カルディアの3番目の兄って、一体誰なんでしょうね???
小さな来訪者
紅い光が、ブラッド星の空を裂いていく。
それは流星ではない、戦いの余波そのものが、空気を焼きながら走っている。
幾筋もの光線が大気を貫き、着弾と同時に地表が爆ぜる。
遅れて届く轟音は、鼓膜を殴りつけるような衝撃となって大地を揺らし、足元の瓦礫を跳ね上げた。
焼けた金属の匂いと、焦土の熱気が風に混じり、吸い込むだけで喉が焼けるような空気の中で、かつて巨大な建造物が並んでいたはずの地帯は、今や瓦礫の山だ。
崩れ落ちた高層建築は途中から折れ、ねじれた骨のように空へ突き出している。
地面には無数のクレーターが穿たれ、そこから赤黒い煙が絶え間なく噴き上がっていた。
爆発のたびに、熱風が波のように押し寄せる。
そのたびに瓦礫が跳ね、砂塵が視界を白く濁らせた。
その荒廃した街の中心で、二つの軍勢が激突していた。
金属がぶつかり合う甲高い音、肉体が衝突する鈍い衝撃音。
そして断続的に響く爆裂音が、戦場全体を支配している。
片方を率いるのは、ブラッド星第二王子エボルト。
彼の周囲では、彼に従う戦士達が光弾を放ち、空間を切り裂くように突撃していた。
その一撃一撃が地面を抉り、爆風が味方すら吹き飛ばすほどの威力を持っている。
そして、そレに対峙しているのは、紅い装甲を纏ったブラッド族達を従えているブラッド星現国王、キルバス。
彼が一歩歩むごとに地面が軋み、装甲の隙間から漏れるエネルギーが空気を震わせる。
周囲の熱が歪み、視界そのものが揺らいで見えた。
両者は同じ王族でありながら、掲げる思想は大きく異なっていた。
キルバスは、ブラッド族の本能に従い、あらゆる星を破壊し、宇宙そのものを戦場へ変えようとしていた。
一方、エボルトはブラッド族の力を維持しながらも、新たな王権を築こうとしていた。
だからこそ、二人は相容れなかった。
「まだ分からねぇのか、エボルトォッ!!」
キルバスの咆哮が戦場を震わせる。
声そのものが衝撃波となり、近くの瓦礫を吹き飛ばした。
「ブラッド族に必要なのは王などじゃねぇ!破壊だ!!」
その瞬間、キルバスの掌から圧縮されたエネルギーが放たれる。
空気が焼ける音がした次の瞬間、光弾は空間を抉りながらエボルトへ迫る。
エボルトは舌打ちし、身体をひねって回避した。
光弾は背後の建物に直撃し、遅れて爆発が起きる。
耳をつんざく轟音と共に、建物は内側から破裂するように崩壊した。
瓦礫が雨のように降り注ぎ、地面に叩きつけられるたびに火花が散る。
「兄貴こそ、まだ分かってねぇな」
エボルトは笑った。
だがその笑みの裏には、熱と焦りが混じっている。
「全部ぶっ壊しちまったら、俺達が支配する星がなくなるだろ?」
「支配だと?」
キルバスが嗤う。
その笑いは空気を震わせ、周囲の温度すら下げるような冷たさを持っていた。
「下らん!そんなものに何の意味がある!?」
「俺にはあるんだよ」
エボルトは拳を握る。
その瞬間、指先から微細な火花が散った。
「だから、俺は俺のやり方でブラッド族の王になる」
「ならば……」
キルバスの身体から、圧倒的な殺気が噴き上がる。
空気が重くなり、呼吸すら困難になるほどの圧力が戦場を覆った。
「貴様も死ね!!」
その言葉と同時に、両軍が一斉に動いた。
金属音、爆発音、衝撃音が重なり合い、戦場は一瞬で地獄のような混沌へと変わる。
光線が交差し、地面が裂け、熱風が渦を巻く。
その戦場から少し離れた場所。
崩れかけた王宮の一室で、一人の幼い少女が眠っていた。
ブラッド族の王妹、カルディア。
