一家に一人ブラッド族。実際にいたら便利ですよね、
ゴモラの攻撃に襲われそうになるスペースペンドラゴン、それに迷わず飛び込んだセブン。
その姿がカルディアの胸に、深く突き刺さった。
「……私なら」
『え?』
言葉が止まり、カルディアは唇を噛んだ。
「……何でもない」
暴走するゴモラ、苦しむレイ、倒れたセブン……その全てを楽しそうに眺めるベリアル。
カルディアの瞳が、鋭く細められた。
「……ボーイ」
『なに?』
「少し、頭に来た」
『え』
次の瞬間、カルディアは地面を蹴った。
暴走するゴモラへ向かって一直線に向かっていく。
『カルディア!?』
「さっさと目を覚ませ!!!」
ゴモラの顔面へ拳を叩き込む。
「グオッ!?」
「お前の主人が苦しんでいるぞ!」
もう一発。
『カルディア!殴って起こすの!?』
「その方が手っ取り早い!」
『そ、そうかなぁ!?』
ゴモラが怒りの咆哮を上げ、強靭な尻尾が振るう。
「遅い!」
カルディアは身を屈めて回避すると、立ち上がるその勢いのまま、ゴモラの頭部へと踵を叩き込んだ。
怯んだゴモラの首を両足でロックし、締め上げる。
「グオオオオオオッ!!」
ゴモラが激しく暴れる。
『全然大人しくなってないよ!?』
「これからだっ!」
振り落とされる。
カルディアは空中で体勢を立て直し、地面へ着地した。
「チッ」
ゴモラは止まらない。
それどころか、先程よりも激しく暴れている。
「……殴り足りんか」
『違うと思う!』
「なら蹴る」
『もっと違うよ!』
「カルディア!」
背後から声が飛んだ。振り返ると、ヒュウガ達、ZAPクルーがレイの元へ駆けていた。
「ゴモラは任せた!」
「は?」
「俺達はレイを止める!」
カルディアは一瞬、ヒュウガを見た。
次にゴモラ、そして苦しみ続けるレイへ視線を向ける。
『カルディア?』
「任せろ、ゴモラは私が殺す」
『殺しちゃ駄目だよ!?』
ゴモラが角を突き出し、カルディアに向かって突進する。
「お前はそこで大人しくしていろ!」
カルディアは真正面からゴモラの角を掴んだ。
直後、凄まじい力が両腕へ襲い掛かる。
「ぐっ……!」
カルディアの両脚が地面を削りながら押し戻される。
『カルディア!』
「ボーイ!エネルギーを回せ!」
『う、うん!』
体内を光が巡る。
カルディアは地面を踏み締めた。
「こいつ……!」
押される、それでも離さない。
「馬鹿力がッ!」
『怪獣だからね!?』
「知っている!」
ゴモラの意識を自分へ向ける。
それでいい、レイとZAPクルーへ意識を向けさせなければ、それで十分だった。
「レイ!」
ヒュウガの声が響く。
「ぐ……ああ……!」
レイは頭を押さえ、苦しみ続けていた。
その瞳に、かつての穏やかな光はない。
「しっかりして!」
ハルナが叫ぶ。
「俺達が分からないのか!」
オキも必死に声を掛ける、だが。
「う……あああああッ!」
レイが腕を振るう。
「危ない!」
ヒュウガが二人を庇う。
レイは荒い呼吸を繰り返しながら、ZAPクルーを睨み付けた。
「レイ……」
ヒュウガは静かに拳を握る。
「ボス!」
「下がってろ」
一歩、ヒュウガが前へ出る。
「俺が止める」
レイが吼え、地面を蹴る。
ヒュウガへ一直線に飛び掛かった。
「ボス!」
ハルナの悲鳴。
だが、ヒュウガは逃げなかった。
「レイ!」
拳を握る。
「目ぇ覚ませぇぇぇぇッ!!」
渾身の拳が、レイの胸へ叩き込まれた。
「ッ!」
鈍い音、レイの身体が止まる。
「……」
ゴモラの動きも止まった。
「……?」
カルディアが眉をひそめる。
先程まで暴れていたゴモラから、力が抜けていく。
「おい」
カルディアは掴んでいた角から手を離した。
ゴモラがゆっくりと地面へ膝をつく。
『止まった……?』
「あぁ」
カルディアはレイへ視線を向ける。
「……そういうことか」
ヒュウガの腕の中で、レイは力なく項垂れていた。
「……ボス」
小さな声が零れ、気付いたクルーが彼を抱きしめる。
「レイ!」
「俺……」
レイは周囲を見渡した。
倒れたセブン、荒れ果てた戦場。
そして……静かに自分を見つめるゴモラ。
「俺は……何を……」
「戻ったな」
ヒュウガが笑った。
「……ボス」
「ったく」
ヒュウガは拳を振った手を軽く押さえる。
「手間かけさせやがって」
「……すみません」
「謝るのは後だ」
ヒュウガはレイの肩を叩いた。
「まだ終わってねぇ」
「……はい!」
レイが頷く。
その光景をカルディアは少し離れた場所から眺めていた。
『良かった……』
「あぁ」
『レイさん、戻ったね』
「あぁ」
カルディアはヒュウガを見つめる。
自分が何度殴っても止まらなかったゴモラ。
だが、ヒュウガはたった一発でレイを正気に戻した。
カルディアはヒュウガを見つめた。
ブラッド族なら寄生するか力で従わせる。
だが、この男は違う。拳一つで、レイを取り戻した。
「……変な奴だ」
