催眠でエッチなことはしない「よう実」   作:樹神法正

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①自分の端末で書いてハーメルンのフォーム上にコピペ。
②ハーメルンのフォーム上で誤字を見つけて、フォーム上で修正して投稿。
③その修正を端末側のテキストに反映するのを忘れる。
④翌日以降に端末側で全体的に細部を修正する(誤字は修正済みの認識なのでそのまま)
⑤修正したものをハーメルンのフォーム上に全コピペして中身総入れ替え。

この手順によって、一度修正した誤字を復活させることができる!!

あと、他に修正時に置換した文字を勢い余って一か所置換しなくていい部分まで置換してたり、確かに『』ついてないと、これは誤字に見えちゃうか……という感じのもありました。
今度こそ忘れずに端末側のテキストファイルとハーメルン上のを完全に一致させておくんだ……。

誤字報告ありがとうございました。
……やらかしてるの全く気づいてませんでした。誤字報告いただいて、「あー!!」って。
こういうポカをやらかす作者なので、今後も温かく見守ってください……。


ストレスの行方

 

 ケヤキモールのカラオケ店。特大のパーティールーム。

 照明が落とされ、きらびやかなレーザーライトが室内を交差する中、Aクラスの生徒たちは大はしゃぎでマイクを回し合っていた。

 

「よっしゃー! 次は俺の番な!」

 

「ちょっと山内、下手くそなんだから歌わないでよー!」

 

 騒がしい空間の中で、櫛田桔梗は八面六臂の活躍をしていた。

 部屋全体を盛り上げ、曲の合間にはタッチパネルを操作してフードの注文を素早くこなす。グラスが空きそうな生徒がいれば、自ら進んで「次、何飲む? 持ってくるね」と優しく声をかける。

 

 男子生徒から頼まれれば、少しも嫌な顔をせず、むしろ嬉しそうにマイクを握る。

 

「ねえ、櫛田ちゃん! 一緒にデュエット歌ってよ!」

「あ、いいよ! 何の曲にする?」

 

 ドリンクバーから何人分ものドリンクを運んできて、クラスメイトに配る。

 

「あ、幸村くん! 飲み物、ウーロン茶で良かったよね?」

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

「ううん、みんなが楽しんでくれるのが、私にとって一番嬉しいから!」

 

 そう言って笑顔を見せる櫛田。

 

 彼女は打ち上げを盛り上げるために献身的に、そして精力的に動き回っていた。

 これほどまでに完璧な気配りができる女子高生が、この世に何人いるだろうか。

 

 善人は、代わる代わる話しかけてくるクラスメイト達に応答しながら、そんな彼女の姿を観察し続けていた。

 彼には、彼女がその笑顔の裏側でため込んだストレスを爆発させ、精神の壁を崩壊させていくビジョンが見えていた。

 原作知識がなければ、善人も彼女のこの可愛らしい仮面に騙されていたかもしれない。だが、裏の顔を知っている身として、この完璧な気配りが彼女自身の精神を犠牲に作り出している虚像であることを理解していた。

 

 櫛田桔梗は人一倍、承認欲求が強い。誰よりも特別な、一番でなければ気が済まない。

 しかし現実には、どれだけ努力しても勉強や運動で絶対に勝てない存在が世界には存在する。その現実と自身の欲求の妥協点として彼女が行き着いたのが「誰からも好かれる、人付き合いでの一番」という地位だった。

 そのためには他人の前で、常に完璧な天使の仮面を被り続けなければならない。その代償として彼女に蓄積されるストレスは、常人の許容量を遥かに超えている。かつて彼女が中学時代にクラスを完全崩壊させたのも、積もり積もったストレスによる行為がきっかけだった。

 

 原作では櫛田の苛立ちを加速させる要因として、池や山内といった愚かで下品な男子生徒の存在があった。

 だが、この世界では善人の催眠によって、池も山内も比較的真面目に学校生活を送っている。そのおかげで櫛田のストレスの蓄積はいくらか緩やかだったはずだった。

 しかし、堀北が社交性を身につけてクラスメイトと関わるようになり、皆から称賛されるようになって状況は一変。クラスメイトからチヤホヤされる堀北の姿に、櫛田の精神状態は急速に悪化の一途を辿っていた。

