催眠でエッチなことはしない「よう実」 作:樹神法正
ということで予約投稿で朝に投稿しておきます。
さて、どうでも良い話なんですが、三国志関連の影響で、一部の語を変換しようとすると最初に変換されるのが
せいと(生徒)→成都
じょし(女子)→徐氏
りかい(理解)→李恢になります。
この小説書くときによくそうなるのでこの3つを覚えていますが、他にも何かあるかもしれません。
もしそういう感じの誤変換してたら笑ってやってください。
於夫羅とか兀突骨とかそんなんは絶対誤変換の心配無いんですけどねー。
七月一日。
朝のホームルーム前、一年Aクラスの教室では、多くの生徒たちが首を傾げながら会話を交わし、端末の画面を見せ合っていた。
「……ねえ、ポイント来てた?」
「いや、振り込まれてないな」
月初である今日は、通常であればクラスポイントに対応した額のプライベートポイントが各生徒の端末へと一斉に送金されるはずのタイミングである。
しかし、誰の端末を確認しても、今月の支給分はゼロのまま。残高に変化は見られなかった。
善人は、窓際の席からその様子を静かに眺めていた。もちろん、彼自身にもポイントは届いていない。
そんな中、担任の茶柱が教室へと入ってきてホームルームを始める。
茶柱が発表した現在の各クラスが保有するクラスポイントは以下の通りであった。
Aクラス:1053CP
Bクラス:1004CP
Cクラス:663CP
Dクラス:492CP
だが、生徒たちの関心はこの喜ばしいはずの数字の発表よりも、プライベートポイント未振り込みの件に向いていた。
「茶柱先生。今月のプライベートポイントが送金されていないのですが……」
平田が、教壇に立つ担任の茶柱へとクラスを代表して質問を投げかけた。
茶柱はいつも通りの表情のまま、ふっと息を吐き出す。
「お前たちが騒ぐのも無理はない。だが、これについては学校側の事情だ。現在、トラブルによって一年生全体のポイント送金が止まっている。近いうちに解決するはずだ。すまないが、それまでは我慢してくれ」
それ以上の追及を拒むように、茶柱はホームルームを終えて教室を去っていった。
善人は、この状況の裏で何が起きているのかを原作知識から何となく把握していた。
このポイント支給の遅れは、学校側のシステムエラーなどではない。
恐らく龍園率いるDクラスとどこかのクラスの間で暴力沙汰のトラブルが発生しており、その事実関係の調査が終了するまで、学年全体のプライベートポイントの送金が一時的に凍結されているのだ。
原作ではDクラスの須藤がその暴力事件の当事者になるわけだが、ここでは須藤が真面目になっていて原作DクラスはAクラスだ。須藤が暴力事件の当事者になっているとも思えない。
そうなるとCクラスとBクラス、どちらが狙われたのだろうか。正路は思考を巡らせるのであった。
******
翌日になると、その「トラブル」が噂となって学年中に知れ渡ることになった。
どうやらDクラスとCクラスの間で、何か問題が発生したらしい。そんな噂が各クラスへと伝播した。
お昼休み。Aクラスの教室の入り口に、少し緊張した面持ちの二人の男女が姿を現した。
一人は、Cクラスのリーダーである一之瀬帆波。ピンクブロンドの美しいロングヘアの美少女だ。今はその心優しい笑顔にどこか陰りを宿している。
そしてもう一人はその隣に立つ、Cクラスの副リーダー格である神崎隆二。クールな雰囲気の男子生徒だ。
他のクラスとも広い交友関係を持ち、教室に現れた彼女らとも面識がある櫛田は、二人に「どうしたの?」と声をかけて応対している。
善人がその様子を席から眺めていると、三人が近づいてきた。そして櫛田が少し眉を下げながら善人へと声をかける。
「善人くん、ちょっといいかな? Cクラスの一之瀬さんたちが、どうしても善人くんに相談したいことがあるみたいで……」
善人に不満を吐き出したあの夜から櫛田は、善人を名前で呼ぶようになっていた。そんな櫛田の言葉を聞いた善人は「ああ、構わないよ」と言って立ち上がり、一之瀬たちに向かい合う。
「Cクラスの一之瀬帆波です。急に押しかけてしまってごめんなさい! でも、どうしても君の力を借りたくて」
「Cクラスの神崎隆二だ。突然の訪問で申し訳ないが、一之瀬の話を聞いて欲しい」
善人は、面識の無かった二人に対して「Aクラスの正路善人だ。よろしく」と名乗ると、続けて言う。
