偽像   作:マツザキ蓮

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偽像 第5話 転機

白鳥かこからの突然の提案――それは、翌日である土曜日の十九時から、今流行りのサバイバル・シューティングゲームでコラボ配信をするという約束だった。

 

「らいばさんの神エイムと、私の神がかった立ち回りで、一緒にゲーム内の『No.1』を目指しましょ!」

 

眩しすぎる笑顔とともに放たれる無邪気な声が、私の体を大きく包み込む。

 

(……眩しすぎる。配信でもそうだけど、リアルでもこんなに元気だなんて、羨ましい……)

 

「……えーと、配信日時は……?」

 

私は、恐る恐る配信を始める日時を尋ねた。

 

そのぐらいのことでも、かなりの汗が顔から手へと流れる。

 

「そうですねー……。じゃあ、明日の土曜19時からでどうでしょうか? 場所は私の家で!」

 

「分かりました。では、また明日」

 

そう言って、互いに事務所を後にする。

 

(初めてのコラボ……大丈夫かな……)

 

コラボの声がかかるなんて予想だにしなかった。

 

私は不安を抱えつつ、駅に向かった。

 

__翌日19時。

 

私はかこの自宅に来て、VRゴーグルをセットする。

 

陰気な少女としての「倉井香織」から、金髪碧眼の「七瀬らいば」へ変身する。

 

そして、PCとゲームを起動し、配信をスタートする。

 

「――というわけで始まりました! 今日はなんと、らいばちゃんとの初コラボです!」

 

「ど、ドリームパラダイス所属の、七瀬らいばです……。よろしくお願いします」

 

配信が始まると同時に、画面の向こうからは、かこの天真爛漫なオーバーリアクションが炸裂した。

 

案の定、かこの立ち回りは無茶苦茶だった。

 

敵の罠がある場所へ不用意に突っ込み、自らピンチを招いては「きゃー! 撃たれてるー!  誰か助けてー!」と大騒ぎしている。

 

しかし、画面のチャット欄には、そんな彼女を面白がる『いいね』や好意的なコメントが凄まじい勢いで流れていく。

 

(やっぱり、みんな『かこちゃん』を見に来てる……)

 

「かこさん、下がって!  敵の射線、私が切るから!」

 

私はすかさずマウスを滑らせ、かこを狙う敵の頭を寸分狂わずに撃ち抜いた。

 

完璧なカバー。

 

完璧なエイム。

 

 

しかし、流れるコメントは『らいばエイム相変わらずエグいw』『でも主役はかこちゃん!』といったものばかり。

 

視聴者の熱い目線がどこを向いているのかを察知してしまい、アバターの奥で私の顔が曇りかけた、その時だった。

 

「わぁぁ、らいばさん凄い!  ナイスカバー!」

 

ゲーム内の安全地帯に滑り込みながら、かこがマイク越しに、心底嬉しそうな声を響かせた。

 

「らいばさん。私、あなたとコラボが出来て今、凄く楽しいです!  らいばさんがこの前バズった時の配信、私もリアルタイムで見てました」

 

「え……?」

 

「あの時のらいばさん、めちゃくちゃ熱くて、カッコよかった!  だから、今日も周りの目なんて気にしないで、最後まで二人で、全力で楽しみましょう!」

 

――楽しむ。

 

その言葉が、私の乾ききった胸に真っ直ぐに突き刺さった。

 

完璧にやらなきゃいけないんじゃない。

 

ただ、この場所を、目の前の仲間と一緒に楽しめばいい。

 

張り詰めていた肩の力が、すっと抜けていくのが分かった。

 

アバターの金髪美少女の表情が、初めて作られたものではない、柔らかい微笑みへと和らいでいく。

 

「……うん。行こう、かこさん。絶対に、二人でトップを取るよ!」

 

そこからの私たちは、まさに水を得た魚だった。

 

かこが大胆に敵のヘイトを集め、それを私が限界を超えた神プレイで確実に仕留めていく。

 

不協和音だったはずの二人のプレイスタイルが、奇跡的な噛み合いを見せ、遂にに……。

 

『VICTORY / No.1』

 

「………!!」

 

勝利を表す12文字が大きく踊り出た。

 

『うおおおおお本当に一位取った!!!』

 

『凸凹コンビ最強すぎるwww』

 

『らいばちゃん、最後めっちゃ笑ってて最高だった!』

 

大盛り上がりで埋め尽くされるコメント欄を眺めながら、私は今までに味わったことのない、胸の奥がじんわりと熱くなるような達成感に包まれていた。

 

「やりましたね! らいばさん!! 私達、世界一ですよ!!」

 

「……!! 本当に私達、勝ったの……?」

 

「勝ちましたよ! ほら、笑顔、笑顔!!」

 

「やった……やったーーッ!!」

 

次第に笑みが浮かび、腹の底から喜びの声をあげた。

 

隣にいたかこも大喜びしていた。 

 

「らいばさん、どうでした? 2人で世界一を掴んだ感想は」

 

「……正直、実感が湧かない。けど、嬉しい……! その一言に尽きるよ」

 

誰かのために、誰かと一緒に、心から楽しんで掴み取った勝利。

 

それは、かつて私が求めていた無機質な「完璧」よりも、遥かに美しい輝きを放っていた。

 

翌朝。 

 

私はいつものようにベッドの上でスマホを開き、SNSを確認した。

 

日本のトレンド欄、その堂々の第1位に、見慣れた文字がくっきりと刻まれている。

 

『1位:#かこらいば最高』

 

『2位:七瀬らいば』

 

画面を見つめたまま、私の口元から、自然と小さな、しかし確かな笑みが零れ落ちた。

 

「ありがとう、かこちゃん……。私、もう少しだけ頑張ってみるよ」

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