一時の別れ
アブソリューティアンが暗躍していても、光の国では穏やかな時間が流れていた。
「ねえ、カルディア!今日はどこに行こうか?」
少年の弾んだ声が家に響く。
ウルトラマンボーイは窓の外に広がる街並みを眺めながら、リビングでコーヒを飲んでいる少女へと問いかけた。
「どこでもいい。お前が行きたいところに行けばいいだろ」
「も〜!いっつもそればっかり!」
「仕方ないだろう、特に思いつかないんだから」
「うーん……じゃあ、銀の広場は?」
「却下だ。あそこに行ったら子供達に囲まれる」
「えー?良いじゃん、カルディアだって、お菓子もらって嬉しそうだったし」
「……ふん」
ぶっきらぼうなのはいつも通り、だけど少しだけ照れが混じっている事を、ボーイは知っていた。
そんな、いつも通りのやり取り。
少し前までなら、カルディアが光の国でこんな時間を過ごすことなど、誰も想像しなかっただろう。
ブラッド族という、宇宙警備隊からもあらゆる星からも危険視されてきた種族。
その王家に連なる彼女が、光の国の少年と一体化し、ここで暮らしている。
今では宇宙警備隊の監視下にありながらも、二人の生活は少しずつ日常になりつつあった。
……だからこそ、ソレは突然だった。
その時、カルディアが弾かれたように空を見上げた。
彼女にとって馴染み深いエネルギーが、流星のように空から近づいて来る……ブラッド族だ。
「カルディア、あれ……」
「あぁ、同族だ。一体化して向かうぞ」
一体化した二人は、外に出て落下場所へ向かった。
そこには、落下の衝撃で生じたクレーターが広がっていた。その中心に、一人のブラッド族が立っている。
機械鎧を纏った彼は、ボーイと一体化したカルディアの姿を認めると、跪いて叫んだ。
「カルディア殿下!」
彼の切迫した声に、カルディアも表情を険しくした。
「……何があった」
「ご報告いたします。長らく消息を絶っていたキルバス様が……この次元に帰還したとの情報が入りました」
キルバス……エボルト、カルディアの長兄であり、かつてブラッド星全土を巻き込む大戦争を引き起こした存在。そして、エボルトによって次元の彼方へ追放されたはずの男。
その名を聞いた途端、カルディアの表情から普段の余裕が消えた。
場の空気が凍りついたようだった。
「……間違い、ないのか」
「はい。複数の情報源から確認が取れております。現在、所在の特定を急いでおります」
「そうか」
カルディアは短く答えた。
「カルディア……」
「まずはゾフィーに報告か……ボーイ、行くぞ」
彼女はいつもの調子を装い、淡々と告げた。
「お前はそこで待っていろ、誰も殺すなよ」
カルディアの声には、いつもよりわずかな硬さがあった。
宇宙警備隊本部、ゾフィーの執務室には重苦しい空気が漂っていた。
分離したカルディアは机上に降り立ち、ボーイは緊張した面持ちをして立っている。
「キルバスが戻ってきた、か……」
報告を受けたゾフィーは、腕を組んで考え込んだ。
ブラッド王家の内乱については、宇宙警備隊も把握している。だが、次元の彼方へ追放されたキルバスが、なぜ今になって戻ってきたのか。
その目的も、彼がどれほどの強さを身につけているかも分かっていない。
「カルディア、君は彼がどれほど強くなっていると予測する?」
「……私たちは、単独で次元を移動することができない。だからこそ、エボルトは奴を次元の彼方へ追放した。だが、キルバスがこの次元に戻ってきたということは、次元を渡るための力か手段を手に入れたということだ」
カルディアはそこで言葉を切り、わずかに表情を曇らせた。
「……どちらにせよ、以前の奴と同じだとは思わない方がいい。この星どころか、お前達の同盟星をも滅ぼしかねない相手だ」
カルディアの言葉に、ゾフィーは険しい顔で頷いた。
「そんな顔をするな、策はある」
「えっ!?」
