
「うん。カルディアと一体化してる時に、できるようになったよ」
「いいね。じゃあ、顔にエネルギーを集めよう」
ボーイは目を閉じる。
身体の中を巡るエネルギーを感じ取り、それを顔へ集めていく。
しかし、集めたエネルギーはすぐに分散しようとした。
「集中して……」
ボーイはそれを必死に抑える。
少しずつ、顔の輪郭が変化していく。
「で、できたよ!」
「いいね、いいね!」
ナイスが嬉しそうに声を上げる。
「じゃあ、次は顔の輪郭を整えてみようか」
「う、うん!」
輪郭、髪、目、鼻、口。
一つずつ意識を集中させ、ボーイは自分の姿を変えていく。
さらに身体全体へエネルギーを巡らせ、ヒューマンタイプの少年へと縮小していった。
「……できた」
鏡の前に立つと、そこに映っているのは、いつものボーイではない。
地球人の少年の姿だった。
「やってみて、とは言ったけど……正直予想以上かな……!」
「ボーイ、凄いよ!訓練校でも時間がかかる技術なのに……才能あるよ!」
「えへへ……」
褒められて、ボーイは照れくさそうに笑った。
その瞬間。
「……あっ!」
顔が元の姿へ戻る。
「あ……」
「惜しい!」
「どうしたの?」
「維持が難しいみたいだね」
ボーイは肩を落とした。
「せっかくできたのに……」
「大丈夫だよ。最初から完璧にできる人なんて、ほとんどいないんだから」
「うん……」
その時、インターフォンが鳴った。
「……あ」
ボーイの表情が一気に明るくなる。
「カルディアだ!」
「そうだ、ボーイくん」
ナイスがニヤリと笑った。
「カルディアちゃんをびっくりさせようか」
「うん!」
ボーイも笑顔になる。
「よーし、もう一度……!」
玄関の扉が開き、ナイスは手のひらにカルディアを乗せていた。
「ボーイ……?」
カルディアが戻ってくる。
しかし、ナイスは手で彼女からボーイの姿を隠していた。
「ふふふ……ジャーン!!!」
「……っ!?」
手が退けられる。
そこにいたのは、自分よりも小さなヒューマンタイプの少年。
カルディアは目を見開いた。
「なんだ、お前は……?」
だが、すぐに表情が変わる。
「……いや、ボーイ……か?」
「そうだよ!」
少年……ボーイが嬉しそうに答える。
「二人に擬態化を習ってるんだ!僕ってば、すぐにできたんだよ!」
「そうそう、僕達もびっくり!」
「カルディアちゃん、まだボーイくんは擬態化の維持が難しいんだ。でも、訓練すれば君の家で一緒に過ごせるようになるよ」
「…………」
カルディアはボーイをじっと見つめた。
そして、僅かに目を輝かせる。
「……そうか」
短く呟く。
「これで……私の家で、一緒に過ごせるのか?」
「うん!」
ボーイが大きく頷く。
カルディアはそれ以上何も言わなかった。
だが、ほんの少しだけ口元が緩んでいた。
「ナイスにゼアス、何から何まですまない」
「いいのいいの、気にしないで!私達も楽しいし……ね、ゼアスくん!」
「うん。カルディアちゃんも、もっと僕達のことを頼っていいんだよ?」
「いや、私は……」
カルディアは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
そして、小さく笑う。
「……ふふ、そうだな。そうしよう」
それから、ボーイは毎日のように擬態化の訓練を続けた。
顔の輪郭を維持する、表情を変える。
声を合わせ、身体全体のエネルギーを安定させる。
一度成功したと思えば、気を抜いた瞬間に元へ戻ってしまう。
それでも、ボーイは諦めなかった。
カルディアと一緒に過ごしたい。
その一心で、何度も繰り返した。
そして、ついに……
「ボーイくん、一日中維持できたね!」
ゼアスの口調は、嬉しさを隠しきれずにいた。
「うんうん、これなら大丈夫だよ!」
ナイスが太鼓判を押す。
「やったぁ!」
ボーイは飛び跳ねた。
その日のボーイは、いつも以上に落ち着かなかった。
早速、二人はカルディアの家に向かった。
「ボーイ、早く来い」
「待ってよ、カルディア!」
カルディアが玄関から顔を出している。
ボーイは目の前の家を見つめながら、胸を押さえた。
「僕、ちょっと感動してて……!」
「はぁ……」
カルディアは呆れたように溜息を吐く。
そして、ボーイの手を取った。
「ほら、来い」
「うん!」
手を引かれ、ボーイは家の中へ入る。
そこに広がる景色は、外から見た時とは少し違って見えた。
窓から差し込む光、整えられた家具。
キッチンにリビング、そして、カルディアの部屋。
見るもの全てが輝いて見えた。
「わぁ……!」
「そんなに珍しいか?」
「うん!だって今日からここでカルディアと一緒に過ごせるんだよ!」
「……そうだな」
カルディアは小さく笑った。
その日の夕飯は、カルディアが作ってくれたカレーだった。
盛り付けはボーイに任せ、二人で食卓を囲む。
「美味しい!美味しいよ、カルディア!」
「そうか、なら良かった」
「あっ、野菜もちゃんと入ってる!」
「ゼアスに言われたからな、ちゃんと食べている」
「えらい!」
「ふふん」
カルディアは誇らしげに少しだけ胸を張った。
それを見て、ボーイも笑顔になる。
食事を終えた後は、リビングのソファで寛ぎながらテレビを見た。
やがて、夜になり、就寝時間になった。
ボーイは自分の部屋へ向かおうとした。
だが、その足が止まる。
「ねぇ、カルディア」
「なんだ?」
「……僕も一緒に寝ていい?」
「はぁ?」
カルディアは呆れた顔をする。
「この家にはお前の部屋があるだろう、そこで寝ろ」
「お願い!」
ボーイは両手を合わせる。
「前までは一緒の部屋で寝てたじゃん!」
「それは、そうだが……」
「……ダメ?」
「………………」
カルディアはしばらく黙っていた。
そして、大きく溜息を吐く。
「…………はぁ、ほら、来い」
「やったぁ!!!」
カルディアはベッドに横になると、掛布団を少し持ち上げた。
ボーイは嬉しそうに潜り込む。
「わぁ……あったかい」
「全く、仕方ない奴だなお前は……」
「これなら、すぐに寝られちゃうね」
「そうだな」
二人は並んで横になる。
ボーイは安心したように目を閉じた。
カルディアも静かに目を閉じる。
やがて、ボーイの寝息が聞こえ始めた。
カルディアはその寝顔を眺め……そして、ほんの僅かに微笑んだ。
「……おやすみ、ボーイ」
静かな夜。
二人は寄り添うように眠りについた。
しかし、暫くすると……
「…………クソッ」
カルディアの眉間に皺が寄る。
「ボーイ、足を退けろ……」
ボーイの足が、カルディアの身体に乗っている。
彼は起きている時の様に、寝相も元気だ。
「ボーイ……チッ!」
カルディアはそっとボーイの足を退ける。
しかし直ぐに足が乗る、それが何度か繰り返された。
結局、その夜はあまり熟睡できなかったカルディアだったが、それでも他の部屋に移る事はしなかった。
どんどんボーイの功績が増えていく……これはもう勇士司令部辺りからも勧誘されそう。