催眠でエッチなことはしない「よう実」 作:樹神法正
やっぱりこういうのは嬉しいですね。皆さんに感謝!
本当に嬉しくて小躍りしてますw
評価や感想もモチベになってます。
ということで、もっとくれ(欲張り)
さて、今日の犠牲sy……オリ主に感化されるのはこの方!
クラスポイントが最も多いクラスのみがAクラスとして好きな進路を選んで卒業できるという、この学校の真の姿が判明した五月一日から一週間と少しが経ったある日のこと。
俺――正路善人は、放課後の廊下を一人、静かに歩きながら思考を巡らせていた。
脳裏にあるのは、近いうちに実施されるであろう最初の大きな関門、すなわち「一学期中間テスト」についてだ。
あの日、担任の茶柱佐枝が教室の教壇で、告げた言葉が耳に残っている。
『我がクラスは現在、Aクラスという地位にいる。だが、調子に乗るなよ。直近で行われる筆記試験において、各科目のいずれか一つでも「赤点」を取った時点で、その生徒は退学処分となる』
退学処分。それも赤点を一つでも取っただけで一発だ。本来の歴史であればDクラスのメンバーはその言葉を聞いて、驚きと焦りで大騒ぎしていた。
俺は説明を聞き、念のため全クラスメイトの点数を記録し、平均点を算出してみた。その結果、赤点の基準は原作と完全に同じ。『各科目ごとにクラス平均点÷2』、それが退学になるか否かを分ける赤点ラインとなる。
(……まあ、今のうちのクラスなら、普通にしていれば赤点を取る心配なんて万に一つも無いはずだが)
俺の口元に、自然と笑みが浮かぶ。何しろ、山内や池、須藤といった、本来なら学年最底辺の学力で足を引っ張りまくるはずの人間でさえ、俺の『絶対催眠』の暗示によって、今や毎日ノートを几帳面に取り、放課後には自ら進んで参考書と向き合う優等生へと変貌を遂げているのだ。
クラス全体の学力は、間違いなく高い水準を維持している。普通に試験に臨めば、全員が低く見積もっても60点以上は叩き出し、赤点などという概念とは無縁のまま通過できるだろう。
だが、それでも――念には念を、だ。
「やるからには、全力を尽くすべきだ。油断は大敵だからな」
万全のうえにも万全を期す。それが、この学校でトップを維持し続けるために必要なことだろう。ならば、取るべき手段は一つしかない。
原作において綾小路が用いたのと同じ方法――すなわち「上級生から過去問を譲り受け、クラス全員で共有する」という裏技だ。
原作では、最初の小テストと中間テストは毎年同じ問題が出されており、小テストの最後の三問の異様な難易度や中間テスト説明時の茶柱のセリフといった散りばめられたヒントから、綾小路はその事実に気づいていた。綾小路のように過去問を手に入れて過去二年分の内容が同一ならば、原作通りだと考えていいだろう。
仮に原作通りでなかったとしても過去問で試験問題の傾向を知ることはできる。
問題は、誰に声をかけて過去問を貰うか、ということだった。
現在、俺たちのクラスは一ヶ月で最底辺からトップへと駆け上がったことで、学年中から良くも悪くも注目を浴びている。適当な先輩に声をかけて怪しまれたり、僻みか何かが原因で偽の過去問を渡されたりしても面倒だ。信用できる上級生から確実に手に入れたい。
「うーん……誰がいいか……」
そんなことを考えながら、あてもなく校舎を歩いていると、いつの間にか周囲の喧騒が消え、静まり返ったエリアへと足を踏み入れていた。ふと目の前の一角に視線をやると、そこには重厚な扉と、掲げられた『生徒会室』のプレートが静かに佇んでいた。
(おっと、いつの間にか生徒会室の近くまで来てしまったか……)
俺はその場に立ち止まり、顎に手を当てて考え込んだ。優秀な生徒が役員をしている生徒会。信用できる生徒から過去問を譲り受けるという意味では、これ以上ないほど確実な場所と言える。
(いっそのこと、現生徒会長である堀北学に直接交渉するのもアリか……? ポイントは高くつくかもしれないが、生徒会長とのコネクションも手に入れられるかもしれない)
そこまで思考を進めた、その時だった。
「――おい。そんなところに突っ立って、一体どうしたんだ?」
背後から、妙に耳に心地よい、だがどこか自信と傲慢さに満ちあふれた、軽薄な声音が降ってきた。
******
俺は思考を中断し、ゆっくりと振り返った。そこに立っていたのは、端正な顔立ちを崩さぬまま、制服を少し着崩した一人の上級生だった。他人を値踏みするような不敵な笑みを浮かべた男。