『何が?』
「別に」
『……カルディア』
「何だ」
『殴る場所、頭じゃなくて胸だったね』
「……」
『ヒュウガさん、一発だったよ』
「……」
『カルディアはいっぱい殴ってたね』
「黙れ」
『はいはい』
カルディアは不機嫌そうに顔を背けた。
その時だった、一条の光が怪獣墓場の空を切り裂いた。
「……!」
カルディアが顔を上げる。
……光?いや、何かが飛んでくる。
「来るぞ!」
ウルトラマンが叫んだ。
一条の蒼い光が、怪獣墓場の空を切り裂いた。
光が地に落ちると、その凄まじい衝撃に大地が砕け、舞い上がる土煙の中から、一人の戦士が立ち上がった。
「……誰だ?」
レイが目を凝らす。
土煙の奥から青と銀、赤の体色を持つ見覚えのない戦士が、ゆっくりと立ち上がる。
鋭い双眸、頭部に輝く二本のアイスラッガー。
カルディア、彼の手にセブンのアイスラッガーが握られていることに気付いた。
「なるほど」
『え?』
「あいつか」
戦士は周囲を見渡し、倒れているセブンを見つける。
「……親父」
小さく呟き、歩み寄る。セブンの胸の上に彼のアイスラッガーを置き、数秒の沈黙。
その後、勢いよく振り返ったその瞳が、ベリアルを捉えた。
「ベリアル……!」
怒り、凄まじい闘志が、一気に膨れ上がる。
「テメェだけは……!」
ベリアルが目を細めた。
「何だ、貴様は?」
戦士は拳を握ると、ゆっくりと構えた。
「俺か……?俺はゼロ」
鋭い視線が、ベリアルを射抜く。
「ウルトラマンゼロ!セブンの息子だ!」
『ゼロ……』
ボーイが呟く。
「……」
『カルディア?』
「強いな」
『分かるの?』
「あぁ」
カルディアはゼロを観察する。
立ち方、重心。呼吸、何より隙がない。
そして、全身から放たれる力。
「少なくとも、口だけではなさそうだ」
『また喧嘩売りそうな言い方してる……』
「おいお前!聞こえてねぇと思って好き勝手言ってんじゃねぇぞ!」
「……聞こえていたのか」
「聞こえてんだよ!」
ゼロが振り返る。
先程から妙なガキが、一人で何かを喋っている。
しかも、どうやら自分を品定めしていたらしい。
「……こんな所になんで餓鬼がいんだよ」
「巻き込まれたんだ、それよりさっさとアイツに特攻でもしてこい」
「はぁっ!?てかなんだよお前、態度がデカすぎだろ!」
ボーイの体の主導権を握っているカルディアを、ゼロが訝しげにジロジロと見ている。
カルディアはベリアルを指さし、ゼロを促した。
『カルディア!仲良くして!』
「無理だ」
『カルディア!』
「うるさいぞ、ボーイ」
「誰と喋ってんだお前!?」
ゼロがカルディアに突っかかろうとした時。
「ゼロ!」
空から声が響き、新たに二つの光が飛来する。
一人は赤き獅子もう一人は、その弟。
レオとアストラ……二人の戦士が、ゼロの傍らへ降り立った。
「師匠!」
「間に合ったようだな」
レオはゼロを見る。
その視線が、僅かに柔らかくなる。
「行け、ゼロ」
「あぁ!」
ゼロは再びベリアルへ向き直った。
「ここからは俺の番だ!」
凄まじい速度で地面を蹴り、一瞬でベリアルとの距離を詰める。
「うおおおおおおッ!」
ゼロの拳がベリアルの顔面へ叩き込まれた。
「ぐおっ!?」
ベリアルの身体が吹き飛ぶ。
カルディアはその光景を黙って見つめる。
『カルディア?』
「……気に入らんな」
『え!?何で!?』
「私も暴れたりないな」
『そこ!?』
ボーイの声を聞き流しながら、カルディアは再び戦場へ視線を戻した。
ゼロとベリアルの戦いは、完全にゼロが押している。
「うおおおおおおッ!」
ゼロの拳が叩き込まれる。
「ぐおっ!?」
ベリアルの身体が大きく仰け反った。
反撃する暇すら与えない。
ゼロはそのまま懐へ潜り込み、拳、蹴りと立て続けに攻撃を叩き込んでいく。
「どうしたベリアル!」
「小僧がァッ!」
ギガバトルナイザーが振るわれる。
だが、ゼロは軽々と飛び越えた。
「遅ぇ!」
空中で身体を捻る。
勢いを乗せた蹴りが、ベリアルの顔面へ炸裂した。
「ぐおおおおおッ!?」
ベリアルの巨体が吹き飛ぶ。
「……」
カルディアは黙ってその戦いを見つめていた。
『カルディア?』
「……やはり気に入らんな」
『まだ言ってるの!?』
「あいつばかり楽しそうに暴れている」
『戦ってるんだよ!?』
カルディアが不満そうに腕を組む。
その間にも、ゼロの猛攻は続いていた。
「これで終わりだッ!」
強烈な一撃。
ベリアルの身体が地面を何度も跳ね、そのまま怪獣墓場の谷へ転がり落ちていく。
「ゼロォォォォォォッ!!」
怒号が響くが、ゼロは止まらない。
「うおおおおおおッ!!」
最後の一撃が叩き込まれた。
「ぐおおおおおおおッ!?」
ベリアルの身体が、谷底の闇へと消えていく。
やがて……何も聞こえなくなった。
「……」
静寂。
先程まで響き渡っていた戦闘音が、嘘のように消えていた。
「……倒した、のか?」