 

 善人の目は、彼女がウーロン茶の入ったグラスをテーブルに置く瞬間、その可憐な指先を微かに小刻みに震えさせていることを見逃さなかった。限界はとっくに超えているのかもしれない。

 その完璧な立ち振る舞いを見ながら、善人は思考を巡らせる。

 

(ストレスが完全に爆発して中学時代のようなトラブルを引き起こす前に……ここで一度、どうにか対処しておく必要があるかもしれない……)

 

 先ほどとは別の男子生徒からのリクエストで、マイクを握る櫛田の手に妙な力が入り、指先が白くなっていること。

 それを見抜いているのは、クラスの中でただ一人、善人だけであった。

 

 

 

******

 

 

 

 時計の針が夜の十九時半を回り、楽しかった打ち上げもいよいよお開きの時間を迎えた。

 

「はー、楽しかった! 歌いすぎて喉痛いわ!」

 

「櫛田ちゃん、今日はマジでサンキューな!」

 

「ううん、みんなが喜んでくれて良かった! また明日から、学校頑張ろうね!」

 

 カラオケ店のロビーで、櫛田は最後まで全員に手を振り、愛想を振りまき続けた。

 

 カラオケ店を出て、誰もが満足げな表情で寮への帰路につく中、櫛田は突然思い出したかのように「あ、ごめんね。私、ちょっとケヤキモールで用事があったんだ。先に帰ってて!」と、周囲の生徒に告げると一人だけ逆の方向へと歩き出した。

 それを横目で眺める善人は、彼女の背中から放たれる張り詰めた気配を確かに察知していた。

 

「善人、どうした? 帰らないのか?」

 

 隣で歩いていた綾小路が、ふと立ち止まった善人に声をかけてきた。その横には、穏やかな表情の堀北も立っている。

 

「いや、少し一人で散歩してから寮に戻ろうと思って。何となく夜風に当たりたい気分なんだ」

 

 善人が適当な理由を告げると、綾小路は特に疑う風もなく「そうか。あまり遅くならないように気を付けて帰れよ」と善人に言って、寮へと歩き出す。

 堀北もまた「風邪を引かないようにね、善人くん」と声をかけて、綾小路と同じように立ち去っていく。

 

 二人に「じゃあな。また明日」と手を振って別れを告げた善人は、寮へと戻るクラスメイトたちに背を向け、歩きはじめる

 彼は夜の闇に溶け込むようにして気配を消し、静かに、だが確実に、櫛田桔梗を追跡し始めた。

 

 

 

******

 

 

 

 ケヤキモールから少し離れた、夜間は完全に人通りが途絶える寂れた公園。街灯の光も届きにくい敷地の奥に、目的の背中があった。

 そこには昼間の可愛らしい、みんなのアイドル・櫛田桔梗の面影は微塵も存在しなかった。

 

「……あああああ、クソッ、クソクソクソ……! ムカつくムカつくムカつく……!」

 

 櫛田桔梗は、自身の頭髪を両手で激しく掻きむしり、獣のような低い唸り声を上げていた。その可憐な顔は怒りと憎悪で醜く歪み、瞳には異常なほど血走っている。

 

「ふざけんなよあのクソ女……! 急に周りに愛想良くして!」

 

 勉強ができるだけの冷血女だったはずの堀北が、いつからか積極的にクラスメイトと交流するようになった。勉強会でも丁寧に勉強を教え、一人一人に言葉をかけ、周囲からの信頼を集め始めている。

 もちろんそれは、善人の催眠によって堀北が社交性を獲得した結果なのだが、そんなことを知る由もない櫛田からすれば、五月になって堀北が急にクラスメイトに取り入りはじめたようにしか見えない。

