コロセウム内で行われる訓練は、後から見返せる様に記録されている。
カルディアがコロセウムに向かっている事を知ったゾフィーは、仕事を終えると執務室で二人の訓練記録を再生していた。
映像には、光弾を必死に避け続け、レッドキング相手に必死で立ち回るボーイ。
そして、その様子を冷静に見極め、的確な助言を送るカルディアの姿が映し出されていた。
『体の一部だけを見るな』
『関節、肩、腰……全身を見ろ』
『力では敵わないなら、頭を使え』
厳しい言葉とは裏腹に、ボーイが成長した時には小さく笑みを浮かべ、無茶をさせた時には素直に謝る。
その姿を見たゾフィーは、静かに息を吐いた。
「……なるほど」
ボーイの成長も目覚ましい。
だが、それ以上に目を引いたのはカルディアだった。
誰かを導き、成長を喜び、危険を感じればすぐに止める。
かつて敵として恐れられたブラッド族の少女が、今では一人の少年を立派に育てようとしている。
その事実に、ゾフィーは自然と口元を緩めていた。
「……君も、変わったな」
そう呟くと端末を操作し、ウルトラ兄弟へ緊急会議の招集をかけた。
数十分後。
宇宙警備隊本部の会議室には、ゾフィー、ウルトラマン、セブン、タロウ、80の五人が集まっていた。
「緊急会議とは珍しい」
「何か事件でしょうか?」
タロウの言葉に80も首を傾げる。
ゾフィーは首を横に振ると、会議室中央の大型モニターを起動した。
「まずはこれを見てくれ、今後の二人の教育方針について意見を聞きたい」
映し出されたのは、ボーイとカルディアの訓練映像だった。
「これは……」
ウルトラマンが映像へ目を向ける。
ボーイが光弾を避け、レッドキング相手に立ち回る様子が次々と映し出されていく。
誰も口を挟まない。
映像が終わるまで、全員が真剣な眼差しで見つめ続けていた。
やがて映像が終了し、部屋に静寂が訪れる。
最初に口を開いたのは80だった。
「驚きました、ボーイ君の成長もですが……それ以上にカルディアの指導力です」
80は映像を思い返すように続ける。
「最初から答えを示すのではなく、経験させる?失敗を責めず、自分で答えに辿り着かせている……!」
段々と熱が籠ってきた80は一度口を閉じ、静かに言葉を紡いだ。
「教師として見ても、とても理想的な教え方です」
その言葉に、ウルトラマンも頷く。
「私も同感だ。自分が戦った方が早い場面でも、決して手を貸さない。ボーイ自身が成長することを最優先に考えている」
セブンも腕を組みながら口を開く。
「観察力を鍛えさせているのもいい、怪獣ごとの癖を読む力は、実戦で必ず役に立つ」
タロウは苦笑しながら笑った。
「いやぁ、正直驚きました。もっと感覚で戦うタイプかと思っていたが、理論立てて教えているじゃないか」
ゾフィーは兄弟達の反応を静かに見つめる。
「私も同じ感想だ、ボーイにも才能はある。だが私は、それ以上にカルディアの変化を嬉しく思った」
四人がゾフィーを見て、続きを待った。
「以前の彼女なら、自分一人で戦えば済むと考えていただろう、だが今は違う。ボーイを強くしようとしている、それが何より大きな変化だ」
ゾフィーは一度頷き、穏やかに微笑んだ。
「ボーイはもちろんだが、しかし私は、カルディアにも学ぶべきことがあると思っている。だから二人を導ける者を選びたい」
しばらく沈黙が流れた後、タロウが椅子から立ち上がる。
「私にやらせてください!私が適任です!」
すると80も負けじと立ち上がる。
「いえ、今の二人には基礎から学ぶ時間が必要です!教育なら私が適任でしょう」
セブンも静かに腕を解く。
「観察眼なら私も教えられる、カルディアの戦い方にも興味があるしな」
ウルトラマンも笑みを浮かべた。
「焦らず育てるなら、私も協力したい」
四人の視線が交差する。
静かな会議室が、一気に賑やかになった。
「セブン兄さんはジープで追い回すんでしょ!そんなのダメですから!」
「するかぁっ!お前は自爆技でも教えるつもりなのか!?」
「やめないか二人とも、基本技ならまずは私だろう」
「あ、あの……!」
タロウがセブンに食ってかかり、セブンも負けじと反論する。
マンが仲裁するも、ちゃっかり自分をアピールしている為、益々議論が白熱していく。
80は何とか止めようとしているも、兄達の圧に押されてあわあわしている。
「皆」
ゾフィーが一言だけ発すると、会議室はぴたりと静まり返る。
「ここは会議室だぞ」
「……失礼しました」
四人は揃って咳払いをした。
その様子に、ゾフィーは思わず苦笑し、視線を80へ向けた。
「君達の議論を聞いて、私から提案がある……80」
「はい」
「君に、ボーイとカルディアを任せたい」
80は目を輝かせた。
「良いんですか!?」
「あぁ、戦士として優れている者は多い。だが今必要なのは、戦い方ではなく『育て方』を知る者だと思う」
80はゆっくりと立ち上がり、深く頷いた。
「分かりました!責任を持って、二人を指導します」
「では早速知らせて来る、80も来てくれ」
「はい!」
はしゃぎながらゾフィーの後ろを着いて歩く80の珍しい姿を、兄達は微笑ましく見送った。
家にやってきたゾフィーと80を、ボーイは怖々招いた。
事前に連絡があったとはいえ、二人が家に来るまでずっとソワソワしっぱなしだった。
「初めまして、私は80。君がカルディアだね」
「……」
「カルディア!ちゃんと挨拶しないとダメだよ」
80を警戒して距離をとるカルディア、ボーイは窘めるが、80に止められた。
「いいんだよボーイ、初めましてだからね。これからお互いの事を知っていこう」
「……それで、私とボーイの先生だと?ボーイは分かるが、何故私が?」
カルディアは眉をひそめて80を見上げると、ゾフィーが口を開いた。
「そう言わないでくれ、カルディア。普段一体化している時、戦うのは君だろう?」
「そうだが……戦闘訓練なら間に合っているぞ」
「そうじゃない、戦闘訓練は君に任せる。80からは君達が一体化した時の効率的なエネルギーの使い方を学んでくれ。そうしたら、タイプチェンジできる可能性があるかもしれないぞ」
君達なら、いつかたどり着けるかもしれない。と笑ったゾフィーに、ボーイは目を輝かせた。
タイプチェンジ……それは限られた戦士だけが到達できる強化形態。
ボーイだけでなく、宇宙警備隊員を志す者達にとっても憧れだ。
「僕とカルディアのタイプチェンジ!すっごいよカルディア!名前は何にしよう!?フュージョンフォームとかどう!?」
「ボーイ落ち着け、チッ……エネルギーの効率化か、確かにそれは課題であるが……」
「私は地球で教師をしていたんだ、きっと君達の役に立てるはずだよ」
「……あぁ、分かった。よろしく頼む」
80の穏やかな笑みに警戒心が薄れ、渋々頭を下げたカルディア。
ゾフィーはタイプチェンジの名前候補をあげるボーイと、それに面倒臭がりながらも付き合うカルディア、二人を温かく見守る80に、胸がほっこりした。
ボーイにはカルディアという師がいる、そしてカルディアにも、新たな師ができた。
二人の未来は、もう彼等だけで歩むものではない。
そう確信したゾフィーは、小さく頷いた。
「二人ともよく出来ました。じゃあ次は……実戦形式といこう」
「……面白い。やるぞ、ボーイ」
『うん!』
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