外では爆発が連続し、壁が振動で軋んでいる。
だが少女の耳には届かないほど、戦場の音は遠かった。だが……
「カルディア!」
突然、扉が破裂するように開かれた。
木片が飛び散り、床に叩きつけられる音が響く。
「……ん……?」
少女はゆっくりと目を開ける。
視界はまだぼやけている中、そこに立っていたのは、傷だらけのエボルトだった。
機械鎧はひび割れ、所々火花が散っている。
肩からは血が滴り、床に落ちるたびに小さな音を立てた。
普段なら余裕の笑みを浮かべているはずの顔には、焦りと緊張が刻まれている。
「お兄ちゃん……?」
「起きろ、カルディア」
声は短く、鋭い。
だがその奥には、明確な切迫があった。
「……どうしたの?」
「この星から出るぞ」
エボルトは迷いなく少女を抱き上げた。
その動きは速く、だが彼女を抱き上げる動作は驚くほど丁寧だった。
「え……?」
「質問は後だ」
カルディアは反射的に兄の首へ腕を回す。
その小さな指が、破損した鎧の冷たさを感じ取る。
「お兄ちゃん、けがしてる」
「これくらいどうってことねぇ」
「いたくない?」
「痛くねぇよ、こんなもん」
エボルトは短く笑った。
その笑いは乾いているが、どこか優しさが混じっている。
「今はそんなこと気にしてる場合じゃねぇ」
その瞬間、外で爆発が起きた。
轟音が王宮全体を揺らし、天井から砂塵が降り注ぐ。
壁がきしみ、遠くで何かが崩れる音が響いた。
カルディアは思わずエボルトに縋り付く。
「……こわい」
「大丈夫だ、俺がいる」
その一言だけは、戦場のどんな爆音よりも確かなものだった。
エボルトはカルディアを抱えたまま廊下へ飛び出す。
そこにはすでに戦闘の痕跡が広がっていた。
壁は焼け焦げ、窓は溶け、床にはひび割れが走っている。
空気は熱を帯び、足を踏み出すたびに靴底がわずかに軋んだ。
遠くでは、キルバス派とエボルト派の戦士達が激突している。
光線が交差するたびに閃光が走り、遅れて爆音が響く。
「お兄ちゃん……」
「見るな」
エボルトはカルディアの顔を自分の胸へ押し付けた。
視界を遮るように、強く抱き寄せる。
「今は俺だけ見てろ」
「でも……」
「大丈夫だ。お前だけは、絶対に死なせねぇ」
王宮の外へ出た瞬間、世界が開けた。
空は赤黒く染まり、無数の光線が交差している。
その一つ一つが空気を焼き、地表に着弾するたびに爆発が起きる。
熱風が吹き抜け、頬を刺すような痛みを残した。
エボルトは空を見上げる。
このままではカルディアまで戦いに巻き込まれる。
それだけは、絶対に避けなければならない。
「……U-40だ」
「ゆー……?」
「そうだ。昔、俺が行ったことのある星だ」
エボルトはカルディアを見下ろす。
その目は戦場の中でも揺らいでいない。
「そこなら、お前を預けられる」
「お兄ちゃんは?」
「俺は戻る」
カルディアはしばらく黙った。
遠くで爆発音が響くたびに、肩が小さく跳ねる。
「いっしょじゃないの?」
エボルトの表情が僅かに曇る。
「……今は無理だ」
「どうして?」
「俺には、やらなきゃならねぇことがある」
カルディアは理解できないまま兄を見つめる。
だが、その目の奥にあるものだけは感じ取っていた。
「……すぐ帰ってくる?」
「もちろんだ」
エボルトは笑った。
その笑みは、戦場の中でも変わらない。
「全部終わったら、ちゃんと迎えに行く」
「ほんと?」
「ああ」
エボルトはカルディアの頭を撫でる。
その手は血と熱でわずかに震えていた。
「約束だ」
そして、空へ飛び上がった。
紅い光がブラッド星を離れていく。