「Dクラスとの件だろう? 詳しくは知らないが何か問題が起きているという噂程度は聞いているよ」
「うん。うちのクラスの柴田君とDクラスの生徒の間で問題が起きていて……。その、Dクラスの生徒が柴田君に怪我をさせられた、って」
そこで一之瀬は表情を暗くして少し沈黙したかと思うと、気持ちを切り替えたのか、表情を元に戻して話を続ける。
「でも柴田君は絶対に手を出したりなんてしてない。むしろDクラスの生徒に呼び出されて、ひどいことを言われたけど柴田君はそれを我慢して立ち去ったの。けど、その次の日にDクラスは学校に柴田君のせいで怪我をしたって嘘の報告をしたんだ」
一之瀬は悔しそうに拳を握りしめ、神崎もそれに同調するように言葉を継ぐ。
「Dクラス側は実際に怪我人が出ていることを盾に、一方的にこちらを加害者扱いし謝罪を要求している状況だ。勿論こちらは学校側に事実無根だと主張した。学校側は両者の主張が異なっているため、数日後に審議会を開くと言っている。現場となった特別棟の三階には監視カメラが無く、Dクラスの生徒は実際に怪我をしている。このままでは柴田が処分される可能性が高い」
「だから、事件があった日の放課後、事件現場の特別棟で何かを目撃した生徒がいないか、他のクラスにも協力を求めて探しているんだ。正路くん。君はAクラスのリーダーとしてみんなから信頼されている。だからAクラスの生徒に目撃者がいないか聞いてもらえないかな。お願いします」
一之瀬は深く頭を下げた。それに続いて神崎も頭を下げる。
善人はその様子を見ながら、冷静に考えをまとめる。
事件現場は監視カメラのない特別棟の三階。やっていないと主張する柴田。しかし、実際に怪我を負っているDクラスの生徒。恐らく診断書も学校側へと提出しているだろう。
現実に怪我をした被害者が存在し、怪我が柴田のよるものだと主張する以上、無実を証明する客観的な証拠がなければ、柴田は停学処分となり、Cクラスのクラスポイントにも影響が出る可能性が高い。
それぞれのクラスについて述べれば、一之瀬帆波率いるCクラスは団結力が高く、リーダーである一之瀬の影響を受けてか、所属する生徒たちもお人好しの傾向にあると言える。しかも、正路によって初期Dクラスが昇格した影響で今でこそCクラスだが入学時はBクラス。初期Aクラスほどではないが、いわゆる優等生に近い生徒が多いはず。そんなクラスの人間が、考えなしに自ら積極的に暴力を振るうだろうか。原作須藤のように挑発に乗って簡単に殴ることは考えにくい。
一方Dクラスは、目的のためなら手段を選ばない龍園翔が独裁者として支配する集団だ。所属する生徒も全体的に荒っぽい人間が多いように見受けられる。
恐らくDクラスから見て、一つ上のクラスであるCクラスを揺さぶりつつ、原作通りどこまでが学校側のペナルティに触れるか、どの程度の処分になるのかを確認することを目的とした龍園の策略だ。大方、龍園自身の手でDクラスの生徒に怪我をさせて、柴田にやられたと主張させているといったところだろう。目的のためなら自身の手駒くらいは平気でボコボコにする。それが原作知識で知っている龍園翔という男だ。
実際、善人の推測は当たっていた。
龍園は、Dクラス所属のサッカー部員である園田を使って柴田を特別棟へと呼び出させ、そこで待ち構えていた別の生徒たちに一之瀬やCクラスを侮辱させて柴田を挑発。耐えかねた柴田が立ち去ろうとしたところを数人で取り囲み、柴田が軽く押しのけて通ろうとした瞬間にわざと大げさに転倒。そしてその後、龍園が彼らを突き飛ばし「柴田に突き飛ばされて負った怪我」を偽造したのだった。
善人は、Cクラスを助けて友好関係を築くメリット、Dクラスの卑劣な行為を許すわけにはいかないという思い、また今後Dクラスの同様の行為を抑えるためにもCクラスに協力することを決めた。
「分かった。Dクラスについては、あまり良くない噂も耳にするからなぁ。彼らなら自作自演で冤罪をふっかけてくる可能性は十分に考えられる。一之瀬さん、君たちを信じよう。クラスメイトにその日の放課後に特別棟で揉め事を目撃しなかったか、俺から聞いてみる」
「本当……!? ありがとう、正路くん! 本当に助かるよ!」
一之瀬はぱっと表情を明るくし、救われたような笑顔を見せた。
神崎も「感謝する」と短く一礼する。
「一之瀬さん。私にも手伝えることがあったら何でも言ってね!」