レイが小さく呟く、誰も答えない。
全員の視線が、ベリアルの消えた谷底へ向けられていた。
数秒、何も起こらない。
「……やった」
オキが呟く。
「やったぞ!」
その声を皮切りに、ZAPクルー達の表情へ安堵が広がった。
「ベリアルを倒した!」
「勝ったんだ!」
メビウスも緊張を解き、小さく息を吐く。
「ゼロ……凄いよ!」
「当然だろ!」
ゼロが得意げに胸を張った。
「俺はウルトラマンゼロだぜ?」
「……気に入らんな」
「おい!」
即座にゼロが振り返った。
「テメェ、さっきから何なんだよ!」
「別に」
「絶対何か言いてぇ顔してんだろ!」
『カルディア!喧嘩しないで!』
「喧嘩なんかしていない」
『してるよ!』
「うるさいぞボーイ」
「だから誰と喋ってんだお前!?」
ゼロの怒鳴り声が怪獣墓場に響く。
先程まで張り詰めていた空気が、僅かに和らいだ。
カルディアは面倒そうにゼロから顔を背ける。
「……」
ふとその視線が、谷底へ向いた。
「……?」
『カルディア?』
何かがおかしい、あまりにも。
「……静かすぎる」
『え?』
その瞬間。
「……っ!」
全身を悪寒が駆け抜けた。
カルディアの表情から、先程までの余裕が消える。知っている、この感覚を。
光の国で、ベリアルが現れる直前。
ブラッド族としての本能が、全力で警鐘を鳴らした時と同じ。いや……
「……違う」
『カルディア?』
「あの時より酷い」
カルディアは谷底を睨み付けた。
底知れない闇の中で蠢く、無数の気配。
それら全てが混ざり合い、巨大な一つの何かへ変わろうとしている。
「全員、退避だ!」
「何?」
ゼロが眉をひそめる。
「早くしろッ!!」
カルディアが叫んだ、その時だった。
……声が聞こえた。
「グ……」
「ギ……」
「ガァ……」
「……?」
ゼロが谷底へ視線を向ける。
無数の怪獣達の呻き声が、暗い谷底から響き始めていた。
「何だ……?」
怪獣墓場が震える。
「きゃあっ!」
「地震!?」
「違う!」
レイが叫んだ。
その顔から、血の気が引いていく。
「怪獣達が……!」
「何?」
「怪獣達の魂が、集まってる!」
次の瞬間、谷底から、巨大な腕が突き出した。
「ッ!?」
「ゼロ!」
ゼロが咄嗟に飛び退く。
巨大な腕が地面へ叩き付けられ、岩盤が砕け散った。
「何だこいつは!?」
怪獣墓場全体が揺れ、大地が裂ける。
谷底から、巨大な何かが這い上がってくる。
『カルディア……』
「……あぁ」
カルディアは黙って、その光景を見上げた。
無数の怪獣達が絡み合い、一つの巨大な肉体を形成している。
蠢く腕、苦しげに開閉する口、至る所から伸びる角や牙。
それら全てが、一つの生命体として動いていた。
「……嘘だろ」
ゼロが呟く。
巨大な影が、怪獣墓場を覆う。
そして……禍々しい巨体の頂点から、見覚えのある姿が浮かび上がった。
「フハハハハハハハハ!!」
「ベリアル!」
ウルトラマンが叫ぶ。
「残念だったなぁ!」
ベリアルの笑い声が、怪獣墓場全体を震わせる。
「この怪獣墓場に眠る、全ての怪獣の魂!」
巨大な腕が持ち上がった。
「その全てが、俺様の力だァ!!」
「グオオオオオオオオオッ!!」
全身の怪獣が一斉に咆哮を上げる。
怪獣墓場そのものが、生き物のように震えた。
誰も動けない、圧倒的という言葉すら、生ぬるい。
『……カルディア』
「あぁ」
カルディアはベリュドラを見上げる。
あまりにも巨大、あまりにも異質。
そして……あまりにも。
「……趣味が悪い」
『感想それ!?』
「他に何と言えと?」
『もっとこう……怖いとか!すごいとか!』
「面倒臭い」
『カルディアぁ!』
ボーイの声を無視し、カルディアの口元が僅かに吊り上がった。
「まぁいい」
『カルディア?』
「今度は私達も暴れるぞ」
『……うん!』
カルディアが構える。
ゼロが拳を握る、ウルトラマン、メビウス、レオ、アストラ、ダイナ。
戦士達が一斉に、天を覆うベリュドラを見上げた。
「グォォォォォォオ!!!!!!」
ベリュドラの咆哮が、怪獣墓場全体を震わせた。
その禍々しい巨体を前に、ウルトラ戦士達が一斉に身構える。
次の瞬間、ベリュドラの全身に蠢く怪獣達が眩い光を放った。
「来るぞ!」
無数の光線が全方向へ放たれる……ベリュドラインフェルノ。
逃げ場など存在しない、圧倒的な光線の嵐が戦場全体へ襲い掛かった。
『カルディアッ!レイさん達が!』
「分かってるッ!」
カルディアは即座に身を翻した。
狙われているのはウルトラ戦士だけではない。戦場の後方には、ZAPクルーの操るスペースペンドラゴンがいる。
カルディアはボーイの身体を加速させ、一直線に宙を駆け、機体の前へ滑り込む。
「させるか!」
両腕を突き出すと赤黒い光が広がり、巨大なバリアを形成した。
その直後、無数の光線が激突する。
「ぐっ……!」
凄まじい衝撃に、ボーイの身体が押し戻された。
