エボルトがジョーニアスと出会ってから、数百年の時が流れた。
最初の頃、U-40の住民達はエボルトを恐れていた。
それも当然だった。彼はかつて、U-40を滅ぼすためにやって来たブラッド族。
何を考えているのか分からず、突然現れてはジョーニアスに勝負を挑み、戦いが終われば満足そうに去っていく。更に……
「ジョーニアス! 土産だ!」
「……エボルト、その手に持っている箱は何だ?」
「宇宙を旅して見つけた珍しい生物だ。お前達、こういうの好きだろ?」
「……アミアを呼んでくる、私は今から会議だからお前に構えないが……騒ぎを起こすんじゃないぞ」
「おう!」
……その数分後。
「きゃあああああああああっ!?」
U-40に、アミアの悲鳴が響き渡った。
駆け付けたジョーニアスが見たのは、開いた箱、床を這い回る奇妙な生物と、それを嬉しそうに眺めるエボルト。
「エボルトォォォォッ!!」
「なんでだよ!?」
ジョーニアスから、本気で拳を叩き込まれるエボルト。
そんな事件を何度も繰り返しながら……
エボルトは、少しずつU-40での居場所を得ていった。
どうやら本人には、本当に悪気がなかった。
ただ、自分にとって「面白いもの」「珍しいもの」を、親しい相手にも見せてやりたかっただけなのだ。
もちろん、それで許されるとは限らない。
だからアミアは、何度も何度もエボルトに教えた。
人が嫌がることはしない、勝手に他人の家へ入らない。惑星を滅ぼそうと思っても、文明がある時や他星人がいる時は滅ぼさない。
そして……
「エボルト、人に危険なものをお土産として渡しちゃ駄目よ」
「……分かった」
「本当に?」
「ああ」
「じゃあ、これは?」
アミアが指差したのは、エボルトが持ってきた巨大な宇宙生物だった。
「……焼いて食ったら美味いぞ?」
「そういう問題じゃないわ」
「ふぅん……?」
少しずつ、本当に少しずつ。
エボルトは、U-40で生きるための「普通」を覚えていった。
そしていつしか……
かつての『害悪侵略宇宙人』は、『厄介な友人』という、何とも微妙な立場を確立していた。
それから、さらに数百年が経った、ある日のこと。
U-40のテラスでは、アミアとエボルトが向かい合っていた。
テーブルには、紅茶と焼きたてのクッキー。
エボルトは不機嫌そうな顔をしながら、クッキーを一枚摘み、口に入れた。
「……うまい」
そして、もう一枚。
アミアはそんなエボルトを微笑ましそうに眺めていた。
出会った頃とは、本当に変わった。
あの頃のエボルトなら、誰かに勧められるまでもなく勝手に食べていただろう。
それどころか、クッキーを独占していたかもしれない。
今ではちゃんと椅子に座り、紅茶を飲み、クッキーを食べている。
……もっとも。
「で?」
エボルトが頬杖をついた。
「ジョーニアスは?」
「地球よ」
「……は?」
エボルトの手が止まった。
「ジョーニアスが地球に?なんで?」
「地球でアンバランス現象が多発していたから、その調査の為よ」
「じゃあ、すぐ帰ってくるよな?」
「暫く地球に滞在するみたいよ」
「…………」
エボルトの眉間に皺が寄った。
「……俺、今日久しぶりにU-40に来たんだけど?」
「そうね」
「ジョーニアスと戦おうと思ってたんだけど?」
「そうでしょうね」
「いないの?」
「いないわ」
「……つまんねぇ」
露骨にエボルトがぶすくれる。
今日は久しぶりにU-40を訪れたのに、肝心のジョーニアスがいない。
何故かエレクとロトからは未だに警戒されているため、仕方なくアミアを探し、ジョーニアスの居場所を尋ねた。
その結果、近況報告も兼ねたお茶会になったのである。
「そんなに気になるなら、地球に行ってみれば良いじゃない」
「地球?」
