ここは幻想郷、忘れ去られた存在が行きつく場所だ。であるならば、何故彼女は結界の外から幻想郷に入り、そして過ごしているのか。外来人、
「ふぅ…全く手間取らせないで欲しいわね」
「だな。まぁ、チルノ程度なら何とかなったな」
博麗霊夢と霧雨魔理沙が懲らしめたのは氷の妖精たるチルノ。普段から自信過剰な彼女だが力が沸き上がると口にして、意気揚々と二人に勝負を仕掛けて来た。案の定、二人に惨敗してケリがついた。二人は全く分かっていない様だが、チルノの纏う冷気は普段より圧倒的に強かった。チルノの言う力が沸き上がるというのは自分の制御できないレベルまで冷気が放出してると言う意味だったのだろう。
「チルノちゃん、大丈夫?」
「あ、当たり前でしょ…あたいってば最強なんだから…」
「大丈夫じゃ無さそう…」
地べたに寝転がったままのチルノを気にかけてるのは真姫しかいなかった。
「チルノに何かあるの?大した情報なんて持ってないでしょ」
「分かって無いなぁ、霊夢。地道に小さな情報をかき集めないと重要な情報は見つけられないんだよ」
さっさと異変解決してダラダラしたい霊夢に対してチルノからも話を聞けば何か情報が手に入るはずだと真姫は諭した。霊夢は渋々と言った風に、魔理沙は当然のように彼女の言葉に納得したようだ。目を覚ましたチルノの記憶は曖昧なものだ。
「昨日から?」
「そうだよ。こう、ブワァー!!って力が沸き上がって、これなら霊夢と魔理沙は敵じゃないって思ったのさ!」
チルノは自慢げに語っているが、結果は残念ながら敗北で終わっている。めげている様子は無い。
「じゃあさ、チルノちゃん。昨日は誰かから何か貰ったり、知らない人に声を掛けられたりしたのかな?」
真姫はチルノの力の増幅に人か、または物が関わっていると考えて質問を出した。チルノは長く悩み、記憶をたどり続けた。彼女がちゃんと思い出せるのか疑問だ。思い出せない可能性も高い。となれば、ここでこそ真姫の能力の出番。
「うーん、思い出せない!―」
チルノの瞳をジッと真姫は見つめた。真姫の黒曜の瞳が淡い輝きを帯びる。
▲▲▲
霧の湖、チルノはいつものように友達である大妖精と共に遊んでいた。少なくとも日が傾く頃だ。霧の湖にも赤い光が射し込んでいるのだけは分かる。
『ん?大ちゃん、どうしたの?』
中々追いかけて来ない大妖精を不思議に思ったチルノは彼女のもとに歩み寄り、声を掛けた。大妖精の服の裾が少しだけ解れている。
『えへへ、ごめんね。少し枝に引っかかっちゃったみたい』
『なーんだ!もう、驚かさないでよね』
これだけならばただ友人と遊んでいただけのように思えた。だが真姫の瞳はこの二人の影にいた何かを明確に捉えていた。大妖精の手を取ったチルノ。手を通して何かがチルノの中に流れ込む瞬間を垣間見た。黒い靄は、そこにいないはずの真姫の視界を覆い隠した。男とも女とも区別できない声で彼女を挑発する。
「見つけられると良いのぅ、小娘―」
▲▲▲
なるほど。真姫は理解した。
「チルノちゃん、ありがとう」
「?どういたしまして」
チルノを見送った後、真姫は手に入れた僅かな情報を霊夢たちに提示した。
「アンタの眼でも分からない事なんてあるのね」
「怪しい事をしてる奴がいる、それが分かっただけでも大きな一歩でしょ」
何者かが異変を起こしている、それも現在進行形で行われている。幻想郷の各地で能力を制御できずに混乱する者が多くいるようだ。幻想郷の創設に携わった賢者の八雲紫は今も姿を見せていない。もとより滅多に姿を現し、自ら異変解決に乗り出そうとすることも少ないため違和感など無い。永遠亭の面子が来た頃や地底での異変、不良天人への制裁などには動いていたが。
「…春雪異変は西行妖を満開にすると言う目的があった。紅霧異変は吸血鬼が過ごせるように太陽を遮る目的があった。永夜異変は自分たちの身を隠すためだった。異変には必ず目的がある。なら、能力を暴走させる異変には何の目的があるんだろうね」
チルノの能力の暴走は序章に過ぎない。これから起こる異変は霊夢たちすらも被害者となるような重大な異変へと繋がるだろう。