櫛田も横から調子を合わせて微笑んだ。
一之瀬たちが教室を去っていったあと、善人は脳内で原作知識を思い返していた。
(須藤の暴力事件では……放課後に須藤と原作Cクラスの小宮たちが揉めている特別棟三階の現場を、偶然目撃していた人物がいたはずだ)
それは、人目を避けるように、クラスでも目立たないようにしている少女。
――佐倉愛里。
彼女はお気に入りの風景や自身の姿を撮影するために、放課後は敷地内の様々な場所を巡っているようだった。
もし原作と同じように行動していたのならば、現場にいた柴田とDクラスの生徒の姿をたまたまカメラに捉えていたり、その一部始終を目撃していたりするかもしれない。
善人は「佐倉に確認を取る必要があるな」と考える。同時にもう一つの「懸念」が頭の中に浮かび上がった。
原作において、佐倉はこの時期、学校生活の裏で極めて深刻な危機に直面していたはずだ。
彼女は雫という名のグラビアアイドルとして活動しており、その熱狂的なファンである男から、ストーカー行為を受けていた。
男はこの学校の敷地内にあるケヤキモールで働いており、佐倉の姿を見て雫だと気がついたその日からストーカーをしているのだ。
(その件を先に解決しなければ、彼女はストーカーの恐怖で証言どころではないはずだ)
すべての方針は決まった。善人はその日の放課後に早速、行動を開始することにした。
******
静まり返った一年生の女子寮。
善人は、あらかじめ調べておいた佐倉の部屋の前に立っていた。
インターホンを鳴らすと、しばらくの沈黙の後、内側から恐る恐るドアチェーンを外す音が響き、扉がわずかに開いた。隙間から顔を覗かせたのは、大きな眼鏡をかけ、顔を隠すように俯く、地味な少女――佐倉愛里であった。
「あ……え、と……正路、くん……?」
佐倉は、クラスのリーダーとして活躍する華やかな存在である善人が、なぜ自分の部屋を訪ねてきたのか全く理解できず、半ばパニックに陥っていた。その身体は微かに震えており、対人恐怖症の兆候が見て取れる。
「いきなり訪ねてすまないな、佐倉。少し、君に折り入って話したいことがあるんだ。……立ち話もなんだから、中に入れてもらえないだろうか。とても重要な話なんだ」
「え……? 重要な話……?」
佐倉はさらに顔を青ざめさせたが、優しくかけられた善人の言葉になぜか抗うことができず、蚊の鳴くような声で「は、はい……どうぞ……」とドアを開け、善人を招いた。
女子高生にしては地味な部屋。そこに案内されるまでに、善人は玄関で郵便受けをチラッと確認していた。手紙か何かが大量に入っていた様子だったので、アレが恐らくストーカー被害の一部だろう。
善人は勧められたクッションに腰を下ろし、正面で縮こまっている佐倉を見つめた。
「単刀直入に聞くけど……。佐倉は今、誰かに『ストーカー』されているってことで合ってる?」
「――ッ!?」
佐倉の息が、完全に止まった。彼女は信じられないものを見るかのように目を見開き、両手で自身の肩を抱きしめるようにして、激しく震え出した。
「ど、どうして……それを……。私、誰にも、言ってないのに……」
善人は無言で自身の端末を取り出し、画面を彼女に見せた。そこにはグラビアアイドル「雫」のブログが開かれていた。そしてスクロールされたコメント欄には、彼女に対する異様なまでの執着を見せるコメントがいくつも並んでいた。
『僕たちは運命の赤い糸で結ばれているんだ』『今日も君の姿を見つけたよ』『僕だけの雫――』
その背筋が凍るような粘着質な書き込みの数々。
「これを見たんだ。たまたま、佐倉がグラビアアイドルの雫だと気づいてな。それでブログを開いてみたらこんなコメントを見つけてさ。明らかに佐倉の生活圏内にまで侵入していると考えた。……最近、いつも怯えるように周囲を気にしていた理由も、これで合点がいった」
「あ……あ、あ……」
佐倉は自身の最大の秘密である「雫」としての活動がバレていたこと、そしてストーカー行為の被害を完璧に看破されたことで、涙目になりながら頭を抱えた。
「私……私、どうしたらいいか分からなくて……。誰にも相談できなくて……!」
「大丈夫だ、佐倉。俺が来た以上、もう一人で怯える必要はない。君の身の安全は保証する。俺が必ず何とかして見せる」
善人は佐倉を安心させるように極めて穏やかな声で彼女に語り掛け、その恐怖を包み込んだ。
