部屋のドアがノックされる。
「どうぞー。」
シオンがそう言うとカトレアとルイズを先頭に、見たことのない三人が入ってくる。
「カトレアとルイズ、話は終わった?後ろのお三方は?」
「紹介するわね、父のカリス、母のカリーヌ、姉のエレオノールよ。」
「ふむふむ、この状態で悪いね…シオンです、よろしく。」
そう気楽に返すとエレオノールとカリーヌは眉間に皺を寄せる。
「アナタ、貴族じゃないでしょう…貴族である私達に無礼だと思わないの⁉」
エレオノールにそう言われたシオンは少し思案した後小首を傾げながらエレオノールに答える。
「悪い、俺貴族と話すのは初めてだし、師匠としか話してなかったから敬語ってのが要る…んだっけ?とにかく、この言葉遣いは勘弁してくれないか?」
「まぁ、敬う言葉を使えないなんて、野蛮ね…あのポーションも盗んできて本当は治療出来るだけの実力も無いんじゃ…」
「あ?」
部屋に殺意が満ちる…歴戦の騎士であった、カリーヌですら動けない程の濃厚な怒気。
「俺の言葉遣いが悪いのを言われるのは解る…けどな、俺は生き延びる為に今の知識、力を付けた
。それにはプライド持ってるんだ…それを馬鹿にしたら、恩人の姉だとしても許さない。」
師匠であるレザードならば受け流していただろう、無知である相手に対して説明してまで怒らない。
レザードならば、ただ馬鹿にして心の底から見下していた、しかし弟子と言ってもそんな所を受け継がなかった、そして彼は受け流すにはまだ子供であった。
しかし、彼から溢れる怒気は少年が出せるモノにしてはあまりにも…あまりにも恐ろしいモノだった。
そんな中、カリスが前に踏み出す…その顔には脂汗が伝っていたがそれでも踏み出した。
そして頭を下げる。
「シオン君…だったね…娘が失礼な事を言ってすまない…君と争いたい訳じゃない…どうか私の謝罪を受け取って矛を収めてはもらえないか?」
「私からも謝罪させて頂戴…だからここは抑えて欲しいの…」
カリス、カトレアから言われたシオンはふとルイズが視界の中に入る。
俯いて涙を流すルイズが映る。
それはまるで、師匠を怒らせた時の自分を見ているようで…
そんな表情が見たかった訳じゃない…どういうつもりで自分が怒ったのかというのすら吹っ飛んでしまう位だった。
一瞬正面を向いたのち、長く息を吐くシオン。
怒気が和らぐ、ルイズとエレオノールは崩れ落ちる様にその場にへたり込む。
カリスとカリーヌは安心した様に少し息を吐き、冷や汗をかいていた頬をハンカチで拭い取っていた。
カトレアはホッとする表情を見せた後…血を吐いた。
「コホッ、コホッ…」
「「「カトレア‼」」」 「ちい姉さま‼」
カトレアに駆け寄るヴァリエール家の全員、そんな姿を見てシオンは冷静にカバンから素材を取り出す。
「なるほど、ただ魔力の循環器官に異常があった訳じゃないのか…呪いだね。」
「呪い…⁉一体誰が‼ちい姉さまは恨まれる様な人じゃない‼」
ルイズは悲鳴の様な叫びをシオンにぶつけるも、シオンは淡々と答える。
「人間、欠陥が無かろうと恨まれる事はある。大人になればそんな事はザラだって師匠も言ってたよ。まぁ師匠はメチャクチャ欠陥有った人間だったけど。」
大人の三人なら良く知ってるんじゃないかな?と言うと、カリス、カリーヌ、エレオノールの三人は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
しかしシオンは気にせず続ける。
「今までは耐えれたのかも知れない、けど今回のは不味いよ、本気で殺しにかかってるみたいだからね。」
「本当かね?」
「俺はこういう事に嘘をつかないよ、それに俺には『眼』がある。」
そう言ったシオンの左目が金色に妖しく光る。
「その目は?シオン?」
ルイズの問いかけに笑顔で応えると、彼はベッドから立ち上がりカトレアに歩み寄る。