その軌跡は、戦場の空に一瞬だけ線を描き、すぐに爆煙へと消えた。
「お兄ちゃん……」
「なんだ?」
「……早く帰ろうね」
「……ああ」
エボルトは小さく笑った。
「早く帰ろうな」
だが、その約束がすぐには果たされないことを、二人はまだ知らなかった。
ある日、紅い流星がUー40に墜落した。巻き上がる粉塵の中から、幼い女児を抱いたエボルトが出てきた。
何時もの好戦的な顔ではなく、体の至る所に傷を負っていて、着ている服も焦げや切り裂かれた痕があった。
「ジョーニアス!何処だ!?ジョーニアス!!!」
ただならぬ様子に戦士達が取り囲むが、エボルトは気に止めず、ジョーニアスを探している。
「今ジョーニアスは他の星に行っていて居ないぞ、それより傷だらけだが大丈夫なのか?その子は誰だ?」
ジョーニアスが居ない今、警戒してどう動くべきか考えあぐねていると、タイタスが答えた。
エボルトはその言葉に絶句したが、女児を抱いたままタイタスに近付いてきた。
「タイタス、こいつは俺の妹のカルディアだ。今俺達の星ではクソのキルバスと俺との戦争が起こってて危険だ、カルディアだけでも安全な所に避難させたい。俺もすぐ戻らねぇと…!」
「い、妹!?戦争だと!?」
「ジョーニアスが居ねぇのは残念だが、任せたぞ!カルディア、落ち着いたら迎えに来るから、コイツの言う事聞いて待ってるんだぞ! 」
周りの静止を振り切り、タイタスに女児を抱かせると、一方的に捲し立てて飛び去って行った彼に呆然とするタイタス。
腕の中では女児…カルディアが不思議そうにタイタスを見上げると、彼が向いている方向へ視線を向けた。
エボルトが去ってから数分後、未だ状況を整理できないタイタスは、腕の中でじっとしているカルディアを見下ろした。
彼女は不思議そうにタイタスを見返した。
「えっと……カルディア?私はタイタス、君の兄の……ゆ、友人!そう友人だ!君の星で起きた事を私達は知らないんだ、教えてくれないか?」
「わかんない、寝てたら起こされてここに来た」
「そ、そうか……どうしよう」
タイタスは戦士の先輩達に助けを求めたが、彼等も幼いとはいえ、ブラッド族をどう扱っていいか決めかねている。
「一先ず私は大賢者に報告してくる。皆はここで待機していてくれ」
エレクが大賢者へ報告に向かうと、残されたもの達は怖々とタイタスを囲んだ。
じっと見られる事を嫌がったカルディアが彼の腕の中から逃れようと藻掻く。
突然、タイタスの腕から抜け出したカルディアは、そのまま地面へ飛び降りた。
そして周囲を取り囲む戦士達を見回す。
「……なんでこわい顔するの」
その一言に、一同は思わず顔を見合わせた。
警戒しているつもりだったが、幼い子供から見れば恐怖そのものだったのだ。
タイタスはゆっくりと膝をつき、カルディアと目線を合わせる。
「すまない。驚かせるつもりはなかったんだ」
カルディアは何も言わず、じっとタイタスを見つめる。
「君はお腹は空いているか?」
「……おなか?」
「そうだ、見た所急いで来たようだし……」
カルディアは小さく首を傾げる。
「わかんない」
「わからない?」
「ねむってた。お兄ちゃんに、おきろっていわれた」
タイタスは静かに息を吐いた。
つまり、この子は戦争が始まったことすら理解していない。
ただ兄に抱えられ、知らない星へ連れて来られただけなのだ。
戦士達の表情から警戒の色が少しずつ薄れていく。
「……タイタス」
一人の戦士が小声で話しかけた。
「本当に預かるのか?」
「預かるしかないだろう」
「しかしブラッド族か……大賢者の考えはどうなのだろう」