「ええ。お兄様に会いたいんでしょう?」
「……まあな」
エボルトはクッキーをもう一枚口に放り込む。
「じゃあ、暇潰しに地球でも滅ぼしちゃおっかなァ……」
「ダメよ」
「分かってるよ」
即答だった。
アミアは思わず笑う。
「なら、行ってらっしゃい」
「ああ。クッキーありがとな。美味かったぜ」
エボルトが立ち上がる。
そして、テラスから飛び立とうとした、その時。
「待って、エボルト」
「あ?」
アミアは少しだけ真剣な表情になった。
「お兄様に迷惑をかけちゃダメよ」
「……分かってる」
「地球人に迷惑をかけるのもダメ」
「分かってるって」
「本当に?」
「しつけぇな……」
エボルトは面倒そうに顔を歪める。
だが……最後には、ちゃんと頷いた。
「……仕方ねぇなぁ」
そう言って、エボルトは空へ飛び立った。
アミアはその背中を見送る。
「……本当に、変わったわね」
かつてはU-40を滅ぼそうとしていた男。
今では、ジョーニアスがいないことを「寂しい」と言い、アミアの作ったクッキーを食べ、注意されれば渋々ながらも言うことを聞く。
随分と丸くなったものだ。
アミアは、遠ざかっていくエボルトを微笑ましく見送った。
地球にて。
ジョーニアスは地球の勇敢な若者である光超一郎と一体化し、この星で発生しているアンバランス現象の調査を続けていた。
今日は、東京郊外の森で発生した電波異常の調査をするため、光超一郎が派遣された。
「……ここも異常なし、か」
超一郎が周囲を見渡す。
『まだ油断はするな、光』
「分かっているよ、ウルトラマン」
二人は歩いていく。
「……ん?」
何かを感じた光が見上げると、遥か上空から赤い光が、地球へ向かって飛来していた。
宇宙空間で地球を眺めているエボルト。
「……ふぅん、中々美しい星だ。微かにジョーニアスの気配がするな、楽しみだなァ!」
赤い光は、地上へ降下していく。
そして……
「……いた」
地上へ降り立ったエボルトは、周囲を見渡した。
ジョーニアスの気配が確かに感じる。
間違えるはずがない。何百年もの間、何度も何度も拳を交えてきた相手。
その存在を、エボルトが見間違えるはずなどなかった。
だが……
エボルトの視線の先にいたのは、一人の地球人だった。
どう見ても、普通の人間にしか見えない。
「…………」
エボルトは黙ったまま、青年を見つめる。
光もまた、目の前に現れた男から放たれる異様な圧に気圧され、動くことができなかった。
何だ、この男は。
どうして、こんなにも……
『光、今すぐ逃げるんだ!』
「ウルトラマン?」
『彼はブラッド族だ』
その言葉を聞いた瞬間、光の表情が強張る。
『話が通じる相手ではない!』
「……ッ!」
ようやく身体が動く。
光は咄嗟に背を向けて走り出した。
その姿を見たエボルトは、目を細める。
地球人からジョーニアスの気配がする。
「……なんでだ?」
エボルトが呟く。
「なんで、お前からジョーニアスの気配がする?」
そして……ある可能性に辿り着いた。
「…………まさか」
逃げる光の前へ、エボルトが一瞬で回り込む。
「うわっ!?」
光が慌てて足を止めた。
エボルトは、彼の身体を上から下まで眺める。
「……なるほど」
そして、確信した。
「地球人と一体化したのか」
『エボルト……』
光が感じたジョーニアスの声は、何時もの様に頼もしいものではなく、少し弱々しい。
エボルトの顔から笑みが消えた。
「ジョーニアス」
低い声。
「お前、そこにいるんだな?」
『……ああ』
「だったら出てこいよ」
エボルトが一歩近づく。
「俺は、お前に会いに来たんだぜ?」
「き、君は誰だ!?」
光が問い掛ける。
しかし、エボルトは彼を見ていない。