「見覚えが無いツラだな。……一年生か」
俺は一瞬で、その男の正体を思い出した。前世の記憶、原作知識が脳内で激しく火花を散らす。間違いない、この学校の二年生全体を完全に支配下に置いている人物。生徒会の副会長を務める男。
その名は――
(……なんだったかな、名前。北斗じゃなくて、青空でもなくて……)
その男の「名前」だけが、ふっと頭から抜け落ちて、どうしても思い出せなくなってしまった。なんというか、こう、喉元の辺りまでは出ているんだが……。思い出せそうで思い出せないこの感覚。端的に言えば、いわゆるド忘れというやつだ。
「えーっと……」
俺はあえて、素直に首を傾げて、少し申し訳なさそうな表情を作ってみせた。変に誤魔化すよりも素直に聞いてしまったほうがいいだろう。入学してまだ一ヶ月の一年生ゆえの無知だと理解してくれるはずだ。もしかするとプライドの高そうな男の自尊心を傷つけるかもしれないが。
「副会長の……すいません。誠に失礼ながら、お名前を失念してしまいました。副会長だということは存じ上げているのですが……」
俺がそう尋ねると、男は一瞬、呆気にとられたように目を見開いた。しかし、すぐにいつもの不敵な笑みを取り戻し、やれやれといった様子で肩を揺らした。
「おいおい、この学校に入学しておきながら、生徒会副会長の名前も覚えて無いのかよ。ものを知らない一年生だな。まあ、仕方が無いか。まだ入って一ヶ月そこらじゃ、上級生のことまで頭が回らないのも無理はない」
男は一歩、俺との距離を詰めると、自身の胸元を親指の先で軽く示して見せた。
「俺は
(――そうだ、南雲雅だ)
脳内の霧が一気に晴れ渡り、ピースがカチリと嵌まった。どうしても思い出せなかったものが何かわかったときのあの独特の爽快感が体を駆け巡る。
そう、二年の全クラスを実力で統一し、堀北学とこの学校のあるべき姿を巡って対立する、南雲雅。
「すいません、南雲先輩」
俺はすぐさま、至って礼儀正しい一年生の態度を取り、深く頭を下げた。
「自分は一年Aクラスの、
「正路、善人……? ほー」
南雲は俺の名前を口の中で転がすように呟くと、その細い目をさらに細め、獲物を見つけた肉食獣のような鋭い光を宿らせた。
「お前が正路か。……なるほどな、何でも今年の一年は、入学からわずか一ヶ月でDクラスがAクラスへと一気に昇格したらしいが、そのクラスの中心人物の一人がお前だって噂は、俺の耳にも届いてるぜ。たいしたもんだ。今、学校中の上級生の間でも、その前代未聞のジャイアントキリングの話題で大騒ぎだからな」
「いえ、自分だけの力ではありませんよ。クラスの皆が優秀だった、それだけのことです」
俺がいつものように謙虚な回答を返すと、南雲は「俺はそうは思わないがな」と、面白そうに唇の端を吊り上げた。
「まあいいさ。それで、話を最初に戻すが……お前は一体どうして、生徒会室の前で彫刻みたいに突っ立ってたんだ? 生徒会室の前にいたんだから何か用があるのは見当がつくが」
南雲の問いかけに対し、俺は思考を高速で回転させた。
(南雲雅……。この先輩から過去問を貰うというのも一つの手だな。一年の時に過去問の裏技に気づいて、当時の二年生と三年生から過去二年分の問題を入手していてもおかしくない。それにもし、本人が持っていなかったとしても二年の支配者である南雲なら、過去問のデータなんて簡単に手に入れられるはず)
そうなるとポイントをどれくらい要求されるかが問題となるが……そこは交渉次第だろう。
それと先ほど俺は、南雲雅という男のことをもう少し詳しく思い出していた。
この先輩は非常に優秀な男でありながら、その内面は極めて歪んでいる。特に、女癖が非常に悪く、気に入った女は手に入れなければ気が済まないという性格で、権力とカリスマ性を利用して女遊びを激しく繰り返しているという、なかなかに質の悪い男だったはずだ。念のためそれが本当かどうか確かめておくべきだろう。
俺は南雲の目を真っ直ぐに見つめ返し、少しだけ声音を落として、あえて不躾とも言える質問を切り出してみた。
「南雲先輩。……大変不躾な質問で恐縮なのですが、先輩が……その、学内の非常に多くの女子生徒と派手に付き合われているという噂を小耳に挟んだことがあるのですが、それは事実なのでしょうか?」
静まり返った廊下に、俺の言葉が小さく響き渡った。普通の一年生であれば二年の最高権力者に対して、このような無礼な質問など口が裂けても言えないだろう。
