無題   作:MONO_

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特に何の脈絡も無く。
食事のシーンを書くのがひょっとしたら私は好きかもしれない。


無題

 高速道路の両サイドに立てられた明かりは、一定のペースで視界の中を通り過ぎて行く。これが一種の催眠効果を発揮して、ドライバーの眠気を誘うとか何とか、一時期話題になった気がするが、もしかしたら気のせいかもしれない。そこそこ長時間のドライブ、ずっと助手席に座っている所為で僕の眠気は今最高潮で、もしかすると今しがたの雑学みたいなものも、そんな眠気を何かに責任転嫁するための都合の良い空想かもしれない。

 仲の良い友人とは言え、流石に4時間も車内という密閉空間で時間を一緒に浪費していれば、話題というのは粗方尽きる。会話が弾んだのは最初の2時間位で、あとは延々車内の静けさをウォークマンの中に詰め込んだmp3に駆逐して貰っている。この車が凄いのか、適当な機器から出力した音声をちゃんと受け取って車内のスピーカーから流してくれる。この機能がなかったら多分僕らは沈黙と気まずさに負けていた。

「なぁ、腹減らないか?」

 不意に、隣でずっと車を運転していた友人が、声を出した。言われてみれば、確かに腹が減っている。思い出すまでも無く、僕が最後に固形物を口にしたのは今日の朝が最後だ。昼前にあんなことがあった所為で昼食を食べ損なったから、都合8時間近く何も口にしていない計算になる。

「いいね、おなかすいた。」

 極めて単純に、同意を口にする。見れば、後5分程度の距離にパーキングエリアがある事を標識が告げている。もしかすると友人も、あれを見て空腹を思い出したのかもしれない。

 見えたパーキングエリアの名前は見たことも無いやつだった。当然と言えば当然で、僕は免許を持っていないから、遠出するなら電車か飛行機で旅をする。新幹線は大きな街にしか止まらない。時間のかかるワープみたいだ。飛行機ならその時間も掛からない。

 そういう旅を「味気ない」と批判する向きがある事をSNSで知った。正直どうでもいいと思う。なんでも新幹線じゃなくて鈍行で行くから風情があるんだとか。歩いてろって感じだ。

 そんな風に無駄な思考を頭の中で転がしているうちに、車は本線から左にそれて、パーキングエリアの駐車場へ滑り込んで行く。今まで時速100キロ超で走っていたところから一気に3割以下まで速度が落ちる所為で半ば停まっているように感じるこの感覚が、僕は割と好きだ。

 適当に駐車場を巡回して、車を止めるスペースを見つけ出すと、慣れた手つきで車を停める。

 車が停止して、エンジンが停まってから、シートベルトを外して車外へ出る為にドアを開く。車内の調整された空気を割って、湿度と気温が若干高めな夜気が車内へ滑り込む。

 一度大きく伸びをして、コリをほぐす為に軽く柔軟のような動きをしながら、並んでパーキングエリアの建屋へ向かって駐車場を横切る。さっき停まっているようだと形容した車達が、やっぱりいつも通りの速度で、僕らの横断を鬱陶しそうに待っている。

 晩飯時より少し早い時間帯のお陰か、割りに座るスペースのあるフードコートを見渡して一安心した後、入り口の正面にある券売機で食券を買う。僕は醤油ラーメン、友人はチャーシュー麺と餃子を頼んだ。

 2人分の注文をカウンターで纏めて済ませて、ベルを貰って席に着く。僕よりちょっと送れて席に着いた友人が、僕の前に水の入ったコップを置いた。

「有難う。」

 礼を言って1口口を付ける。

「結局何処まで行く事にするんだ?」

 そして、この目的地の無い旅の目的地を訪ねた。

「あと2時間位走ろうと思ってる。そしたら下道に下りて適当な場所を探そう。」

 友人は淀みなく答えた。そうすると、地元から6,700キロ離れることにしたという訳だ。県を幾つか跨ぐというのも、中々悪くない選択に見える。

「帰るのは明日の朝かぁ。」

 そして、その移動時間から僕らが次に地元の土を踏む時間を計算して、僕は嘆息した。

「オマエよくそんな考えかたが出来るな・・・」

 そんな僕を見て、友人はあきれる。そんなに特殊だろうか?

