英霊ズとTS転生者の楽しい生活 作:立てば変人座れば牡丹歩く姿はただの奇人
日の落ち、月光が照らす街の中。路地裏で一人の少女が走っていた。
「待て!」
茶色の髪を汗で頬に張り付けた細い手足の少女。その背後には黒いスーツを着た男達が、弛んだ身体を持つ男を先頭に青筋を浮かべながら追いかけている。
「くそっ!」
「おいバカ野郎! 撃つんじゃねェ!」
「で、ですが!」
「ですがもへちまもあるかよ! いいから撃つなよ!?」
弛んだ男の背後にいる一人が、懐から拳銃を取り出して少女へと銃口を向ける。だが弛んだ男は背後を見ずに叱責し、叱られた男は理由を話そうとするが、弛んだ男の気迫に押されて黙る。
その後も塀を潜り、狭い道へ逃げ、建物の間を通る少女との追いかけっこを続けるが、次第に天秤が傾き始めた。いくらすばしっこいと言っても所詮は齢10程度の少女。細い手足からは食べ物を満足に食べられていないことが分かり、体力も同年代の少女よりは低いだろう。
少女は喉が渇き、胸が痛む中、自身の体力の限界を悟り家屋の敷地内へと入り込んだ。それに続いて敷地内へと入り込んだ男達は、突如姿を消した少女を探すために辺りを見回す。
そこは広々とした一軒家。周囲に建てられたビルが景観を台無しにしているが、庭は丁寧に整えられていてとても美しい。
男はそんな庭の端っこにある大きな蔵の扉が、ほんの少しだけ開いているのを発見した。
「ふーっ、あそこか。おい、構えとけ。ただし、絶対に撃つなよ。あとお前とお前は外で見張りだ」
弛んだ男は額の汗を拭いながら、背後の男達へと指示を出す。そう言う男も拳銃を取り出し、胸の前に構えながら進んでいく。
「チッ、埃くせぇな。ちゃんと掃除しとけよ」
ゆっくりと扉を開いたのにもかかわらず、舞い上がった埃に男は苛立つ。月明りに照らされた蔵の中は一見普通に見えるが、床に描かれた謎の紋様が異様な雰囲気を放っている。
そして、そんな蔵の一番奥。扉から突き当りの場所に少女はいた。
「はーっ、はーっ」
「ったく、手間取らせやがって。もう逃げ道はねぇから大人しくするんだな」
床へと座り込み、肩を上下に動かしながら荒く呼吸をする少女へと、弛んだ男は苛立ちを滲ませた言葉を発する。
後ろの三人の男は、二人が少女に拳銃を向け、もう一人が懐から手枷を取り出して少女へと近づいていく。
少女もなんとか逃げ道を探そうとしているのだろう。辺りをきょろきょろと見回し、蔵の中に何か打開策が無いかと探してみるが、特に何も見当たらない。
そうこうしている間に男が目の前へと近づき、手を伸ばし始める。
「触んな!」
伸ばされた手を叩き落とし凛とした透明感のある声*1で拒絶する。叩かれた男はほんの少し苛立ったようだが、背後にいる弛んだ男の存在を思い出したのか、すぐに落ち着いて再び手を伸ばした。
「触んなって、言ってんだろ、このロリコン!」
「ろ……っ! 誰がロリコンだごら!」
「ロリコンだろうが! 俺みたいな小さい女のケツ追いかけ回しやがって!」
声に反してとてつもなく男勝りな口調の少女にロリコンよばわりされ、男は思わず前のめりに否定する。
「おい! お前がロリコンでも気にしねぇからとっとと捕まえろ!」
「俺の名誉にかかわるっす! 俺は断じてロリコンじゃねェ! 甘やかしてくれるパイのでけェお姉さんが好きなんすよ!」
弛んだ男はどうでもよさげに言うが、ロリコン男としては譲れないようだ。突然自身の性癖を開示し始め、仲間の男達から寒い目で見られていた。
「うんうん、分かるよその気持ち。お姉さんの羽毛のように柔らかい膝に頭を乗せてよしよしされながら、視界を埋めるお山を眺めたいよな」
「分かる! 俺はそれに加えて下の方もヨシヨシされてえ」
