幻想郷の過ごし方   作:瑠璃。

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第二節「紅魔館SOS」

レミリア・スカーレットが当主としてまとめ上げている紅魔館。当主である彼女を筆頭に妹のフランドール、従者の十六夜咲夜、魔女のパチュリー・ノーレッジとその司書のこあ、門番の紅美鈴。瀟洒な従者が入れた紅茶を飲み、優雅に過ごすはずのレミリアの一日は突如として変わってしまった。

 

「咲夜さん、まだ目を覚ましませんね」

 

美鈴だけでは無い。他の面子の顔も浮かない顔だ。ここにいるはずの人間が今、眠り続けている。そして彼女の眠る部屋は不可解な事が起こっている。流れるはずの紅茶は空中で停止している。眠る咲夜の手は虚空を掴もうと伸ばされたまま。

 

「パチェ、何か分かったかしら」

「いいえ、残念ながら分からないわ」

 

パチュリーがあらゆる書物を読み解き、知識をフル稼働させても目ぼしい答えに辿り着けなかった。フランは心配そうにレミリアの眼を見つめる。その視線はレミリアの次には眠り続ける咲夜がいる部屋の扉に向けられる。

 

「…頼るしか無いわね」

 

レミリアは美鈴に指示を出した。幻想郷の探偵、芭蕉宮真姫を連れて来いと。そして数刻が経過した頃だった。美鈴と共にやって来たのは真姫。彼女は紅魔館に足を踏み入れてからすぐに異変に気付いた。だから彼女は突如、部屋を飛び出した。

 

「ち、ちょっと、何してるの!?貴方は飛べないでしょ」

 

窓から身を乗り出す真姫が落ちないようにする美鈴とレミリア。

 

「見て!」

 

真姫が指さしたのは窓の近くに寄って来た一匹の蝶々だ。翅が一向に動かない。それはおかしい事だ。何処かに止まるわけでも無いのに翅を動かしていない。落ちる木の葉は空中で止まり、落ちようとしない。気になって全員が咲夜の眠る部屋へと足を運ぶ。恐る恐るドアノブに手を掛ける。扉を開いた先、窓の近くに置かれたベッドに今も不自然な体勢のまま咲夜は眠っていた。不意に足を踏み出したのはこあとパチュリーだった。

 

「ッ、駄目!」

 

真姫の制止は僅かに遅れてしまった。足を踏み入れた二人が突然動かなくなった。瞬きもせず、呼吸すらもしない。マネキンのようになっている。

 

「嘘…パチェ、こあ…」

 

レミリアが二人の名を零す。フランは口を押え、絶句する。美鈴も目を見開いて息を呑むしか無かった。不用意に部屋の中に入ることは出来ない。真姫が即座に扉を閉じた。真姫は一度目を閉じ、少ししてから再び目を開いた。

 

「咲夜さんの能力は彼女自身に最初は影響を及ぼした、ですね?レミリアさん」

「そうよ。最初は彼女が仕事中に何も言わなくなったの。…そうか。冷静に考えれば、その時から既に咲夜の能力は暴走してたのね!」

「ですが、咲夜さんの能力で時が止まっても咲夜さん自体はその中でも自由に動けるはずでは?」

 

美鈴の指摘は尤もな事だが、それを全肯定は出来ない。

 

「今、各地で能力が暴走する異変が起こってる。今回の場合は咲夜さんの時間を操る程度の能力によって咲夜さん自身の時間が止まっている。現在進行形で範囲が広がりつつあるって事」

「え、じゃあ、どうするの?パチュリーたちみたいに部屋に入ったら、私たちだって」

 

フランの憂えている通り、無暗に部屋の中に足を踏み入れれば問答無用で能力の影響を受けてしまう。見えたとしても手出しが出来ない。つまり今、探偵である真姫ですらお手上げ状態なのだ。今、考えられる対抗策は一先ず咲夜の眠る部屋には極力近付かない事。そして時間を操る能力に対抗できる能力を持つ誰かの手を借りる必要がある。レミリア、フラン、美鈴、真姫の思い当たる節を探してもピンと来ない。

 

「駄目だ…じぇんじぇん思いつかにゃい」

「時間が止まっても自由に動ける、か…。私も思いつかないわ」

 

悩める彼女たちのもとに思わぬ来訪者だ姿を現した。開かれた裂け目から顔を覗かせたのは八雲紫の式神たる八雲藍だった。

 

「ん?私に?」

「そうだ。紫様は今、手を離すことが出来ない。だがどうしても君に伝えなければならないことがあると仰っていたんだ」

 

藍は紫直筆の手紙を真姫に手渡した。去ろうとする彼女を真姫が引き留める。

 

「ち、ちょっと待って!紫さんは今起こっている異変に関して把握はしてる?」

「勿論。あの方は幻想郷を愛している。知らないはずが無い」

「つまり、紫さんはちゃんと異変解決の為に動いてくれていると…。それで、ここに何が…誰がいるのですか」

 

住所と人の名前が書かれた手紙。問われた藍。真姫が質問することなど分かっていた。そしてそこにいる人物に関して情報提供する事を紫から禁止されてはいない。彼女としては見る程度の能力を扱う真姫の事を無碍には出来ないのだ。

 

「幻想郷のルールを無視し、暴れ回る厄介な妖怪を殺す。博麗の巫女ですら手を出すことが出来ないような存在を殺すには、それ相応の実力が必須。そして時には幻想郷に不利益を与える人間をも始末することになる。いわば幻想郷を守るための汚れ役」

 

誰かが背負うべき汚れを一手に引き受ける何者か。今の博麗の巫女は霊夢。霊夢も十分に強いが、それと比べられないほどに力を持ち、暴れる妖怪も少なくない様だ。無法者を退治するべく戦い続ける何者か。

 

「奴の名を鳳珠、幻想郷の禁忌たる人が妖になるという事を成してしまった大罪人だ」

 

 

 

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