「だってさ、元の日常に戻る為にこんな事してる訳じゃん?」

 言外に『だったら今後のことを考えないと。』というニュアンスを滲ませながら、喋る。

「まぁ確かにそうかも知れないけどよ。」

 今日の朝まで、この友人は中々肝の据わった男だと思っていたが、ここ半日ほどでそのイメージは大分変動している。いや、もしかするとおかしいのは本当に僕かもしれない。多分彼は、一般的な人生の範疇ではちゃんと肝の据わった男で居続けることが出来ただろう。

 その辺のフォローを入れようかと思ったあたりで、手元の機会が適当なメロディを流す。カウンターに眼をやれば、ドンブリが2つ、嫁ぎ先を待っている。

 ほぼ2人同時に席を立って、ドンブリの載ったトレイを受け取る。僕はそのままプラスチックの箸と、レンゲを持って席へ戻る。友人は頼んだチャーシュー麺の上から、ドバドバと胡椒をかけている。序でに餃子の器に設けられたスペースに、餃子のタレとラー油をしこたま入れてから、席に戻ってきた。どうも友人の味覚は刺激的な方向に針を振りすぎているきらいがある。

 キチンと手を合わせて「頂きます」を言ってから食事を始める。毎度思うのだけど、こういうお店で出されるラーメンの麺は、決して手が込んでいる訳でもないのにこんなに美味しいんだろうか?いや、多分僕の舌が馬鹿なだけだろうけど。正直、サービスエリアやパーキングエリアのフードコートで振舞われるラーメンって、普通に美味しいと思ってしまう。ただ、こういうお店のチャーシューはあんまり好きになれない。何か独特な匂いがする。尤も、目の前の友人はそのチャーシューが沢山載ったラーメンを好き好んで食べている訳だから、多分この匂いこみでこのラーメンが好きな人も沢山居るのだろう。

 お互い殆ど会話が無い。まぁそりゃ今日1日、結構疲れている。正直今晩徹夜して明日学校に行くのは普通に憂鬱だ。ただまぁ、厄介事は早めに片付けてしまいたいという友人の心理もよく理解できるので、こうしていま付き合っている。

 ただ、個人的な意見を言わせて貰うなら、別に今じゃなくても良かった気がする。事件そのものが露呈するのは時間の問題な訳だけど、1人暮らしの彼が居なくなったことに気付くのって、結構経ってからだと思う。特に彼は遊び歩くから、結構頻繁に家を空ける性質だったし。

 まぁ友人がこういった有事に対していつもの胆力を発揮できないことを織り込んで事に当たれなかった僕の責任でもあるので、ここは泥というか面倒を被ることにする。

 思えば最初の2時間、やけに饒舌だったのも、ある種不安を和らげる為の行動だったのかもしれない。そう考えると、なんだか納得がいく。大方、僕が予想以上にいつも通りなのでそれが却って不安をあおったのだろう。結局口をつぐんでしまったところを見るに。

 などと考えながら、黙々とラーメンを食べる。正面の友人も、食欲は健在のようで、いいペースで頼んだメニューを消化している。この辺は肝が据わっているんだが、もう一歩届いてくれないものか。

 もう殆ど残っていないラーメンの、最後の1口を、スープをかき回しながらレンゲに追い込んで食べる。餃子1皿分早く食べ終わるかと思ったら、殆ど同着だった。

 残った水を飲みながら、暫しゆっくりとして席を立つ。いつの間にかフードコートは結構混んでいて、パーキングエリアの建屋を出ると、駐車場も一杯だった。丁度いいタイミングだったかもしれない。

 歩いて車へ戻る。

「ちょっと荷物確認しても良いか?」

 運転席へ入ろうとする友人へ、一言断りを入れた。

「いいけど、見られるなよ?」

 ちょっと挙動不審に周囲を見ながら、友人が答えて、鍵を寄越した。その様子がおかしくて、少し笑いそうになりながら、車の後部へ回り、セダンのトランクを開ける。

 中にはビニールでぐるぐる巻きにされた死体が転がっている。遠目に見たらゴルフバックか何かに見えるかもしれない。

 包装を解いて、中身を見る。濁った目の女性が、此方を見た。死斑が出ているが、死後硬直は解けて来た。運搬と解体は大分楽になりそうだ。

 結構美人で、アイツは相変わらず見た目のいい女性を捕まえるのが上手い。ただ、今回はちょっと中身の選定を誤った。まぁ自業自得ってことで。

 薄皮みたいなコンドームをつけなかった所為で、ここまでに2人、これから1人と1台が無駄になるのだから、やっぱ避妊って大事だ。僕に将来彼女が出来る事があったらちゃんとしようと硬く心に誓いつつ、トランクを閉じる。目下の心配は帰りの足だな。ヘタすりゃ明日の講義はサボらないと。

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