ハートを握り締めて   作:はなまる世一

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「好きです」

 

告白するつもりなんてなかった。

でも、勝手に口からスルリと飛び出てきたのだ。

それは毎日の習慣のように言っていた所為かもしれない。

目の前の人は口を開け、呆けていたが突然唸り始めると、何か納得したように手を打った

 

「何かの言葉当てゲームですか?」

「え」

 

次は私が呆ける番だった。

 

「あの、違っ…」

「ああ、違いました?まあ私は優しいので?当然といえば当然ということですかね!」

「が、」

「教師として生徒に好かれる、なんてやり甲斐のある仕事なんでしょう!流石、宇宙一教師が似合う私!」

「あ、」

「おっと、時間が!では勉学に励むのですよ監督生さん!」

 

数枚の羽根を落として消えた学園長。

言い直しさせる隙もなく、逃げられたことに唖然とする。

 

「…」

ギュッとポケットに入れた石を握った。温かくもないただの石は酷く冷たかった。

 

 

 

 

 

 

初印象は真っ黒で目元隠してるしおかしな格好だしで不審者ではと疑った。

最初はそんな印象だったのに。

いつだろう。少しだけ変わってきたのは。

 

「監督生さん」

と呼ばれる度にドキドキした。

あの人が通った道の残り香に切ない気持ちになって、あの細くて長い指が肩に触れればそこが発熱したように熱くなった。

背が低いぶん見上げる程の長身のあの人を愛しく想うようになったのは多分、卒業パーティの練習の時から。あの黄色い瞳が、自分を包むほどの大きな体や男性らしい骨張った手。彼から発せられる低い声が、匂いが、全てが…。

あの人と夜中に踊った時から、全てが可笑しくなった。

 

卒業パーティでは下級生代表として綺麗なドレスを身に着け学園長と踊った。

スポットライトに照らされて私達だけしかいない世界だと錯覚するような感覚。履き慣れてないヒールの高い靴ではあったが練習の成果もあり踊り切った私に学園長も満足気であった。

よく頑張りましたね、と褒められたが、内心はやりきった気持ちとどこか淋しい気持ちが攻めぎあっていた。

もう学園長と二人きりの練習はなくなり、触れ合うことも出来なくなる。

その時初めて自覚したのだ。私は学園長が…ディア・クロウリーが好きなんだと。

 

 

中庭のベンチで昼食を摘む。

「あー…」

「何だ、その気の抜ける声は」

同じベンチにはセベクがパンを齧っていた。

 

声は大きいがグリムと組みエース達のように悪戯する様子もなく、普段は大人しいからか周りは比較的平和だ。

 

2年に上がってエース達とクラスが別れ、セベクと同じクラスになった。クラスも違えば授業も違うわけでエース達とは時間が合わないときが多く、比較的に最近はセベクと昼食を食べることが日常化していた。

 

若様談義やらには付き合わされるが、代わりに私の相談に乗ってくれる。そう、恋愛相談だ。

 

「セベク、私学園長に告白した」

前を見ていたセベクの顔がギュンと此方に向いたのがわかる。

「ほ、ほ、本当か!!」

あまりの怒声に顔を顰める。膝上で手作りサンドイッチを食べていたグリムがサンドイッチを地面に落として涙目だ。

「本当」

「ど、どうだったんだ!」

セベクも年頃の男。それなりに恋愛は気になるのか、顔を真っ赤にさせて先を急かした。

「んー…誤魔化された?」

「…」

「いや、逃げられたのかな?…つまり失敗に終わった感じ」

「…」

セベクは私より悲壮感のある顔で私の肩に手を置く。

「その、まだ若いのだから…恋愛はいくらでもある。だから、」

 

セベクが慰めくれているのが嬉しかった。

 

「ありがとう。でも諦める気ないの」

 

そう、私は諦めない。諦めたくない。

だってこれは私の初めての恋なのだ。

 

 

 

 

「学園長先生、好きです」

ポケットの石を祈るように握る。ハート型の石はきっと学園長の心。

それは数週間前、何時ものように錬金術授業でグリムが大釜を掻き混ぜていた時だ。

目を離した隙にグリムがまた変なものを入れたのか教科書とは違う色に変色した液体がぐつぐつ煮えたぎっていた。

液体の泡が次第に大きくなるにつれ、私の額から冷や汗が止まらなくなる。

 

これは爆発するのでは?

 

過去の経験から何となく察しがついてしまい、慌ててグリムをひっ捕まえて大声を出す。

 

「私の鍋から離れて!多分爆発します!」

 

またか!とか避難しろ!やら周りが五月蝿くなる中、皆が素早く部屋の隅に寄る。

次第に鍋から液体が膨らみ、大きな音を立てて破裂する瞬間

「失礼しますよ」

例によって例のごとく突然現れた学園長が丁度鍋の前に降り立ち、爆発に巻き込まれた。

学園長は咄嗟に防御壁を張ったらしく、大きな怪我はなぬ無事だったが手の甲が少しだけ赤くなっているのを見つけ私は顔を青くした。

「いや、吃驚しましたよ。…爆発って…!私だったら良かったものの…」

ぐるり、と壁に寄っている生徒達を見回し私とグリムと目が合う

「どうせ貴方達ですね、こんな失敗するのは!」

的を入る指摘に拍手を送りたい。

…否、罪悪感と恥ずかしさで穴に潜りたい気分だった。

 

「…すみません、学園長先生。あの手の治療しますので保健室行きましょう。作った薬も効果が不明ですし、何かあれば大変です」

居た堪れない気持ちになりながら保健室に誘導するも大丈夫ですよ、と言い残しさっさと飛び去ってしまった学園長。

本当に大丈夫だろうか、と心配した時

「あれ?」

床に転がるハート型の石を見つけた。それは学園長が居た場所。

学園長の落とし物だろうか?

私は石を拾い上げ、次に会った時に渡そうとポケットに突っ込んだ。

 

そうして暫く経って、私とグリムの失敗作が人の心を具現化するものだったとクルーウェル先生から教えられた。

「あの場に何か落ちていなかったか?」

床に転がっていたのはきっと学園長の心なのだと咄嗟に判断した私は知りません、と嘘を吐く。

まぁ学園長に異常はないようだし大丈夫だろう、と判断され私とグリムはこっ酷く叱られ反省文十枚書かされたがお咎めはそれだけだった。

 

 

それ以来、私は学園長の具現化した心…ハート型の石を持ち続けていた。

 

黒く冷たい石に私は毎日祈る様に告白する。

 

「先生、大好き」と内緒話のように呟いた。

 

 

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