ボーイはまだ子供だしね。
ボーイの通うウルトラ小学校では、座学の他に基礎戦闘訓練の授業もある。
座学が得意になってきたボーイだが、光線技や格闘技等はまだ不足していた。
カルディアとの実力の乖離を感じ、ボーイは焦っていた。
そんなある日の事、家で思い思いに寛いでいる時、意を決してボーイはカルディアに声を掛けた。
「ねぇ、カルディア」
「どうした、ボーイ」
「僕、もっと強くなりたい。カルディアには助けられてばかりだから、今度は僕も君を助けられる様になりたい」
「すぐに強くなる必要はない、まだお前は子供なんだから」
カルディアが落ち着かせる様に言うが、ボーイは納得しない。
そんなボーイに思う所があったのか、彼女は提案した。
「じゃあ私と訓練するか」
「えっいいの!?」
「あぁ、これから先、お前と一体化して戦う事も増えるだろう。その時にお前が強ければ楽だし」
「やった、やった!じゃあコロセウムの予約確認するね……あっ空いてるよ!行こうカルディア!」
ボーイは端末を操作してコロセウムの予約を確認し、もしもの時に備えて大人数が使う所ではなく、一人用の部屋を予約した。
ボーイはカルディアと一体化すると、家を飛び出した。
『ここがコロセウムか、殺しがいのありそうな奴がいるな』
「カルディア、駄目だからね」
『分かっている、予約した部屋は何処だ?』
コロセウムについたボーイは、カルディアに施設を案内していた。
最後に、宇宙警備隊の訓練生達が使う大部屋をこそっと覗いたボーイだったが、彼等のレベルの高さに目を奪われていた。
だがカルディアの言葉に我に返ると、早速予約した部屋に向かった。
しっかりと施錠し、分離した二人。
「お前の戦闘力はインナースペースから見ていたから知っている……力の差はすぐには埋まらないが、その分を技術で埋めろ。無理に筋力を増やすよりも攻撃をいなす、避ける事に注力するべきだろう」
「素早さをあげるってこと?」
「それだけじゃない、力がないのならそれをどう補うか考えろ。知識を蓄え、技術を磨け。思考を止めるな、地形・空間・敵の攻撃、仲間も、自分自身も、使えるものは全て使え」
「わ、分かった!」
「さて、まずは私が攻撃するから避けてみろ。当たっても死ぬ事はないから安心しろよ。まぁ、それなりに痛いがな」
カルディアはボーイの返事を待たずに浮遊し、片手をあげた。
その周囲に紅い光弾が複数出現し、彼女が手を振るうとボーイに向かって飛んでいく。
「わっ、わわっ、わぁぁぁあぁあぁぁぁ〜!?」
「避け方に無駄が多い、私の動きをよく観察しろ、ボーイ!」
「わ、分かってっ!る、けどイッタァァ!?」
光弾がボーイの顔に着弾し、小規模の爆発が起こった。死にはしないものの、とても痛い。
涙目になりながらも、ボーイはカルディアを見据える。
カルディアが再び光弾を出現させて発射し、それをボーイが避ける。
何度も当たり、何度も転び、それでも避け続けているうちに……
ボーイはカルディアの発射する光弾のパターンがわかってきた。
まず彼女は光弾を出現させる、その数は6個。それは変わらない、変わるのはその発射パターン。
右、左、左、右と迫ってきて、その次に上下。
次にその左右上下逆のパターン。それを繰り返している。
「分かったよカルディア!こ、れ、で……どうだぁぁぁぁあ!!!」
ボーイは最小限の動きで光弾を避けきった。
それを見たカルディアは満足そうに頷いた。
だが次の瞬間、ニヤリと笑い……
「おめでとう、レベルアップだ。だが、これは避けられるかな?」
