現代異能からファンタジー世界へと転げ落ち、異能を授けて最強勢力を作り上げる   作:えにぐまーる

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1 異能と自由とファンタジー

 降りしきる雨が、体を叩く。

 痛む体を抑えながら、路地裏に俺はへたりこんだ。

 

『ハードロック、状況を報告せよ。繰り返す、ハードロック、状況を報告せよ』

 

 耳元のインカムから響く、無機質な機械音声。

 今すぐにでも怒鳴りつけてやりたいが、そんなことをすれば帰った後に懲罰房行きが確定だ。

 いや、すでに任務を失敗した身の上、もはや明日の命すらあるかも怪しい。

 少しくらいどなりつけても、誰も文句は言わないか。

 そう思って口を開いたが――

 

「ごほっ、げほっ」

 

 出てきたのは怒声ではなく、咳と血液。

 どうやら、俺の受けたダメージはよっぽど甚大だったらしい。

 これじゃあ、そもそも拠点に帰還できるかすら曖昧だ。

 

 ――ああくそ、帰ったら今日出た『テンムソ』の新刊を読むつもりだったのに。

 

 生存の自由を束縛され、行動の自由を制限され、ただ戦うだけの人形として扱われる俺にとっての唯一の娯楽。

 それが楽しめなかったことに後悔を覚えつつも、俺の意識は薄れてゆく。

 せめて、このジャマーさえ突破できれば、まだ異能で身体を回復させることもできるというのに。

 

 逃げたい。

 自由になりたい。

 こんなクソみたいな世界は、もう二度とごめんだ。

 

 そんな風に考えた時、不意にかすれた視界に光が差し込んだ。

 

「なん、だ……?」

『強大な空間歪曲を確認。繰り返す、ハードロック、状況を報告せよ』

 

 強大な、空間歪曲。

 光は――そこにあった。

 確かに空間を捻じ曲げているような、そんな気配がある。

 もしも、もしもだ。

 この空間の先に、なにかがあるとしたら?

 俺も想像していないような何かが。

 この世界の誰も予想もしていなかったような何かが、あったとしたら。

 

「……あ、あ」

『待て、ハードロック。空間歪曲に近づくな。繰り返す、空間歪曲に近づくな』

「そんなの――」

 

 どうせ、ここで死ぬなら。

 生き残っても、未来がないなら。

 

「お断りだ……ね!」

 

 俺は、耳のインカムを引っ掴み、放り投げてから光に手を伸ばす。

 その先にあるものが何かはわからない。

 だけど、どうしてもそうしなければ行けない気がして――

 

 気がつけば、俺の意識は光に呑まれていた。

 

 

 ■

 

 

 自由、というのは意外と手に届くところに降って湧くものらしい。

 あの光、空間の歪曲に手を伸ばした先。

 俺を待っていたのは――深い深い森の中だった。

 それまでの、無機質なコンクリートを雨が叩く世界とは一変して、生命の息吹が宿る光景。

 思わず俺は圧倒されたね。

 しかも、異能の発動を阻害するジャマーが効果を失い、負傷を治癒することまで可能になっていた。

 俺は、生き残ったんだ。

 

 ――とはいえ、そこからも結構大変だった。

 

 何せ周囲に人の気配はなく、俺はあまりこういった森林の中でミッションを遂行した経験がない。

 サバイバル経験もほとんど軽く教習で習った程度でしかなく、森に落ちているきのみのうち、どれが食べれてどれが食べれないのかもわからないのである。

 最悪、多少の毒は異能で治癒することで、ゴリ押し解決を図るしかないと考えていた。

 ただまぁ、そうして最初に食べたきのみは――なんというか、味がした。

 苦みと渋みというやつだろうか、栄養を摂取するためだけに用意された固形のペーストとは違う、本物の味。

 ああ、俺は今食事をしているんだ……と思わず涙を流してしまった。

 

 んで、森を抜けながら途中に出てきた魔物? みたいなものを倒しつつ。

 なんとか人里へと降りた。

 魔物は漫画で見たゴブリンというやつに近い見た目をしていて、動きは現代の一般人とそう変わらない。

 武装していて、それを振るうことにためらいがない点が厄介だが、流石に異能者の俺が退治できないほどではなかった。

 

 人里に降りてからも結構大変で、身なりが変だわ、手持ちの金がないわ、身分を保証してくれるものもないわ。

 現代だったら、間違いなく一般的な生活を送るのは困難を極める。

 面倒な手続きをさせられて施設に送られるか、途中で組織に実験材料として回収されるかのどちらかだろう。

 しかしこの世界は比較的おおらかなのか、一応普通に受け入れてくれた。

 多少変な奴として見られたものの、途中で狩ったゴブリンが落とした牙などを換金すれば普通に生きていくだけの貨幣を手に入れることができたのだ。

 