「幼子を放り出す訳にはいかない、私が育てて立派にする!」
タイタスは迷いなく答えた。
その言葉に、周囲は静かになった。
カルディアはそんなやり取りを聞きながら、小さくタイタスの指を掴む。
「……?」
タイタスは驚いて視線を落とす。
「おにいちゃん、どこ?」
その無垢な問いに、誰も言葉を返せなかった。
タイタスは彼女を抱き上げ、あやすしか出来なかった。
暫くすると、エレクが戻ってきてカルディアを大賢者に会わせる事になった、と伝えた。
タイタスは緊張の面持ちで大賢者の間へと向かった。
広間には大賢者を中心に、数名の戦士達が集まっていた。
タイタスはカルディアを下ろすと、その前に立つ。
カルディアは初めて見る空間に興味津々で、辺りをきょろきょろと見回していた。
「報告は聞いている」
大賢者は静かに口を開いた。
「ブラッド星で内乱が起き、第二王子エボルトがこの子だけでも守ろうと我々の元へ託した……そういうことだな」
「はい」
「その子の名は?」
「カルディアです」
大賢者はカルディアへ視線を向ける。
「こちらへ来なさい」
カルディアはタイタスの脚へ隠れた。
見知らぬ者達に囲まれ、流石に不安になったのだろう。
タイタスはしゃがみ込み、優しく声を掛ける。
「大丈夫だ。怖い人ではない」
「……ほんと?」
「ああ」
その言葉を信じ、カルディアは小さな足で一歩ずつ前へ進む。
大賢者はしゃがみ込み、目線を合わせた。
「カルディア。何か困っていることはあるか?」
幼い少女は少し考え、
「……おにいちゃん、まだ?」
とだけ尋ねた。
その場の空気が静まり返る。
戦争の意味も、別れの意味も、この子はまだ理解していない。
兄が迎えに来ることだけを信じている。
大賢者はカルディアの頭を撫でると、ゆっくりと立ち上がった。
「ブラッド族である以上、警戒は必要だ。しかし、この子に罪はない」
周囲の戦士達も静かに頷く。
「問題は誰が保護するかだ」
その言葉に、タイタスは思わず顔を上げた。
エボルトにカルディアを託されたのは私だ、しかし種族も違えば、価値観も違う。育てられる保証などどこにもない。
カルディアが再び自分の指をぎゅっと握る。
その小さな手は、不安を隠すように震えていた。
タイタスはその手を見つめ、ゆっくりと拳を握る。
「……大賢者」
「何だ、タイタス」
「私に、この子を育てさせてください」
戦士達がざわめく。
「本気か?」
「相手はブラッド族だぞ」
「危険かもしれない」
様々な声が飛ぶ。
しかしタイタスは一歩も引かなかった。
「危険かもしれません。ですが、それはこの子自身が望んだことではありません。今日、この子は家族と引き離されました。見知らぬ星へ連れて来られ、不安でいっぱいのはずです」
タイタスはカルディアの肩へ、そっと手を添える。
「そんな子供を、私は見捨てることはできません……それに、エボルトから頼まれましたから」
大賢者はしばらく黙ってタイタスを見つめていた。
そして静かに微笑む。
「……君らしい答えだ。よかろう、カルディアの保護を、タイタスに任せる」
その瞬間、カルディアは意味も分からないままタイタスを見上げる。
「……たいたす?」
「カルディア、今日から私が、君の家族だ」
タイタスは優しく微笑むと、カルディアを抱き上げた。
Q.カルディアの3番目の兄って誰?
A.タイタスです。
因みに、エボルトは過去にUー40を滅ぼそうとしてジョーニアスと交戦し、それから一方的に彼をライバル視しています。
ジョーニアスからしてみればいい迷惑だったと思います。