『カルディア!』
「大丈夫だ!エネルギーの補助は頼んだぞ!」
『う、うん!』
ボーイのエネルギーが流れ込む。
カルディアは歯を食い縛り、襲い来る光線を受け止め、弾き、軌道を逸らしていく。だが……
「っ!」
無数の光線を弾き返していた、その瞬間。
一筋だけバリアの隙間を縫うように、光線がすり抜けた。
ボーイの肩を貫き、そのままスペースペンドラゴンの翼へ直撃し、爆発する。機体が大きく揺れた。
「うわあああっ!」
「機体損傷!」
「右翼部に被弾! だが航行に問題はない!」
幸い、スペースペンドラゴンの損傷は軽微だったが……
「……っ」
カルディアは地面へよろよろと降り立つと、その場に片膝をついた。
傷付いた肩から、赤黒い光の粒子が零れ落ちる。
『カルディアッ!』
「カルディア!」
ボーイとZAPクルーの声が重なった。
ウルトラ戦士達も、こちらへ駆け寄って来ている。
「かすり傷だ!」
カルディアは即座に立ち上がった。
肩に走る激痛を無視し、ベリュドラを睨み付ける。
痛みなどどうでもいい。だが、傷付いたのは自分の身体ではない。ボーイの身体だ。
それだけが、酷く気に食わなかった。
「それより気を抜くな!次が来るぞ!」
『でも、ケガしてるよ!』
「戦える」
『カルディア!』
「ボーイ」
カルディアは静かに言い切った。
「今はこの身体の傷より、優先すべき事がある」
『……』
ボーイは黙り込んだ。
カルディアは肩を押さえながら、素早く戦場を見渡す。
ウルトラ戦士達、レイ、スペースペンドラゴンにいる地球人達。
未だ、誰も戦意を失ってはいない。
だが、ベリュドラの巨体を打ち崩すには、生半可な攻撃では足りない。
全員の力を、一度に叩き込む必要がある。そのためには……
「……ふ」
『え?』
カルディアが小さく笑った。
ウルトラ戦士達が、それぞれ必殺技の構えに入ろうとしている。
しかし、ベリュドラがそれを黙って待つはずがない。
全身の怪獣達が再び蠢き始めた。
「チッ」
『カルディア?』
カルディアは負傷した肩を軽く回した。
激痛が走った、だが腕は動く、脚も動く。
なら十分だ。
「私が時間を稼ぐ!お前達は体勢を整えろ!」
カルディアは浮かび上がり、ゼロ達へ叫んだ。
「一人でやるつもりか!?」
「時間を稼ぐだけだ!さっさと準備しろ!」
ゼロの返事を待つことなく、カルディアはベリュドラへ視線を戻した。
「ボーイ」
『な、何?』
「少し暴れるぞ」
『……え?』
カルディアの口元が、ゆっくりと吊り上がる。
その笑みを見た瞬間、ボーイは嫌な予感を覚えた。
『カルディア、何する気?』
「なに、今できることをするだけだ」
『そ、そう……?』
カルディアが見据える視線の先。
無数の怪獣が蠢く、ベリュドラの巨体。
それを見て、カルディアは嗤った。
「最近暴れてなかったからな。良い機会だ」
『カルディア!?』
ボーイの悲鳴と共に、カルディアは一直線に飛び出した。
ベリュドラの身体から突き出した怪獣が、迫るボーイの身体へ牙を剥く。
「邪魔だッ!」
カルディアは迫る顔面へ飛び蹴りを叩き込む。
怪獣の頭部が大きく仰け反った。
着地するよりも早く角を掴み、顔面へ膝蹴りを叩き込む。
一発、二発、三発……
さらに強引にその頭部を引き抜くと、隣の怪獣へ叩き付けた。
『カルディアぁぁぁぁ!?』
「ははははは!」
カルディアはボーイの悲鳴を聞きながら、振り下ろされた巨大な爪を紙一重で躱す。
その腕へ飛び乗り、ベリュドラの巨体を一気に駆け上がった。
蹴る、殴る、掴む、叩き付ける。
光線など使わない、必要なのは破壊力ではない。
ただひたすらに、鬱陶しく、執拗に。
ベリュドラの意識を、自分一人へ向けさせる。
「……おい」
必殺技の構えに入っていたゼロが、思わず呟いた。
「どうしたの、ゼロ?」
メビウスが問いかける。
「あいつ、本当に味方なんだよな?」
「そうだよ!凄いよね!」
メビウスは笑顔で答えた。
「今は、カルディアがボーイの体の主導権を握ってるんだ!」
その瞬間、カルディアは怪獣の角を掴み、強引に顔面を引き寄せると頭突きを叩き込んだ。
さらに別の怪獣の首を抱え込み、その頭部を隣の怪獣へ何度も叩き付ける。
「……怖ぇんだけど」
ゼロの呟きに、レオも僅かに沈黙した。
「……話には聞いていたが」
「だろ!?」
「気持ちは分かるが、今は攻撃の準備を!」
「分かってるよ!」
ウルトラマンに促され、ゼロは渋々構え直す。
だが、もう一度だけカルディアへ視線を向けた。
今度は怪獣の顔面を踏み付けている。
「……やっぱ怖ぇ」
「どうした!」
怪獣の顔面を踏み付け、カルディアが叫んだ。
「この程度か、寄せ集めの出来損ないが!」
ベリュドラの咆哮が轟く。
無数の怪獣達が、一斉にカルディアへ牙を剥いた。
その光景を見て、カルディアは不敵に笑った。
「そうだ」
『カルディア……』
「他を見ている余裕があるのか?お前の相手は私だぞ」
