旅とは、シオンに取ってとても素晴らしいものだった、色んな物を見れる、知らなかった世界との新たなコミュニケーションだった。
そんな浮かれた旅をするからには、困った人間が居たら助ける…位の普段やらない事をしても良いだろう、なんて考えながらトリスティン、ヴァリエール領からゲルマニアのツェルプトー領に入っていた。
実際シオンは訪れる村々にて、とても素晴らしい賢者だと敬われていた、水不足だと言われれば雨乞いの秘薬を使い、食料不足だと言われれば三日で育つ作物の種を幾らか渡す。
それは物語に現れる賢者と言っても過言では無かった、そのシワ寄せは全てヴァリエール家の方に向かうのだが、ピエール達も文句は言えなかった。
彼に救われたのに未だ彼が欲しがるモノを渡せていなかった、ルイズとカトレアとの婚約に関してもヴァリエール家の都合の方が強いと思っていた為、呼び出して自分達が対応しよう等とは言えなかった。
そんな気ままにやりたい事をやっているシオンだが、視界の先に戦っている一団を見つける。
「んーメイジと…盗賊の戦いかぁ…メイジが劣勢だね、アレは。メイジ殺しってのが居るのかな?ちょっと気になるね。」
そう、本来なら盗賊程度、熟練のメイジが居るならば瞬殺できるはずだった、しかしメイジ…貴族であろう彼らは劣勢だった。
中年の男性は魔法で薙ぎ払おうとするが盗賊は男性の家族を執拗に狙い、集中力を切る、そして守るために一手遅れ、妻であるメイジも娘を狙われ、そちらに精一杯になる。
「盗賊の練度じゃないね、ありゃ中々質の悪い傭兵崩れかな?そういうのが居るってピエールさんに聞いたしそれかもね…まぁ盗賊なら消し飛ばしても別に心痛まないし貴族の方に手を貸すか。」
そう言って戦っている最中に歩いていくシオン。
―――――
ツェルプトー侯爵は焦っていた、始まりは領内の視察をしていて、盗賊の被害が酷いと報告が上がっていた。
急いで妻と娘を本領に返そうとした帰り道で盗賊に遭う。
お付きのメイジや兵士は無力化され、妻も娘のキュルケを守るため必死に戦っている、しかし状況は良くない、トライアングルのメイジである自分ですら倒しきれずに連携で抑え込み消耗を図る動きを取る盗賊。
只の盗賊でこんな事は出来るはずはない、傭兵崩れ、いや…恐ろしく腕の立つ傭兵であった。
「貴様ら‼何が目的でこの領に‼」
「何の事だい?俺達は狙えそうな貴族が居たから襲ってるだけだぜ?」
「っく⁉貴様らの様な盗賊が居るか‼」
「さぁーて、娘の方はまだ育ち切ってねぇが、まぁ悪くねぇ見た目してる、売れるか…俺らが使ってもいいが、そこら辺の要望だけは応えてやるかねぇ…侯爵さんよ、自分の無力を感じながら…逝っちまいなぁ‼」
盗賊の首領がクロスボウを構える、本来なら簡単に対処できるのにも関わらず今の状態ではマトモに対応できない、それに…狙われているのはキュルケだ。
肩にクロスボウの矢を受け、キュルケを守る侯爵。
「…キュルケ…逃げなさい…道は何とか開く…その間にお前だけでも。」
「お父様…いや…嫌です‼」
「時間が無い、せめて…お前の結婚式は見たかったものだがな…」
「お父様…お父様…いやぁ‼」
そう言って侯爵は最後の力を振り絞り…馬に乗せようとする。
「誰か‼誰か助けてよ‼何でもするから‼」
「ひゃはは、助ける奴なんざいないぜ、残ってるのは俺らと息も絶え絶えなお嬢ちゃん達だけなんだからな、教育してやるよ、変態貴族に売り払う前によぉ‼」
「誰も居ない…?ここに居るんだけどね?」
全員が声のする方向を振り向く、そこに居たのは…一人のローブを着て、フードを被った少年が一人。
「なんだ…ガキかよ、ローブからしてメイジだろうが、お前程度、俺達メイジ殺しの傭兵団にとっちゃ数に入らんよ。」
「ふーん。」
「君‼力を貸してくれると言うなら娘を連れて逃げてくれ‼」
「必要ないね。」
「何?」
「俺が全部消し飛ばすから、逃げる必要なんてないさ。」
「くくく…俺達はトライアングルを何人も殺してきた、そんな俺達を貴様の様なガキが?笑わせる。」
「ちまちま戦えない子供狙う狡すっからいアンタら位なら余裕さ。」
「貴様‼」 パチン…と少年が指を鳴らす、それと同時に包囲網の一角が消し飛ぶ。
「お前たち⁉貴様‼詠唱も無しだと⁉」
「バーンストーム…ま…正直全部消し飛ばしても良いんだけど…あれ?アンタら強いんだよね?どうしたの?今のめっちゃ遅く魔法展開したんだけど、反応できなかった?」
「…上等だ、貴様は嬲って…嬲り殺しだ。」
「うん、それ無理、もう終わったから。」
「は?」
少年がそう言うと同時に赤き円が侯爵達を除き、戦場全体に広がる。
「我焦がれ、誘うは焦熱への儀式、其に捧げるは炎帝の抱擁…イフリートキャレス‼」
「ま、待t」
傭兵たちが全員蒸発した。
何も残さず、後には塵すら残らなかった。
残されたのは侯爵家の面々のみ、そして侯爵は絞り出すかのように震える声で問う。
「き…君は…一体何者?」
「んー…そうだね、旅の賢者ってとこかな?」
フードを取り、手を差し伸べる彼はどこか神秘的な…そしてあどけない表情を見せるのは無慈悲にも盗賊を蒸発させた張本人には思えなかった。