「宇宙警備隊訓練生との模擬戦、ですか?」
ある日、 ボーイとカルディアはタロウに呼ばれて、宇宙警備隊訓練校の筆頭教官室へ来ていた。
タロウの言葉にボーイが思わず聞き返し、カルディアは我関せずといった風に、出されたクッキーを食べていた。
「あぁ、ブラッド族との戦闘は貴重だ。カルディア、君を信頼しているからこそ頼みたいんだ。どうかな?」
「断る、面倒くさい」
「カルディア……」
カルディアの早すぎる返しに、タロウは苦笑する。
「そもそも、訓練生達の中には
カルディアの言葉が予想外だったのか、タロウは目を瞬いた。
だが徐々に頬が緩んでいく。
「……なんだ、その顔は」
「だってカルディアってば……」
「……ねぇ?」
ニヤニヤと顔を見合せるボーイとタロウに、訝しげに眉を寄せるカルディア。
「君が私達の事をちゃんと考えてくれているんだと思うと、嬉しくてね」
「そうだよ、カルディア!もっとそういう所アピールしていこう!」
「……チッ」
カルディアは言葉を返そうと考えを巡らせたが、結局返しきれずに舌打ちをして、再びクッキーを食べ始めた。
「カルディアってば照れてる〜」
「ふん、遺族じゃない奴ら相手なら、やってやらん事もない」
「そうか、ありがとう!君達二人が、あのエボルトを撃退した事はもう皆知っているよ。訓練生達も大丈夫だとは思うけど……念の為調査しておくから、また連絡するよ」
「分かりました!訓練生相手の模擬戦が見られるなんて感激だなぁ、カルディア頑張ってね!」
「はいはい、それなりに頑張るよ」
騒がしく教官室を退出した二人を笑顔で見送ったタロウは、すっと表情を引き締めた。
カルディアは確実に変わってきている。
……だが、今だブラッド族へ負の感情を持つ者達は大勢いる。
今回、彼女との模擬戦を経てそれが少しでも変わってくれるのなら良いのだが……
タロウは深い溜息をつき、訓練生達をリストアップしていった。
その数日後、コロセウムにてカルディアを相手とした模擬戦が行われることになった。
集まったのは、訓練生達の中でも優秀な成績を持ち、なおかつブラッド族への憎しみを持たないと判断された者、計五名。
緊張が滲む様子の彼等とは違い、カルディアは早く帰りたくて仕方なかった。
「カルディア、頑張ってねー!」
観客席からボーイが手を振り、それにカルディアも手を振って応えた。
「お前は気楽でいいな……」
カルディアは小さく溜息を吐くと、五人の訓練生達へ視線を向けた。
全員、既に戦闘態勢に入っている。
「では、まず確認事項から……君達は光線技も使っていい、全力でカルディアに挑む様に……カルディア、分かってるね?」
「コイツらを殺さない、コロセウムを壊さない」
「よし、では……初め!」
タロウは頷くと、模擬戦の開始を宣言した。
五人が一斉に飛び出すも、カルディアは眺めているだけだ。
だが。次の瞬間……彼女の姿が消えた。
「遅い」
「なっ!?」
いつの間にか、最も前に出ていた訓練生の胸元に、カルディアが触れていた。
「まず、お前からだ」
「え?」
紅い光が走り、訓練生とカルディアを包む。
「な、何を……ッ!?」
光が消失すると、訓練生の身体がガクン、と崩れ落ちた。
「カルディア!?」
観客席にいるボーイが思わず立ち上がった。
「寄生したの!?」
「……なるほど」
カルディアは寄生した彼の記憶を覗き込む。
訓練で繰り返した連携、彼等の得意な技、苦手な戦法、それとは他の記憶までも。
この体が体験した全てが、まるで自分の記憶のように理解できた。
「お前達の戦術、連携方法……大体分かった」
「何だと!?」
「それに……」
カルディアは楽しげに嗤った。
「お前達の弱点もな」
「……!」
四人が身構えたその直後、カルディアが駆け出した。
「来るぞ!」
四人が迎え撃つ、だが……
「甘い」
カルディアは彼等の攻撃を次々とかわし、まるで最初から動きを知っているかのように攻撃の隙間を抜けていく。
「どうして俺達の動きが読める!?」
「さっき言っただろう」
カルディアが嗤う。
「お前達の戦法は、全て知っている」
一人の攻撃を受け流し、別の一人の前へ移動する。
「くっ!」
その瞬間、カルディアは突然頭を押さえ、苦しげに呻いた。
「お、お前達……逃げ、ろ……」
「おい、大丈夫か……?」
まさか、カルディアに寄生された彼の意識が戻ったのか?