背後にいるウルトラ戦士達のエネルギーが、徐々に高まり始めている。
カルディアはそれを確認すると、さらに凶悪な笑みを浮かべた。
「私だけを狙え、負け犬」
『絶対怒らせる必要ないよね!?』
「ふふふ、楽しくてつい……それより、ボーイ」
『うん』
それだけで十分だった、カルディアが何を考えているのか。
次に何をするつもりなのか。
もう、ボーイには分かっている。
『フュージョンフォームだね!』
「あぁ」
ベリュドラの怒号が響き渡った。
同時に、ウルトラ戦士達のエネルギーが最大まで高まる。
「行くぞ、ボーイ!」
『うん!』
二人の意識と鼓動が重なる……ボーイの光のエネルギーと、カルディアの破壊の力が混ざり合う。ボーイの身体を、紅と銀の光が包み込んだ。
光が収まると、ボーイの姿が変わっていた。
カルディアとボーイ、二人で一人のフュージョンフォーム。
変化を終えた二人は、ベリュドラの巨体を蹴り飛ばし、その反動で一気に戦線を離脱した。
「今だッ!」
カルディアの叫びが、怪獣墓場に響き渡った。
ウルトラ戦士達が、一斉に必殺技を放つ。
幾筋もの光線が、ミサイルが、振動波が、闇を切り裂きベリュドラへ殺到する。
『カルディア!』
「あぁ!」
紅い闇、銀の光。
二つの力が円環を描き、巨大な光輪を形成する。
「『行けぇぇぇぇッ!!』」
カルディアとボーイの声が重なった。
必殺光輪が放たれる。
紅と銀の光輪は、ウルトラ戦士達の光線と共にベリュドラへ炸裂した。
凄まじい閃光が、怪獣墓場を白く染め上げる。
轟音、爆炎。ベリュドラの巨体が、大きく揺らいだ。
「やったか!?」
誰かが叫ぶ……しかし。
「……いや」
ウルトラマンが鋭く目を細めた。
爆炎の奥で巨大な影が、ゆらりと動いた。
「グオオオオオオオオオッ!!」
咆哮、吹き荒れた衝撃波が爆炎を一瞬で吹き飛ばした。
「嘘だろ!?」
ベリュドラは未だ健在だった。
確かに傷は負っている、身体の一部は崩れ、無数の怪獣達が苦しげに蠢いていた。
だが、倒れてはいない。
「……化け物め」
フュージョンフォームとなったカルディアとボーイは静かに構え直す。
『カルディア』
「まだ終わらんか」
白銀の瞳が、巨大な魔獣を真っ直ぐ見据えた。
『あれだけ攻撃したのに……』
「効いてはいる」
カルディアは冷静にベリュドラを観察した。
「だが足りん」
ベリュドラの身体を構成する、無数の怪獣。
傷付いた箇所を別の怪獣が補い、巨体を維持している。
「寄せ集めの癖に、随分と頑丈な身体だな」
『どうする?』
「もう一度……」
「待ってくれ!」
声を上げたのはレイだった。
皆が彼をみつめる。
「なんだ」
「聞こえるんだ」
「何が?」
レイはベリュドラを見上げた。
「怪獣達の声が」
その言葉に、カルディアは僅かに目を細める。
レイの視線の先、ベリュドラを構成する無数の怪獣達が、苦しげに蠢いている。
「怪獣達は、自分の意思でベリアルに従っているわけじゃない」
「……なるほど」
カルディアは理解した。
「なら、外から壊すより中から崩した方が早いな」
「簡単に言うなよ……」
ゼロが呆れたように呟く。
「レイ、お前はアレを何とかしろ」
「あぁ、任せてくれ!」
レイの言葉を聞き終えると、カルディアは瞬時に戦力を見定める。
必要なのは火力ではない。自分と同じ速度で巨体へ肉薄し、執拗に注意を引き付けられる者。
最適解はウルトラマンだが、体力を消耗し過ぎている。なら……
「お前達はレイが殺されないように護れ。私とボーイはあのデカブツを引き受ける。レオ、アストラ、それとそこのお前……」
「ダイナだ、よろしく!」
「……ダイナ、お前達も来い」
「分かった、気をつけて」
メビウスの言葉が終わる前に、カルディアとボーイはベリュドラの元へ行ってしまった。
続いてレオとアストラ、ダイナも続く。
「おいおい良いのかよ!?」
「大丈夫だよ、ゼロ。今はあの子を信じよう」
「我々は君を全力で護る、だから安心してくれ」
「ウルトラマン……!ありがとう!」
思わずゼロが突っ込んだが、メビウスに窘められて渋々納得した。
レイは小さく息を吐くと、再びギガバトルナイザーに向き直った……表情が変わる。
「みんな……聞いてくれ!」
レイはギガバトルナイザーに触れながら、レイオニクスとしての力を通して、ベリュドラを構成する怪獣達へ呼び掛ける。
「お前達は、ベリアルの道具じゃない!」
ベリュドラの身体が僅かに震えた。
「グ……オ……?」
怪獣達が蠢く。
ベリアルが異変に気付き、怒りの声を上げた。
「貴様ァ!何をしている!」
「余所見をしている暇があるのか?」
ベリアルの意識がレイへ向いた瞬間、カルディアはベリュドラの胸部へと、真正面から飛び蹴りを叩き込む。
「ぐおっ!?」
「余所見をするな、負け犬!」
『また怒らせてる!?』
「集中させるなと言ったのはお前達だろう!」