 テスト結果が発表された今日など、勉強を教えていた生徒たちから「堀北さんのおかげだよー!」などと口々に感謝されていた。「みんなの努力の結果よ」などと謙虚なセリフを口にする堀北の姿を見るたび、櫛田の中で堀北への敵意はどんどん膨れ上がっていった。

 櫛田自身もクラスメイトの手前、敵意を完璧な笑顔の奥に押し込み、堀北へ感謝や称賛の言葉をかけていたが、その脳内は激しい怒りで焼き切れそうになっていた。

 

「何が『ありがとう、でもこれはクラスのみんなの努力の結果よ』だ……! 調子に乗るなよクソ堀北ァッ!! 」

 

 さらに気に食わないのは、クラスの中心人物である正路善人との距離感だ。四月には興味無さそうにして全く関わりを持っていなかったのに、五月から急激に距離を縮めて、善人くんなどと親しげに名前で呼ぶようになっていた。カラオケでも正路とデュエットして、「堀北さん、歌上手ーい!」などとクラスメイトから称賛の言葉を浴びていた。優秀なクラスメイトと自分よりも親密そうにし、クラスメイトから賛辞を贈られる姿に腹が立って仕方がなかった。

 

「猫撫で声で『善人くん……』なんて、かわい子ぶって気色悪い……! ウザいウザい……! 死ね死ねッ……!」

 

 彼女は吐き捨てるように怒号を浴びせ、怒りのままに目の前にある木製の公園の柵を、ローファーの底で蹴りつけ――ようとして、思いとどまってそのまま地面へと打ち付ける。

 

 ドン! ドン! ドン!

 

 静まり返った夜の公園に、地面を叩く鈍い衝撃音が響き渡る。

 櫛田はその場で地団駄を踏みながら罵詈雑言をまき散らす。

 

「だいたい、どいつもこいつも『堀北さんのおかげ』『堀北さん凄い』って……! 私は! 私は毎日毎日、女子にも男子にも愛想笑い振りまいて、機嫌取って、今日なんて喉が枯れるまで歌って盛り上げて……なのに、なんでアイツが一番みたいになって……! 死ね! 全員死ね!」

 

 何度も何度も力任せに地面を踏みつける。しかし櫛田は痛がる素振りすら見せず、さらに近くにある太い桜の木へと標的を移し、全身の体重を乗せて激しく蹴りつけようと体を動かし――そこで思い直して、両手を幹について大声をあげる。

 

「はぁっ、はぁっ、死ね……堀北……! アイツさえいなければ……! なんでアイツまでこの学校に! 消えろ消えろ消えろぉぉぉッ!!」

 

 彼女の叫びは、もはや理性のある言葉ではなかった。

 中学時代、完璧な善人を演じるストレスに耐えかね、自身のブログにクラスメイトの悪口を書き殴っていた過去。それが露呈し、結果としてクラス全員の秘密を暴露してクラスを完全崩壊に導いた、あの事件。

 同じ中学出身でその事件と詳細を知っている可能性の高い堀北は、櫛田にとって自身の完璧な仮面を脅かす存在であり、心の底から抹殺したい対象だったのだ。

 

「……はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 ひとしきり不満を吐き出して、木の幹に額を押し当てて荒い息を吐く櫛田。極限まで高まったストレスを暴力と暴言で吐き出し終え、ようやく少しだけ頭が冷えかけた、その時だった。

 

「やあ、櫛田。それじゃあ可愛い顔が台無しだな」

 

 闇の奥から、あまりにも静かに、聞き慣れた少年の声が響いた。

 

「――ッ!?」

 

 櫛田の全身が、まるで落雷に打たれたかのように硬直した。恐怖と絶望が、一瞬にして彼女の脳内をパニックで染め上げる。目の前の現実を信じたくないという思いが沸き上がる。

 ゆっくりと首を回し、声のした方を睨みつける。街灯の微かな逆光を浴びて、そこに立っていたのは、一年Aクラスのリーダー的存在――正路善人だった。

 

「しょう……じ……くん……?」

 