思わず、一人がカルディアに向かって手を伸ばした。
「……馬鹿だなァ?」
カルディアに手を伸ばした瞬間、手首を掴まれた。引き寄せられてハイキックが顎にヒットする。
咄嗟に防御も出来ず、自分に何が起こったのかすら分からないまま、彼の意識は途絶えた。
「!?」
訓練生達の動きが止まった。
「罠に決まってるだろう。あと三人……さぁ、お前達はどうする?」
カルディアは態と足元に倒れ込んだ訓練生を踏み付け、大仰な仕草で手を広げた。
「囲めッ!」
「よくも……足を退かせッ!」
「一斉に光線を放つぞ!」
仲間を足蹴にされ、冷静さを失った彼等は、彼女を囲み、各々が得意とする光線技を放とうとした。だが……
カルディアは足元にいた訓練生を蹴り飛ばした。
構えを解いて慌てて受け止めようとした訓練生ごと、カルディアはスペシウム光線を放つ。
直撃した二人が床に倒れ伏した。
「何!?」
「これであと二人、さっさと終わらせよう」
驚いて反応が遅れた一人の頭を走り抜けざまに蹴り上げて意識を奪い、カルディアは最後の一人と対峙する。
「クソ、クソッ……どうすれば……!」
構えながらも、明らかに焦っている様子の彼を見て、カルディアは動きを止め、自身の胸元に触れた。
紅い光が溢れ、カルディアは寄生していた体から出ると、コロセウムの天井付近へ飛び上がる。
「なっ!?」
「これで終わりだ」
カルディアが右手を掲げると、多数の紅い光弾が出現し、訓練生達へ向かっていく。
「……クソッ!」
彼は意識を失って倒れている仲間達をウルトラ念力で自身の元へ引き寄せると、バリアを張って必死に光弾を防いだ。
だが、途切れることなく続く光弾の雨に、徐々にバリアの強度が弱まってくる。
遂にバリアが割れ、光弾が迫ってくる……もう反撃も防御も出来ない。そう判断した彼は、足元にいる仲間達に覆いかぶさり、襲ってくるであろう痛みを待った。
しかし、何時まで待っても痛みが来ない。
怖々頭を上げると、目の前にカルディアが浮かんでいた。
目を見開く彼に構わず、カルディアは彼の額にデコピンを喰らわせた。
彼が意識を失って倒れ込んだのを確認し、彼女はタロウを見た。
「これでいいか?」
「……あぁ、充分だ。ありがとう」
タロウは苦笑しながら近寄り、訓練生達を起こして回った。
目が覚めた彼等は、カルディアを視界に入れるとビクッとして思わず距離を取った。
「さぁ、今回の模擬戦での反省点は何か分かるか?」
タロウが訓練生達へ穏やかに問いかける。
彼等は顔を見合せ、一人が答えた。
「冷静さを失い、連携が崩れた事です」
「そうだ、想定外の事が起きた時、冷静さを失ってしまえば普段の力が出せなくなる。それでは、救えるものも救えなくなってしまう」
タロウの言葉に、俯く訓練生達。
「だが……最後まで仲間を守ろうと行動した君は、凄いぞ」
ハッと顔を上げたのは、最後の一人に残っていた訓練生だ。
いい顔だ、とタロウは内心思いながら、言葉を続ける。
「最後まで諦めない、そうすればきっと道は開ける!」
「でも負けてただろ」
「それは……まぁそうだが」
カルディアの言葉にタロウは言い澱んだが、それでも言い切る。
「それでも、最後まで諦めずに戦うんだ。それがウルトラマンだからね」
「……ふぅん」
タロウの言葉に、カルディアは顔を背けて答えた。
「カルディア、君からも彼等にアドバイスしてくれないか?」
「私が……?そうだな……先ず、お前達が私よりも遥かに弱い事を理解しろ」