南雲は一瞬、驚いたように眉を跳ね上げたが、すぐに顔全体に呆れたような笑みを浮かべた。
「おいおい……俺の名前すらさっきまで知らなかったくせに、なんでそんな噂だけはピンポイントでしっかり知ってんだよ、お前は」
南雲はやれやれとため息をつきながらも、特に怒る風でもなく、むしろ自分のモテっぷりを誇示するかのように、気怠そうに壁に背を預けた。
「まあ、否定はしねえよ。事実、俺の周りには常に女が絶えないからな。だがな、一年坊。お互いが納得して、同意の上で楽しく遊んでるんだ。誰に迷惑をかけてるわけでもねえ。他人のプライベートな領域だ。部外者の一年にどうこう口を挟まれる筋合いはねえぞ?」
どうやら原作通りの素行のようだ。本人は同意の上と言っているが、策略で相手を窮地に陥れ、そこを救うことで女を手に入れようと画策する人間だ。女遊びを堂々と自慢し、女をアクセサリーか何かだと思っている男を、そのまま放置しておくわけにもいかない。
それに、さきほど南雲雅という名前を聞いて、幾ばくかの詳しい情報を思い出した瞬間、彼の側に寄り添い、彼の行いに心を痛めていた、一人の上級生の存在も頭に思い浮かんでいた。
二年Aクラスの、朝比奈なずな。彼女は南雲と親しい間柄であり、彼の歪んだ内面を理解し、心配していた数少ない良心的な存在だ。
俺は一歩、南雲の方へと歩を進めた。そして脳内で催眠のスイッチを入れて、彼の瞳の奥のさらに深淵へ届かせるように言葉を紡いだ。
彼の端正な顔立ちが、一瞬にして凍りついたように硬直する。南雲の自信に満ちあふれていた瞳から、急速に光が失われ、完全なトランス状態に移行した。
俺は彼の脳細胞の一つ一つに直接刻み込むように命令した。
「南雲先輩。あなたは今この瞬間から、これまでの不誠実で下劣な女遊びに興味を失う。むしろ複数の女子生徒と遊び半分で関係を持つことに、激しい嫌悪感や罪悪感を抱くようになる。これから女性と恋愛するときは、一人の女性に対してだけ、どこまでも誠実に一途な愛情を持って真剣にお付き合いするように。そして恋愛対象としてかどうかはともかく、少なくとも一人の友人として『朝比奈なずな』を大切に扱うこと。……あ、それとついでに。この学校の最初の一年中間テストの過去問をもらってもいいですか?」
「……っ……」
南雲の唇が、細かく震えた。彼の強固な自意識とプライドが、俺の絶対催眠という抗えない濁流の中で再構築されていく。
「……女遊びはやめる……誠実……なずな……過去問……」
彼の口からうわ言が漏れ出る。俺は彼の顔の横でパチンと指を鳴らした。
******
「――っは」
南雲先輩がハッと息を吹き返し、その瞳に鋭い光が戻ってきた。だが、その光の質は、少し前までの軽薄で傲慢なものとはまるで異なっていた。どこか、自らの内面に生じた「劇的な変化」に戸惑いつつも、一本の強固な芯が通ったような、誠実な大人の男としての落ち着きが宿っていた。
南雲先輩は一度、自らの額を大きな手で覆い、それから不思議そうな目で俺を見つめた。
「……フゥ、なんだか急に頭がすっきりしたな。……ああ、そうだ。正路、お前、一番最初の中間テストの過去問が欲しいんだったな?」
「ええ、南雲先輩。もしよろしければ、譲っていただけると非常に助かるのですが」
俺が至って平然と答えると、南雲先輩はポケットから自身の端末を取り出し、滑らかな手つきで画面を操作し始めた。
「いいぜ。過去三年分のやつがある。あとでデータで送ってやるから、お前の連絡先をよこせ」
「ありがとうございます。あ、そうだ。ついでに小テストのほうもいただけますか?」
「はっ、ちゃっかりしてんな。いいぜ、おまけしといてやるよ」
「……それでポイントはいくらになりますか?」
原作でもポイントで譲り受けていたのだ。当然、対価は支払うべきだろう。
だが、南雲先輩はフッと大人の余裕を感じさせる、どこか清々しい笑みを浮かべて首を横に振った。
「ポイント? そんなものは必要ない。お前は噂通り、いや噂以上に面白くて見込みのありそうな一年だからな。ちょっとした投資……いや先輩としてのサービスだ。ただでくれてやるよ。ポイントには困ってないんでな」
「それはとてもありがたいです。ありがとうございます、南雲先輩」
無料で貰えるとは思っていなかったが、本人がそれでいいと言うのなら遠慮する必要もないだろう。
