白鳥かこからの突然の提案――それは、翌日である土曜日の十九時から、今流行りのサバイバル・シューティングゲームでコラボ配信をするという約束だった。
「らいばさんの神エイムと、私の神がかった立ち回りで、一緒にゲーム内の『No.1』を目指しましょ!」
眩しすぎる笑顔とともに放たれる無邪気な声が、私の体を大きく包み込む。
(……眩しすぎる。配信でもそうだけど、リアルでもこんなに元気だなんて、羨ましい……)
「……えーと、配信日時は……?」
私は、恐る恐る配信を始める日時を尋ねた。
そのぐらいのことでも、かなりの汗が顔から手へと流れる。
「そうですねー……。じゃあ、明日の土曜19時からでどうでしょうか? 場所は私の家で!」
「分かりました。では、また明日」
そう言って、互いに事務所を後にする。
(初めてのコラボ……大丈夫かな……)
コラボの声がかかるなんて予想だにしなかった。
私は不安を抱えつつ、駅に向かった。
__翌日19時。
私はかこの自宅に来て、VRゴーグルをセットする。
陰気な少女としての「倉井香織」から、金髪碧眼の「七瀬らいば」へ変身する。
そして、PCとゲームを起動し、配信をスタートする。
「――というわけで始まりました! 今日はなんと、らいばちゃんとの初コラボです!」
「ど、ドリームパラダイス所属の、七瀬らいばです……。よろしくお願いします」
配信が始まると同時に、画面の向こうからは、かこの天真爛漫なオーバーリアクションが炸裂した。
案の定、かこの立ち回りは無茶苦茶だった。
敵の罠がある場所へ不用意に突っ込み、自らピンチを招いては「きゃー! 撃たれてるー! 誰か助けてー!」と大騒ぎしている。
しかし、画面のチャット欄には、そんな彼女を面白がる『いいね』や好意的なコメントが凄まじい勢いで流れていく。
(やっぱり、みんな『かこちゃん』を見に来てる……)
「かこさん、下がって! 敵の射線、私が切るから!」
私はすかさずマウスを滑らせ、かこを狙う敵の頭を寸分狂わずに撃ち抜いた。
完璧なカバー。
完璧なエイム。
しかし、流れるコメントは『らいばエイム相変わらずエグいw』『でも主役はかこちゃん!』といったものばかり。
視聴者の熱い目線がどこを向いているのかを察知してしまい、アバターの奥で私の顔が曇りかけた、その時だった。
「わぁぁ、らいばさん凄い! ナイスカバー!」
ゲーム内の安全地帯に滑り込みながら、かこがマイク越しに、心底嬉しそうな声を響かせた。
「らいばさん。私、あなたとコラボが出来て今、凄く楽しいです! らいばさんがこの前バズった時の配信、私もリアルタイムで見てました」
「え……?」
「あの時のらいばさん、めちゃくちゃ熱くて、カッコよかった! だから、今日も周りの目なんて気にしないで、最後まで二人で、全力で楽しみましょう!」
――楽しむ。
その言葉が、私の乾ききった胸に真っ直ぐに突き刺さった。
完璧にやらなきゃいけないんじゃない。
ただ、この場所を、目の前の仲間と一緒に楽しめばいい。
張り詰めていた肩の力が、すっと抜けていくのが分かった。
アバターの金髪美少女の表情が、初めて作られたものではない、柔らかい微笑みへと和らいでいく。
「……うん。行こう、かこさん。絶対に、二人でトップを取るよ!」
そこからの私たちは、まさに水を得た魚だった。
かこが大胆に敵のヘイトを集め、それを私が限界を超えた神プレイで確実に仕留めていく。
不協和音だったはずの二人のプレイスタイルが、奇跡的な噛み合いを見せ、遂にに……。
『VICTORY / No.1』
「………!!」
勝利を表す12文字が大きく踊り出た。
『うおおおおお本当に一位取った!!!』
『凸凹コンビ最強すぎるwww』
『らいばちゃん、最後めっちゃ笑ってて最高だった!』
大盛り上がりで埋め尽くされるコメント欄を眺めながら、私は今までに味わったことのない、胸の奥がじんわりと熱くなるような達成感に包まれていた。
「やりましたね! らいばさん!! 私達、世界一ですよ!!」
「……!! 本当に私達、勝ったの……?」
「勝ちましたよ! ほら、笑顔、笑顔!!」
「やった……やったーーッ!!」
次第に笑みが浮かび、腹の底から喜びの声をあげた。
隣にいたかこも大喜びしていた。
「らいばさん、どうでした? 2人で世界一を掴んだ感想は」
「……正直、実感が湧かない。けど、嬉しい……! その一言に尽きるよ」
誰かのために、誰かと一緒に、心から楽しんで掴み取った勝利。
それは、かつて私が求めていた無機質な「完璧」よりも、遥かに美しい輝きを放っていた。
翌朝。
私はいつものようにベッドの上でスマホを開き、SNSを確認した。
日本のトレンド欄、その堂々の第1位に、見慣れた文字がくっきりと刻まれている。
『1位:#かこらいば最高』
『2位:七瀬らいば』
画面を見つめたまま、私の口元から、自然と小さな、しかし確かな笑みが零れ落ちた。
「ありがとう、かこちゃん……。私、もう少しだけ頑張ってみるよ」