「なッ!?」
驚く訓練生達に構わず、カルディアは続けた。
「
カルディアは訓練生の一人を指を差し、答えるように促した。
「えっ!?えっと……相手が圧倒的に強くて、しかも舐めてる……?なら……そうか!最後まで諦めずに、隙を探して反撃する……?」
「なんだ、分かってるじゃないか」
彼の答えに、カルディアは鼻を鳴らして応えた。
「所詮弱い奴らは群れるか、あるかも分からないチャンスを待つしかないんだ。そういう意味では最後に残ったお前は……まぁ、いい線いってたんじゃないか?他の奴らも冷静さを失わずにいれば、それなりに戦えたかもな」
カルディアの言葉に、訓練生達は目を見開いた。
タロウが頷き、言葉を続けた。
「彼女が言った様に、冷静さを失わない事、そして最後まで諦めない事。その重要さを今回学ぶ事が出来たな」
「はい!」
「じゃあもういいか?私は帰るぞ」
「あっ、待ってください!」
カルディアがボーイの元へ飛び去ろうとした時、訓練生達の一人が呼び止めた。
中途半端な高さで止まったカルディアは、彼等の方へ向き直る。
「カルディアさん、今日はありがとうございました!」
「自分の課題が見えてきました……もっと強くなります!」
「俺は寄生されてただけなので、また機会があれば指導してください!」
「次は一体一での模擬戦してくれませんか?」
「ブラッド族の戦い方を色々教えてください!」
次々に話し出す訓練生達に、カルディアは面倒臭そうに顔を歪めた。チラリとタロウを見ると、ニコニコしているだけで、止める気は無さそうだ。
態と大きな溜息をついて、彼女は頷いた。
「私の気が向いたらな」
それだけ言うと、今度こそカルディアはボーイの元へ飛び去って行った。
「おい聞いたか!?また指導してくれるって!」
「聞いた聞いた!今度は連携を強化して勝つぞ!」
盛り上がる訓練生達を眺めながら、タロウは微笑んだ。
カルディアは確実に変わり始めている。
今回の模擬戦だって、ちゃんと手加減していたし、最後のアドバイスも口は悪いが的確だった。
この調子で、光の国に馴染んでくれれば良いんだが……
それが難しい事を、タロウはちゃんと理解していた。
ブラッド族への恐れや憎しみが消えたわけではない。
今日の出来事だけで、全てが変わるわけでもないだろう。
それでも……今日、カルディアと訓練生達が同じ場所で戦い、言葉を交わしたことに意味はある。
「……少しずつでいい」
タロウはそう呟き、訓練生達を落ち着かせる為に歩き出した。
ボーイは手を振ってカルディアを迎えた。
「カルディア、おつかれ!」
「全くだ、もう家に帰るぞ、ボーイ」
カルディアはボーイの肩に乗り、彼を促した。
「訓練生の人達カッコよかったね!」
「そうか?」
「うん、皆カルディアに勝とうと必死だったでしょ?僕ならきっと逃げちゃうか、動けないはずだから……」
そう言って肩を落としたボーイを、カルディアは見上げた。
「そう言うな、お前は私と一緒に
「そうだけど、それは君と一緒だったから……」
「それでもお前は逃げなかった、もっと胸を張れ」
「ッうん!」
カルディアの言葉に、ボーイは頷き、再び歩き出した。
ボーイは楽しげに、カルディアは分かりにくいながらも口元を緩めて。
今日もまた、二人は並んで帰っていく。
それが……二人にとっての、いつもの日常だった。
光の国の人達って、悪意とか持つんでしょうか?
だとしたら、ブラッド族であるカルディアへの負の感情って大変な事になりそう。