「『解析の魔眼』だよ、その名の通りなんでも解析することが出来る。ま、その力が無くても見立ては同じだと思う。」
シオンは右手をカトレアに向けて呪文を唱える。
「キュア・プラムス」
カトレアが淡い光に包まれると、血は跡形もなく、呼吸も整っていた。
「これは…?」
カリーヌが戸惑う声を上げる。
全員の視線がシオンに向く。
そんな視線を浴びたシオンは悪戯っ子の様に笑う。
「所謂回復魔法ってやつさ、瀕死の息絶える直前の戦士だろうと直ぐ戦線復帰出来る結構便利な魔法さ。」
「シオン…そんな魔法、聞いたことないわ、何か代償が有るんじゃないの?」
カトレアが全員の意見を代弁するもシオンはピンピンしている。
「無いよ、世の中才能も努力も足りてない人間ならもしかしたら使えないかもねー。それに俺よく物語である代償が要るのって嫌いなんだ、だって自分の無能を晒してる様で嫌じゃん。」
呆気にとられる全員を気にせずベッド横のカバンを取りに行くシオン、鼻歌まで歌ってご機嫌だった。
先程の怒気も何とやら…既に本人の中ではどうでもいいモノになっていた。
彼は細かい事を気にしない、それで幾度か実験部屋を燃やしたのだが、その時の感想も『次は失敗しないでしょ、大丈夫だろ。』の精神で乗り切って来ていた。
ちなみにその度にレザードに『実験』という名のお仕置きを喰らっていたのだが、その記憶は封印している。
「さて、これでどうだい?俺が治療出来るってのが現実味を帯びたんじゃない?」
彼なら…むしろ彼以外に居るのか…それがこの部屋に居た全員の想いだった。
「シオン君…こちらから依頼させて欲しい…報酬に欲しい物が有ると言うなら何でも用意しよう。だから…だから、カトレアを治療してくれ…‼」
「あなた…私からもお願いします、どうかカトレアを…お願いします。」
再び頭を下げるカリス、それを窘めようとしたが、カトレアの命に代えられないと、同じように頭を下げるカリーヌ。
それを見て瞳に涙を浮かべる三人の姉妹。
「湿っぽいのは無しで、俺は行き倒れてたとこ助けてもらった…それにご飯までもらった、助けられたのはこっちさ。」
だから頭下げないでくれよ、なんて言って笑いながらカバンから見たことの無い物を幾つか取り出すシオン。
「んで、指定はあるかい?カトレア。」
「指定?どういう事?」
「いや、治療方法はいくつか事前にピックアップしてたんだけど、どういうのが良いのかは選んでもらおうかなって思って。おすすめはこの寄生生物を飲み込んで治療してもらうのが楽だね。」
「「「「「え?」」」」」
名状しがたい軟体動物を取り出すシオンに唖然とするヴァリエール家の面子。
「クケェー、クケケケケケ。」
「お、こないだより生きが良い。こりゃいい感じに治療してくれるぞ。」
どこをどうしたら生きが良いという言葉と治療が関係するのか理解できないのであった。
というか、そんなグロテスクなのが体中這いまわるのはどうなんだ?
それに鳴き声怖いよ…
と口に出したかったが、真面目に話すシオンにどう答えていいのかわからなくなっていた。
「後は魂を引き剥がして治療して戻す術式と、早く効く代わりに治療後にしばらくトイレに行くと大きいのが銀色に光って、小さいのが虹色に光るようになる薬もあるけどどれがいい?」
そう言って銀色のやっとこ、羽のついた薬瓶を取り出すシオン。
ルイズが恐る恐る手を上げる。
「あの、シオン?多分無いと思うけど、もう少しマシな副作用とか怖くない治療法は無いの…?」
「有るには有るけど、只の副作用の無い奴だと、三日は治療に掛かるからな、やっぱ早く全快したいでしょ?」
「「「「「副作用無しの飲み薬でお願いします。」」」」」
意見の合う事の少ないヴァリエール家の面子の心が一つになった瞬間だった。
「クケェー…」
クケェーじゃないよ、座ってなさい。
割と今作は頭使って書いてないです、自分が書きたい事書いてるだけなのでこんなんになります。