 櫛田の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。

 見られた。

 見られてしまった。

 クラスで最も存在感があり、最も敵に回してはならない存在に、自分の正体、最も隠したかった仮面の奥の素顔を見られてしまった。

 

 一瞬の絶望。しかし、その直後に訪れたのは、自己防衛のための強烈な衝動だった。

 

「あ……あああああッ!!」

 

 櫛田は獣のような叫び声を上げながら、猛烈な勢いで善人へと突進した。その顔は完全に般若のそれであり、火事場の馬鹿力か、女子とは思えない凄まじい力で善人の制服の胸ぐらを両手で掴み取った。

「見てたの……!? 見たんでしょ、アンタ!!」

 

「落ち着けよ、櫛田。近所迷惑になるぞ」

 

「うるさい! うるさいうるさいうるさいッ!!」

 

 櫛田は善人の胸ぐらを激しく揺さぶり、その顔を極限まで近づけて脅迫するように喚き散らした。

 

「もし私のことを誰かに一言でも言ったら、アンタのこと、どんな手を使ってでもめちゃくちゃにしてやるから!」

 

 完全に我を忘れている哀れな少女の脅し。だが、善人はその脅迫に対しても、眉一つ動かさなかった。彼は彼女の細い手首を軽く掴み、まるであしらうかのように、容易くその拘束を解いてみせた。

 

「まあまあ、そんなに興奮するな。俺は別に、櫛田を脅しに来たわけじゃないんだから」

 

「触るな! アンタなんか大嫌い! 堀北も、アンタも、私が地獄に引きずり落として――」

 

 彼女がさらに掴みかかろうと、鋭い爪を立てて両手を伸ばした瞬間。

 善人は、彼女の狂気に満ちた瞳を、真っ直ぐに、深く見つめて言った。

 

「止まれ」

 

 脳の奥深くに直接響くような、重厚な言霊。それは櫛田の中へと瞬時に侵入した。

 

「……あ、え……?」

 

 櫛田の動きが、糸の切れた人形のようにピタリと止まった。激しく暴れていた身体から一気に力が抜け、その瞳からハイライトが消え失せ、深い奈落のような虚無の色へと変わる。

 『絶対催眠』の発動。彼女の防衛本能も、積み重ねてきた憤りも、善人の絶対的な催眠能力の前には、ただの脆い砂の城に過ぎなかった。

 

「そう、力を抜いて。深呼吸するんだ、櫛田」

 

 善人の静かな声が、櫛田の脳内で反響する。彼女はただ、言われるがままに小さく「……すぅ、はぁ……」と呼吸を繰り返した。

 

「お前が日々、どれだけの過酷なストレスに耐えているか、俺は知っている。だが、そんな風にストレスを抱え込むのは身体に良くない。ましてやそれが原因で、自分を傷つけながら柵や木を蹴るなんてのは。お前はもっと健康的で素晴らしい方法で、そのやり場のない怒りやストレスを解消するべきだ」

 

「……健康的な、ほう、ほう……?」

 

 虚ろな声で、櫛田が言葉を繰り返す。

 

「そうだ。例えば、そうだな……ジムでの運動とか」

 

 善人は彼女の耳元で囁くようにそう言った。

 

「……ジム……運動……」

 

「それと、もう一つ。正路善人という人間に自身の素顔を知られたことについて一切の不安を抱く必要はない。むしろ正路善人は、櫛田桔梗のその裏の顔、ドロドロとした醜い部分も含めて、すべてを受け入れ、肯定してくれる唯一無二の理解者だと考える。だから、俺の前では無理に良い子を演じる必要はない。多少の愚痴や、他人への罵詈雑言程度なら、いつでも付き合う」

 

「……しょう、じ、くんは……私の、理解、者……」

 

「そうだとも。さあ、目を覚ませ」

 

 パチン、と善人が指を鳴らす。その乾いた音が夜の公園に響いた瞬間、櫛田の瞳に、急速に光が戻ってきた。

 

「――っ!?」

 