カルディアが片手をあげると、先程とは倍の数の光弾が出現する。
ドヤ顔だったボーイの顔が引き攣った。
だがカルディアは容赦なく光弾を発射し、ボーイに全方位からの光弾が迫る。
「う、うわぁぁぁあぁぁぁぁぁあ!?!?!?」
その全てをぶつけられたボーイは、耐え切れずに膝を着いて荒い息を繰り返していた。
そんなボーイにカルディアは近づき、肩に手を置いた。
「ボーイ、予想以上だ。嬉しくてつい先を急いでしまった。すまない」
「い、いいよ……僕は大丈夫、ちょっと休憩するね……」
そう言って大の字に寝転がったボーイ、その顔は疲れていたが、何処か満足気だった。
痛いし、カルディアはちょっと怖かったけど、それでも自分が強くなれると思うと嬉しかった。
ボーイが休んでいる間、カルディアは訓練室の端末へ近づき、画面を眺めた。
「これがホログラムシミュレーターか」
「うん!警備隊が戦った歴代の怪獣や、宇宙人の戦闘データを再現できるんだ。もちろん本物よりは弱く調整されてるけどね」
「ふぅん」
カルディアは興味深そうに眺めていたが、徐に端末を操作した。
『ホログラム戦闘訓練を開始します』
『訓練対象――レッドキング』
「えっ、カルディア?」
驚くボーイとは裏腹に、訓練室全体にアナウンスが響く。
無機質だった訓練室が、岩場のフィールドに変わっていく。
訓練室中央の床が輝き光が渦巻き、やがてそれは一体の怪獣を形作る。
黄身がかった体色、岩のように盛り上がった筋肉、鋭く牙、レッドキングは重い足音を床に響かせながら姿を現し、熱を帯びたような荒い息を吐いた。
巨体が一歩動くたび、床が鈍く軋み、空気が押し潰される。
咆哮を上げたレッドキングは地面を踏み鳴らし、ボーイを睨みつけた。
「カ、カルディア?待って、待ってよ!」
慌てるボーイに、カルディアはちょっとだけ申し訳なさそうな顔をしながら語った。
「ボーイ、お前にまだ足りないのは敵を見る観察力だ。さっきはわざと隙を見せたが、怪獣相手には通用しない……まぁやってみろ!」
「う、うん!」
ボーイが両手をぎゅっと握って構えた。
開始のブザーが鋭く鳴り響く。
その瞬間、レッドキングは肩を大きく揺らしながら前傾し、地を蹴って一気に距離を詰めてきた。
巨体に似合わぬ踏み込みの速さで、床を割るような勢いだ。
「速いっ!」
ボーイは慌てて横へ飛び、紙一重で拳をかわす。
振り下ろされた拳が床に叩きつけられると、鈍い轟音が訓練室に響き、足元から全身へ響くような振動が伝わった。
衝撃で細かな破片が跳ね、熱を持った風圧が頬をかすめる。
「足を止めるな!動き続けろ!」
ボーイはレッドキングの周囲を走り回る。
右から拳、左から尻尾、さらに踏み込みからの蹴り。
レッドキングは上半身を大きくひねり、腕を振り回し、重い尾を床に叩きつけながら、逃げ道を塞ぐように攻め立ててくる。
ひとつひとつの動きは荒々しいのに、間合いの詰め方は妙に的確で、油断すればすぐに捕まる圧があった。
次々と繰り出される攻撃を、ボーイは必死に見切っていく。
「はぁ……はぁ……!」
「体の一部だけじゃない!」
「え?」
「関節、肩、腰、そこを見れば次の動きが読める」
ボーイは言われた通り、レッドキングの腕ではなく全身を見る。
すると、巨体の重心がわずかに右へ傾き、肩が遅れて持ち上がるのが見えた。
床を踏みしめる足の角度も、次の一撃を告げるように変わっている。
「来る!」
次の瞬間、レッドキングの左拳が唸りを上げて振り抜かれる。
ボーイは一歩だけ踏み込み、その内側へ潜り込んだ。
拳は空を切り、風圧だけが耳元を裂いていく。