そんな男へと共感するのは、ロリコン呼ばわりした少女自身。腕を組んで頷きながら、こちらも自身の性癖を開示する。
男は救いを得たと言わんばかりに少女を見つめ、さらに性癖を開示していく。仲間の冷めた目は見えていないのか、目の前の少女を捕まえようとしているのも忘れているのか、とても楽しそうに。
「おい! お前の性癖はどうでもいいから、とっととそいつを捕まえろ!」
「えっ、ああ、そうだった。いやぁ悪いね同志。これも仕事なんだ」
二人の会話に業を煮やした弛んだ男は、怒声の一歩手前の声で叫ぶ。それを聞いた男はハッとし、手枷を付けようと少女へと近づける。
「俺に触ったらお前ロリコンだからな!」
「うぅむ、正直それでもいい気がしてきた……!」
「えっ」
思った反応と違う男に、少女は思わず呆けた声を出す。どうやらロリコン男は、真正のロリコンの
「ちょっ、まてって! やめろ変態!」
「おぉぉ……! ロリに罵倒されるのも、なんか、イイな……!」
「「「うわぁ」」」
少女の罵倒に恍惚とした表情を浮かべる男に、弛んだ男を含む蔵にいる男達がドン引きする。だが彼女はそれどころではない。なんだか厭らしい動きをする手が伸びてきて、とても気持ち悪いし
「やめっ、やめろって! 触んなあほ! ばか! ロリコン!」
「おおぉ、罵倒されながら踏まれるのもなかなか……!」
少女は腕を掴まれそうになったので足で顔を遠ざけようとすると、それすら恍惚な表情で受け入れる
「きもいって! マジで近づくな! ちょっ、お前らこいつなんとかして! こいつじゃなければ素直に捕まるから! 本当に勘弁して!」
「「「いや、俺らそいつと関係ないんで」」」
「あるだろうがぁぁあぁ!!」
少女はグヘヘと笑いながら手を伸ばしてくる変態を阻止しながら、仲間である男達へと助けを求める。だが男達は手を振りながら扉の近くまで下がり、変態との関係性を否定し始めた。かなり真面目そうな雰囲気があった弛んだ男すら否定しているのだから、変態の仲間と思われるのが相当嫌なのだろう。
「グヘヘヘ、怖くないヨぉ、ちょっと触るだけだからネぇ」
「いやっ! 嫌だっ! 来んなっ! 俺に触んな変態ッッ!」
「ンんーっ! もっと罵ってくれていいんだヨぉ」
目に涙を浮かべながら、少女は必死に抵抗する。だがその抵抗すらも変態にはご褒美になっているようで、むしろわざと受けているようにも見える。抵抗を止めれば変態の手によって穢されてしまうので、何がなんでも抵抗を止めるわけにはいかない。
だが力関係で言えば変態の方が上。いくら男勝りな口調で喋ろうとも、肉体は栄養の取れていない少女の身体。さらには顔に押し付けていた足を舌で舐められたので、怖気が走って足を引っ込めた結果、ついに肩へと変態の手が届いた。
「つぅかまえたぁ~!」
「ヒッ! だれ、だれかっ、助けてっ! 嫌だっ! 助けてっ!!」
肩を掴む変態の腕を離そうとするが、さすがは裏社会の男。少女の細腕ではビクともせず、男はむしろ触れられていることに対して興奮しているようでとても気持ちが悪い。
少女は一縷の望みをかけて弛んだ男達へと涙目で視線を移すが、
「あー、怪我と突っ込むのだけは止めろよー。それ以外は何してもいいがよ」
呆れた表情で変態の行動を許可していた。その言葉を聞いた変態の顔は気持ち悪く歪み、股間はとても膨らんでいた。
「グヘヘヘ、俺とちょ~っと遊ぼうネぇ!」
「来んな! 嫌ッ!! 誰かっ! お願い……っ!」
少女は変態の背後に見える蔵を出ようとする男達と、外の誰かに助けを求める。何度も何度も、自身の貞操を守るために。だがそう簡単に助けは訪れない。助けを求めている間にも変態に押し倒され、着ている服の胸元へと手が伸ばされる。
(助けて……っ!)