見ているのは……彼と一体化しているジョーニアスだけだった。
「ジョーニアス」
エボルトは再び呼び掛ける。
「ソレから出て遊ぼうぜ?」
『エボルト、私は今、この地球人と……』
「出てこいって」
『……!』
その声には、明確な苛立ちが混じっていた。
光は警戒しながら、ポケットへ手を伸ばす。
その瞬間、エボルトが動いた。
「させるかよ」
「なっ……!?」
光は手首を掴まれ、ビームフラッシャーを掲げる前に腕を捻り上げられた。
「ッ!」
そのまま身体を蹴り飛ばされ、地面を転がっていく。
エボルトはビームフラッシャーが落ちる前に受け止めた。
「おいおい、これはジョーニアスのもんだぜ?お前が持ってていい物じゃない」
『エボルト!彼に乱暴はよせ!』
「嫌だね」
エボルトはビームフラッシャーを眺めながら、吐き捨てる。
「なぁ、ジョーニアス」
その声には怒りだけではなく、困惑があった。
「せっかく会いに来たのに……なんで弱っちい地球人なんかと一体化してんだァ?」
『……光は弱い人間ではない』
「そうかァ?」
『彼は……』
「じゃあ証明してみろよ」
エボルトはビームフラッシャーを自分のポケットへ大切に仕舞い、蹲る超一郎へ近付く。
「俺が知ってるジョーニアスは、俺と拳を交わしても逃げなかった。俺と対等の、強い奴だった」
エボルトの脳裏に、初めて会った時の記憶が蘇る。
何度叩き伏せても、ジョーニアスは立ち上がった。
それが、どれ程嬉しかった事か……!
「なのに今は……」
目の前にいるのは、一人の地球人。
エボルトには、それが理解できなかった。
「……脆弱な地球人と一体化しているとはなァ?」
『違う!』
ジョーニアスの声が響く。
『私は光と共に、この地球を守っている!』
「……守ってる?」
エボルトが眉を寄せる。
その右手に、赤いエネルギーが集まり始める。
光が立ち上がり、エボルトを見据える。
「……君は、一体何者なんだ……」
「今の俺は機嫌が悪い」
エボルトは右手を光へ向けた。
「ジョーニアス」
赤い光が、さらに強くなる。
「ソレは、お前が一体化するに相応しい人間なのか?」
『エボルト!』
エボルトがニヤリと嗤う。
「試してやる」
「……ッ!」
「そこの地球人」
その瞳が鋭くなる。
「死ぬ気で抗え」
光の表情が強張る。
「さもなければ……殺す」
次の瞬間。
エボルトの右手から、赤い光弾が放たれた。
「うわっ!」
光が横へ飛び退く。
その瞬間、先ほどまで彼がいた場所に光弾が着弾し、地面が大きく抉れている。
『光!』
「分かってる!」
次々と飛んでくる光弾。
超一郎は必死に走り、木々の間をすり抜けていく。
「くっ……!」
だが、エボルトの攻撃は止まらない。
「逃げてるだけか?何時まで持つか見ものだなァ!?」
「……っ!」
光は歯を食いしばりながら、必死に足を動かす。
『光、私に任せろ!』
「駄目だ!」
『何!?』
「この人は、貴方と戦うために来たんだろう!」
超一郎は走りながら叫ぶ。
「僕だって一緒に戦う!」
『光……』
「今まで……貴方と一緒に戦ってきじゃないか!」
光は意を決して、光弾を紙一重で交わした。
拳を強く握り、構えた。
「貴方の足手まといにはならない!」
その言葉を聞いたエボルトの動きが、ほんの僅かに止まった。
「…………」
そして……口元が、僅かに上がる。
「……へぇ」
先ほどまでの苛立ちとは違う、興味。
エボルトは、初めて真っ直ぐ光の目を見た。
「ふぅん……?」
「僕だって戦うんだ!」
「ちょっとは面白くなってきたじゃねぇか」
光がエボルトに向かって走り出す。
エボルトはそれ面白そうに眺めていたが、彼の拳を受け、暫くお互いの攻撃を出し合う。
「なるほど、地球人にしては強い!面白いな、お前!」