佐倉は、その温かい言葉に、砂漠でオアシスを見つけた遭難者のように縋り付くような視線を向けた。
「ほ、本当に……? でも、どうやって……」
「まずは相手を特定する必要がある。佐倉、ストーカーだと思われる人物に心当たりはあるかな?」
佐倉は涙を拭いながら、必死に言葉を紡いだ。
「……多分、あの人です。ケヤキモールの中にある家電量販店の店員さん……。私が以前、カメラを購入したときにずっと見てきて……。すごく、気持ち悪い笑顔で……。その日からずっと……」
「量販店の店員か。名前は分かるかな?」
「いえ、そこまでは……。でも、顔を見れば、すぐに分かります……」
善人は首を縦に振って大きく頷いた。
「よし。なら明日の放課後、俺と一緒にケヤキモールへ行こう。佐倉は少し離れた場所から、その男を指し示してくれればいい。相手の顔さえ分かれば、あとは俺が全て片付ける」
「えっ……でも、正路くんにそんな危険なことをさせるわけには……! もし、あの人が逆上して、正路くんに何かしたら……」
佐倉は自身の恐怖よりも先に、自分を助けようとしてくれる善人の身を案じた。その健気な姿に、善人は内心で深い感銘を受ける。
「心配いらない。俺を信じて、明日ついてきてほしい」
善人が佐倉の小さな手を、そっと両手で包み込んだ。その手の温もりに佐倉の頬がぽっと赤く染まる。
「……はい。正路くん。よろしくお願いします……」
蚊の鳴くような小さな、しかし確かな信頼の籠もった返事。
――こうして、ストーカーを排除する前準備は整った。
******
翌日の放課後。ケヤキモール内の家電量販店。
平日ということもあり、店内はまばらで数人の客しかおらず、店内には量販店のテーマソングが流れていた。
店舗の入り口近くの商品棚の裏。善人は自身の影に隠れるようにして立つ佐倉を伴って、店内の様子を窺っていた。
「佐倉。見える範囲に例のストーカーはいるかい?」
佐倉は震える指先で、テレビコーナーの近くに立っている、冴えない風貌の男性店員を指差した。名札には「楠田」と書かれている。
あの男がストーカーで間違いないらしい。
「あ……あの人です」
「分かった。よく頑張ったな、佐倉」
善人は彼女の肩に優しく手を置き、安心させるように柔らかい声で言った。
「佐倉は今から、近くにあるカフェで温かい飲み物でも飲んで待っていてくれ。今からストーカーと直接、話をつけてくる」
「で、でも……!」
「大丈夫だ。俺を信じてくれ」
その有無を言わせぬ強い瞳に、佐倉は小さく頷き、善人に促されてカフェへと移動していった。
一方、残った善人は自身の制服の襟を整えて気合を入れ、真剣な表情をただの買い物客のものへと切り替えて、量販店の奥へと足を踏み入れていく。
ターゲットである楠田はテレビ売り場から移動して、客のいないコーナーで暇そうにボーッとしていた。善人はその背後から、極めて自然な足取りで近づき、声をかける。
「すみません。ちょっと商品のことでお伺いしたいんですが」
「あ、はい! いらっしゃいませ、何でしょうか……」
楠田が愛想笑いを浮かべて振り返った。その瞬間、新たに善人から言葉が投げられる。
「『よく聞け』」
楠田の瞳から一瞬にして光が消え去り、その表情が完全に凝固した。
「……あ、え……」
「いいか、楠田」
善人は他の客が周囲にいないことをあらためて確認し、静かに、しかし冷徹な声で暗示を囁き始めた。
「お前はグラビアアイドル『雫』として活動している佐倉愛里に対して、極めて悪質なストーカー行為を行っている。その事実にお前の良心は今、猛烈な罪悪感で押し潰されそうになっている」
「……あ……僕は……なんて、ことを……」
催眠の強制力により、楠田の脳内で強烈な自己嫌悪と罪悪感が急速に肥大化していく。その額から冷や汗が流れ落ち、呼吸が荒くなる。
「そうだ。お前のしていることは卑劣極まりない犯罪だ。お前は今すぐその醜く愚かな行為を完全に辞めなければならない。そしてストーカー行為の証拠となるものを全て持って、今すぐ警察署へと出頭し、自首するんだ。いいな」
「じ、しゅ……警察に……」
「そうだ。それだけじゃない。これからのお前は過去の過ちを深く反省し、あらゆる犯罪や卑劣な行為を心から嫌悪する。極めて真面目で勤勉に労働し、社会貢献や人助けに喜びを感じる素晴らしい人間へと生まれ変わる」
善人は最後に彼の目の前で、静かに指を弾いた。
パチン。