俺は頭を下げて、ありがたく好意を受け取り、自身の端末を取り出して彼と連絡先の交換をした。内心で大きな成果に満足していると、南雲先輩は端末をポケットにしまい、背後の生徒会室の扉に手をかけた。
「よし、用件は済んだな。で、正路、お前は元々こんな場所にいたんだ。他にも何か生徒会室に用事があったんだろ、生徒会役員への立候補か? 堀北先輩もそろそろ来るはずだ。せっかくだから、お前も中に入れよ。俺が紹介してやるぜ」
南雲先輩は親切心から、俺を生徒会室の中へと誘ってきた。確かに、生徒会長である堀北学とここで面識を持っておくのも、今後の展開としては悪くないかもしれない。
だが、俺は少しだけ考え、すぐに丁重に首を振ることにした。
「いえ……自分は元々、生徒会役員のどなたかに過去問の件を交渉しようと思って立ち止まって考えていただけですので。南雲先輩のおかげで当初の目的はこれ以上ない形で達成されました。お誘いは大変嬉しいのですが、自分のような一年生がこれ以上、南雲副会長や堀北会長の貴重な時間を奪うのも申し訳ありません。ですので自分はこれで失礼させていただきます」
俺はそう言って、南雲先輩に対してこれ以上ないほど綺麗な礼をしてみせた。
「そうか。まあ、お前がそう言うなら無理強いはしないさ」
南雲先輩は特に不愉快そうな様子も見せず、むしろ俺の礼儀正しさに感心したように頷いた。
「じゃあ、過去問のデータは後で送るから確認しておけよ。何かあれば、さっき交換した連絡先にメッセージを飛ばしてこい。……ああ、そうだ。後で話をしに、なずなのところに行かなきゃな」
南雲先輩はどこか、照れくさそうに、しかし非常に決意に満ちた表情でそう呟くと「じゃあな、正路。これからのお前の活躍に期待してるぜ」と言い残し、生徒会室の扉を開けて中へと入っていった。
そんな彼の後ろ姿を見送りながら、俺は深い笑みを浮かべた。南雲先輩の悪癖を矯めることができたし、過去問も手に入った。喜ぶべき完璧な成果だ。
俺は手元の端末の連絡先に新しく加わった南雲先輩の文字を眺めながら、軽やかな足取りで夕暮れ時の廊下を歩き出すのだった。
******
翌日の放課後。一年Aクラス(旧Dクラス)の教室にて。
「――みんな、静かに聞いてくれ」
俺が教壇の前に立ち教室全体を見渡すと、クラスメイト全員の視線が一斉に俺へと集中した。全員が俺の言葉を聞き漏らすまいと真剣な瞳で見つめている。
「近いうちに行われる一学期中間テストについてだが、過去問を手に入れてきた」
「過去問?」
クラスの誰かから疑問の声が聞こえる。
「ああ。この学校のテストは、過去の試験と問題の傾向が酷似しているという情報を得ている。印刷して持ってきたから一人ずつ受け取って欲しい」
過去問を受け取った平田洋介が感動に震える声で呟いた。
「すごいよ、正路くん……! これがあれば、出題傾向を把握できる。これを使って対策すれば赤点を回避するどころか、クラス全員で学年最高得点を目指すことも夢じゃない!」
「ええ、その通りね。急に茶柱先生にテスト範囲の変更を告げられたときはどうしたものかと思ったのだけれど、これなら何とかなるかもしれないわ」
堀北鈴音が誇らしそうにそう言った。彼女の瞳には俺への信頼と尊敬の念が美しく輝いている。
「さすがは正路くんね。私たちが気づかないうちに、過去問を入手してくれているなんて。あなたの先見の明と行動力には、本当にいつも驚かされるわ」
「みんなが俺の言葉を信じて、必死に勉強を頑張ってくれているからな。同じクラスの仲間として、これくらいのサポートをするのは当然だ」
俺が爽やかに微笑むと、櫛田を皮切りに軽井沢や篠原、それ以外のクラスの女子たち男子たちからも、「正路(くん)、ありがとう」と感謝の言葉が次々とかけられた。
「よし、過去問の傾向に合わせた勉強会を、今日から毎日放課後に実施する。勉強が得意な面々で手分けして全員の学力を引き上げるぞ。誰一人として脱落者は出さない。このAクラスの牙城を三年間絶対に守り抜こう」
「「おおおおおっ!!」」
クラス全員の、地を揺るがすような力強い咆哮が教室に響き渡る。もはや、このクラスに「不良品」などという言葉は存在しない。
俺は教壇の上から、過去問を使った勉強に取り組み始めた仲間たちの姿を眺めながら、内心で悦びに浸るのだった。
流石は南雲パイセン! 後輩に親切で優しいぜ!
こんな理想の先輩、憧れちゃうな―。
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