「私が旅をしていたのは、いずれ戻ってくるキルバスを撃退出来る技術や人材を探し、パンドラボックスを起動する際に必要なエネルギーを集める為だ」
「パンドラボックス?」
ボーイの言葉に、カルディアはゾフィーを見上げ説明を促した。
彼は頷くと、口を開いた。
「パンドラボックスはブラッド族が保有する国宝であり、彼等が多次元へ侵攻する時に使用する物……だったかな?」
「あぁ、その認識で良い。パンドラボックスにエネルギーを注ぎさえすれば、次元の壁を越えられる。だが凄まじいエネルギーが必要だから、あまり使われる事はなかったんだが……」
カルディアは一度言葉を切り、再び口を開いた。
「キルバスを追放する時、エボルトはそれを使った。今回は同じ様に使って、キルバスを飛ばす。その時に必要なエネルギーは私が旅の中で集めた分と、同族達が集めていた分で足りる」
「だが、また他次元に追放したとしても戻ってこれるだろう?私達にも協力させてくれ」
ゾフィーの提案に、カルディアはニヤリと笑い応えた。
「その必要はない。パンドラボックスを使い、キルバスをアブソリュート・タルタロスの元へ送り込む。どちらかが倒れれば良し、共倒れしてくれればなお良い」
「だが、問題はキルバスを狙った場所へ送り込めるかどうかだ。パンドラボックスの起動に成功しても、座標が不正確なら作戦は失敗する」
カルディアは頷き、説明を続けた。
「エボルトの機械鎧には、特定の敵の反応を追跡する機能がある。以前、タルタロスがエボルトに接触した際のデータを利用すれば、奴の反応を探り当てられるはずだ。その位置情報をパンドラボックスの転送座標に反映させる」
「なるほど……だが」
ゾフィーは頷き、眉を下げてカルディアを見た。
言葉は無くとも、その目はカルディアと、ボーイを案ずるものだと理解できてしまった。
それに少し居心地が悪そうに目を伏せ、カルディアは口を開いた。
「……分かっている、ボーイはお前に預ける」
「えっ!?なんで!?僕も行く、カルディアと一緒に戦うよ!」
カルディアの言葉に、ボーイは即座に反応した。
「これは私の……ブラッド族の問題だ、お前を巻き込む訳にはいかない」
「でも……フュージョンフォームになれば、僕達は最強だって言ってたじゃないか!それなのにどうして……?」
ボーイが更に言い募ろうとするのを遮り、カルディアは言葉を続けた。
「今回は私一人で行く、なぁにすぐに帰ってくるさ。帰りにブラッド星の新名物、ブラッド星饅頭をお土産に持ってきてやるから」
彼女の言葉に呆然とするボーイと、頑なに彼を見ようとしないカルディア。
そんな二人をじっと見守っていたゾフィーは、何度か口を動かして声をかけようとしていたが、結局それを口に出す事はせず、二人を送り出した。
ゾフィーの執務室を出た後、二人は分離し廊下を歩いていた。彼の肩にはカルディアが座っている。
ボーイは何度も口を開きかけて、そのたびに言葉を飲み込んだ。
カルディアが自分を守ろうとしていることは分かっている。
それでも、何もできずに見送るだけなのは嫌だった。
「……カルディア」
「なんだ」
「……僕は、そんなに頼りない?」
ボーイの足が止まり、彼女はボーイを見上げた。
「何を言っている」
「だって、僕を置いていこうとするから……」
「置いていくんじゃない」
カルディアは少しだけ眉を寄せた。
「今回だけだ、お前を危険から遠ざける為に……」
「それが嫌なんだよ!」
ボーイの声が廊下に響いた。
「僕は、カルディアと一緒にいたい。楽しい時だけじゃなくて、怖い時も、苦しい時も……!カルディアが困っているなら、僕だって力になりたいんだ」
ボーイの言葉が、彼女の胸に深く染み込んでいく。
カルディアにとって、ボーイは大切で、守るべき存在だった。
傷つけたくない。失いたくない。だからこそ、危険から遠ざけたい。
