二人は一緒にいるのが一番です。
ウルトラ兄弟達もカルディアの事を信用し始めた……のかな?
宇宙警備隊本部にある特別会議室には、円卓を囲む十一人のウルトラ兄弟が集まっていた。
議題はただ一つ、カルディアの今後について。
ゾフィーが端末を操作し、兄弟達に資料が共有される。
「監視期間中の報告を行う……結果として、カルディアによる問題行動は確認されなかった。逃亡行為なし、住民への危害なし、破壊活動なし、宇宙警備隊への敵対行動なし……以上だ」
しばしの沈黙が続き、最初に口を開いたのはセブンだった。
「予想以上だな」
「同感だ」
セブンの言葉に、ウルトラマンも同意する。
前回の会議では最も慎重な立場を取っていた二人だったが、浮かべている表情は柔らかい。
「ボーイとの面会記録は?」
マンが尋ねると、ゾフィーは資料を切り替えた。
「定期的に実施した結果だが、会話内容は主に学校生活、宿題、読書、お互いの近況報告」
「……宿題、ですか?」
耳を疑う内容に、レオが思わず聞き返した。
「宿題だ」
ゾフィーは真顔で答える。
「……」
「……」
会議室に妙な沈黙が流れ、タロウが苦笑する。
「カルディアらしいな」
「そうなんですか?」
80が尋ねる。
教育者である彼にとっては興味深い話だった。
「カルディアは教えるのが上手いとボーイも言っていたよ、実際にあの子の成績も上がっている」
「なるほど、一度話してみたいです」
80は感心して頷いた。
「だが、問題が無かったからといって、危険性が消えた訳ではない」
エースの言葉に、和らいでいた空気が引き締まる。
「その通りだ」
セブンも同意する。
「ブラッド族である事実は変わらない」
「今後も何らかの備えは必要でしょう」
レオとアストラの言葉に、兄弟達の多くが頷く。
誰もカルディアを嫌っている訳ではない、だが守るべきものがある、それが宇宙警備隊だった。
「ならば提案がある」
静かに手を挙げたのはヒカリだった。
全員の視線が向く中、ヒカリは小さなケースを机の上へ置くと、中身を取り出した。
そこに入っていたのは銀色の腕輪だった。
「位置情報共有装置だ」
「共有?」
メビウスが尋ね、ヒカリは頷いた。
「装着者の位置情報をリアルタイムで確認できる」
「確認できるのは?」
アストラが聞く。
「ここにいる十一名全員と大隊長だが、他にも必要なら追加可能だ」
兄弟達が顔を見合わせ、ヒカリは説明を続けた。
「外部からの解除は私以外不可能、緊急時には警告信号も送られる」
「なるほど」
セブンが腕輪を手に取り、眺めながら口を開く。
「監視装置か」
「そうだ」
ヒカリは否定しなかった。
「同時に、光の国での生活を認めるための保証でもある」
その言葉に会議室が静まり返る、各々が様々な心情を抱く中、メビウスが口を開いた。
「僕は賛成です」
兄弟達が彼を見る。
「カルディアを完全に信用するのはまだ早いかもしれません。でも、彼女がボーイくんを大切に思っていることは本当だと思います」
メビウスらしい真っ直ぐな意見だった。
「私も賛成です。監視は必要でしょう。ですが、監視期間の結果から見て、これ以上二人を引き離す理由はありません」
愛弟子の言葉に顔を綻ばせながら、タロウが続いた。
「それに、ボーイも限界です。授業中は元気に振る舞っています。しかし普段より上の空でいる事が多い、と担任から報告を受けています」
タロウは一度言葉を切ると、言い切った。
「このまま引き離し続けるのは、あの子にとっても良い事ではありません」
80も頷くと、続けて口を開いた。
「教育者として言わせてもらうなら、まず優先しなければならないのは生徒の安全です。しかし貴重な学びの機会を奪うのは、あまりに勿体ない」
そこで一度言葉を切ると、数秒迷い再び口を開いた。
「安全装置があるのならば、二人を引き合わせても良いのでは……と、思います」
各々の考えや、主張を交えた議論が暫く続いた後。
ゾフィーが手を叩いて全員の注目を集めた。
「結論を出そう。カルディアとボーイの一体化を許可する。だがその条件としてヒカリ開発の位置情報共有装置を装着、危険行為があった場合、即刻カルディアを討伐対象と見なす……異議がある者は?」
誰も口を開かない。
セブンも、エースも、レオも、誰も反対の声を上げなかった。
「では決定とする」
会議室に静かな安堵が広がった。
タロウは小さく息を吐く。長かった、本当に長かった……ようやくあの二人を引き合せることが出来る。
会議が終了して和やかな雰囲気の中、ふとマンが口を開いた。
「ところで」
「何だ?」
「カルディアにこの決定を伝えるのは誰なんだ?」
沈黙、全員の視線が自然と一人へ向く。
ゾフィーだった。
「……」
「監視担当はお前だからな」
「当然ですね」
真面目な顔でヒカリが言い、メビウスも頷く。
タロウはにっこりと微笑んだ。
「頑張ってください、兄さん」
ゾフィーは深くため息を吐いた、怪獣討伐より気が重い任務かもしれなかった。
カルディアが待つ部屋の前で、ゾフィーは一度大きく深呼吸してドアをノックした。
「……ほう、監視の解除か。長かったな」
会議の後、カルディアに説明するゾフィー。
彼女は予想外の事だったのか、目を見開いたが直ぐに何時もの無表情に戻った。