 ハッと意識を取り戻した櫛田は大きく息を吸い込み、そして自分が善人の目の前で立ち尽くしていることに気づいた。先ほどまで正路善人へと抱いていた激しい衝動が、まるで嘘のように綺麗さっぱりと消え去っていた。

 それどころか、目の前に立つ正路善人という男に対して、言いようのない信頼感と、一種の甘えのような感情が胸の奥から湧き上がってくる。

 

「……な、何、これ。私……」

 

 櫛田は自分の両手を見つめ、戸惑うように呟いた。

 彼が自分の裏の顔を知っているという事実は、もはや恐怖ではなく、むしろ「この人の前では、何も隠さなくていいんだ」という、人生で初めて味わう極上の解放感へと変化していた。

 

「どうだ? 少しはスッキリしたか」

 善人が、いつもの笑みを浮かべて問いかける。

 櫛田はしばらくの間、バツの悪そうな表情で地面を蹴っていたが、やがて、ぷいっと顔を背けながら、少し尖らせた唇で言った。

 

「……アンタがそう言ったんだからね。今日はとことん、私の愚痴に付き合ってもらうんだから」

 

「ああ、いくらでも聞いてやるとも」

 

 その夜、櫛田は善人の隣に座り、堀北への鬱憤、クラスメイトたちへの不満、自分が抱えてきた多くを、生まれて初めて自ら望んで吐き出した。

 善人はそれを否定も肯定もせず、ただ静かに聞き続けた。それだけで、彼女の傷だらけの精神は、これまでにないスピードで癒されていくのだった。

 

 

 

******

 

 

 

 それからしばらく経ったある日のこと。

 一年Aクラスの教室には、以前にも増して眩い輝きを放つ、一人の美少女の姿があった。

 休み時間、女子生徒たちが櫛田の席の周りに集まり、羨ましそうな声を上げた。

 

「ねえねえ、桔梗ちゃん! 最近、なんだか前よりさらに綺麗になってない?」

 

「え? そうかな? 全然そんなことないよー」

 

 櫛田は照れたように頬に手を当てて笑う。だが、その笑顔は以前よりも明るくなっていた。それだけでなく、肌のツヤは明らかに増しており、その瞳は内側から溢れ出る生命力で満ち満ちている。

 

「ううん、絶対そうだって! なんか、全体的にシュッとしたっていうか、肌もモチモチしてる気がする!」

 

「もしかして、特別なスキンケアとか始めたの?」

 

「あはは、そんなに大げさなものじゃないんだけど……」

 

 櫛田は少し嬉しそうに微笑み、人差し指を顎に当てた。

 

「実はね、最近、ジムで運動を始めたんだ。そのおかげかも」

 

「えーっ!? 桔梗ちゃん、ジム通い始めたんだ!」

 

「すごい! やっぱり美意識高いなぁ!」

 

 その様子を少し離れた席から眺めていた池や山内といった男子も、ひそひそと鼻の下を伸ばしながら囁き合っていた。

 

「おい、やっぱり櫛田ちゃん、最近マジで可愛さ増してね?」

 

「それな。なんかこう、健康美っていうか、魅力がやべえよな……」

 

 彼らの視線を背中で感じながら、櫛田は心の中でフフンと笑った。

 

 

 

******

 

 

 

 放課後のチャイムが鳴ると、櫛田は素早く荷物をまとめ、教室を後にした。

 向かう先は、ケヤキモールの最奥エリアに新しくオープンしたフィットネス・キックボクシングジム。女性専用・男性専用で分かれており、女性専用のほうには女性トレーナーしかいないので安心だ。

 受付で爽やかに「こんにちは!」と挨拶を済ませ、ロッカールームで体にフィットしたスタイリッシュなスポーツウェアに着替える。そしてグローブとレッグガードを手に持つ。

 

 鏡に映る自分の姿は、自分でも惚れ惚れするほど健康的で美しい。

 

「よし……今日もガンバろっ!」

 

 ジムのフロアへと足を踏み入れ、彼女は周囲に可愛い笑顔を振りまきつつも、その視線はフロアの隅に吊るされたサンドバッグへとロックオンされた。

 膝から下にレッグガードを装着し、両手にグローブをつける。そしてサンドバッグの前に立ち、ファイティングポーズをとる。

 その瞬間、櫛田の瞳から、普段の良い子ちゃんの光が完全に消え失せ、冷酷なものへと変化した。

 

(――オラァッ!!)