『言ってないよ!?』
ベリュドラの巨大な腕が振り下ろされる。
カルディアは空中で身体を捻り、紙一重で回避した。
「お前達!」
「あいよっ!」
ダイナが反対側から殴り付け、レオとアストラの蹴りがベリュドラの身体へ炸裂する。
様々な場所から放たれる攻撃にベリアルの苛立ちが募っていく、
カルディアは迫る牙を掴むと、そのまま身体を捻り、怪獣の頭部を強引に別方向へ向けた。
放たれた光線が、ベリュドラ自身の身体へ直撃する。
「グオオオオッ!?」
「ははっ!馬鹿め!」
「……なぁ」
ゼロが警戒を続けながらメビウスに声を掛けた。
「やっぱあいつ怖くねぇか?」
「ゼロ!余所見しない!」
「分かってるよ!」
メビウスの声が飛ぶ。
その間にも、レイの呼びかけは続いていた。
「思い出せ!」
レイが叫ぶ。
「お前達の誇りを!」
瞬間、ベリュドラの身体に異変が起きた。
一体、また一体。怪獣達が動きを止めていく。
「な、なんだ!?」
ベリアルの声に焦りが混じった。
「動け!貴様ら!」
しかし、怪獣達は従わない。
ベリュドラの巨体が大きく揺らぐ。
『カルディア!』
「あぁ!」
フュージョンフォームは即座にベリュドラから距離を取った。
「ゼロ!今だ!」
「言われなくても分かってる!」
ゼロが飛び出したその時。
怪獣墓場の彼方から、一条の光が飛来した。
「何だ!?」
光……プラズマスパークの光はゼロの手へ向かって伸びていく。
その力を受け、ゼロスラッガーが一つの巨大な武器へと変化していく。ゼロツインソードだ。
『……すごい!』
ボーイが思わず声を漏らした。
「確かにな」
『カルディアもそう思う!?』
「あぁ」
カルディアは素直に頷く。
「良い武器だ」
『そっち!?』
ゼロがゼロツインソードを構えた。
「これで終わりだ、ベリアル!」
「ゼロォォォォォッ!!」
ベリアルの怒号が響き渡り、ゼロは一気に飛び出した。
「うおおおおおおおッ!!」
光が走る。
巨大な光刃が、ベリュドラの身体を切り裂いた。
一閃、怪獣墓場が静寂に包まれる。
「……」
カルディアは黙ってベリュドラを見上げた。
巨大な身体に、光の亀裂が走る。
一つ、二つ……無数に。
「グ……オオ……」
ベリュドラの巨体が、崩壊を始めた。
無数の怪獣達が解放され、光となって離れていく。
「グォォォオァァァァァッ!!」
断末魔の叫びが響いた次の瞬間、大爆発が怪獣墓場を包み込んだ。
『やった……』
ボーイが呟く。
「あぁ」
『勝ったんだ!』
「あぁ」
『やったぁぁぁぁぁぁ!!』
「うるさっ……」
インナースペースで飛び跳ねるボーイの声に、カルディアが顔を顰める。
だが、その口元は僅かに笑っていた。
『カルディア!勝ったよ!』
「当然だ」
「やったな!」
ゼロが振り返ると、カルディアは彼を一瞥した。
「私の勝利だ」
「はぁっ!?お前、トドメをさしたのは俺だぞ!?」
「私達が時間を稼いだ」
「レイが怪獣達を解放したんだろ!」
「つまり、私の作戦が導いた勝利だ」
「なんだとっ!?」
ゼロが声を荒らげるも、カルディアは何処吹く風だ。
『カルディア、ゼロさんと仲良くなったね!』
「どこを見たらそう思えるんだ、お前は」
「……お前誰と喋ってるんだ?」
「お前には関係ない」
「ほんっと可愛くねぇ!」
怪獣墓場に、ゼロの声が響く。
戦いは終わった、ベリアルは倒れ、怪獣達は解放された。
カルディアとボーイは、初めて光の国の戦士達と肩を並べて戦い抜いたのだった。
ベリュドラの消滅と共に、怪獣墓場を覆っていた戦いの気配が消えていく。
誰もすぐには声を出せなかった。ただ静かに、消えていく怪獣達の魂を見送る。
やがて、カルディアの静かな一言が零れた。
「……終わった」
「やった……!」
「勝ったぞ!」
歓喜の声が上がる、ベリアルは倒れたのだ。
だが……
「……」
ゼロだけは、その輪の中にいなかった。
ゆっくりと歩いていくその視線の先には、岩場に横たわる、赤い戦士の姿があった。
「……親父」
ゼロはセブンの傍らへ膝をついた、返事はない。
「親父……?」
恐る恐る手を伸ばす。
だが、セブンは動かなかった。
「……死んだ、のか?」
小さく零れた言葉に、先程までの歓喜が消えた。
ウルトラマン達も、静かに二人を見つめる。
「エネルギーを消費しただけだ」
ウルトラマンが静かに告げた。
「まだ命はある。だが、このままでは……」
「……っ」
ゼロが拳を握り締める。
もっと早く来ていれば、もっと自分に力があれば。
そんな思いが、胸の奥を締め付ける。
その様子を、カルディアは黙って見ていた。
「……ボーイ」
『なに?』
「分離するぞ」
『え?』
ボーイが聞き返すより早く、フュージョンフォームの姿が揺らいだ。
一体化が解除される。
「わっ!?」
本来の姿へ戻ったボーイが慌てて着地した一方、二メートルにも満たない少女の姿へ戻ったカルディアは、そのままセブンの胸元へ降り立った。