けれど、彼が望んでいるのは、ただ守られることだけではないのだ。
「……お前は、本当に面倒な奴だな」
「うっ……ごめん」
「謝れとは言っていない」
カルディアは小さく息を吐いた。
「お前が私を案じている事は、理解している。私だって、お前の力を疑っているわけじゃない」
彼女は肩から飛び上がり、ボーイの目の前で浮かんだ。
「だが、今回だけは譲れない。キルバスは私の兄だ。奴はエボルト以上に、異常で危険なんだ……お前を近づけたくない」
「カルディア……」
「……お前には、お前にしかできないことがある。光の国で待っていてくれ。私が戻るまで、ここを護っていてくれ」
ボーイはそっと右手の小指を差し出した。
ナイスから教わった、地球で『指切り』と呼ばれている約束の方法だ。
カルディアも差し出された小指の先に、自身の小さな小指で触れた。
「……約束だよ」
「ああ、約束する」
「絶対に帰ってきてね」
「当たり前だ」
カルディアは、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
その笑顔が、ボーイを安心させるために無理に作られたものだと気づいていながらも、彼はそれ以上何も言えなかった。
ただそっと、両手でカルディアを包み込んだ。
カルディアは準備を終え、ボーイと共に銀の広場で待っている使者の元へ向かった。
彼女の手首には、ヒカリが改良した通信装置が装着されていた。
元々はウルトラ兄弟達へ、彼女の位置情報を共有するための装置だったが、今回の旅に備え、通信範囲と耐久性が強化されている。
更に、緊急時には救難信号を発信することもできる。
受け取る際に、ボーイだけでなくゾフィーやヒカリ、更に80からも、何度も絶対に使うようにと念押しされていた。
二人が銀の広場に着くと、使者は住民達に囲まれていて居心地が悪そうにしていた。
彼はカルディアの姿を目にすると一直線に飛んできて、カルディアはボーイの肩から離れて使者と共に浮かんだ。
彼女はボーイに手を振り、使者はそんなカルディアをじっと見ていた。
「カルディア!」
ボーイは不安そうな表情を浮かべながらも、必死に笑顔を作っていた。
「……行ってらっしゃい」
その一言に、カルディアはわずかに目を見開いた。
引き止める言葉が出るかと思ったが、ボーイは彼女の決意を受け入れたのだ。
彼女は自然と微笑み、口を開いた。
「ああ、行ってくる」
カルディアは、ボーイの頭にそっと手を置いた。
「帰ってきたら、今度は他の所へ行こう。お前が行きたい場所にな」
「……本当?」
「私が嘘をつくと思うか?」
「思わない!」
ボーイはやっと笑顔になった。
その笑顔を見て、カルディアは頷いた。
「なら、待っていろ」
彼女は空を見上げると、徐々に浮上していく。
最後まで振り返ることはなかった。
振り返れば、きっと止まってしまうから。
ボーイは、二人が空の向こうへ消えるまで、ずっと見つめていた。
「……約束だからね、カルディア」
小さな声は、彼女には届かなかった。
けれど、その言葉は確かに彼女へ向けられていた。
二人の道は、一時だけ分かたれた。
それでも……互いを想う心までは離れたわけではない。
カルディアは、宇宙を進んでいる中で誰にも聞こえないほど小さく呟いた。
「……待っていろ、ボーイ」
必ず帰る。絶対に。
交わした約束を胸に、カルディアは前だけを見つめていた。
エボルトは、キルバスが次元の彼方に追放された程度で諦めるとは思ってません。だからこそ、残ったブラッド族総出で様々な技術と人材の確保に動きました。
ボーイと出会う前のカルディアは、次期王としての見聞を広める為に旅をしていました。彼女もエネルギーを収集していましたが、ボーイと出会ってからは星を破壊できてないので、諦め気味です。
私がやらなくても他のブラッド族が頑張るだろ!という考えです。