幻想郷の過ごし方   作:瑠璃。

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第四節「今はまだ人間さ」

紅魔館にいる面子は嫌な気配を感じ取っていた。威圧的で、醜悪な瘴気にも近い妖気。だがその妖気からほんのり既視感を抱かざるを得ない霊力を感じつつもある。紅魔館の当主たるレミリアは目を細める。

 

「お姉さま…」

「お嬢様…」

「分かっているわ。フラン、美鈴」

 

その妖気と行動を共にしているが真姫であるなどと彼女たちは思いもしなかった。それほどまでに妖気が強すぎる、もしくは不気味過ぎるのだ。彼女たちからすれば、彼の纏う妖気は何匹もの妖怪を食らい続けて力を増幅させた大妖怪のそれと何も変わらない。警戒するのも無理は無い。

 

「手を、抜く必要は無いわ」

 

紅魔館へと歩みを進め続ける真姫と鳳珠。護衛を名乗るなら真姫より前を歩くはずだが目的地である紅魔館の事を鳳珠は知らない。ならば道を知っている真姫が前を歩くのは当然だ。真姫の妙な緊張感を察知して、鳳珠は自ら彼女と距離を詰める。

 

「俺の事、藍から聞いたんだろ。一応、今はまだ人間さ。ただ、特定の場所では俺はあの狐の姿になってしまう。力もかなり制限されるんだ」

「博麗神社以外でも?」

「後は人里だな。あそこは人間の方が圧倒的に多いから猶更力が弱る。それが俺に課せられた懲罰さ。命があるだけ、俺は良かったと思ってるけどね」

 

恐らく笑って話せるほど軽い内容では無い。真姫を謝らせないために笑って話題を軽くしようとしている。鳳珠は自分の犯した罪の事を正面から受け止めているはず。受け止めた上で殺されても至極当然の事として受け入れるだろう。例外として彼を生かす選択をしたのは他の誰でも無い八雲紫本人だ。幻想郷を誰よりも愛し、そして幻想郷を汚す全てを憎む彼女が幻想郷の掟に背いた人間に生易しい処罰では無いだろう。ならば彼女が下した例外の罰はきっと彼女が予想した異変に対抗するための選択だ。

 

「話に聞いていた通り、真っ赤な館だな。ここの当主は吸血鬼だったか」

「うん。レミリア・スカーレットさん。他にも妹のフランドール、フランちゃんと従者の咲夜さん、門番の美鈴さんと魔女のパチュリーさんと司書のこあ。咲夜さんの能力は時間を操る程度の能力。それが暴走しているから、鳳珠さんの力を借りたい」

 

真姫は当然のように門を開いて、足を踏み入れた。一瞬の出来事だった。繰り出された拳は真姫に直撃する寸前に割り込んだ掌に止められている。拳を繰り出した張本人を真姫は誰なのか知っている。割り込んだ掌が誰なのかも分かっている。

 

「その恰好、アンタが真姫の言っていた門番か」

「手強いですね…何者ですか」

 

美鈴は鳳珠を睨みつける。

 

「ちょっと待った。この人は鳳珠さんと言って―」

「騙されてはいけません。貴方の優しさに付け込み、その妖怪は貴方を操ろうとしているのですよ」

 

美鈴は真姫の言葉を受け取らず、鳳珠を警戒し続けている。門番としてのプライドか、それとも鳳珠と言う男が放つ異様な妖気を彼女が、レミリアたちが殺気として受け取ってしまったのか。体術の達人である美鈴の攻撃を意に介さない鳳珠の動きは洗練されたものだ。体術を扱う者として美鈴も格の違いを自覚する。相手は一向に攻撃を繰り出さず、受け流すか躱すか、それだけしかしない。

 

「もう、何を手こずってるの美鈴!」

「妹様!?」

 

上空にいるフランは手を広げていた。その構えを見て、真姫はハッとして声を上げる。

 

「やめて、フラン!」

「ギュッとして、ドカーン!」

 

制止を聞かずにフランは自らの能力を容赦なく振るった。ありとあらゆるものを破壊する程度の能力。簡単に人を殺せる凶悪な力。その力で簡単に人を、生物を殺せる。飛び込む真姫を巻き込みかねない行為だった。だがフランも美鈴も目を丸くする。

 

「…そうか。どうやら俺が誤解を招いてしまったらしい」

 

もしも能力が真姫に対して発動されていたら、彼女は即死。だが彼女を軽々抱き上げて、鳳珠は窓の縁に手を掛けて、ぶら下がっていた。少し勢いをつけて飛び降り、柔らかく着地すると鳳珠は真姫を降ろす。敵意が無いことを表するように両手を挙げた。

 

「俺は鳳珠。安心してくれ、敵意は無い。真姫の、彼女の護衛を担う人間だ」

「「…え?」」

 

冷水を浴びたように二人の興奮が薄れていくのが分かる。落ち着きを取り戻した二人に、そして見ていたレミリアも呼んで改めて真姫の口から鳳珠について説明した。彼は八雲紫によって命じられて真姫の護衛をすることになった事、そして彼の能力ならば咲夜の能力の暴走を止められる事。レミリアは鳳珠を睨みつけ、試すように言う。

 

「それが出来なかった場合はどうするつもりかしら」

「煮るなり焼くなり、お好きなように」

 

レミリアの放つ警戒も意に介さず、真姫の手を引いて館の中に入っていく。中も外装同様に紅に包まれている。よほど手入れが行き届いているようで目の届く範囲に埃も、掃除の眼残しも見当たらない。咲夜の家事能力の高さがよく分かる。初めて紅魔館の中に入ったはずだが鳳珠の歩みに迷いが無い。迷わず真っ直ぐ咲夜が眠る部屋の前に来た。咲夜に何かすれば許さない、そんな感情を鋭い視線と共にヒシヒシと感じながらも鳳珠は少しだけ真姫の手を包む力を強めた。

 

「俺よりも前は歩くなよ。お前がいてくれないと、彼女にも彼女たちにも納得して貰えないから」

「分かった。鳳珠さんより前は歩かない、だね」

 

信頼を表すように真姫も鳳珠の手をギュッと握り、彼の眼を真っ直ぐ見つめた。

 

 

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