「……おい」
ゼロの声が低くなる。
カルディアは無視して膝をつき、セブンの身体へ手を触れる。
「おい!何してやがる!」
「……」
「聞いてんのか!」
カルディアの身体から、紅黒い光が溢れ出した。
それはまるで液体のようにセブンの身体へ纏わり付き、カルディアごとその胸部へ沈み込んでいく。
「なっ……!?」
ゼロが目を見開いた。
「親父から離れろ!」
立ち上がろうとしたゼロの前へ、ウルトラマンが腕を伸ばす。
「待て、ゼロ」
「止めんな!あいつ、親父に何か――」
「あっ!」
メビウスが明るい声を上げた。
「そうか!寄生能力だね!」
「…………は?」
ゼロの動きが止まり、ゆっくりとメビウスを振り返る。
「今、なんつった?」
「寄生能力!」
「寄生!?」
「うん!」
「親父に!?」
「そうだよ!」
「何でそんな嬉しそうなんだテメェ!!」
「えぇ!?」
ゼロの怒号が怪獣墓場に響き渡った。
「待て、ゼロ!」
ウルトラマンが慌てて間へ入る。
「落ち着け!」
「これが落ち着いていられるか!あいつは親父に寄生してんだろ!?」
「ゼロ、落ち着いて!カルディアはブラッド族だから寄生できるんだよ、だから……」
「メビウス!!」
ゼロを混乱させるばかりのメビウスを一喝したウルトラマンは、ゼロを羽交い締めにして止める。
「カルディア!親父から離れろ!」
「ゼロさん!」
ボーイが慌てて駆け寄る。
「違うんです!」
「何がだ!」
「カルディアはセブンさんを助けてるんです!」
「……助ける?」
ゼロの動きが止まり、ボーイは必死に頷く。
「カルディアは寄生した相手に、自分のエネルギーを送ることが出来るんです!」
「……」
「セブンさんの命を繋ぎ止めてるんです!」
「ゼロ、少し待ってくれないか?カルディアにも考えがあるはずだ」
ウルトラマンの言葉に、渋々納得して大人しくなったゼロ。
その時だった。ぴくり、とセブンの指先が動く。
「……親父?」
ゆっくりと、セブンの上体が起き上がった。
「親父!」
「うるさい、離れろ」
「なっ!?」
抱き着いてきたゼロを引き剥がしたセブンは、立ち上がって軽く体を動かすとゼロを見た。
セブンの筈なのに、纏う雰囲気が違う。
「こいつはまだエネルギー不足だ、さっさとプラズマスパークを戻せ」
「お、親父……いやカルディアか?」
「そうだ。ほら、早く行くぞ」
カルディアは――セブンの身体で、面倒そうに首を回した。
「私は疲れた。この身体は慣れないな……」
セブンの体に寄生したカルディアは、呆けるゼロを放置し、ボーイに視線を合わせた。
「ボーイ、お前もキツイだろう。こいつらの誰かに抱っこして貰え」
カルディアは、未だカラータイマーの色が変わっていないレオ、アストラ、ダイナへ視線を向けた。
「そうだな、ボーイは私が抱っこしよう……おいで」
レオが手を広げると、ボーイは照れくさそうに抱き上げられた。
さて、光の国へ戻ろう。
誰もが当然のように動き始めた……ただ一人。
未だ状況を飲み込めていない者を残して。
「は、はぁっ!?巫山戯んなよ!!!そいつブラッド族だぞ!!!親父が寄生されてんだぞ!!!!」
「……」
セブンの身体を借りたカルディアは、騒ぎ立てるゼロを冷めた目で見つめた。
「そうだな」
「そうだなじゃねぇ!」
「では今すぐ出て行ってやろうか?」
「は?」
カルディアは、わざとらしく自分……セブンの赤く点滅を繰り返すカラータイマーを指差した。
「プラズマスパークは未だ光の国に戻っていない」
「……」
「当然、こいつのエネルギーも回復していない」
そこで一度言葉を切る。
セブンの顔で、カルディアは小さく嗤った。
「今私が分離すれば……どうなるだろうな?」
「て、テメェ……!」
「最悪、お前の親父が死ぬかもなァ?」
「テメェェェェェェッ!!」
「カルディア!言い方!!!!!」
ゼロが飛び掛かろうとする。
だが、その身体をウルトラマン達が慌てて羽交い締めにした。
「落ち着けゼロ!カルディアも挑発するな!」
「私は事実を言っただけだ」
「セブンの顔で言うなって!」
「面倒な奴らだな」
「親父の身体でその顔すんなァ!!」
最早何に怒っているのか分からない。
ウルトラマンは深く溜息を吐いた。
「……フン、さっさと光の国へ戻るぞ」
「賛成だ」
「テメェが仕切んな!」
「ゼロさん、落ち着いて!!!!」
怪獣墓場に、再びゼロの怒号が響き渡った。
光の国へ帰還すると、一行は二手に分かれた。
ウルトラマンとゼロは、プラズマスパークを元の場所へ戻す為にプラズマスパークタワーへ。
ダイナ、ボーイ、そしてZAPクルー達はスペースポートで待機することになったが、カルディアは彼らには同行しなかった。
「……」
光を失った光の国。その一角に、セブンは静かに立っていた。
正確には、その身体を借りたカルディアが。
「……静かだな」
カルディアは一人呟く。