「ハッ……!?」
楠田が意識を取り戻した瞬間、その目からは大粒の涙が溢れ出していた。彼の脳内は、善人によって植え付けられた強烈な罪悪感と、それを清算するための自首への衝動、そして社会への奉仕精神で完全に埋め尽くされていた。
「僕は……僕はなんて酷いことをしていたんだ……! 雫ちゃんをあんなに怖がらせて……! 許されない、こんなことは絶対に許されないんだァッ!!」
楠田は突然、自身の頭を抱えて叫び声を上げた。
「楠田くん? どうしたの?」
遠くのレジにいた他の店員が不審そうにこちらを見たが、楠田はそれすらも耳に入らない様子で、自身のポケットからスマートフォンを取り出し、バックヤードへ向かって走り出した。
「今すぐ自首しなきゃ……! 警察に行って、僕の罪を全部吐き出すんだ! そして、これからはゴミ拾いをして、募金をして、僕は生まれ変わるんだぁぁぁッ!!」
狂ったように叫びながら、楠田は量販店の出入り口を出て、モールの外へと全力疾走で消え去っていった。残された店員たちは、呆然とその後ろ姿を見送るしかなかった。
「……少し効きすぎたかな?」
善人は小さくかぶりを振ると、「まあいいか」と何事もなかったかのように店を後にした。
こうして、佐倉愛里を脅かしていたストーカー男は、犯罪を憎み社会に奉仕することに喜びを覚える、真面目で勤勉な人間へと生まれ変わった。
******
窓際の席で、冷め始めたココアのカップを両手で握りしめ、佐倉愛里は生きた心地のしない時間を過ごしていた。
(正路くん、大丈夫かな……。私のせいで、何か危ない目に遭ってたら……。警察を呼んだ方が良かったのかな……)
不安と後悔で押し潰されそうになっていた彼女の前に、不意に影が落ちた。
「待たせたな、佐倉」
聞き慣れた、どこか心地よく安心できる声。見上げると、そこにはいつも通りの涼しげな表情を浮かべた善人が立っていた。
「正路くん……! 無事、だったの……? あの、店員さんは……」
「ああ、もう心配いらない。彼とは少しばかり『話し合い』をしてきてね。彼は自分の行いを深く反省していた。今頃は警察に自首しているはずだ。佐倉に近づくことも、つきまとうことも二度とない。もう大丈夫だ」
「え……? じ、自首……?」
あまりの急な展開に、佐倉は一瞬、理解が追いつかなかった。
だが、善人のどこまで真剣で嘘偽りのない瞳を見つめているうちに、自分が毎晩枕を濡らして怯え続けていた地獄の日々から本当に解放されたのだという実感が、じわじわと染み渡ってきた。
「本当に……? もう、怯えなくて、いいんですか……?」
「ああ。これからはストーカーに怯える必要はない。思う存分、趣味のカメラで好きな場所で好きなだけ写真を撮ればいい。……頑張ったな、佐倉」
善人が優しく彼女の頭に手を置き、その柔らかな髪を撫でた。その瞬間、佐倉の瞳から、堰を切ったように涙が溢れ出した。
「う……あ、ああ……っ、うわぁぁぁん……!」
彼女はカフェの中であることも忘れ、善人の制服に顔を押し当てるようにして、大声を上げて泣きじゃくった。
誰にも言えず、たった一人で耐え続けてきた恐怖。それが、目の前の正路善人という救世主によって、一瞬にして消し去られた。
彼女にとって、善人はもはや単なるクラスメイトではなく、自身を救ってくれた恩人となったのだ。
「あの子、大丈夫か……?」
「おい見ろよ、あの男、女の子を泣かせてるぞ……」
周囲の事情を知らない一般の客や店員たちが、冷たい、あるいは不審げな視線を善人へと向けている。
しかし、善人はそんな視線を完全に無視し、ただ優しく、佐倉が泣き止むまでその小さな肩を抱き寄せ、あやし続けた。柴田の件はまた明日にして、今日は佐倉の面倒をしっかり見ようと考えながら。
佐倉の趣味について何も聞いてないのにポロっと言ってしまう、うっかりオリ主くん。佐倉がそれどころじゃなくて全く気づいてないのでセーフ!!
流石にそろそろ毎日更新が厳しかったので(現に間に合ってないし)、今後は無理のない範囲で頑張りたいと思います。
評価や感想はモチベになるので随時受付中!!
他の人に見られる感想を書き込みに行く勇気が出ないなぁという方は、評価だけでも是非!
ちなみに、0~10まで全部の評価値をコンプしたぞ!!(0は別に嬉しくないですが笑)
モチベを……高評価をください……(欲張り)。
既にくださっている方々には感謝。