 そして何より大きいのは、ここが剣と魔法のファンタジー世界であるということ。

 文明レベルこそ低いが、漫画の中で何度も何度も登場した、憧れの世界。

 冒険者がいて、ギルドもあって、俺の想像するファンタジー世界そのものというか、なんというか。

 だからまぁ、楽しかった。

 本当に俺は、自分が生きているという実感を感じることができたのだ。

 

 そして気がつけば――こっちの世界にやってきて一月が経過していた。

 

 

 ■

 

 

「おい見ろよ、()()だ。あいつまだ冒険者してたんだな」

「はは、さっさと魔物にくわれてくたばっちまえばいいのにな」

 

 俺がギルドに入ってくると、これみよがしにそんな会話が聞こえてくる。

 陰口とはまた、品のない連中だなぁ。

 

「おはよう、リーシェ」

「おはようございます、ハルキさん。その……大丈夫ですか? あの人達」

「別になんともないけど……あれ、もしかしてアイツら、俺のことバカにしてるのか?」

「気づいてなかったんです!?」

 

 びっくりした。

 まさかあれが俺に対する罵倒だと思わなかったのだ。

 そもそも自分が異能者であるという自認が強いから、無能と言われてもピンと来ない。

 ていうか、何が原因で無能扱いなんだろう。

 見に覚えがない。

 それに……なんというか、あれ、罵倒としては質が低いだろ。

 

「初手人格否定から入ってこないし、過剰にストレスを与えて洗脳しようとしてないし、パワハラもしてこないからなぁ。無害なもんだ」

「パワ……なんです?」

「ああ気にしないでくれ。それじゃあ、俺いつも通り森の依頼を受けるから」

「あ、はい。……気をつけてくださいね、最近森で盗賊を見かけるらしいので」

 

 なんて話をしてから、ギルドを出て森に向かったところ――――

 

 

「……こいつらだよな、盗賊って」

 

 

 二人組に襲われたところを、反撃して制圧した。

 襲ってきたのは、似通った見た目の二人の少女だ。

 多分、姉妹なんだろう。

 ボロボロの服を着ていて、如何にも盗賊って感じ。

 女の盗賊は漫画とかだと珍しいけど、魔力があって戦闘力にあんまり男女差のないこの世界なら、そうめずらしくもないかもな。

 それにしても、女二人かぁ。

 

「……いかんいかん、つい不埒な考えがよぎってしまう」

「――別に、好きにすればいいじゃない」

 

 良からぬ妄想をしていたら、捕まえた姉妹のうち、おそらく姉と思われる赤髪の少女が俺にそう吐き捨てる。

 

「――ただしシルリの命だけは助けて。そうすれば、アタシの貞操の一つくらいくれてやる」

「お姉ちゃん!?」

「ああ、いや。別にそういうつもりはなかったんだが……」

 

 でもまぁそれはそれとして、二人の顔立ちが整ってるから考えちゃうのはしかたないよな。

 ちなみのこの二人は、アリサとシルリというらしい。

 赤い髪のアリサが姉で、青い髪のシルリが妹。

 親はおらず、スリやら盗みやらでいきてきたそうな。

 ひどい境遇だ。

 幼い頃から異能者として育てられてきた俺が言うことじゃないけどさ。

 

「というか……さっきのアンタの力はなに? 魔力も使わず、私たちをこんな簡単に制圧して」

「うーん、企業秘密かなぁ」

「何言ってるかわっかんないわよ! それにあの光はなに? アンタが力を使ったときに、粒みたいな光が溢れてた!」

「――粒みたいな光?」

 

 その言葉に、俺はふと眉をひそめる。

 俺が異能を使うときにこぼれ落ちる光の粒子?

 そんなの――一つしかないぞ。

 

「君は……エニグマが見えるのか!?」

 

 エニグマ。

 俺達が扱う異能の根底に存在する力。

 異能を行使すれば、自然と異能の周囲に散らばるものだ。

 なぜ、そんなものがこぼれ落ちるのか、理由は(エニグマ)

 そしてコレが見えるということは――

 

「……見えたわよ」

「あ、わ、私も……見え、ました」

「ああ、じゃあつまり君たちは――」

 

 

 ()()()()()()()()()()んだ。

 

 

 この世界でも、異能を発現する人間が誕生するかもしれない。

 そのことに俺は、息を呑む。

 そして何かが始まる予感を、確かに感じていた。

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