「それは、どうもッ!」
「俺はエボルト、お前も名乗れ地球人!」
両手を上げて敵対の意思が無い事を示したエボルトを警戒しながらも、光は拳を下げた。
「僕は光、光超一郎だ。ウルトラマンジョーニアスと共に地球を護っている」
「そうか、光……光、超一郎……よし覚えたぞ!」
エボルトは両手を広げて光に向かって歩くが、彼は再び拳を構えた。
それを意に介せずに光を抱き締めたエボルトは、彼を抱き締めたまま嬉しそうにクルクルと回った。
「俺はなァ……お前みたいなのが大好きなんだよ!!!よし決めたぞ光、俺は暫くこの星に住む!一緒に暮らそう、光!!!!」
「嫌だ!!!」
エボルトを突き飛ばして距離を取る光だが、それすらも面白いのか、彼は楽しそうだ。
「なぁ良いだろジョーニアス?俺が地球を守ってやるよ、地球人に迷惑はかけないし誰も殺さないから!」
『当たり前の事を誇らしげに言うな……はぁ、すまない光、こうなった彼はどうにも出来ない。地球に害は与えないはずだ……』
「……僕は科学警備隊の基地で暮らしている、僕の一存では決められない」
「ならお前の上司に会わせろ、洗脳して許可を貰う」
「せ、洗脳!?駄目だ、会わせる訳にはいかない!」
光の言葉に気分を害したのか、眉を顰めるエボルトだったが、漸くアミアとの約束を思い出したのか、深い溜息を吐いた。
「わかった、アミアとの約束もあるし……適当な奴に寄生するよ」
「寄生……?なら、僕にしろ!僕にはジョーがいる、彼と一緒に君を監視する」
「……へぇ、面白ぇ……なるべく負担にならない様に意識を沈めて、光の部屋にいる時は分離すれば……?よし、この方法で良いな!」
ブツブツと独り言を言いながら結論が出たエボルトは、右手で光の胸に触れた。
その瞬間、光が溢れた。
それが収まった時には、エボルトの姿はなく光だけが立っていた。
『光、辛くないか?』
「うわっ……エボルト?これは一体化……?やめてくれ、急で驚くだろう」
『エボルト、光が混乱するから急な一体化はやめろ。まず許可を取れ』
「そう言ってるけど、ジョーだって僕に許可は取ってなかったじゃないか」
『おっ?オソロっちだな、ジョーニアス♡』
『気持ち悪い、やめてくれ』
自分の中でエボルトとジョーニアスが言い合っているのを、光は何処か面白いと感じていた。
自分の中に、二人も宇宙人がいるのだ。こんな貴重な経験が出来るなんて……と思った時だ。
「そうだ、はやく隊長に報告しないといけない!」
『仕事熱心だな、光……サボっちゃおうぜ?』
『無視しろ光!』
「一斉に喋らないでくれ……変な感じだ」
光は騒ぎ出すエボルトを無視して、隊長へ報告する為に歩き出した。
その日から、エボルトは光と一体化して気紛れに声を掛けたりはしたが、決して誰かを害したりはしなかった。
むしろ、怪獣への戦い方を教えてたり、彼がウルトラマンとして戦っている時さりげなく一般人への被害を抑えたり等、協力的に振る舞うようになった。
だが……
「エボルト、何をしているんだ?」
「これから寝るんだろ?ほら、来いよ寝かしつけてやる」
「そこは僕のベッドだぞ!寝るならソファーで寝てくれ」
「やだね!」
『はやく退かないか、光が寝られないだろう』
「ちぇっ」
エボルトは光の部屋だと分離している為、ベッドを占領したり勝手にお菓子を食べたりと、自由に振舞っている。
最初は呆れたり怒ったりしていた光だったが、次第に、ヤンチャな子供と接する親の気持ちになっていた。
そんな彼を、微笑ましく見守るジョーニアス。
奇妙な三人の共同生活は暫く続く事になる。
だが、その終わりも着実に近付いてきていた。
光の中で騒ぐエボルトとジョーニアスのイメージは、タイガ本編でのインナースペースにいるトラスクです。