「そうだ」
カルディアが小さく頷く。
ボーイはそのままレッドキングの背後へ回り込み、足へ向かって基本の光線技、スペシウム光線を放った。
光線は白い尾を引いて一直線に飛び、レッドキングのふくらはぎに命中する。
小さな爆発が弾け、火花と光の粒が散った。
だが、分厚い皮膚と筋肉に吸い込まれるように威力は削がれ、巨体はわずかに揺れただけだった。
「効いてない!?」
「当たり前だ、その程度の威力で倒せる相手ではない」
レッドキングが振り返り、怒りの咆哮を上げる。
口元から漏れる熱い息が白く曇り、鋭い眼光がボーイを射抜き、再び突進。
床を蹴るたびに、訓練室の岩場が震え、崩れていく。
ボーイは慌てて逃げる。
『逃げる方向が単調だ、真っ直ぐ下がるな、周りを見てみろ!」
「ま、周りっていっても……」
ボーイは一瞬だけ周囲を見渡す。
そこには訓練用の岩場や柱が設置されていた。人工の岩はざらついた表面を持ち、柱は何度も攻撃を受けたように傷だらけで、床には砕けた破片が散っている。
広い訓練室の中で、それらが即席の遮蔽物として並び、戦場のような緊張感を作っていた。
「そうか!」
ボーイは柱の陰へ飛び込んだ。
レッドキングは勢いのまま柱へ拳を叩き込んだ。
鈍い破砕音が響き、柱がひび割れて砕け散る。破片が飛び、土煙が視界を覆う。粉塵の向こうでレッドキングの腕が振り抜かれた余波が空気を震わせ、ボーイの頬をざらついた風が打った。
その隙にボーイは反対側へ回り込んだ。
「今だ!」
ボーイはジャンプし、レッドキングの背中へ飛び乗る。
硬い背びれのような起伏を足場にしながら、必死にバランスを取り、首筋へ向けてチャージしていた光線を一気に放った。
「やぁぁぁっ!」
一点集中で放たれた光線は、硬い皮膚の上で白い閃光を散らした。
爆風がボーイの至近距離で吹きつけ、熱と衝撃が腕を痺れさせる。
レッドキングは大きく体を揺らし、背中を壁に擦りつけるようにしてボーイを振り落とそうと暴れ回る。
「離れろ!」
カルディアの声と同時に、ボーイは後方へ飛び退く。
次の瞬間、レッドキングの太い尻尾がさっきまでボーイのいた場所を薙ぎ払った。
空を裂くような音が走り、尻尾の先が岩場を砕いて破片を撒き散らす。
もし一拍遅れていれば、まともに食らって吹き飛ばされていたはずだ。
レッドキングも流石に消耗したのか、膝をついている。
「あ、危なかったぁ……!」
荒い息をつくボーイを見て、カルディアは口元を緩めながら近付く。
「良くやった、力では敵わないなら、頭を使う。それがお前の戦い方だ」
カルディアの言葉に、ボーイは嬉しそうに笑った。
「うん!ってカルディア後ろ後ろ!!!!」
ボーイは完全に意識を逸らしていたが、カルディアの後ろから体勢を整えたレッドキングが迫る。
彼女は掌を上に向けて光弾を作ると、余裕を感じさせる声音で語る。
「相手を殺すまで意識を逸らしては駄目だぞ、お前はここが戦場なら死んでいた」
彼女が言葉を終えると、振り返らずに光弾を放つ。
光弾がレッドキングに着弾した瞬間、硬い皮膚がまるで風船の様に弾け飛び、衝撃が全身を回っていき、体は爆散した。
カルディアは後ろの爆発を意に介さずに笑う。
「今日はここまでだ……予想以上によく出来た」
「……えへへ」
「……良く頑張ったな」
慣れない仕草で頭を撫でるカルディアに、ボーイは照れくさそうに笑った。
「ボーイはもちろんだが、しかし私は、カルディアにも学ぶべきことがあると思っている。だから二人を導ける者を選びたい」
次回 第八話 師弟