 

 パンッ!!

 

 鋭い左ジャブが、サンドバッグの芯を捉えて乾いた音を響かせた。

 彼女の脳裏に浮かぶのは、あの生意気な堀北の、澄ました顔だ。

 

(死ねぇっ!! 堀北ぁッ!!)

 

 パン! パンッ!!

 

 綺麗なフォームから繰り出されるワンツーから右フックへの華麗なコンビネーション。

 彼女の全身を使って放たれるパンチは、普通の女子高生のそれとは明らかに一線を画していた。パンチを打つたび、櫛田の脳内でセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質が怒涛の勢いで分泌され、心の中の不純物が一発ごとにポジティブなエネルギーへと変換されていく。

 

「櫛田さん、素晴らしいフォームですよ! ここに来てまだそんなに経ってないのに……。才能がありますよ!」

 

 ジム内を巡回して近くまできていたトレーナーの女性が、目を見開いて称賛の声を上げた。

 

「ありがとうございます! もっと追い込んでください!」

 

 櫛田は爽やかな汗を流しながら、満面の笑みで答える。

 

「よし、じゃあ次はキックも入れて! ワン、ツー、ミドルキック、二分間、頑張っていきましょうね!」

 

「はいっ!」

 

 トレーナーが見ている中、サンドバッグに向かい、櫛田はステップを刻む。

 

(死ね! 死ねっ! 堀北、くたばれぇぇぇッ!!)

 

 パン! パンッ! ドンッ!!

 

 構えからの素早い左ジャブ。左手を引きながら突き出された右のストレート。そしてその勢いを利用して振り抜かれたミドルキックが、サンドバッグを激しく打ち抜いた。

 激しい全身運動は、彼女の二の腕を引き締め、ウエストのくびれをより強調し、成長ホルモンの分泌を促してさらなる美しさをもたらす。

 

「いやぁ、本当に筋が良いですよ! このまま続ければ、もっともっと良くなっていきますからね!」

 

 トレーナーの言葉に、櫛田はショートボブの毛先を揺らしながら、今日一番の、心からの本物の笑顔を咲かせた。

 

「嬉しいです! 私、もっともっと、強くなりたいんです!」

 

(そうよ……調子に乗ってるクソ堀北を、そのうちぶっ飛ばしてやるんだから……!)

 

 美しく、逞しく、そしてかつてないほどに精神的に安定した最強の美少女へと生まれ変わりつつある櫛田桔梗。彼女がその圧倒的な暴力によって、いけ好かない堀北鈴音を文字通り叩き伏せる日も、そう遠くはないのかもしれない。

 

 彼女は今日も美しく、そして凶暴に、その拳を振るい続けるのだった。




他の人物よりも圧倒的に堀北への鬱憤が溜まっていたので、堀北は優秀な対櫛田用ヘイトタンク。
もし将来、櫛田がマッシブになってたらオリ主のせいです笑


昨日、「急にめちゃくちゃ評価数増えてるなぁ、もしかしてランキング載ってるのか??」と思って確認したら、日間は38位、週間が19位、月間109位にいましたね。
うーん、恐らく19位の週間が理由なんですかね?
上から少しスクロールするだけで見られる順位だし。それか一般総合じゃなくて一般二次だとオリジナル作品が入らない分、もうちょい順位上になるからそっちなのか……?
とか、そんなことをつらつらと考えていました。
ランキングのある程度、上のほうに載ると如実に伸びるということがよくわかった日でした。

もちろん、嬉しいです!! ありがとうございます!!



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等々、よろしくお願いします!

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