ゾフィーは緊張している事を悟られない様に、間を置いて言葉を続けた。
「そう言わないでくれ、君が光の国に敵対する意思がない事を証明しなければならなかったんだ」
「……監視装置をつけての経過観察か」
「あぁ、これだけは譲れない」
「で、その装置は?」
ゾフィーは持っていたケースから銀色の装置を取り出した。
カルディアはそれをまじまじと見ていたかと思うと、徐に左手を伸ばして触れた。
その瞬間、装置が変形して彼女の手首に合わせた大きさになり、ピッタリと嵌った。
腕を振ったり叩いたりして感触を確かめていたカルディアだったが、満足したのかゾフィーを見上げた。
「じゃあもう行くぞ」
「あぁ、ボーイにはタロウが説明をしている」
執務室を出ると、ゾフィーは先導するように廊下を歩き始めた。
カルディアも後ろを飛行しながらついて行く。
その飛行スピードは普段より、わずかに速い。
ゾフィーには彼女の機嫌の良さが分かり、見えない様に口元を綻ばせた。
やがて目的の部屋に着くと、ゾフィーが扉の前で立ち止まった。
「ボーイは中だ」
「そうか」
カルディアは短く返す。
だが扉へ向ける視線は、いつもより真っ直ぐだった。
胸の奥が妙にざわついている。
会える。その事実だけで、どうしてこんなに落ち着かないのか分からない。
期待なのか警戒なのか、自分でも判然としなかった。
「入るぞ」
彼女が扉を開くと、部屋の中にはタロウとボーイがいた。
ボーイが振り返り、カルディアと目が合うと。
「カルディア!」
勢いよく立ち上がり、そのまま駆け寄ってくる。
カルディアはあまりの勢いに身構えた。
次の瞬間、小さな身体が両手で持ち上げられる。
「うわっ」
「カルディア!」
「ボーイ、いきなり持ち上げるな」
ボーイは気にする様子もなく、顔いっぱいに笑みを浮かべていた。
「本当に戻って来たんだね!一緒にいていいんだよね!?」
「そうだな」
「……僕」
ボーイの声が少し震える。
「僕、駄目かもしれないって思ってたんだ。もう、一緒にいられないのかもって……」
カルディアは黙ってボーイの顔を見ていたが、胸の奥がきゅっと締め付けられていた。
そんなふうに思わせていたのか、と戸惑いが走る。
だが、無事に戻れたのだという実感が遅れて静かに胸へ落ちた。
ちゃんと、戻ってこられた。その事実が、思っていた以上に重かった。
「……馬鹿だな」
「え?」
「私が約束を破ると思ったのか」
ボーイは目を丸くして、少しだけ笑う。
「思ってない、でも心配だったんだよ」
その言葉に、カルディアは視線を逸らした。
何だか居心地が悪い、だが悪い気分ではなかった。
むしろ胸の奥がじんわりとほどけていく。
自分を待っていた者がいる。それだけのことが、こんなにも心を揺らすのかと、少しだけ戸惑う。
けれど、その戸惑いさえ不思議と嫌ではなかった。
「カルディア」
ゾフィーが声を掛けると、カルディアは振り返った。
彼は静かに頷くと口を開いた。
「後は君達次第だ」
カルディアは小さく頷き、ボーイのカラータイマーへ手を伸ばす。
指先が触れる直前、ほんの僅かにためらいがあった。だが、それもすぐに消える。
「行くぞ」
「うん!」
カルディアがボーイに触れた瞬間、光が溢れて二人を包み込む。
意識が重なり繋がっていく、久しぶりに感じる感覚だった。
まるで欠けていたものを取り戻していくような……不思議な感覚だった。
カルディアは静かな安堵を覚えると同時に、ボーイの感情が流れ込んでくるのを感じた。
弾けるような喜びが流れ込んでくる。
再び繋がれたことを、ボーイは心の底から喜んでいた。
まるで自分の事のように喜んでいて、カルディアには少し眩しかった。
『聞こえるか?』
「聞こえるよ!」
ボーイは自然と笑みを浮かべた。
この声だ、この感覚だ。胸の奥に空いていた穴が、ようやく埋まっていくようだった。
『ふむ』
「どうしたの?」
『今まで少し静かだったからな』
カルディアの言葉にボーイは笑い、彼女も気付かれない程度に口元を緩める。
ボーイの様子を見ていたタロウは、ほっとしたように微笑み、ゾフィーは静かに息を吐いた。
二人を引き合わせた判断は間違っていなかったのだ。やっとそう思えた。
部屋に満ちていた張り詰めた空気が、少しずつ和らいでいく。
これで終わりじゃない。監視も続くし、カルディアが信用された訳でもない。
だが今だけは、再び一緒になれた事を素直に喜んで良いだろう。
ボーイと同じものを見て、感じられる。
カルディアにはそれだけで充分だった。
「あっそうだ、カルディア!」
『どうしたボーイ』
「おかえり!」
ボーイの言葉に、カルディアは言葉を失った。
その時、胸の奥に灯った温もりの正体は、まだ分からない。それでも……
『……ただいま』
その一言だけで、ボーイには充分だった。
もう二度と離れない。そんな決意が胸に灯っていた。
ボーイは嬉しそうに笑う。
その笑顔を見たカルディアも、自分では気付かないほど僅かに口元を緩めていた。
「今日は楽しかったね」
『そうか』
「楽しかったよ」
『なら良い』
「また行こうね」
『……あぁ、次はお前が行きたい場所に案内しろ』
「えっ」
『今日は私が決めたからな』
「う、うん!」
次回、第五話 光の国