そしてついに少女の胸元へと変態の手が辿り着いた瞬間、蔵の床が突然青白く光り始めた。同時に、少女の手の甲へと鋭い痛みが一瞬だけ走る。
何だと思って手の甲を見た少女は目を見開き、「えっ……!?」と小さく驚きの声を上げた。
「な、なんだ!? クソッ、とにかく退避だ!」
そう言って、光る床を背に弛んだ男達は外へと走り去っていった。
だが変態は少女を優先することにしたのか、胸元の服を掴むとびりびりと破り始める。そうこうしている間にも光は強まっていき、蔵の中を埋め尽くしていった。
少女も変態もあまりの眩しさに瞼を閉じ、次に開いた瞬間、少女の服を破っていた変態が背後へと振り返りながら拳銃を取り出し、いつの間にか蔵の中心にいた人物へと銃口を向ける。
その人物は身長180cmはありそうなほどの偉丈夫。白髪に褐色の肌、赤を基調とした服は、内側から筋肉によって持ち上げられている*2。
「誰だっ!?」
銃口を向けられている褐色の男は、ゆっくりと変態へと視線を移す。
変態は何かを感じ取ったのだろうか。先ほどの変態っぷりはどこかへと消え、真剣な表情で辺りを見回す褐色の男を睨みつけていた。
「誰だ、と問われて素直に答えると思うかね?」
「良いから答えろ! コレが見えねェのか!?」
落ち着いた声色で答える褐色の男に、変態は銃口を突き付けて脅しに掛かる。だがそんなものは何の脅しにもなってないのだろう。褐色の男は肩をすくめて「やれやれ」と首を振った。
「一応聞いておこう。それは合意かね?」
「あぁ!? てめェには関係ねェだろうが!」
褐色の男の問いに、変態は威圧的に答える。
「そうか。あとはこれも聞いておかねばならんな」
褐色の男は変態の言葉を真面目に聞いていないのか、聞き流した後に変態の背後にいる少女──いつの間にか俯いてプルプルと震えている少女へと視線を向ける。そしてほんの少し微笑みながら、しかし確信を持った表情で口を開いた。
「君が私のマスターk「エミヤだぁぁぁあぁぁあああ!!!」……は?」
言葉の途中に放たれた言葉に、褐色の男──エミヤは虚を突かれた表情で固まる。少年のように見える表情をするエミヤの目の前で、胸元の肌色が見える際どい恰好の少女がはしゃぎ始めた。
「本物!? すげェ! ってことは手のコレって令呪!? ということは俺がマスター!? ねえねえエミヤ! あれやって! あいあむぼーん……そー……ど……」
興奮した少女がエミヤの方へと近づこうとして立ち上がった瞬間、急に身体の力が抜けていって前のめりにパタリ倒れ込んだ。
倒れ伏して髪を床に広げる少女を興味深げに見るエミヤと、額に汗を掻くもそれを拭わずにエミヤを警戒し続ける変態。
「おいっ、何がっ!?」
緊張が走る蔵の中、少女が倒れてすぐに蔵の外へと退避していた弛んだ男達が、銃を持ちながら勢いよく入ってきた。そして蔵の中央に立つエミヤを目視し、すぐさま銃口を向ける。その動作は手慣れた動きであり、先ほどまでの芸人じみた言動からは想像もつかないほどのプロの仕事だった。
「てめェ、どっから現れやがった!?」
「それを素直に話すとおもうのかね?」
「いいから答えやがれ!」
パンッ、と火薬の弾ける音と共に、弛んだ男の持つ銃口から放たれた銃弾が蔵の床へと穴を空ける。
「……ハァ、仕方ないか」
「ッ!?」
エミヤは穴の開いた床を冷めた目で見ながら呟くと、銃を向ける男達へと視線を移した。その眼光はとても鋭く、男達は思わず後ずさりしてしまう。
そこからは一瞬だった。エミヤが動こうとした瞬間、弛んだ男の銃口から一発の弾丸が放たれる。命中するかと思われた弾丸は、エミヤがいつの間にか持っていた黒い剣によって両断され、二つに分かれた銃弾は蔵の壁へと激突した。
「なっ!? 銃弾を、斬っただと!?」
人が銃弾を両断するというあり得ない光景に、弛んだ男の額を汗が流れる。
「さて、マスターが風邪を引いてはいけないのでね。去るのならば手は出さないが、どうするかね?」
エミヤの自身の絶対的優位性を確信するような言動に、弛んだ男は一瞬反論しようとする。だが目の前で銃弾を切った光景を見てしまったがために、反論することができない。むしろ今、狩られる側なのは自分たちであることを理解してしまった。
「……クソッ、撤収だ! 銃弾を切れるような奴と
そう言って、弛んだ男は銃口を下げて蔵から出て行った。変態は少女を見た後にエミヤを見ると、急ぐように弛んだ男の後を追って去っていった。
男達の気配が無くなり、蔵の中に二人の人影しかなくなったころ。少女の傍へと近づいたエミヤは、彼女が安らかな寝息を立てていることを確認すると、深いため息を吐きながら木箱の上へと座り込む。そして蔵の天井を見上げながら、万感の思いを込めて呟いた。
「……エミヤ、か」