やがて、プラズマスパークタワーから、眩い光が溢れた。
「……!」
光が走る。
凍り付いていた大地を、建物を、住民達を、光の国全体を。
失われていた輝きが、次々と戻っていく。
その光景を、カルディアはセブンの瞳を通して静かに眺めていた。
「……綺麗なものだ」
ぽつりと呟いた、その時だった。
『……カルディア』
「起きたか」
意識の奥から声が響いた、セブンだ。
『君は……』
「説明は後で誰かに聞け」
カルディアは素っ気なく答える。
「身体の状態は?」
『……まだ重い。だが、動ける』
「そうか」
十分だ。カルディアは遠く、プラズマスパークタワーを見上げた。
「息子と話す体力ぐらいはあるだろう?」
『……ゼロか』
「あぁ」
カルディアは鼻で笑う。
「面倒な奴だったぞ」
『……君が何かしたんじゃないのか?』
「失礼な奴だな」
『否定はしないのか』
「ふん、私はそろそろ行くぞ」
『待て、カルディア』
セブンが呼び止める。
『……ありがとう』
「……」
僅かな沈黙。
「ボーイに言え」
紅黒い光が、セブンの身体から溢れ出した。
光は小さな少女の姿を形作り、空中で身体を翻すと、そのままスペースポートの方向へ飛び去っていった。
「……全く」
自らの身体へ戻ったセブンは、遠ざかっていく小さな背中を見つめる。
「素直ではないな」
「親父!」
セブンが振り返る。そこには、一人の若き戦士が立っていた。
「……ゼロ」
どう言葉を掛ければいいのか分からず、ゼロはその場に立ち尽くしていた。
そんな息子を、セブンは力強く抱き締める。
一方、カルディアはスペースポートへ降り立っていた。
「カルディア!」
擬態化し、人間大となったボーイが駆け寄ってくる。
「セブンさんは?」
「息子と話してる」
「そっか……良かった」
ボーイは安心したように笑った。
その顔を見届けた途端、カルディアの身体が大きく揺らぐ。
「わっ!?カルディア!」
慌ててボーイがその身体を支えた。
「大丈夫!?」
「……疲れただけだ」
「全然大丈夫そうじゃないよ!」
「うるさい」
そう言いながらも、カルディアはボーイの身体へ体重を預ける。
ベリュドラとの戦闘、フュージョンフォーム。
そして、残された僅かなエネルギーをセブンへ送り続けた。
流石のカルディアも限界だった。
「カルディア!」
遠くから声が聞こえた。
振り向けば、レイを先頭にZAPクルー達がこちらへ歩いて来る。
「もう行くのか?」
「あぁ」
レイが頷いた。
「俺達にも、帰る場所があるからな」
「そうか」
カルディアは興味なさそうに答える。
「カルディア、ボーイ」
「はい!」
「今回は助かった。二人がいなかったら、俺達もどうなっていたか分からない」
「気にするな」
カルディアは小さく鼻を鳴らした。
「ボーイが勝手に助けただけだ」
「カルディアもいっぱい助けてたじゃん!」
「黙れ」
「なんで!?」
レイが思わず笑う。
「また会おう」
「……」
差し出された右手、カルディアは暫く眺めていた。
「カルディア?」
「面倒だな」
そう呟きながらも、その手を握り微笑んだ。
「またな」
レイは目を丸くした後、嬉しそうに笑った。
「あぁ!」
「それじゃあ、俺も途中まで送っていくよ」
ダイナがスペースペンドラゴンの傍らへ立つ。
「ボーイ!カルディア!」
大きく手を振るダイナ。
「またどこかで会おう!」
「はい!絶対!」
ボーイも大きく手を振り返した。
カルディアは無言だ。
「カルディアも!」
「何故私まで」
「ほら!」
「やめろ、引っ張るな」
ボーイに腕を掴まれ、強引に持ち上げられる。
仕方なく、カルディアは小さく手を振った。
「……またな」
スペースペンドラゴンがゆっくりと浮上する。
その傍らを、ダイナが飛翔した。
やがて彼らは光の国を離れ、宇宙の彼方へ消えていく。
「行っちゃったね」
「あぁ」
「また会えるかな?」
「知らん」
「会えるよ!」
「なら聞くな」
「えへへ」
ボーイが笑う。
カルディアは呆れながら、その身体へ僅かに体重を預けた。
「……ボーイ」
「なに?」
「帰るぞ」
「うん!」
二人はゆっくりと歩き出す。
「ねぇカルディア」
「なんだ」
「今日、いっぱい人を助けたね!」
「お前が助けろと言ったからだ」
「でも、助けてくれた!」
「……」
「やっぱりカルディアって優しいよね!」
「どうだか」
「なんで!?」
光を取り戻した光の国に、ボーイの声が響く。
本来ならば、決して交わるはずのなかった二人。光と闇、正反対の道を歩んできた二人は、それでも今は肩を並べて歩いている。
その歩みは、これからも続いていく。
親父を助けてもらったとはいえ、カルディアはブラッド族だし、親父の体に寄生するし、煽るし……ゼロは暫くの間カルディアの事を警戒します。
だけどナイスやゼアスに世話を焼かれているカルディアの姿を見て、徐々に警戒を解いていきます。
また続きを書きたいなぁ。